2016年 9月1日 東京都 某所
日本の首都である街、東京。『深海棲艦』に領海権を奪われ、海の自由を失った現代の日本。
その街の寂れた場所の倉庫に、自分は住んでいる。
おっと、まだ名を名乗っていなかったな?
自分は『
そもそも、私立相談役と言うのは俗に言う『何でも屋』である。と言うのも自分はただ話を聞いて助言をするだけ。それでその相談内容相当の金額で生活する。最初は胡散臭い感じで見られていたが、最近は大企業の会長や有名人、政治家等も訪れる程になった。
そんな自分に相談をし、そろそろ復帰予定である艦娘がいた。
「お疲れ様です。明斗さん」
茶髪の髪をポニーテールに結わえ、胸当てをした和風少女、加賀型1番艦正規空母『加賀』さんだ。彼女は約半年前にこの事務所を訪れ、自分にある相談をした。
「もう動いて大丈夫なの?半年前に来た時よりは回復しているだろうけど……」
自分は加賀にそう問う。
「もう、貴方には迷惑をかけることは出来ないです。そろそろ海軍の上層部が私を探しに来る筈です……」
加賀は落胆した様子で言う。
「それに、貴方には随分とお世話になりました。なので、これ以上迷惑をかけたくないのです」
自分は何も言わずにいた。彼女の言い分には一理あるが、自分の気持ちを彼女に言った。
「迷惑だなんて……、自分は一切思ってないよ。まだ復帰するかしないかは君の気持ち次第で、無理なら一応自分からも頭下げて言うから大丈夫だよ」
自分の言葉に彼女は少しホッとした表情で「ありがとう」と言う。
すると、扉が突然開かれると武装した軍隊が室内に突入、自分に銃口を向けて加賀の両腕を掴んで拘束する。
「明斗さん!」
撃たれると思ったのだろう。加賀は艤装を展開する。海軍の連中は動揺するが自分は「しなくて良いよ。加賀さん、
自分の発言に相手は驚く。ターゲットに自分達の素性がバレているのだからだ。
「そうだね……。ここに来た理由は
自分はそこまで言うと隊長らしき人物が自分に向けていた銃を下ろす。
「そうだ。横浜鎮守府秘書艦『長門』からの情報提供でこの事務所に来た。事情説明の為に一緒に同行してもらうぞ」
「拒否権は無いんでしょ?だったら行くよ」
そう言ってソファーから立ち上がり掛けられたいた藍色と白の縞々柄のパーカーを羽織る。
「その代わり、彼女には手を出すなよ?」
「分かっている。海軍大将から直々に言われているのだからな」
ほぉぉ…。海軍大将から直々に言われて来たとなると相当面白い展開になりそうだ。
「分かりました。私も脱走した時に解体処分も覚悟していたのです。……行きましょう」
彼女はそう言って自分と一緒に黒塗りの車に乗り込む。
東京都某所
連れてこられた場所は随分と古びた場所で人の気配すら感じ取れない場所だった。
しかし、目の前にいる白の軍服に身を包む男を見て、思わずにやけた。
「ご苦労、ここからは私達のみで話す。席を外せ」
命令された連中はそのまま車に乗り込んでどこかに走り去って行った。
そして、物陰から長身黒髪、露出がある服装の女性が姿を現す。
……冬寒くないのかなぁ……。
「長門…」
どうやら、加賀さんのお知り合いのようでおそらく彼女が情報提供をしたのだろう。彼女は少し、申し訳なさそうな表情でいたが、海軍大将は長門さんにも目をくれずに話を始める。
「さて、君に聞くけど8月に起きた横浜鎮守府放火事件に関与しているか?」
唐突に海軍大将は言った。しかし、
「してる訳無いじゃないですか~。それとも、自分が犯人とでも?無理ですよ、新聞によると放火された時刻が深夜の0時から1時の間。自分は0時30分に東京のあるコンビニにいたので無理ですよ」
そう言って財布からレシートを見せる。海軍大将さんはそれをひったくって釘付けになる。
「何なら、その店に行って確かめます?防犯カメラに写っている筈ですから」
ニッコリと微笑む自分。海軍大将さんは驚愕の表情で自分を見る。加賀さんは自分のことを見るけど、自分は加賀さんの顔を見て、彼女は察してくれた。
「嘘だ……」
「要件はそれだけですか?無いんでしたらそろそろ帰らせていただきますよ」
その言葉に海軍大将はもう一度自分の表情を見て
「駄目だ!貴様には色々と話を……」
「そこまでだ」
その場にいない、別の声が聞こえると艦娘が6人で自分達を囲む。
加賀さんと長門さんは身構え、状況が掴めてない海軍大将。その最中で平然としていたのが自分だった。
「そこまでするのかい?羽柴さん」
「ん?何だ、そこにいるのはお前か明斗」
短髪黒髪をオールバックにして、チンピラを思わせる風貌の男性、それでも大本営の上層部である『
「丁度良かった、お前に頼みたいことがあるんだよ」
「だったら、艤装を解除させてまともに話せるようにしろよ…」
自分はそう言うと彼は自分達を囲っていた艦娘に解除するように言うと解除し、まともに話せる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何故貴方がいるんですか!?羽柴次長!!」
「そこにいる明斗に話があるから来たんだよ。日本海軍は下がってろ」
そう言われて大将さんは後ろに下がる。羽柴は加賀さんと長門さんを見て、言った。
「今回の件はすまない。こちらの不手際で君達艦娘に心に残る傷を負わせてしまった」
突然の謝罪で二人は驚き、「いえ!こうして加賀に会えただけ私は心強いです」と長門さんは言うが、
「私は…、皆を犠牲にして彼のもとに行ったのです。責められても仕方ないのです」と言う。
しかし、羽柴は加賀さんにこう言った。
「確かに一部の人はそう言うだろうが、同時に大本営や彼に君は助けを求めた。そのおかげで他の鎮守府の艦娘が救われた。それだけは、覚えてて欲しい」
加賀さんに言った後、自分の方を見た羽柴は、
「そこでだ、明斗。君に相談をしたい、横浜鎮守府には今は提督がいない。代理として現場に赴き、艦娘のカウンセラーをして欲しいのだが、引き受けてくれるか?」
「それは、私立相談役である自分に相談しているの?それとも、ただの権力を使った命令か?」
自分はそこだけ確認を取る。そこが最も重要な部分であるからだ。
「相談だ。君に依頼しているのだ」
その言葉で、自分は言った。
「分かりました。この私立相談役である材原明斗は羽柴さんのご相談を承諾しましょう」
かくして、自分は横浜鎮守府の提督代理として赴任することになったのである。