第25話 カウセリング
12月初頭 横浜鎮守府 執務室
12月に入り、ようやく動ける様になった皆にカウンセリングを定期的に行っている。引き篭っていた艦娘達は高雄さんや長門さんに任せて実戦特訓をして貰っている。
「それじゃあ、金剛さんと比叡さん。最近の調子は如何ですか?」
執務室に二人を呼んだ自分。トラック泊地の件で精神的なストレスを抱えているので、こうして定期的にカウンセリングを行っている。
「テートクのおかげでゼンカーイデース!」
「もっと具体的な返答が欲しいんだけど……」
金剛さんはこんな感じで出撃させて欲しいと言ってはいるが、榛名さんと霧島さんからはまだ出撃させないで欲しいと言われているのでさせていない。
それに、彼女の艤装もまだ修理中のも理由の一つだ。
「比叡さんは?」
「まだ…、出撃は遠慮するよ」
比叡さんは前任の暴力によって出撃がトラウマとなってしまい、艤装を展開すると震えが止まらなくなるらしい。
「解った。じゃ、次に自分の中で楽しい出来事はあったかな?」
二人に簡単な質問を問いかけながら診断を終えると二人はそのまま執務室を出て行った。
「まだ、心を開いてくれないか……」
二人の詳細が書かれた書類を眺めながら呟く。すると、右隣の部屋から加賀さんが出てくると自分の前にティーカップをおいてくれた。
「お疲れ様です。明斗」
「ありがとうございます……」
感謝の言葉を述べてから飲む。紅茶の風味が広がり、心が落ち着く。
「明斗、あまり無理しては駄目ですよ。身体には毒ですから」
加賀さんに指摘された自分だが、まだやっていない人もいるので「今日の分が終わったら休みますから大丈夫ですよ」と答えた。
そして、次の人が執務室に入る。
「待ってたよ。能代さん、酒匂さん」
「まだ……。出撃は……」
「解ってるよ。この鎮守府に所属する艦娘の殆どがまだ実戦には出れない状態だから。横須賀鎮守府と横須賀鎮守府に所属する鎮守府には申し訳ない気分だけどね…」
自分は二人にそう言いながら話をする。
「それで、最近は思い返さない?」
「まだ…寝ている時にうなされたり前任のことを思い出すよ……」
前任の爪跡はひどく、今もなお苦しめられている艦娘も数人いる。二人も同様でセクハラを受けたり入浴中を覗くなどの行為もあったらしい…。
「あの、不細工な顔が不意に思い出すと震えが止まらないの……」
自分は何も言わずに彼女達の話を聞くことに徹した。
「まだ出撃は無理そうだね……」
「精神的に不安定ですと実戦でも味方にも影響を与えますからね……」
明斗は深く考えていた。少しでも彼女達の蟠りを剔除し、生き生きとした顔を見てみたいと思っている。
けれど、今の状況を見ても出撃なんて無理な話だ。
「困ったね……」
困り果てた自分に、一本の電話がかかる。受話器をとり、「もしもし?」と尋ねると横浜鎮守府の凬森提督からだった。
「明斗君かな?横須賀の凬森と言えば分かると思うけど……」
「分かります。前の一件は失礼しました」
一か月前の事件の際には横須賀鎮守府には多大な迷惑をかけた自分。その件を謝罪するが、凬森提督は「気にしないで下さい。私も無事に復帰しましたので」と言ってくれた。
「それで、一体どんなご要件で?」
「実は、三日後にアメリカとイギリスから新規開発された艦娘が横須賀に訪れることになった」
凬森提督から話を切り出された自分。新規開発された艦娘……。少しだけ興味が沸いた。
「それで?」
「あぁ、多分各国のスパイが暗躍すると思われているんだよ。そこで、君と所属する艦娘と一緒に来ないかい?」
少し、怪しいので葉をかけた。
「自分に声をかけるなんて光栄に思いますよ」
「明斗君は信頼している上に香原幕僚長から直々に…あ」
幕僚長の名が出た時点で確定した。おおよそ、自分の実績を知っている為に彼に提案でもしたのだろう。
「良いですよ。ただ、二艦隊と秘書艦と共に訪れますのでそこだけはご了承ください」
「いえいえ、こちらは大丈夫だよ!それじゃ、三日後にね!!」
通話が切れる。受話器をそっと、置く。そして加賀さんに、
「三日後に横須賀鎮守府に向かう。自分、加賀さん。そしてカウンセリングを受けている十一名と一緒に向かいます」
「演習か何かですか?」
「いえ、ただの交流です」
ニッコリと微笑みながら答えた自分に首を傾げる加賀さん。
こうして、横須賀鎮守府に赴くことになった。
「無事、完了しました」
闇が覆う室内。その闇を近寄らせないように光を放つ一つのカプセル。
カプセル前には白衣を纏う男性が二人。一人は表情を歪ませて言う。
「遂に、遂に完成した……!!」
高らかに嗤う男性。カプセル内には青年が培養液に浸かりながら眠る。これが、新たな戦いの始まりにして、一つの可能性を生み出させた。
「さぁ、始めよう!!人類絶滅計画を!!」
「japanですか?Admiral」
「ウム。その通りだ」
船に揺られながら私は、遥か先の極東の島国、『日本』を目指している。
「本来ならばこの様な事をしている場合ではない。しかしだ、日本には幾多の艦娘がいる」
Admiralは不敵な笑みを浮かべながら私に話す。
けれど、私は……。