簪の奇妙な冒険 -宇宙翔け夢物語- 作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)
伏線張ってただけでこの文字数。目立った動きも無い完全なる中弛み回。
というかルミルノ戦が動きすぎなんだよなぁ、このssのピークはあそこだったかもしれん()
あ、あと『
皆が寝静まった夜。狭い部屋の中でボールが跳ねる。野球のボールだ。地面にバウンドし、部屋の反対側へと跳んでいく。途端、誰かが捕球したかのように動きが止まり、そのまま逆方向……元来た方向へと投げ返される。そしてボールは再びバウンドし、部屋の反対端で同様に捕球され、また投げ返される。
まるでキャッチボールのような球の動きだが、ボールを投げる者も受ける者も、どちらも存在しない。無人の空間で、ただボールだけが勝手に動いているのだ。とんだホラー映像である。この光景を目の当たりにすれば大抵の人間は恐怖を抱くだろう。
しかし、この部屋の住人にとってはそうではない。ベッドの上に寝転がって、ボールが往復する様子を眺めながら、恐怖どころか微笑ましそうに口元を緩めている。心霊現象とも思しき事態を前にしながら、完全にリラックスしていた。
それもその筈、この現象は彼女にとって何ら不自然な物では無いのだ。
……ではそろそろ、この不可思議なキャッチボールの種を明かそう。
何の事は無い。
一般人の目から見れば上記のようにホラー極まりないが、それ以外の人間から見れば真逆の印象を抱く事になる。それ以外の人間………言わずもがな『スタンド使い』の事だ。
無論、この部屋の住人も『スタンド使い』であった。というか、ぶっちゃけ更識簪であった。
「……楽しい? 二人とも」
『ええ、それなりに』
『少し狭い気もしますが、仕方無いですし』
数日前、晴れて一般人を卒業した簪。オッドアイになったその両目には、『アナザーロマン』の二人……『オルタンス』と『ヴィオレット』がキャッチボールで仲良く遊んでいる姿がハッキリと映っていた。双子の美少女の人形がボールを投げ合ってきゃっきゃうふふ……大変微笑ましい風景である。簪が柔らかな眼差しで見守ってしまうのも無理は無い。
彼女達はスタンド……本体の分身たる身ではあるが、自らの意思を持っていた。ルミルノの『ルーネイトエルフ』のように『意思を持たないスタンド』の方が多数派ではあるが、彼女達のような『意思を持ったスタンド』も少なからず存在する。珍しい事ではない。
簪は彼女達の意思を尊重し、時折自由行動をさせてやる事にした。尤も、スタンドはスタンド使い以外の一般人には不可視の存在だ。そのルールは簪も理解しているので、部屋の中で誰にも見つからないようにこっそり遊ばせてやるくらいしかできないが。スタンドを知覚出来ない一般人の目の前で騒ぎを起こせばそれこそ心霊現象になってしまうし、逆に油断しすぎてスタンド使いに彼女達の姿を見られるのもまずいのだ。
(ルミルノは『ホワイトスネイク』の手先だった。意識を失っているルミルノから話を聞ける訳は無いけど、逆に『ルミルノが倒された』=『敵対者が居る』という情報は『ホワイトスネイク』に伝わった筈)
相変わらずボール遊びを楽しむ二人を眺めつつ、簪は思考を巡らせる。
(『ホワイトスネイク』にはルミルノの他にも手下……『DISC』で増やされたスタンド使いが居る。そいつらがこの刑務所のどこに潜んでいるかも分からない以上、迂闊に動く事はできない、か……はぁ、自分のスタンドすら自由に遊ばせてやれないのに、
そう、簪の現在の目標は『脱獄』である。
と言っても、右も左も分からない異世界で、牢の外に出たからといって何がどうなる訳でも無い。知り合いも居ないし、生活基盤すら用意できるか怪しいものだ。それを分かっていながら、簪がこの『
―――ここは刑務所、自分は無実。ならば『脱獄』という
……真面目な脱獄囚が聞いたら怒りそうな理由だが、彼女は本気だった。ロマンに目覚めてからこっち、頭のネジが外れかけてるんじゃないかってくらいロマン中毒になってる気がするが、彼女にとっては些細な事である。少なくとも、姉への劣等感で押し潰されそうになっていたあの頃と比べれば、今の自分の方が万倍充実している実感がある。
ならば何を迷うことがあろうか、Let'sロマン。ビバ、ロマン。ロマン万歳。
……今や簪は完全なるロマン至上主義者であった。多分ロマンが足りないと禁断症状起こす。
(……ま、焦ることは無いか。困難が多いほど私の
最終的な結論もやはりロマンに侵食されていたがそれはさておき。思考を切り上げて意識を目の前に向けると、『アナザーロマン』の二人はキャッチボールに飽きたのか「輪投げ」で遊んでいた。赤や青、黄などカラフルに塗られた木製のリングが飛ぶのを何の気無しに眺めていたが、さっきの野球ボールはどうしたのか、ふと気になって部屋を見渡すと、鉄格子になっている出入り口の扉の付近……部屋の外側に転がっていた。何かの拍子に鉄棒と鉄棒の間から転がり出てしまったらしい。
「二人とも、遊んだらちゃんと片付けなよ……看守に見つかったら取り上げられちゃうかもよ?」
そう言いつつボールを拾おうと鉄格子の外へ腕を伸ばす簪。
しかし、その手がボールを掴むことはなかった。
「はいこれ、ボール……」
「え?」
横から伸びてきた『別の手』が、簪より先にボールを拾い上げて彼女の方に差し出したのだ。野球のグローブを嵌めたその手の主は、まだ幼い雰囲気の少年だった。こんな夜中に監房の外を出歩いているなら囚人では無いだろうが、看守という訳でも無さそうだ。この少年が何者なのか、簪には全く想像も付かなかった。
一瞬の困惑の後、簪は奪うようにして少年の手から野球ボールをひったくると、部屋の内側へ後ずさった。その左右には既に『アナザーロマン』が控えて臨戦態勢を取っている。
「あ、貴方は一体……!」
「落ち着いて、えーと、そう『カンザシ・サラシキ』って言ったっけ? 僕は君の敵じゃあないよ、どちらかって言うと『味方』に近い」
「み……『味方』……?」
一触即発、少しでも怪しい動きを見せれば即座に『アナザーロマン』を叩き込める体勢を崩さない簪に対し、少年は慌てる風もなく落ち着き払っている。そして『味方』という単語に彼女が反応したのを見て、更に話を続けた。
「君がどこまで知ってるかは分からないけど、『ホワイトスネイク』には「スタンド
「……ちょっと待って、貴方の言う事が事実だと仮定すると、つまりそれって……!」
「そう、君は既に
突然の凶報に、冷や汗が流れる。この少年の言葉が真実だという確証は無いが、嘘を吐く理由も見当たらない。会話の内容から、彼も『スタンド使い』であろう事は分かる。敵意があるなら、それを匂わせるような事はしないだろう……騙し討ちと仮定するにはあまりにお粗末な彼の態度から、とりあえず『敵では無い』と考える事にした。
「……貴方……ううん、君の名前は? ルミルノの事を知らなかったなら、何故私の事を?」
「一応は信用してくれた、って所かな? 僕の名前は『エンポリオ・アルニーニョ』11歳、この刑務所で産まれ育った……自分の『能力』で看守や囚人からは隠れて暮らしてる」
戦闘の意思を無くした事を示すため、語気を弱める簪。対してエンポリオと名乗った少年は、一つ息を吐くと彼女の質問に答える。
「君を見つけたのは簡単、スタンド能力を引き出す『ペンダント』の行方を追っていたから……『徐倫お姉ちゃん』が手放した『ペンダント』が再びお姉ちゃんの下へ返るまでに辿った道筋、『エルメェス』と『グェス』の間を繋ぐミッシングリンク……それが君だったんだ」
「スタンドを引き出す……薄々そんな気がしてたけど、あのペンダントが? ならエルメェスさんや『徐倫お姉ちゃん』とやらもスタンド使いなの?(グェスはどうでもいいけど)」
「うん、二人とも『仲間のスタンド使い』だよ(グェスは違うけど)。他にも居る。……とにかく、一度『彼女達』と会って欲しい。詳しい話はその時に……」
「……断ってもメリットは無い、か。分かった、何時何所に行けば良いのかな?」
……なんかナチュラルに無視された人物が居る気がするが、彼女は冗談抜きで面倒くさい性格してるのできっと無意識下の拒否反応だろう……それはともかく。こうしてエンポリオ少年は、翌日に『仲間達』と簪を引き合わせる約束を取り付けると、場所と時間を告げてどこかへと去っていった。それを見送った簪は、深く溜息を吐いてベッドに横たわる。
(想定してたより厄介な事になってるみたいだけど、私の
色々考えては見るが、とにかく実際に会ってみなければ話は始まらない。まだ見ぬ『仲間達』に思いを馳せながら簪は眠りに付いたのだった。
※ ※ ※
翌日、簪は『待ち合わせ場所』へと繋がる廊下を歩いていた。昼食の時間も近く、他の囚人は食堂に集まりつつある為に人数は疎らだが、全くの無人という訳ではない。その中の一人、すれ違おうとした大柄なスキンヘッドの女囚が突然簪の方へ動き、ぶつかってきた。明らかに故意だ。
「痛ェーーーなァーーーーードコ見て歩いてんだこのチビッ!」
「……ぶつかってきたのは貴女だと思うけど」
「お? アタシに因縁つけようってか? 舐めんじゃねーぞコラァ!!」
凶悪な顔で凄んでくるチンピラ風の女にメンチを切られながら、簪はちっとも怖くはなかった。むしろ面倒くさかった。こういう手合いはルミルノが医療監へ入院して以来、ちょくちょく絡んでくるようになった。囚人の間でも序列が上の方だった彼女がいなくなった事で、抑え込まれていた気性の荒い連中が簪に対する新人イビリを試み始めたのだ。『虎の威』を借る『狐』だった頃の簪なら、碌な抵抗もできずパシリなりサンドバッグなりにされていただろう。
「ごめんなさい、人を待たせてるので失礼します」
「あんだとテメー! 何逃げよーとしてんだッこの糞ジャップがわらばッ!?」
しかし今の簪は『
「本当、毎日毎日懲りないなぁ……私に突っかかると痛い目に会うって、まだ分からないのかな? それとも囚人同士で情報共有がされてない? 「返り討ちにされたのが悔しかったから他のヤツラも同じ目に会えばいい」的な……うわどうしよう、すっごくありえそう」
取りとめもない事を呟きながら歩く簪は、背後でピクピク痙攣しているスキンヘッドなど気にも留めていない。一連の流れはここ数日で完全にルーチンワークと化し、気を張って臨む事でも無いし記憶にすら残らない瑣末事となった。それが例え殺人を犯した事のある囚人だったとして、今の彼女にとっては取るに足らない相手だ。
「随分タフになったなァ~~、初日にはピーピー泣いてあたしにあやされてたガキンチョがよぉ!」
「! 貴女は……エルメェスさん! 見てたんですか!?」
「あぁ、よくやったなカンザシ……ああいう輩には実力行使が一番手っ取り早いんだ」
一部始終を見物していたのか、後ろからやってきたエルメェスが声をかけた。彼女達は入所初日の一回だけしか顔を合わせた事が無いが、お互いにインパクトは抜群だったのでよく覚えていた。
エルメェスは感慨深げに簪の成長を褒め称える。その表情はまるで手のかかる問題児が卒業するのを見守る教師のようだった。尚且つ、思わず「兄貴」と呼びたくなるような
「……すみません、"兄貴"と呼んでもいいですか?」
「は!? いきなりナニ言ってんだテメー!?」
「あ、いえごめんなさい、あまりに兄貴分の風格だったものでつい、『刑務所の中で出会った二人が義兄妹の契りを結び
「そもそもあたしはオンナだァァーーーーー!!」
……いよいよもって簪脳内のロマン汚染が深刻であるが、この件に関してはある意味で凡百の男共よりも『兄貴』してらっしゃるエルメェスさんサイドにも問題はあると思うのでノーコメントとしておこう。
そんなこんなで、二人は漫才かましながら歩き続け、『待ち合わせ場所』……『階段の踊り場』に辿り付いた。
「ここが……そうなんですか?」
「ああ、一見ただの壁だがな……」
簪の問いに答えながら、エルメェスは踊り場の壁に手を当てる……もとい、手を
「本当にあった……これが、エンポリオ君の能力の……」
「厳密に言うと『部屋自体』は僕の能力じゃ無いけどね。僕の能力は飽くまで『
「おう、お前がカンザシか? 話は聞いてるぜ、あたしの名前は『
「あ、はい。知ってるだろうけど一応……更識簪、です。……これ、つまらない物ですが」
部屋の中で簪を待っていた二人が彼女を出迎える。片方は昨日会ったエンポリオで、もう片方の『F.F』と名乗った囚人とは初対面だった。簪も二人に挨拶を返しつつ、持参していた『手土産』を渡す。
「おいおい、『つまらない物』って自分で分かってんなら人に渡すなよな」
「違うよF.F、日本人はお土産を渡す時にへりくだった言い方をして相手への敬意を示す文化があるんだ、本で読んだ事がある……それで、何を持って来たの?」
「顔合わせと現状確認のついでに懇親会を兼ねた食事会を開くって聞いたから、私の部屋にあった食べ物とか飲み物を……」
そう言って広げた風呂敷の中からはポテチなどの菓子類や缶ジュース等、色んな飲食物が出てきた。よく見ると酒の瓶とか、チーズやサラミといった肴的なものまで混じっているが、無論これらはルミルノが賭けでかき集めた物である。ついでに言うならこれらを包んでいた風呂敷はルミルノのベッドのシーツを千切ったもの。恨みでもあるのかってくらいルミルノに対してやりたい放題の簪であった。実際恨みしか無いしね。
「か……カンザシ、あんたの部屋一体何なんだ!? 充実しすぎだろ、本当に刑務所か!?」
「おい見ろF.F、これアルコール……本物のワインだぜ!? しかもボジョレー・ヌーボー」
「あ、それオススメです。ワインとか詳しく無い私でも分かるくらい美味でした」
「飲んだのか!? 未成年だろーがッ!!」
「そんな細かいこと一々気にしちゃ駄目ですよー……ああ、部屋にもう一本"ウォッカ"っぽいのがありますけど、そっちの方が良かったですか? 何なら取ってきますけど」
もう皆大はしゃぎであった。無理も無い、刑務所の中でこれだけの嗜好品が集まる方が特殊なのである。ちなみに簪の飲酒については興味本位で手を出そうか迷っていた折、どこからともなく聞こえてきた『なに簪? 未成年の飲酒は自重すべきじゃないかって? 簪、それは君が未だ無実にこだわってるからだよ。逆に考えるんだ、「刑務所の囚人なら法を破っても不自然じゃ無いさ」と考えるんだ』という英国紳士の天の声に従った結果だ。まだ成仏して無かったんすかジョージ卿。
こうして「罪状:密入国(無実)」だった簪も今では「罪状:密入国(未成年飲酒)」に進化した。目指すは最終進化形、「罪状:密入国(脱獄)」だ。頑張ろう。
そんな感じでワイワイやってる内に、今日集まる予定の『最後の一人』がやってきた。
「遅れてごめんなさい、食堂から料理をちょろまかしてきた……って何コレ、食事会どころか宴会でも開くつもりなワケ!?」
「あ、お姉ちゃん」
声を聞いて簪もそちらに目を向ける。そこに立っていたのは一人の女性。線が細く女性らしい体つきでありながら、同時に逞しさと力強さを感じさせる体格。なかなかに独創的なヘアスタイルと蝶の刺青が特徴的だが、それ以上に目を引くのは彼女の強い意志を宿した瞳だ。簪は彼女の双眸の奥に黄金の輝きを見た気がした。首の付け根に『星の形の痣』を背負うその女と簪は互いに向かい合って自己紹介を交す。
「初めまして、私は簪。更識簪です。貴女が噂の『徐倫お姉ちゃん』さん?」
「そ、あたしが徐倫……『空条徐倫』よ、『ホワイトスネイク』を
これが更識簪にとって生涯忘れ得ぬ、徐倫……『
―――また同時に、『
……To Be Continued→
(アニメジョジョ4部38話視聴して)
やっぱり形兆兄貴は男前だなー……あっそうだ(唐突)
エルメェスのこと兄貴って呼ばせよう(その場の思い付きで文章を考えるss作者の鑑)
ともあれ、徐倫一行と合流成功。よかったよかった。
……え? グェス? 知らない子ですね(
少なくともこのssでは出番ありません。6部で唯一神父と関係無いスタンド使いだけど仲間では無いし登場させても何かする訳で無し、字数の無駄なので今作では徹底して存在をスルーさせて頂きます。無駄な事は嫌いなんだ……無駄無駄……
(追記)
そっかー……ここ書いてた頃はまだジョジョ4部放送中だったのかー……(遠い目)