では、続きをどうぞ。
建物内にいた艦娘全員を保護した上で建物の外に出た。外の空気は新鮮で、少しだけ、ホッとした。
衰弱しきっている娘達をイージス艦に乗船させているのが見えた。そして、手錠をかけられ観念している提督達の姿も見えた。
「提督」
「ん?」
後ろを振り返ると毛布で身体を隠した艦娘、十一人が立っていた。
「改めて、私達の為に来て下さって」
「君達の為じゃない。皆の為に来たんだよ。今はゆっくり休んで、鎮守府に着いたら帰りを待っている皆にその姿を見せてあげな?」
そう言って近くにいた自衛官に彼女らをイージス艦に乗せるように言うとそのまま連れて行った。
「お疲れ様です。明斗」
横から加賀さんがタイミングよく現れたのには驚いたけど、顔に出さずに「ありがとうございます、加賀さん」と答えた。
「あれ、他の皆は?」
「囚われていた艦娘の対応に当たっています」
成程。納得した自分に加賀さんはタオルを差し出して、
「血を拭いてください。その状態ですと何かと誤解を生むので」
「あぁ、忘れてた」
タオルを受け取り、顔を拭く。中々拭き取れないので水道水で顔を洗い、改めて拭く。
「ふぅ、サッパリした」
赤く血まみれになったタオルを見入っていると加賀さんに「如何かしたか?」と聞かれた。自分は「いや、何でもないよ」と答えた。
「でも……。悔しいよ。救えたはずの命もあったのに、救えなかった」
自分が突入した時点で亡くなっていた艦娘も何人かはいた。
もし、自分がもっと早くこの場所を特定して突入さえしていれば……。
「明斗。確かに救えた命もあったかもしれない。でも、彼女達が護ってきた娘達の胸の中でずっと生き続ける」
「そうだと、良いね……」
それでも、悲しむ自分に加賀さんは予想外の行動をとった。
いきなり顔を近づけたかと思うと加賀さんはそのまま唇を重ねた。
「……いつまでも哀しまないで下さい。彼女達が報われないので」
「う、うん……」
顔が真っ赤になる自分。恥ずかしさもあるけど……。
「へぇ~」
「そんな関係なんだ~~」
ニヤニヤ顔で自分と加賀さんを見る長門さん達に海自の皆さんも悔しそうに見ている。
「ち、違!?」
「私達も負けていられないな?」
な、何に負けていられないんですか……?
必死に誤解を解く為に必死に弁論するけど、加賀さんは頭の上にハテナマークを浮かべ、状況が掴めていない。
「だから誤解です!!!」
夜の泊地に自分の声が轟いた……。
「そうか、御苦労だったな」
卓上ライトの光だけが、彼を照らしている。陸上自衛隊幕僚長の香原は一人頷きながら通話相手に労いの言葉を伝えるとそのまま通話を終了した。
「これで一段落……」
彼は呟き、そして机の中から一枚の写真を取り出す。
写真には香原自身と信頼していた部下と撮った写真だ。
「お前さんの子供は立派に成長して生きている……」
死んだ部下に小さく、報告する。写真の裏には鉛筆で『香原陸将と音峰陸佐』と小さく書かれていた。
「提督、失礼します」
真夜中の三時頃、私は提督の執務室に足を運んだ。今回の一件の報告書類をまとめたからだ。本当なら夜が明けた頃で良かったけど、提督自身がその時間に持ってきて欲しいとの指示だったので持って来た。
「あぁ、ごめんね?こんな遅くに頼んじゃって高雄さん」
明斗提督は疲れた表情をせずに窓際に腰掛けていた。部屋は運び込まれた艦娘が静かに寝ていた。
「いえ、提督の指示であれば……」
そう言った私は書類を提督に渡す。彼は一枚一枚スピーディに読んでいく。五分くらいして、読み終えた提督は机の上に書類を置く。
「成程……。今後の予定もこれで作れるよ。ありがとう、高雄さん」
提督は感謝の言葉を呟くと「後は自室に戻っても大丈夫だよ」と言ってくれた。
「い、以上ですか?」
「以上だよ?……もしかして変なこと考えていた?」
提督に指摘された私は顔を真っ赤にして、「ば、馬鹿めと申し上げますわ」と言った。
「冗談だよ。……でも、何か不安とか嫌な事があったらなんでも相談して?こう見えても一応私立相談役何だから」
ニッコリと笑った提督を見た私は目を閉じて、ただ「はい……」と返事をして執務室を後にした。
高雄さんが帰ったあと、一人であることを考えていた。
「深海棲艦さえ倒せうる兵器……」
それは、ある人物が深海棲艦について徹底的に調べ上げ、艦娘の艤装以外でも倒せうる兵器の設計図を残していた。
しかし、後に彼は反逆罪で処刑。設計図諸共闇に消えたと噂されている。今、明斗が所持しているのはその兵器の設計図だ。
形は回転式拳銃と散弾銃をモチーフにされた武器。使用する銃弾は艦娘が使用する弾薬、それを使いやすく尚且つ装填しやすさを求めている。
「ふっ、楽しみだな……。これ以上にないくらい」
一人微笑む自分。ようやく、ようやく自分自身との悔みを断ち切れる。
そう思うと口角を上げてにやけた。さぁ、始めよう。復讐劇を、母さん達を殺した奴らに復讐だ……!!
「師団、ですか……?」
『あぁ、そうだ。アメリカとイギリスが
横須賀鎮守府執務室、凬森提督は電話の主に言われた言葉を聞き返す。
新たに開発した艦娘……。凬森は疑問しか抱かなかった。
「それで、横須賀鎮守府に迎えて交流会でも開くのですか?」
『まぁ、そんなところだ。しかし、スパイも紛れ込む可能性もある。横浜鎮守府の明斗に応援を頼むと良いだろう。彼は深海棲艦で荒れていた日本の闇で、
「そうですか……」
そしてある程度話して電話を切ると凬森は天井を眺めて、呟く。
「ジャック・ザ・リッパー……。とてもそうには見えなかった」
凬森は一人、呟くとそのまま卓上ライトを消した。