「久しぶりだな……」
今、自分は横浜鎮守府の正門前に立っていた。
あの時は瑞鶴さんと陸奥さんと高雄さんが一緒だったけど、今は初春さんと加賀さんが一緒だ。
「決まっておるのか?」
「当たり前じゃん。まずは、提督に挨拶に行くけど二人は艦娘を集めて、そして解体もしくは轟沈扱いにされた人を割り出して」
「解った。明斗も気をつけて」
「解ってる」
そして、自分は正門を開く。さぁ、手始めにこの鎮守府を返して貰おう?
「フンッ!!」
「ンンンッ!!?」
執務室に隣接する部屋、そこは本来提督の寝室とされているが、前任の個人的な部屋として使われ、誰に近づかない。
しかし、大和田はその部屋を全面的に活用し、自身の遊び場としている。
「ほぉら、もっと鳴け雌牛!!!」
喜悦の表情で鞭を振り続ける大和田。両手を鎖で縛られ、口にはギャクボールでまともに声が出せないでいるのは武蔵だった。
大和田は武蔵の背中に何度も鞭を叩きつけ、痛々しい傷を増やしていた。
「ン゛ンッッ!!」
鎖がジャラジャラ鳴り、必死に鎖を解こうとする武蔵だが、大和田は「無駄な事を!!」と言い続け、ムチを振り下ろす。
その時、『コンコンッ』とノック音が響く。大和田は「誰だこんな時に」と呟きながら執務室の方に出る。そして扉を開いたと同時に顔にパンチを喰らった。
「な…、何だ貴様!!?」
「上官に対する態度かな?大和田大佐」
パンチをした人物、勿論明斗である。額に青筋を浮かべながら大和田に言う明斗は愛銃のベレッタをホルスターから抜き出すと大和田の両肩、腕、脚を撃った。
「うぎゃああああ!!!!」
「他人には暴力を加える癖に自身の耐久値は皆無ですか?」
「他人には暴力を加える癖に自身の耐久値は皆無ですか?」
肩、腕、脚を撃たれ、激痛に襲われる中で、目の前にいる明斗に対する恐怖心もあった。
「まぁ、良いですよ。そこでしばらく悶えていて下さいよ?」
明斗は大和田に冷めた目でハッキリと言うとそのまま隣室に向かい、武蔵の姿が見えた明斗は目を逸らす。
「ご、ごめん!不可抗力ですので……」
そう言いながら武蔵を縛っていた鎖を解き、自身が着ていた外套を武蔵に渡す。
「すまない……」
「い、いえ…。こちらも来るのが遅くなったしまったのもあるので……」
声を震わせながら言う明斗。武蔵はその明斗の姿に、
「フフッ」
微笑する。
明斗も咳払いし「では、改めて大和型第2番艦武蔵さん。自分、材原明斗特別陸将補の指揮下に入ってくれますか?」と言う。
武蔵は頷き、「戦艦武蔵、提督の指揮下に入ろう」と言った。
その時、大和田が扉から身体を出して手に持つ拳銃を明斗に向けて「死ねぇぇぇぇぇ!!!」と叫びながら発砲した。
しかし、明斗は糸も容易くかわす。銃弾は窓ガラスを割り、そのまま消え去る。
「動かない方が良かったのに……」
明斗は面倒臭そうに呟きそのままベレッタで腹部を撃った。
「グフッ……!!」
大和田はそのまま倒れこむ。そこにタイミングよく憲兵が室内に入るとそのまま大和田を連れて行った。
「いやぁ、何だこの悪趣味な部屋?」
そして、憲兵と入れ違いに羽柴が室内に入る。
「知らない。あの男の処分、お願いしますよ?」
「解ってるさ。そっちこそ、ここの鎮守府の艦娘頼むぞ?」
明斗に言った羽柴はそのまま出て行った。武蔵はポカーンとした表情で一連の出来事を見ていた。
「え、えっと明斗指令?」
「何?武蔵さん」
明斗は平然とした顔で武蔵を見る。武蔵はその表情を見て諦めて「いや、何でもない。とりあえず服を着るから出てくれないか?」と明斗に言う。
すると明斗は顔を真っ赤にして慌てて部屋から出て行った。
「皆に話があります」
横浜鎮守府所属の艦娘全員を集めた初春と加賀は皆にそう言う。
加賀の姿を見た一同は動揺するが、天龍や長門、一部の人間は無事に帰投し、加賀が明斗を連れて来てくれたのだと内心喜ぶ。
「本日付で、新しく提督が着任します。……失礼、もうしてます」
加賀の言葉に反対派の野次が飛ぶ。初春はその野次に対して「音針源蔵元大元帥の孫じゃ。それでも不安かの?」と冷気を纏った声で言う。
一旦は静かになるが、榛名と霧島が反論する。
「それは確かな筋なのですか?」
「えぇ、私は音針大元帥の秘書艦じゃ。新しい提督の顔も何度も見ておるわい」
「ありえないですね?大元帥の家族は皆死亡したと聞いております?」
「それは軍事機密事項に触れる為にそう書類上ではなっているだけ」
一進一退の状況。両者が火花を散らす中で、誰かが小さく、呟く。
「―――加賀さんを殺した提督の元に就く気なんて無いわよ―――」
『ヒュッ』
床に突き刺さる矢、矢を放ったのは加賀だ。彼女からは言うまでもなく怒っている。
この姿に流石の天龍も「誰だよ……。言った奴…」と呟いた。
「別に私や初春さんの言葉を信用しなくても良いわ。―――でもね、明斗に対する悪口は許さないわよ?」
冷徹な顔で静かに言った加賀。その姿に榛名も霧島も黙る。重苦しい空気の中で、食堂の扉が開かれた。
扉を開けた人物に、長門や高雄、一部の人間は表情が明るくなった。
「お久しぶり、と言った方が正しいかな?艦娘の皆さん」