簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語-   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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あばばばば魔改造タグ付け忘れてた魔改造フェチなのにあばばばば……
1年程ROMって来ます……あ、オリキャラ登場注意です……


更識簪は迷い人

 外から鍵の掛かった薄暗い部屋。二段ベッドや机のほか、トイレや手洗い場も備え付けられたこの場所は刑務所の監房。宵も更けて他の部屋の者達も殆ど寝静まった中、この部屋の住人―――二段ベッドの上段で、頭まですっぽり毛布に包まっている少女はまだ起きていた。……否、眠れないのだ。恐怖と不安、孤独と絶望に苛まれた彼女は未だ混乱の渦中にあった。

 

「……どうして。こんな事に、なっちゃったんだろう……」

 

 もぞもぞと身動ぎ、毛布から顔を出した彼女の目元は赤く腫れている。涙の跡も見え、つい先程まで泣いていた事が窺える。ついでに眼も充血というレベルを超えて真っ赤だが、これは泣いていた事とは関係なく、彼女の水色の髪と対比するように映える『紅色の瞳』は生来のものだ。

 

 嗚咽を抑え、涙も枯れ果てたという様子で途方に暮れる彼女こそ『更識簪』その人であった。

 

 

 彼女が収監されたのは州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所、通称『水族館』。

 

 島一つが丸ごと施設となっているこの刑務所の敷地面積は約120平方キロメートル。収容人数は男性708名と女性523名で合計1231名、その内18歳以下の未成年者は452名。

 簪もその内の一人だ。罪状は『密入国』ということになっている。当然の事ながら『公正な裁判』の結果として下された判決だ。尤も、簪本人は未だ罪を認めないどころか納得していない。………彼女からしてみればそれ以前の問題なのだが。

 

「……考えても意味は無いだろうけど……羊を数えるよりは、眠くなるかな……?」

 

 精神的な不安定さから眠れない簪ではあったが、肉体的には既に限界なのだ。少しでも眠たくなるかもしれないと、とりあえず現在に至るまでの経緯を回想してみることにした。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 ―――私は、何の為に産まれてきたのだろう。

 

 それは更識簪が自分自身に対して抱いた、自らの存在理由(レゾンテートル)への疑問。

 

 簪は更識家という特殊な家に産まれた。その家系が国家の防諜を担う対暗部用暗部である以上、彼女は無能である事を許されなかった。例え才能が無かろうとも、『結果』を出せる人間でなければならなかった。そのように育たねばならなかった。

 そして彼女には暗部の人間としての才能が無かった。それは努力次第でなんとかなる事だったかもしれないし、実際のところ更識本家の娘として相応しいとは言えなくとも、訓練次第では更識の一員として及第点レベルにはやっていけるようになったかもしれない。

 

 しかし、彼女には姉が居た。『無能』な彼女と違って『優秀』な姉が。

 

 姉の名は更識刀奈。彼女は所謂「天才」と呼ばれるタイプの人間であった。まさしく更識本家の娘として相応しい、類稀なる才能の持ち主。それは暗部としての才能に限った話ではなく、運動だろうが勉強だろうが何をやらせてもそつなくこなせる、万能で完璧な人間。少なくとも簪は姉の事をそう思っていたし、周囲の者達も簪と同意見だった。

 刀奈の事を自慢の姉として誇りに思っていた時期もあったが、次第にそれは簪にとってのコンプレックスとなっていった。

 何をするにしても簪には姉の評価が着いて回り、比較される。失敗すれば「姉に出来た事が何故お前には出来ない」と罵倒され、成功しても「あの姉の妹なら出来て当然だ」と流される。実際には簪の方が刀奈より上回っている才能も探せばあったかもしれない。だがそれを見つける前に簪の心が折れ、無意識の内に自身を姉の劣化品だと思い込んでしまう程度に彼女の姉は優秀すぎた。

 

 それでも刀奈は妹の事を愛していたし、簪も姉を嫌ってはいなかった。

 ……刀奈が更識家の当主を継ぎ、『楯無』の名を襲名するまでは。

 

 

 ―――貴女は何もできないままでいなさい。

 

 刀奈が『楯無』を継いだ際、簪に告げた言葉だ。何もできない、『無能』のままでいろ、という。この一言が姉妹の亀裂を決定付けた。

 彼女は『無能』な自分が『優秀』な姉に勝てる訳が無いと心のどこかで悟っていたが、しかしそれを意識して受け入れられる程諦めきれてもいなかったのだ。それを仲が良いと、自身の事を慮ってくれていると信じていた姉自身に告げられた―――。「お前は一生、私に勝とうなどと思い上がるな」……楯無自身の本意がどうだったにせよ、簪は姉の言葉をそう受け取った。

 それからの彼女は、姉にすら心を閉ざし、幼馴染の本音すら遠ざけるようになった。姉の言葉を覆そうと、姉の呪縛から逃れようと様々な努力を試みたが、何をやっても自分と姉の埋められない差を思い知らされるだけ。姉の影はどこまで逃げても彼女を追いかけてくる。……そんな日々を繰り返すうちに、彼女はとうとう自分自身の存在理由(レゾンテートル)まで見失ってしまった。

 

 

 ―――私は姉には勝てないのだろう。私は『完璧な姉』の『劣化品』に過ぎないのだろう。

 ―――じゃあ私は何の為に産まれて来たの?

 ―――私が生きている『意味』はあるの?

 

 ―――…私みたいな『無能』は、この世に産まれて来ない方が良かったのでは……?

 

 

 

 日に日に強くなる強迫観念のような不安と焦燥。それをどうすることも出来ない自分自身への苛立ちと失望。

 ……ある日、遂に簪の心は限界を迎えた。現実逃避の一手段として、気付いた時には着の身着のままで家を飛び出していた。

 とはいえ、行く当ても無ければ目的も無い。ただ現状から逃げ出したい、全て放り出してしまいたいという彼女の心の弱さが表れただけの幼稚な家出。すぐに姉や更識家の者に見つかって連れ戻されるだろう。それは分かっている。だがそれでもなお、今はあの家に居たくなかった。

 当て所無く彷徨う内にたどり着いた海辺の堤防の上で、彼女はただ立ち竦んでいた。

 

 

 ―――今思えば、本当になんで家出なんてしてしまったのか。せめて海になど近付かなければ、こんなことになっていなかっただろうに。

 

 

 しかし今更何を言っても遅い。過ぎてしまった過去はどうしようもない。

 つまり彼女が急な突風に煽られ海にダイブしてしまった事も、急に発生した渦潮に巻き込まれて意識を失ってしまった事も、―――そして目が覚めたら『アメリカの海岸に打ち上げられていた』事も。全ては今更どうしようもないのである。

 

(……いや、何度思い返してみても最後のはおかしいでしょ!?)

 

 と思っても事実なのだから仕方が無い。彼女も現在地がアメリカだと気付いた直後は一瞬思考が停止し、次にパニックに陥った。溺れ流されるうちに太平洋を渡りきってしまった、などというありえない発想はすぐに捨てた。

 では一体何が起こったのか? パニクりすぎて逆に一周回って落ち着いてきた簪は、とりあえず情報収集を始めた(姉に対抗する為の猛勉強で英語の読み書き会話全て問題無いレベルになっていた事は幸いだった)。

 そうして発覚した事実は、先の発想以上に『ありえない』ものであったが、どう足掻いてもそれ以外の解答が見つからなかった。

 

 

 他に考えられる答えが無い以上、簪は「ここは自分の居た世界とは別の、『並行世界のアメリカ』である」という信じがたい『事実』を受け入れざるを得なかった。

 

 

 何せこの世界には『IS』が存在しないらしいのだ。一縷の望みを掛けて道行く通行人に尋ねて回ったが、誰一人として『IS』を知らなかった。ここが『簪の知る世界』だったならばそんな事はありえない。なら『この世界』が『簪の知らない世界』である事を認めざるを得ない。

 

 

 そして途方に暮れる彼女を更なる不運が襲った。目が覚めてから今までの行動が挙動不審に思われたらしく、警察から職務質問を受けた挙句に署に連行されてしまったのだ。

 その過程で彼女がパスポートも無ければ入国記録も無い、『密入国者』である事が判明、敢え無く逮捕。裁判も受けたが、まさか「並行世界から迷い込んだだけなので密入国者じゃありません」なんて戯言が信じられる訳も無ければ言い出せる筈も無く、言い訳すら出来ないままに実刑判決を受けて現在グリーンドルフィンストリート刑務所に服役中、という訳である。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 簪が目を覚ますと既に他の囚人達も起床し始めているようだった。監房が開放され、食堂へ向かう受刑者達の声が聞こえてくる。どうやら昨晩はいつの間にか眠ってしまったらしい。

 この刑務所に入れられてから数日、夜毎に不安が押し寄せて泣いていたため殆ど眠れなかったが、漸くまともに睡眠を取れたおかげで肉体的な疲労感は幾分マシになった気がする。

 

 改めて現状を確認しようと、体を起こして改めて自分の監房を見渡す。備え付けられた必要最低限の家具の他にも、この部屋には囚人の住む場所とは思えないほど色々な物品が置かれていた。

 例えばベッド脇に置かれたラジカセやコミック雑誌。壁際には鉢植えの観葉植物と、隣には室内用の小さなバスケットゴール。だがその付近に転がっているのはサッカーボールやラグビーボール、テニスラケット……とりあえずバスケットボールは見当たらない。

 部屋の隅の方には双子の美少女の人形(といってもフィギュアじゃない、ドールだ)。この人形は昨日までは無かった筈だから、きっとまた『勝ち取った』のだろう。

 机の上にはサイコロや麻雀牌、散乱したトランプは床にまで零れている。果ては酒や煙草までベッドの下に隠されているが、これらの中に簪の私物は一切存在しない(荷物の一つも持たずに家出したまま『この世界』に来てしまったので当然といえば当然だ)。

 つまりこの部屋の物は全て、簪の『同居人』である『もう一人の女』の私物なのである。

 

「おはようカンザシ……昨夜はよく眠れたか?」

 

「…………はい。……昨日までと、比べれば……」

 

「そうか。そりゃ何より」

 

 二段ベッドの下段から声が掛けられ、簪もそれに応える。たった今起床してきた彼女こそが、簪と相部屋となった『同居人』、名前は『ルミルノ・シャネーラ』。机の上に置かれたグッズを見れば分かるが、彼女はギャンブルマニアであり、違法賭博がバレて捕まった為にこの刑務所に送られてきた。

 中でも「トランプゲーム」が好みらしく、彼女の着ている服には至る所にスペードやハートなど、トランプの4つのスートの模様が散りばめられている。また、髪のサイドテールを結んでいるリボンの端は腰元まで長く余っていて、大きく「Joker」の文字が刺繍されている。正直、簪には理解不能なファッションセンスだが敢えて口には出すまい。

 ルミルノは刑務所にブチ込まれてなお全く懲りていないらしく、他の囚人や時には看守までも相手取って賭け事を行っている。この部屋の彼女の私物は、自分で隠して持ち込んだトランプを除き殆ど賭博で『勝ち取った』物だ。

 「看守を相手にゲームする時は相手に分からない程度に手加減して勝たせて、『イイ気』にさせてやるのがこの刑務所内での賭博と戦利品の所有を黙認させるコツさ」とは彼女の弁。その逞しさには簪も感心するしか無かった。

 

「昨日までは毎日朝方までメソメソ泣いてたみたいだからな……ま、こんな所に押し込められてブルーになっちまう気持ちも分かるが。人生、前向きに生るこったね」

 

「……!? き、聞こえてたんですか!?」

 

「まぁ『入所初日の件』もあるし様子を気に掛けてたんだよ。他人を心配するような性質(タチ)じゃあないが、いつまでも不調のままでいられるとこっちまで心が暗くなっちまって迷惑だからな」

 

 ちなみに『入所初日の件』というのは、簪がこの刑務所にやってきた日の夜中に高熱を出して倒れた事である。尋常ではない苦しさに、その夜は遂に一睡も出来なかった。

 翌日には熱が引いたが、熱に魘される間は見知らぬ世界に一人放り出された不安すら感じる余裕がなく、精神的に追い詰められる事は無かった……という意味では、もう少し寝込んでいても良かったかもしれないとすら思う。

 

「それで思い出したんだが……お前が言ってた『ペンダント』、確かまだ返してもらってないんだよな? どうする? お前が望むなら私が『ギャンブル』で取り戻してやるが……」

 

「い、いえ結構です……元々、私の物じゃ無かったし、思い入れも何も無いし……」

 

 というか貴女は理由を付けて賭博を楽しみたいだけですよね、とは面と向かって言えない内気な簪である。

 話題に上がった『ペンダント』というのは、同じく入所初日に『エルメェス』という女囚から貰ったものだ。

 

 

 初めて入る刑務所、その上周りを本物の犯罪者達に囲まれて恐怖の余り人前にも関わらず泣き出してしまった簪を見かね、エルメェスはどうにか彼女を宥めようと四苦八苦し、最終的に自身の持っていたペンダントを譲ったのだ。

 

 簪はそのペンダントが元々エルメェスの物ではなく、彼女が拾っただけの『誰かの落し物』だったことや、エルメェスがそのペンダントで手を切って出血したからムカついて厄介払いしたがっていたこと等は知らなかった。

 だが彼女の「取り敢えず泣いてる子供には何でもいいから何かプレゼントすれば落ち着くだろう」と言わんばかりのおざなりな態度を見て逆に冷静になってしまい、結果的には泣き止んだ事はハッキリ覚えている。

 そしてエルメェスは「良い事したぜ」って感じの顔で去っていった。きっと余程の「アホ」か「大物」のどちらかに違いない(何となくだが後者の気がする)。

 

 その後簪もエルメェス同様にそのペンダントで手の平を切ってしまい(その傷に菌か何かが入ったのが初日の熱の原因だと思っている)、「こんな危ないペンダント持ってたくないなぁ」とか考えてた所に他の囚人(確かグェスとかいう名前だったハズ……多分)がやってきて、「綺麗で気に入った」という理由で勝手にペンダントを奪われてしまいちょっと不快に思ったが、厄介払いできた事だしと放っておくことにしたのだった。

 

 

 まぁそういった理由で、ペンダントを取り戻して貰う必要も無いし、むしろ取り戻されても困るので簪はルミルノの提案を丁重に断った。

 

「そういう事なら仕方ないが……まぁいい、そろそろ朝食の時間だな。食堂へ向かおう」

 

「……あ、その……私、も……」

 

 話しているうちに朝食の準備が整ったようだ。食堂の方から食器が重なり合うような音が響いてくる。さっさと部屋を出て行ってしまったルミルノに続き、簪も食堂へ向かった。例えここが刑務所だろうが並行世界だろうが、お腹が空くのは止められないのである。

 

 

 

 

 

 そして簪は振り返る事も無く監房を出てしまったので、気付く事はできなかった。

 部屋の隅に置かれていた筈の『双子の人形』が、忽然と『姿を消している』という事実に―――

 

 

 ……To Be Continued→




お久しぶりです、精神と時の部屋の中で1年ROMってきました。

という訳で今回は、
・ネガティブだった頃の簪さん
・オッドアイになる前の簪さん
・ロマン厨になる前の簪さん
の三本でお送りしました。
次回辺り魔改造されて1話の簪さんに近付く予定です。

そしてオリキャラ登場。一発キャラのつもりが予定よりキャラが濃くなった。
さっさと刑務所編は流して入学編に行きたいけど簪覚醒の部分は丁寧にやりたいジレンマ。


【ひっそり追記】
楯無さんの発言の真意はコチラ↓

(簪ちゃんには危ない事とかして欲しくないし更識の諜報員として扱われちゃったら血生臭い世界で生きてく事になっちゃうし、私の可愛い簪ちゃんがそんなリスクを背負ってまでわざわざ物騒な技術を身に付ける必要なんて無い!)
(幸い今の簪ちゃんは『更識』としてはギリ落第点だし、ちょっとだけキツイ事言っちゃうかもだけど『これ以上頑張る必要は無い、のんびり生きてきましょう』って伝えてあげなきゃ……)
(……えっ待って? 私が? 頑張ってる簪ちゃんに? 『頑張るな』って言うの!? 面と向かって!!?)
(無理無理無理無理絶対無理!!! 私にはそんな酷い事できないゼッタイ!! でもでもっ言わなくちゃ簪ちゃんが裏の世界に入ってきちゃうし、でもやっぱりこんな……)
(ああああああああどうすりゃいいのよ!? もう簪ちゃん呼び出しちゃったし、ていうか目の前にいるし、とっとりあえず何か、何か言わなきゃ、カッコいい姉としての威厳とか尊敬とか諸々がッ……)
(どうするどうするどうするッッ!? えっとえっと、『何もしなくていいよ』『できる必要も無いよ』『むしろやめてね』を一言で言い表すにはっ……!?)

↓出力結果

「―――貴女は何もできないままでいなさい」
(―――はっ? えっ? 何コイツ(わたし)? 可愛くて健気な簪ちゃんに何言ってんの殺すぞこのアバズレ(わたし)???)

※以降、姉妹関係がギクシャクしてしまいオロオロしながらも、なまじ自分が悪いと自覚してるので却って話しかけ辛いポンコツ姉貴が時間を浪費して現在に至る。
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