舞鶴鎮守府所属第10鎮守府
舞鶴鎮守府だけではカバーしきれない事もあり、新たに新設された鎮守府。しかし、そこもまたブラック鎮守府だった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「こっち来い!!」
日常的な暴力、
「あ、ああははははははははははははは」
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて」
精神が崩壊した艦娘、
「イッ、イクッ!イカせてッ!!?」
「オラッ!!もっと喘げ!!」
昼夜問わず犯し続ける連中と抵抗する事なく犯され続ける艦娘。
あぁ、何で、何でこんな事になったんだろう……。
「オラッ!!さっさと出て来い!!」
隠れ場所である部屋の前に多分あのクソ野郎の部下がいるのだろう。私一人なら別にこの後が如何なろうと関係無いけど、
「こ、怖いよぉ……」
後ろで怯えている第6駆逐艦の皆がいる。こんな私が、誰も守れなかった私が、守ってみせる。
「ごめんね……」
私は扉を開けて、廊下に出た。
「私に用があるんでしょ?だったら早く要件を言いなさい」
「落ち着けよ、提督からのお呼び出しだ―――」
大破寸前の傷を隠す為に片目や両腕は包帯まみれになり、長くしていた髪も短くなり、奴らを睨み返す。
「矢矧?」
大丈夫、今度こそ、全てを護ってみせるから……。
第10鎮守府執務室
「1週間後に横浜鎮守府と演習を行う」
呼び出されてみればいきなり屑野郎からそんな言葉が発せられた。
「安心しろ、あっちとは交友関係を持っているから別に勝っても負けても何も言いやしないさ。ただ、負けたらもっと恐ろしい事をするかもな?」
それだけ言って部屋から追い出した。
演習メンバーは皆中破以上の状態であいつは『今回だけ特別に使わせてやる』と上から目線で言った。
多分、この鎮守府の実情がバレないようにと布石を置くのだろうと考えながらも久しぶりの入渠なので内心喜んではいる。
「ご、ごめんなさい……。私がもっと言えば…」
最初にそう言ったのは今回の旗艦を任されている戦艦である『扶桑型2番艦航空戦艦山城』だった。
彼女もあの屑からの暴力を受けている。でも、彼女は必死に耐えている。
そう、彼女の姉艦である扶桑が海軍の上層部にこの現状を一人、轟沈として姿を消して救援に言ってくれたからだ。1週間前にそれは行われ、今回の演習も多分彼女が無事に伝えてくれたからだと信じている。
「仕方ないよ。山城が全て悪い訳じゃない。全てはあの屑が悪いんだ」
次に呟くのは『千歳型1番艦軽空母千歳航改二』だ。彼女は水上機母艦だったけど、改装されて軽空母になった。
そんな彼女も暗い表情で言う。彼女も山城同様姉妹艦を人質に取られている。だからこそ、彼女も彼女も顔には出さないではいるが、内心では屑を殺そうとしている。
だから、あっちの皆には悪いけど負けて……。
横浜鎮守府 執務室(仮)
一方で、書類整理を終わらせた明斗。演習で疲れた皆が寝ている中で一人夜空を眺めながら珈琲を飲んでいた。
「隣、宜しいですか?」
ふと、声が聞こえて明斗は振り返るとそこには高雄と加賀の二人がいた。
「良いよ」
明斗は了承すると二人は持ってきた折りたたみ椅子に座り、明斗と一緒に夜空を眺めた。
特に話題もなく、ただ時間だけが過ぎてゆく中で、明斗が口を開いた。
「二人には、話さないといけないね……」
「何をですか?」
高雄が明斗の言葉に首を傾げる。それに対して加賀は悲しい表情で明斗を見た。
「前任が死ぬきっかけになった放火事件。実は、自分が起こしたんだよ」
明斗は申し訳なさそうな表情で言うが、
「解ってましたよ。私も、テントで寝ている皆も」
その言葉で明斗は高雄の顔を見た。
「な、何で……」
「あの時、明斗が大和を助けて逃げる際に仮面を外した明斗の顔を見たんです。最初は怪しい人だと思いましたよ……。でも、瑞鶴と陸奥さんと一緒に来た人があの時の人だとは思いませんでしたよ?」
高雄の言葉に、明斗は何も言えずに、ただ、「ごめん……。もっと早く来ていれば……」と言う。
「明斗は悪くない。私の、カウンセリングをしていたから……。私が謝るべきなのに…」
明斗の言葉に加賀も謝る。しかし、高雄は二人に
「二人共、謝らないで。今皆が笑顔になっているのも二人のおかげなんだから」
「でも、提督反対派と、高雄さんの本心が聞けてない」
明斗は高雄に向けて言う。高雄は驚き、明斗を見る。
「もう、素直になっても良いんですよ?」
高雄は静かに涙を流し始めると嗚咽を出しながら明斗に抱きつきながら泣いた。加賀は何も言わずに立ち上がるとその場から立ち去る。
「辛かった、辛かった~~!!!」
「もう、大丈夫ですよ……」
泣きじゃくる高雄にそう言いながら背中をさする明斗。
彼は誓う。
もう、二度と彼女達にこんな思いをさせない。絶対に……。
しかし、彼のこの思いも第10鎮守府との演習日になった時、あの事件で果たされなくなると知らずに……。
そして、第10鎮守府と演習する日になった。
その日は空は快晴、演習にはもってこいの天候だ。しかし、今回の演習はそんな心が躍るような話ではなく、
「ついに、来たか……」
横須賀鎮守府の演習場で、決死の作戦が行われる日なのである……。
「初めまして、横須賀鎮守府の提督であります『凬森慎也』中佐です」
「提督代理の材原明斗です」
ピシッと城の軍服を着こなし、正義感の強そうな好青年だと一目で分かった。
「横浜の一件、我々海軍がしなければならない事を君に任せてしまい、申し訳ない」
「構いませんよ。提督職も慣れませんけどそれなりに頑張っているので」
自分はそう言うと風守さんはクスッと笑うと、
「やっぱり、音峰少将さんと似てますね」
その言葉に自分は驚いた。
「私は、あの人に憧れて海軍に志願したのですよ。彼女の様な、提督に……」
淋しげな顔で言った風守さんは「さ、行きましょう。明斗君の艦娘さん達は別室で待機しているから」と言う。
「すいません、色々と迷惑かけて……」
「構わないよ。それに、音森さんの息子さんに会えて私も嬉しいからね」
風守さんの爽やかな表情に自分は直視出来なかった。爺さん、この人の階級上げた方が良いよ……。
自分は心の中でそんな事を呟きながら対戦相手である第10鎮守府の提督に会いに行く。