大和田が出て行くのを確認すると自分はそのまま後を追いかける。大和田は怒り心頭で後ろからつけられているのにも気づかずにそのまま肝娘の待機室に一旦立ち寄ると怒声が廊下にまで聞こえ、このまま突入しようかと思ったが、扉が開く音が聞こえて戦艦の山城を連れてそのまま何処かに向かう。
ゆっくりと、後を追いかけ、そしてプレートが付けられていない部屋に入った。
扉の前に着き、扉を少し開けて中の様子を見る。
「全ての責任はお前にあるんだぞ!!巫山戯るな!!」
彼女に向けて暴力を振ろうとしたその瞬間、扉を勢いよく蹴り飛ばし、後ろを振り返った大和田に向けて後ろ回し蹴りを喰らわせる。
左の方に吹き飛び、段ボールや棚を倒す。
当の本人は何が起きたのかが解らずに「なっ……!!」と少々間抜けな声を出していた。
「ピィィィィィィィ!!!」
笛の音を聞きつけた憲兵達が大和田を捕らえ、山城さんを保護する。そんな大和田は自分に「嵌めやがったな!?」と負け犬の遠吠えを吠えるが、
「嵌めてませんよ。寧ろ今回の演習は貴方を捕まえる為に行われたものですから」
自分は大和田にはっきりと言うと大和田はそのまま顔を伏せた。
その時、誰かが走ってくる足音が聞こえてくるとそこに加賀さんが息を切らしながら立っていた。
「加賀さん!?部屋で待機しててって言ったのに」
「すいません、胸騒ぎを感じて……」
「特に何も起きてないから安心して?」
自分は加賀さんにそう言って頭を撫でた。すると、加賀さんの顔が真っ赤になり、自分は心配して「え、加賀さん大丈夫!?」と言った。
加賀さんは少し、恥ずかしそうに「大丈夫…、気にせずに……」と答えた。それでも心配だった自分は「そう……。もし何かあったらすぐ頼るんだよ?」と加賀さんに伝える。そして加賀さんも「はい…」と言ってくれた。
「明斗君!無事かね!?」
すると、加賀さん同様息を切らしながら凬森さんも来ると自分は「えぇ、大丈夫ですよ。彼女を第10鎮守府の皆と合流させて外で待機させて下さい。大元帥が手配して迎えの車が来るので」と言う。
凬森さんも「そ、そうか……。では、山城一緒に行こう」と言い、彼女を連れて行く。
でも、これが間違っていたと……。この時の自分は知らなかった。
「それじゃあ、行こうか」
明斗は私にそう言うと手を握ってくれた。私は前の鎮守府の提督との思い出が蘇る。そうだ…、明斗はあの人とよく似ている。だから、私はこんなにも安心が出来るんだ……。そんな風に感じられた。横須賀鎮守府の入口に着くと凬森提督と先程の提督、そして数人の憲兵が待っていた。
「待たせましたか?」
「いえ、問題ないですよ」
明斗の問いに凬森提督は微笑みながら言うと「外に憲兵の皆さんが待機しています。護送の見送りが終わったら皆さんの迎えも着ます」と明斗と私に言ってくれた。
「解りました」
明斗の手が扉に触れた時、
「え?」
けど、明斗は扉を開き、外の光が見えた時、第10鎮守府の艦娘が主砲を向けているのが見えた。私は無我夢中で走り、明斗を庇う様に抱きつくと耳をつんざく爆音が響いた。
何が起きたのかが、解らなかった。
加賀さんが自分を庇う様に抱き着く所までは覚えているが、そこから先が覚えていない。
辺りには焦げ臭さと埃っぽさ、そして死臭の匂いが充満していた。
「加賀さん、だいじょ……」
自分の言葉はそこで途切れた。加賀さんの上半身が見えた。けど、
「あ……、きと。だ、いじょう、ぶ…」
「喋らないで!!死んじゃ駄目だよ!!」
強く、強く彼女を抱く自分。しかし、加賀さんは自分に、
「あ、とは……。まかせ、ま、したよ…。て、いとく……」
その言葉を最後に、加賀さんは喋る事はなくなった。
「あ、明斗!!生きてるか!?」
「明斗ーー!!」
凬森さんや長門さん達の声が聞こえた。でも、自分の心には何も響かない。
「明斗だいじょ……!?加賀…加賀!!」
「彼女は死んだよ…。自分を庇って……」
長門さんは加賀さんに声を掛けるが、自分が彼女の希望を打ち砕いた。いや、アイツ等がこんな事さえしなければ良かったのに……。
死んだ憲兵が所持していた軍刀2つを両手に持ち、痛みも気にせずに、言った。
「お前らを、コロシテヤル」
「しかし、加賀は遅くないか?」
「もしかして抜け駆けしていたりして?」
加賀が出て行った後、待機している私達は加賀の帰りが遅い為に心配していた。夕雲がポツリと呟いた言葉に夕雲以外の4人が『ピクッ!?』と反応する。
「っま、まさかねぇ~」
明らかに動揺している高雄を見て、私も動揺しているのかと心配になった直後、突然砲撃音が聞こえた。
「何事だ!?」
音がした方に走り出した私達は他の憲兵も慌てている様子から予想外の事態が起きているのだと察する。
入り口付近にまで近づくと焦げ臭さと死臭の匂いが鼻にツンと来るともしかして…と、わたしは最悪な展開を考えたくなかったが、
「嘘、でしょ……」
そこは地獄絵図だった。
入口の壁自体砲撃で壊れたので外の青空が一望出来るが黒鉛でそれは無理そうだ…。私は一人先に階段を降りると残骸に埋まっている明斗と加賀を捜す。
「喋らないで!!死んじゃ駄目だよ!!」
その言葉で明斗がいる場所が分かり、近づくと、誇りで見えないが明斗の姿が見えた。
「あ、明斗!!生きてるか!?」
私は明斗に声を掛ける。しかし反応がない。
「明斗だいじょ……!?加賀…加賀!!」
下半身を失った加賀に私は声を掛けるが、
「彼女は死んだよ…。自分を庇って……」
明斗の目は死んでいた……。いや、虚構を見詰め、ただならぬ雰囲気を出していた。
そして、死んだ憲兵が所持していた軍刀2つを両手に持ち、不気味な笑みを浮かべながら明斗は言った。
「お前らを、コロシテヤル」