「良し、加賀は愛宕に曳航、他は自力でここから脱出し、一応横須賀基地に移動しよう。凬森提督なら保護くらいしてくれるはずだ」
長門は皆に言い、出撃用意をする。私も脚さえ負傷していなければ曳航する事は無いのに……。
けれど、成長した明斗に会えるのは少しだけ嬉しく思う。微笑していたらしく、愛宕さんから「如何しました?何か嬉しいことでも?」と聞かれた。
「いえ、一つだけ心残りがあったので彼に会えるのが……」
私はそう愛宕に答え、久しぶりの海面を見た。10年前と変わらず、まだ、戦いは続いているのだと改めて自覚させられる。
「行こう。本土に帰り、そして新たな提督を迎えに行こう」
そして、10年ぶりに海に出た……。
「途中深海棲艦の艦隊と遭遇、そのまま戦闘になり私だけを逃がしてくれて他の皆は……」
一連の出来事を加賀さんは知っている限りのことを話してくれた。
みらい達は……。いや、轟沈している筈はない。絶対に……。
「辛かろう……。明斗、しばし席を外せ」
「自分の家なのに席を外すのですか…」
初春さんに言われた自分だけど、そのまま外に出て新鮮な空気を吸う。加賀さんの鳴き声が僅かに聞こえて来た。
空を見上げて、母さんや死んだ加賀さん達の顔を浮かべる。二度と見られない人達の笑顔を思い浮かべ、小さく呟く。
「大丈夫……。血まみれになるのは自分だけで十分…。彼女達だけでも、幸せになって欲しい。この腐りきった世界が変わっても……」
すると、先程出て行った羽柴が戻ると自分に「無事に、除隊前の階級が君の元に戻った。君のかつての上司は『君が戻って来てくれて嬉しいよ。今度宴会でも開こう』と申していたぞ?」と言ってくれた。
「遠慮します。っと伝えてください」
羽柴に伝えた自分は階級の印であるバッジを見ていた。あの時の、無力だった自分が初めて成長したと認められた証の品。
自分は家の中に入り、二人に言った。
「加賀さん、初春さん。自分、材原明斗『特別陸将補』と一緒に来てくれますか?」
改めて、二人に問う自分。加賀さんは永遠に忘れない。殺した艦娘は抹殺する。この世に生まれたことを後悔さえさせて懺悔させながら斬首する。
でも、その前に母さんとの思い出を護る為に、戻る。闇の正義の元へ……。
「えぇ、勿論」
「当たり前じゃ。源蔵の仇討じゃ」
今日、ここで自分は決意を新たにした。
この世界ごと、全ての悪を撲滅してやる。例え出来なくても良い。少しでも、善人が生き易い世界にさえなれば……。
横浜鎮守府 執務室
「へぇ…?『艦娘遊郭』ですかい?」
横浜鎮守府内の執務室、ここで大和田大佐はほくそ微笑む。自分のおもちゃを与えられた子供のように……。しかし、無邪気な表情ではなく残忍な笑みではあるが…。
『あぁ、そこでは全国各地から艦娘が集い、毎晩の様に自分自身の欲を満たせる場所だ』
「そんな面白い場所があったなら何故教えて下さらなかったんですかい?」
『貴様が艦娘の精神を壊す恐れがあったからな?そんな毎回の様に入荷出来ないんだ』
電話の主は大和田にそう言う。
しかし、電話の主及びそこに行く者はこの男だけは来て欲しくないのでずっと秘匿していたのであった。
「でも、教えてくれたんですから場所は教えてくれますよね?」
『あぁ、勿論だ』
そして、電話の主は大和田にその場所を言う。誰もその場所を聞いていない。知っているのは電話の主と大和田のみ。
『では、三日後に…』
「楽しみにしていますよ?」
ふたりの会話は終了、そして執務室の電気が消えた。
次の日、明斗は防衛省に赴き、自衛隊の幕僚長に面会する為に赴いたのだ。
「幕僚長、お客様です」
「あぁ、入り給え」
案内した職員はそこで来た道を戻り、明斗は平然とした顔で「失礼します」と言い、室内に入る。
室内には筋肉隆々な男性と茶色を基調した制服に身を包む女性の二人がいた。
「おぉ、久しいな?材原明斗特別陸将補」
「えぇ、そうですね?香原幕僚長殿?」
そう、この人が陸上自衛隊のトップである香原幕僚長。孤独だった自分に一から格闘術を教えてくれた人だ。
「しかし、君をあんな形で除隊させたことは申し訳ない」
「構いませんよ……。それで、横に居られる方は艦娘で?」
自分は幕僚長に問う。すると女性は自ら名を申してくれた。
「私、お洒落な重巡洋艦の熊野と申します」
「私はいらないと言ったんだがね……」
二人の態度が対極過ぎて笑いそうになったが、堪えて話を続けた。
「それで、自分を呼んだ訳は?」
幕僚長に訳を聞く。先程の表情から一転、険しい表情になる幕僚長は静かに言う。
「日本海軍……。海上自衛隊とは別に独立して設立された組織だが、最近は横領や重罪の隠蔽、そして艦娘に対する暴力などが私の元に報告される」
「陸上自衛隊に報告しても意味ないかと……」
別組織の事情をこの人に報告しても……。と想った自分だが、本人はそうは思っておらず。
「別組織でも、人権を無視した組織は我々の敵だ。例え身内だろうが」
殺気丸出しで自分に言う。自分はそれを無視しながら「それで、自分が始末しろと?」と聞く。
「始末とまではいかないが……。『艦娘遊郭』と呼ばれている建物がある場所にある。そこを叩いて欲しい」
そう言われ、秘書の熊野さんから受け取る。
「普通は海軍からの命令だと思うんですけど……」
「仕方ないだろう……。私の友人も艦娘賛成派だが、大本営内部の暴走で身動きができないから陸自に頼むと言われたんだ」
全く、面倒事しか起きないのかな……。この場所は、
「解りました。引き受けますが、一つだけ頼みがあります」
「何だ?私にできる範囲内ならば引き受けよう」
「解りました。では、自分の頼みは―――」
言い終わった自分はそのまま幕僚長の執務室を後にした。