「つまり、私達は10年前に轟沈されたと報告されたんですか?」
彼女、みらいから一通りの話を聞いた。
あの事件も10年の歳月が流れて提督は死に、秘書艦だったみらいも轟沈したと言う。そして目の前にいる彼女は明斗が建造したみらいだと説明してくれた。
「で、でも!ここから脱出して明斗君に会えれば……!」
「それは…、ちょっと無理があります」
愛宕の言葉を遮るようにみらいは先月起きた事件を私達に話してくれた。
「目の前で……。誰だってなりますよ…。特に明斗君は優しい少年だったから余計に……」
「だからこそ、今皆さんが会いに行っても信じてくれるかは……」
場の空気が暗くなる。けど、私は冷静な声で「まずは脱出しましょう。多分奥に行けば出口があると思うから……」と三人に言う。
「そう、ですね……」
皆が立ち上がる時、足元がふらついて地面に倒れそうになった時、みらいが私を支えてくれた。
「加賀さんしっかり!?」
「脚を負傷しているんですから加賀さんは愛宕さんの肩をお借りして歩いた方が……」
祥鳳さんが加賀さんに心配して言う。加賀さんは最初は渋っていた様子でしたが、最終的には「愛宕さん、お願いします」と言った。
「了解です!」
愛宕さんの肩を借りて歩く加賀さん。もし、指令が見たらどんな想いになるのだろうか……。
「みらいちゃん~、置いて行くよ~~?」
「あ、待って下さい!!」
置いていかれそうだったので考えるのをやめて私は三人の後を追いかけた。
「ここだ」
天龍達が連れてきた場所、そこはかつて航空自衛隊が使っていた基地だった。確かにここなら比較的に安全な上にしばらくだったら大丈夫だろう…。
「この基地の地下は迷路のようになっていて何箇所が海に繋がっている。その内の一つがあの難破船の墓場の洞窟に行ける道がある」
なら、そこに行く為に攻略しないといけないのか……。
「なら、早速行こうではないか?」
「その前に修復材で回復しろ。この基地に残っていた高速修復材で大丈夫だと思うが、何が起きるか分からないからな?」
武蔵に言われ、三人で高速修復材で破損した場所も修復され、私達は地下迷宮に挑む。
「しかし、本当にたどり着けるのか?」
「解らない……。しかし、可能性を捨てる気はない」
一緒に行動する最中に私は、疑問に思ったことを武蔵と天龍に聞く。
「なぁ、10年前の生き延びた艦娘達、二人の知り合いなのか?」
その発言で二人の歩みは止まり、私の顔を見る。
「む、武蔵さん?天龍?」
陸奥も心配そうな声で聞く。武蔵は諦めた様子で言った。
「そうだ…。当時、私と天龍は横須賀基地に所属していた。あの事件の際に私は東北方面の深海棲艦の艦隊を、天龍は内地で上陸した深海棲艦を迎撃していた……。その時、横須賀鎮守府の提督とその家族、そして艦娘が基地や人々を守っていた。しかし、防衛は成功したが提督と提督の家族、横須賀鎮守府所属艦娘十五名が死亡、轟沈する結果になった。私と天龍は提督の息子、明斗も死んだのだと思っていた……。しかし、一か月前に横浜鎮守府に訪れた時に……」
「生きていたと……」
私が代わりに答えると武蔵は頷いた。
「俺も最初は信じられなかった……。でも、確かに提督と何処となく面影が似ていた……」
深く、悲しむ二人にかける言葉がなく、如何声をかければ良いか悩んでいると突然横の壁が崩壊した。
『ひゃあああああ!!?』
瑞鶴と陸奥、天龍が驚き、私と武蔵の後ろに隠れた。
「な、長門さん私です!!」
土埃が舞う中で、私の名を叫んだ人物、
「みらいか?」
私は確認の為に聞きなおす。そして「はい、みらいです!」と言った。
「良かった、無事だったか……」
安堵した私だが、みらいの後ろにいた三人の艦娘が気になった。
「えっと、貴方方は?」
「加賀さん!!」
私が聞こうとしたが、先に天龍が先に言う。成程、この三人があの屑提督が言っていた10年前の事件に生き延びた艦娘達なのか……?
「天龍……、それに武蔵も……」
脚を負傷している加賀は二人の名を呼んだ。すると武蔵も「加賀、愛宕、祥鳳……。生きていたか……」と呟いた。
両者に何があったのかはわからないがただ一つ言えるのが険悪な空気が流れていることぐらいだ。
「と、とりあえずここから出ましょう?」
みらいの一言で私も言いやすくなり、「そ、そうだな……。一旦上に戻ろう」と提案する。
10年の月日が流れていた……、嘘だ。
信じたくない。ありえない。
けれど、天龍や武蔵が嘘を言っている様子はない上にみらいも何一つとして知らないと言っているから現実なんだと想い、唇を噛み締める。
信じたくもない事実。提督が死んだと言う事実だけは嘘であって欲しかった。
「つまり、みらいさん達は横浜鎮守府の所属でそこの提督から私達の捜索を命令されてこの硫黄島に来たと……」
「えぇ、そうです。そこの提督はブラック提督で、多分戦力を増やす為か、もしくはただの遊び相手を増やす為だと思います……」
彼女達も相当な苦労をしているらしく、あの頃の楽しい日々を過ごした私にとって彼女らにとっては羨ましい事だと思う。
「一先ず、私と天龍の用事も、みらい達も探索が終わった。後は帰るだけだが…」
「提督……ですね?」
「あぁ」
そう、轟沈扱いになっている私達は帰る場所がない。その為強制的に横浜鎮守府に所属扱いになる。
「しかし、一つだけ可能性はある。音森鏡子提督の息子さん、明斗君だ」
明斗君…。あの素直じゃない子か……。
もう、私は全てがどうでも良くなった。鏡子提督が死んだなら、もう生きてる意味も無い……。
だけど、話が進んでいる中で、加賀さんは椅子に座ったまま静かだった。