「ハァ~」
執務室で思わず溜息を吐いてしまった私に秘書艦であるイージス艦のみらいが心配そうな声で「如何しました?提督」と聞く。
「息子の件よ…。あの子頭がいい上に友達が転校してからずっとあんな感じなのよ……」
そう、新学期が始まる前に転校してしまった柊人君で明斗は友達を作ろうとせずにずっと本を読み耽っている。
「あの子には言っていないけど、その友達も亡くなったのよね……」
「ふ、不慮の事故ですか…?」
みらいは聞いてはいけない様な声で私に聞く。そんなみらいに私は二か月前の新聞を渡した。
「丁度呉鎮守府所属の鎮守府で事件があったでしょ?その事件の際に民間人にも負傷者が出たの…。そのうちの一人が……」
柊人君からの親戚の方から連絡を受けて遺体を見た時、私は思わず目を背けてしまった。遺体の損傷が酷いとか、そんな話じゃない。この事実を認めたくなかった。明斗に言えば絶対に孤独になっちゃう…。だからこそ、私はあの子に隠し事をしている。
「だから、あの子には同年代の友達が出来てくれると嬉しいのに……」
そんな私にみらいは「大丈夫ですよ、明斗君も今はあんな感じでも心境が変われば元気に遊び回りますよ」と言ってくれた。
「そうだと……、良いね」
快晴の空を見つめながら、呟いた私は今目の前にある書類と向き合い、事務仕事を終わらせて明斗と遊ぼうと決めた。
「終わった……」
時計の針が四時を過ぎた頃に、資料室の全ての資料を読み終えた。
ずっと真剣に読んでいたから目に少しだけ痛みを感じて持っていた目薬をさした。横を見ると出て行った筈の加賀さんが両腕を枕にして気持ち良さそうに寝ていた。
「如何したら良いんだろう……」
起こすのも癪な上に加賀さんの寝顔に自分は顔を赤くして目を逸らした。
「明斗~?居るなら返事…って、加賀さん寝てる?」
こくり。
無言で頷いた自分、母さんは自分に聞こえる程度の声で「解った」と言った。
「加賀さんは私が見るから執務室に行ってて?」
「解った」
自分は母さんに執務室に行くように言われて自分は資料室から出て行った。
「やはり…、この問題は解決出来そうにないかね?」
「えぇ、我々だけではとても無理な話です」
横須賀鎮守府から舞台を移し、大本営本部の元帥の執務室、『音針源蔵』元帥の執務室内は嫌悪な雰囲気を出していた。
「そうか……。やはりこの先の運命は変えられそうにないのか……」
彼が頭を悩ませている案件、それは『ブラック鎮守府及びブラック提督』と『新型深海棲艦』の目撃情報だ。
艦娘を捨て駒として戦う鎮守府の実態と新型の深海棲艦によって日本の防衛機能は著しく落ち込んでいる。
それらによって日本に対する奇襲も考えられているが大本営のスポンサーは中々その重い腰を上げずにいるのだ。
「全く、これ以上他の皆にも迷惑をかけるわけにも行かぬのにな……」
「解っております元帥。しかし、これ以上は我々にも限界です」
源蔵は唸り、天井を見上げる。横須賀の提督をしている娘が心配であり、娘にもこれ以上負担をかけるわけにもいくまいと考えてはいるが、現実はそうはいかないのだ……。
そして、横須賀鎮守府では比叡のカレーでひと騒動はあったが、二日目は特に何事もなく、明斗は鎮守府を後にして祖父母の家に行った。
その時、明斗と加賀はある約束をしていた。
『あの、もし良かったら……け、け…』
『け?』
『見学しても良い?十一月九日の提督候補生の訓練の時の、加賀さんの姿……』
『えぇ、いつでも見に来てね…。明斗君』
『君付けしないで加賀さん……』
それらの意識が一瞬にして走馬灯のように駆け抜け、彼女の意識は覚醒すると目を覚ました。
しかし、彼女がいたのが薄暗い洞窟で目の前に提督の秘書艦であるみらいが居るくらいだ。
「こ、ここは……?」
彼女が小さく、呟くと一緒にいた『祥鳳型第1番艦 祥鳳』と『高雄型第2番艦 愛宕』も応急処置要員の妖精によって装備も服もボロボロだけど、生きてはいた。
「えっと…。加賀、さんですよね……?」
とりあえず、彼女から事情を聞かないといけないわね……。
「みらいは何処に行ったんだ!?」
みらいの安否も不明のまま硫黄島まで来た私達だが、不安と焦りで押しつぶされそうな気分だ。
「長門姉さん、落ち着いて……。確かに焦るのは分かるけど、焦っても意味がないよ」
「陸奥さんの意見に同意です。一旦上陸しましょう。このままじゃ燃料切れになってしまうので……」
陸奥や瑞鶴に言われ、私は渋々だが「解った、一旦上陸して休もう」と二人に言うと近くの海岸に上陸した。
上陸して思ったことは、島には硫黄が吹き出し難破船や破壊された船舶の残骸で荒れ放題と言う事実。
「この状態の島で生きているのか……?」
「生きれるさ」
声が聞こえて右の方を見ると小破状態の武蔵と天龍がいた。
「ふ、二人共無事だったのか?!」
「あぁ、しかし途中で深海棲艦に襲われてしばらくこの島から出れなかったのだ」
二人に無事にあえて一安心した私。瑞鶴や陸奥も喜んでいた。
「二人に聞くが、みらいを見ていないか?」
「ん?嵐に巻き込まれて行方不明なのか?」
「あぁ」
私の表情を見た長門は私達に「ついてこい。10年前の艦娘が居る可能性の高い場所がある」と行って歩き出した。
私達も後を追いかけるように走り出した。