【艦これ】私立相談役と元ブラック鎮守府   作:泉井 暁人

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第6話 攻撃と涙

 

 「それじゃあ、自己紹介してもらえると助かるよ」

 あの後、皆の元に戻った自分は襲いかかろうとした(?)艦娘達と一緒に皆とカレーを食べる。

 「工作艦の明石です!開発や修理関係は私に一言言って下さい」

 腰付近まであるピンク色の髪の女性が先に自己紹介する。成程、後で開発してもらおう。……色々と、

 「私は夕張型第1艦軽巡洋艦『夕張』です。出撃もするけど大体が明石の手伝いで工廠にいるから。宜しくです」

 緑?灰色と緑色が混ざった髪を緑色のリボンで結わえた子だと覚える。

 そして、少女達の方を見る。

 「あ、暁型第1艦駆逐艦『暁』及び左から」

 「……暁型第2艦駆逐艦『響』……宜しく」

 「暁型第3艦駆逐艦『雷』!雷じゃないからね!」

 「暁型、第4艦駆逐艦『電』だよ」

 どうやら4人姉妹の様で他の艦娘よりは元気があると感じられて一安心する。

 「ところで、司令官「司令官じゃないよ。ただの民間人」…明斗お兄ちゃんは何でここに来たの?」

 暁に聞かれた質問。自分は最初は答えるか悩んだが、言った。

 「皆の心のカウンセラーとこの横浜鎮守府の復興って言うのが名目だけど……」

 「だけど?」

 自分はそこで言葉を濁らせる。

 「ま、まぁそんな所だよ……。さ、そろそろ片付けて寝よう。色々と疲れたからね」 

 話を強引に中断させて片付けを始めることにした。

 

 「ねえ、あの人信用出来る?」

 テント内、寝袋に入って眠りに就く前に、夕雲が私に言った。

 「明斗さんの事を?」

 「そう……。私達のことを騙そうとしている気がするの」

 確かに。前任の件もあり、すぐに信用しろと言われても無理な話。でも、私は信じても安心だと思う。

 「夕雲、あの人は大丈夫。前の鎮守府の提督と似た雰囲気が感じられたから。それに、高雄さんの事も守ってくれたんだよ?」

 瑞鶴が夕雲に反論する。

 「それも、作戦の一つだったら……」

 「そこまで。今は寝ましょう?」

 私はそう言って目を閉じる。この先は誰にも分からないけど、久しぶりに安心して眠れる。

 

 「ふぅ……」

 皆が寝静まった深夜の2時頃。自分は明石に頼みたい建造に関する書類をノートパソコンで作成して印刷した書面を見ていた。

 「なぁ、教えてくれ。自分は、一体如何すれば良いんだ?みらい……」

 パイプ椅子に座りながら、1人で呟いた自分。その時、人の気配を感じて後ろを振り返る。

 暗闇に紛れる様に黒い衣装に身を包んだ女性がいた。緑色のセミロングの女の子が自分に向けて殺意を放っていた。

 「新しい提督ですね?」

 「提督じゃない。代理ではあるけど……」

 毎回同じ台詞を言うのもあれだが、良い加減にして欲しいなと思っていたけど、

 「何故、貴方は泣いている?」

 彼女に指摘された時に、自分は涙を流している事に気付いた。

 「あ、あれ?何でだ……。な、何で、涙が止まらない……」

 ポロポロと流れる涙。分からない、何故だか分からない。でも、艦娘と関わったからか、昔の、あの事件が脳裏に蘇る。

 『―――明斗、貴方だけでも生きてちょうだい―――』

 『嫌だよ、嫌だよ母さん!!』

 『提督駄目です!貴方も一緒に!』

 『―――後はお願いね、みらい―――』

 思い出したくない場面。あの日、あの瞬間さえなければ今、自分はここまで黒く、汚れていなかっただろう……。

 「それで、命を奪いにでも来たのですか?」

 「いいえ」

 だったら何しに来たのだろうか?自分は涙を拭きながら思うと、彼女はおもむろに何故か服を脱ぎ始めた。

 これには流石に動揺し、「な、何してるんだよ!?さっさと」この先の言葉は言えなかった。

 彼女が強引にキスをしたからだ。舌を自分の口の中に入り込ませる。

 手馴れているせいか空いていた手で自分の腕を掴んで彼女自身の胸を鷲掴みにする。

 「(や、やばい!)」

 そして強引に身体を離し、テントから出た時、彼女は呟いた。

 「もう、遅いわ」

 木々の間から放たれた弓矢。頬を掠めて地面に突き刺さる。砲弾などを使わずに弓矢を使ったのは他の人に邪魔されない様にだと考え、

 「そう来るか」

 そう言って工廠方面に走りだす。

 「今度こそ殺してね……。瑞鳳」

 少女は木の上で弓を構えていた少女に言い、明斗を追いかけていった。

 

 祥鳳型2番艦軽空母『瑞鳳』、それが私の名前だ。

 前任の数々の非道の行いが総て自分自身に降りかかり、燃え盛る別館と共に死んだ。皆衰弱していた。前任のせいで皆が皆疲れていた。だからこそ、新しい提督が来ると聞いた時、私は殺そうと思った。でも、一番仲が良かった加賀さんが私に一人で逃げた事を謝った際に、

 「新しい提督は、前の人とは違います。私達のことを第一に考えています」

 あの加賀さんが太鼓判を押した人。僅かながら私も興味を持った。

 そして今、私はその人に矢を放とうとしている。

 「ごめんなさい……」

 一人呟いた私は矢を放った。

 木々の間をすり抜け、その人に当たった。

 と、思った……。

 「矢って意外に痛いんだからそんなに放つのを止めてくれよ?」

 下を見た。目を見開いて驚いた。

 「な、何で……!?」

 「何でって言われても矢を避けてここまで来たんだよ」

 待って、だったら鈴谷は!?

 「あ、さっきの子は気絶させて今はテント内で休ませているよ」

 私はすぐさま矢を彼に向ける。

 「出てって。死にたくなければ」

 「殺したくない…。からじゃないの?」

 本心を暴かれて動揺した。でも、何も言わずに矢を向ける。

 「安心しな、何もしないし自分はただこの鎮守府の復興と君達のカウンセリングをしに来ただけ。ほかは何にもしないよ」

 出任せだ。私は自分に言い聞かせる。でも、彼の目はまっすぐ私の顔を見ていた。

 「まずは降りたら?話を聞いてあげるから」

 揺らぐ心。私は悩んで悩み、木から降りた。その時、横から何かが当たり、そのまま気を失った。

 


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