昼食であるサンドイッチを皆に回しながら全員に行き渡ったのを確認してから爺さんから頼まれた話を皆に切り出した。
「実は、一週間後に舞鶴鎮守府所属第10鎮守府と演習を行なう事になった」
自分の発言に皆が驚き、動揺する。まぁ、いきなり一週間後に演習だって言えばそうだろう。しかし、自分は皆を静かにさせると話を続ける。
「皆が言いたい気持ちは解る。でも、今回の演習で君達が味わってきた苦しみを今もなお耐えている艦娘達がいる」
この発言で全員が真剣な表情になる。自分はその表情を見て少し、安心すると言う。
「皆には一週間後に備えて練習をしていて欲しい。明石さんと夕張さんには皆の新装備の開発をお願いする今回は参加できないけど、他の皆は演習場で特訓するのも良し、この大量の書類を片付けるのも良し。皆に任せるから!」
自分が全部言い終わり「じゃ、サンドイッチ食べ終わった人から各自自由にして良いから」と言うともう食べ終わったらしく皆が一気に演習場に走って行った。
みらいを除いて……。
「みらい、話がある。良いかい?」
コクン。無言で頷くみらいの手を引いて正門の外側まで出ると皆から見えない位置に行くと、
「如何した?そんな悲しい顔して」
「い、いえ…。ボーキサイト足りなくてお腹が空いているだけですよ」
無理矢理作り笑顔で誤魔化そうとするみらい。自分はみらいのおでこにデコピンをした。
彼女は「痛い!?」と言うと額を抑えて蹲る。自分はしゃがむと彼女の顔を見る。彼女は泣いていた。
「昔、ある娘がイージス艦だからと言って今の君みたいに悲しんでいた」
その言葉にみらいは顔を少し上げて自分の顔を見る。自分はあえて無視して話を続ける。
「けど、ある女提督さんがその娘に言う。『イージス艦だからと悲しむな。彼女らが矛ならば君は盾になれ』と言ったそうだ」
自分はこれ以上何も言わないでいた。みらいが「盾……」と呟くと自分は彼女に
「そうだ。イージス艦は全ての矛じゃない。国を守る盾として建造された」
すると彼女は元気を取り戻した様で「指令!ありがとうございました!」と言う。
「指令じゃない、明斗って呼んでくれって言っただろ?」
しかし、みらいは自分の言葉をスルーして「では、演習場に行って頑張ります!」と言うとそのまま走り去って行った。
「全く、世話の焼けるイージス艦だ……」
そうは言ったが、実際問題彼女が落ち込む訳も解らなくともない。けど、イージス艦はその為に建造され、そして国を守る。だからこそ、自分はあんなふうに言ったのだが……。
「さて、工廠に行くかな…?」
一人呟いた自分はそのまま工廠に向かう。けど、この時提督反対派が動いていたのに気付かなかった。
「瑞鳳もあっち側に寝返り、こちら側も雲行きが怪しい。そこでだ、あの屑の秘密を探ることにした」
皆を集めて最初の言葉がそれだった。
横浜鎮守府提督反対派、聞こえは良いかもしれないが、実際のところただの引き篭りだ。
でも、提督反対派には属してはいるが賛成派の連中と密会している連中もいる。…ん?私か、私は中立の立場だ。ただ、大和姉さんが見つけることさえ出来ればそれだけで良い……。
「武蔵!貴方があの屑の秘密を探ってきてくれる?」
話を聞いていなかった私に司会進行役である霧島が私に言う。ここで断れば面倒だ。私は仕方なく「解った、すぐに行こう」と言い、食堂を後にする。
「とは、言ったものの……」
アイツ等が勝手に執務室に溜まっていた書類とテントを放り出して高雄達を追い出したのには罪悪感を抱くが、案外楽しそうに過ごしている。
「まぁ、兎に角適当に探して渡せばアイツ等も十分だろう……」
独り言を呟きながら提督代理の荷物を探る。
「ん?」
ふと、机の上に伏せる様に置かれていた写真立てに気がつき、写真立てを起こした。しかし、その写真に私は驚いた。
「ちょっと」
後ろを振り返ると異常なまでに殺気を放つ提督代理がいた。
「それを見るなんていい度胸ですね?」
彼の顔をよく見て、理解した。
「提督代理……。主は、『音峰鏡子』提督の息子か?」
すると提督代理は驚愕の表情で私を見る。
「って事は、あの時の……。いや、ありえない。だって、あの時……」
「艦娘には練度、つまりゲームで言えばレベルアップをする。あの頃の私はまだ改二ではなく、まだ不慣れな頃だった」
私は彼に近づき、言った。
「すまなかった、提督を…、妹さんを守れなくて……」
申し訳ない気持ちしかない。あの事件、あの事件さえなければ今も彼女は生きていたかもしれない。
しかし、彼の顔色は暗いままだ。すると、彼は私に顔を向けて言った。
「帰って下さい。まだ、あの事件を忘れられないので……」
私は何も言わずにそのまま立ち去った。
「明斗の過去?」
「はい、できる限り教えて欲しいのです!」
演習を皆で行い終わった後にみらいから突然聞かれた。
「私も明斗とは半年過ごしたが一切過去の話は話さなかった」
「そうなのか?案外話しそうな感じではあるけどな」
長門は私にそう言ったけど、実際のところ、彼は、孤独な人なのだ……。