目の前の光景が信じられずにいた。だって、それはそうだろう?死んだ人間が倒れているんですよ?
「誰かのイタズラなのかは知らないけど……。一応中に入れますか…」
無視しても良かったけど、母さんとの想い出もあって、前の加賀さん同様に室内に入れるとソファーに寝かせて自分はベットに倒れこむ。やっぱり…、身体動かしていないから疲れた……。あ、ご飯作らないと……。
「―――きと、――明斗、起きるのじゃ、明斗!!」
人が疲れてぐったりと寝ているのに誰がか起こす。自分は少し不機嫌気味に「誰ですか?」と身体を起こして起こした人物を見る。
「全く、源蔵と言いお主も少し寝起きが悪くないか?」
紫色の紙をポニーテールに結わえた女性が立っていた。しばし考えて言う。
「初春さん?なんで居るんだよ……」
「そこは、俺が説明しよう」
初春さんの後ろから羽柴が出て来た。成程、またか……。
「すみませんが、もう二度と提督関連の依頼を受ける気は「ブラック鎮守府を助ける依頼でもか?」…、嫌だ」
羽柴からの依頼内容は察した通りで拒否の返事を即答する。
「あんたらも、もうしばらく此処に出入りしないでくれ……。顔も見たくない…」
自分は二人に本心で言った。もう、関わりたくないのだ……。
「そうか……。でも、ついでに言わせて貰うが、大本営の一部が今暴走を始め、源蔵さんは死んだ。初春君は私が保護したが今やあそこはただの負の塊だ」
羽柴の発言で、自分の怒りはピークに達した。
「だから何なんだ!!!お前らのような人間が居るから世の中は悪が蔓延るんだよ!!いい加減に自覚しろよ!!」
羽柴に面と向かってはっきりと言う。もう、これ以上、誰かが死ぬのは見たくないのだ……。
「確かにそうかもしれない……。しかし、君の玄関前に倒れていた加賀は、君に会いに来たのだよ」
「馬鹿馬鹿しい。死んだ人間が会いに来れるか!?」
「確かに一度は死んだ……。けど、それは現在ではない。1109事件で死んだ加賀だ」
言っている意味が解らない。すると、鍋を持った加賀さんが来た。
「お久しぶりです……。明斗君」
その時、昔の記憶が一瞬だけ蘇り、自分は問う。
「もしかして……、母さんの…」
「改めて紹介します。『元横須賀鎮守府第1艦隊所属加賀』です。お久しぶりです、明斗君」
自分は目の前の光景が信じられなくて、到底信じる事が出来ずに涙を流して、言った。
「本当に、加賀さんなのかい……?」
「えぇ、鏡子提督の加賀です。事件の際には提督とみらい、そして私達が死んで貴方は悲しんでくれたと聞いて、申し訳ない気持ちになりました……。でも、今度は私が貴方を救います」
やっぱり、やっぱりあの時の加賀さんだ……!!
「そう…、そうなのね……」
自分はしばらく静かに泣いた。爺さんの死と加賀さんの帰還を含めて……。
「落ち着いたかの?」
初春さんが自分に聞く。自分は「えぇ、落ち着きましたよ」と答える。
「でも……、なんで爺さんは…」
「さっきも話したが大本営の艦娘反対派が暴走、最初に被害者が源蔵じゃった……」
爺さん……。自分は死んだ爺さんが最期どんな想いだったのかを考えた。おそらく、自分に対する謝罪だろうと想うと、何だか申し訳ない気持ちになる。
「そして、横浜鎮守府にはブラック提督が赴任、前よりも更に悪化しておる」
また面倒な事態になっているのか……。羽柴と初春さんは自分に「お主のトラウマを我々海軍と大本営が作り出したのは承知だ。しかし、今だけでも良いんだ。力を貸してくれ」と……。
正直な気持ち、虫が良すぎる話で誰だって断るだろう……。でも、自分は渋々ではあるが、
「良いですよ。その代わり、除隊前の階級を……。それと、加賀さんには後で聞きたいこともあるので」
羽柴は自分の返事を聞いて「解った、自衛隊に交渉してくる。初春君はそのまま彼の傍に居てくれ」とだけ言うとそのまま出て行った。
残った三人は、無言だったが、自分が口を開く。
「じゃ、加賀さん。話してくれますか?」
「えぇ、話します。私が知る限りの事を……」
そう言って、加賀さんは語りだした……。10年前の事件を…。
10年前、関東襲撃事件、後に『1109事件』と呼ばれる事件、私達第1艦隊は鏡子提督の指示で沖合に待機していた深海棲艦の艦隊を潰す為に沖に出ていた。
最初は優勢だった第1艦隊、けど、新種の深海棲艦の出現に伴ってこちらが段々不利になり始めた。そして更に台風が私達に直撃、私の意識はそこで失って、そのまま目覚める事はなかった……。