【艦これ】私立相談役と元ブラック鎮守府   作:泉井 暁人

11 / 27
 そして、それが別れの始まりとなった。


第11話 演習と結果

 

 「初めまして、横浜鎮守府の提督であります材原と申します。階級は少佐であります」

 「舞鶴鎮守府所属第10鎮守府提督の大和田だ。階級は貴様の遥か上の中将だ」

 凬森さんの案内で連れてこられた部屋に今回のターゲットがいた。我が物顔で椅子に踏ん反りがえり、舌打ちをしていた。

 爺さんからの事前の話し合いで一応偽の階級で少佐として名乗り、慣れない白の軍服に身を包んでいる自分。新人だと思わせ、なおかつ前任の息子だと名乗って相手を油断させる作戦になっている。

 「では、試合は30分後に行います。お二人は艦隊のメンバーにお伝えする事があればお早めに」

 凬森さんが言った直後に大和田は「では、行かせて貰うぞ?」と言い、部屋から出て行った。

 「では、自分も」

 「あ、明斗さんにはこれを」

 そう言って渡されたのは憲兵を呼ぶ為の笛だ。

 「彼の悪事が確定、目撃した際にはそれで呼んで下さい。もう鎮守府各所に憲兵は隠れておられるので」

 「了解しました」

 自分はそう言って部屋を出て行くと真っ先に皆の元に向かう。

 

 扉の前に着くと『コンコンッ』とノック音を出し、

 「入るよ」

 「どうぞ~」

 扉の向こうから返事が貰えると自分は室内に入る。

 「明斗か?今回は勝つぞ」

 長門さんは自分にそう言うと主砲である『41cm連装砲』を見せる。

 今回のメンバー、バランスを考え長門さん、加賀さん、高雄さん、夕雲、そして、みらい……。以上の5名で行うことにした。

 「本当は6人の方が良いんだろうけど、相手もそこまで馬鹿じゃないだろうから出来るだけの可能性を排除した結果がこれなんだよね……」

 自分で選んでアレなのだが、正直な話、不安だ。まだ心に傷を残し、いきなり演習と言われれば当然怖がるだろうと思ったが、

 「大丈夫、私達は勝利するわ。絶対に」

 「そうです。明斗さんが頑張っているなら、私達も頑張る」

 「ま、まぁ!今回だけ特別に手伝ってあげるわ」

 それぞれが想い想いを言ってくれている中、みらいは不安な表情でいた。

 「みらい」

 「あ、明斗……。恐い、失敗したら如何しよう……」

 重大な事態だからこそ、みらいは不安がっていたが、

 「安心しろ。みらいは自分が一番好きだったイージス艦だ。その名に恥じぬ成果を見せてくれよ?」

 自分は笑顔で言うとみらいも不安が吹っ切れたようで「はい。みらい、頑張ります!」と言ってくれた。

 「さて、時間だ。自分は見ている事しか出来ないけど、皆の事を信じているよ」

 「「「「「はい!!!」」」」」

 元気な声で返事をした皆はそのまま演習場に向かう。

 「頑張れ、自分は応援するよ…。心の底から……」

 

 「勝利を掴め。あいつの息子だろうが関係ない。徹底的に潰して再起不能にさせてやるんだ!」

 あいつがそんな言葉を私達に言った後、皆である作戦を練っていた。

 「帰り際に、全てを終わらせる」

 「うん……。皆で一斉攻撃さえすれば……」

 この時点で既に私達は後に引けない場所にいた。だからこそ、奈落にとことん堕ちてしまおうじゃないか……。

 皆で頷き、そして演習場に歩きだした。

 

 「見物ですな?」

 演習場の観客席から自分はこの大和田の隣で演習が始まるのを待っていた。

 「そうですね……」

 少し、微笑んだ自分。この後の結果は目に見えてはいるが、今はじっと我慢してみていよう。この男の慌てる姿を…。

 そして、『ヴィィィィィィィ!!!』と開始の合図音が響くと両チームが一斉に動き出す。

 6対5、1人の戦力差は結構大きいので相手も慢心をしていたのか、それともこの屑に対する嫌がらせなのかは知らないが、陣形が少しずれていた。

 自分だけなのかと思ったが、それは凬森さんも、大和田も気付き、長門さん率いる艦隊はそれぞれの長所を生かし、相手を翻弄する。

 特に、みらいは防御に特化しているのでトマホークや短魚雷を駆使しながら加賀さん達をサポート、そしてどんどん相手が劣勢になり、

 『ヴィィィィィィィ!!!』、終了の合図音が響く。

 勝者は無論横浜鎮守府だ。

 「お疲れ様です」

 自分はそれだけ言うとその場を凬森さんと一緒に後にした。

 「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 大和田の怒りのこもった叫びを後ろから聞きながら……。

 

 「さて、作戦はこれからです」

 「解ってます。始めましょう、狩りを」

 微笑む自分、けど、これがあの人との永遠の別れになるなんて……。

 

 「勝ちましたね」

 演習が終わり、皆で喜んでいた。

 「しかし、相手のあの行動、少し不気味だったな?」

 長門さんがポツリと呟く。確かに戦う意志は見えられたが、何処か復讐心が垣間見えた。私は胸騒ぎを感じると、「明斗の元に向かいます。皆はここで待ってて」と言うとそのまま部屋から出て明斗の元に向かう。

 後ろから「加賀!待つんだ!!」と長門さんの声が聞こえたけど、私は無視して走り出していた。 

 「(早く、早く彼の元へ……!!)」

 焦る気持ちと心に抱く違和感を抱きながら廊下を走り、明斗を捜す。

 その時、『ピィィィィィィィィィィ!!』と笛の音が聞こえた。音がした方に走り出すと数人の憲兵と演習相手の提督、そして明斗がいた。

 傍には戦艦の山城憲兵の後ろに隠れるようにいた。

 「加賀さん!?部屋で待機しててって言ったのに」

 「すいません、胸騒ぎを感じて……」

 「特に何も起きてないから安心して?」

 明斗にそう言われて頭を撫でられた。多分私の顔は真っ赤になっているのだろう、明斗は心配した顔で「え、加賀さん大丈夫!?」と言う。

 「大丈夫…、気にせずに……」

 明斗は「そう……。もし何かあったらすぐ頼るんだよ?」と言う。私は、その言葉を聞いて「はい…」と答えた。

 「明斗君!無事かね!?」

 「えぇ、大丈夫ですよ。彼女を第10鎮守府の皆と合流させて外で待機させて下さい。大元帥が手配した迎えの車が来るので」

 凬森さんの心配をよそに明斗は淡々と答える。

 凬森さんも「そ、そうか……。では、山城一緒に行こう」と言われて連れて行かれた。でも、その時の山城の口元が、嗤っていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。