最初に見た光景は、どこか寂しそうな陰気な顔だった。
それが、目が合った瞬間に余りにも嬉しそうだったから……まるで救われたのは私ではなく、男の方ではないかと思った。
「ここは……」
頬に添えられた手がそっと私の横髪を撫でる。
優しく、労るように動く手から安心したという気持ちが伝わってくる。
「医務室、なのね」
「あぁ、君は秘密の部屋で倒れていた」
目の前にいるセブルスの声に、あぁ終わったのだと改めて私は実感した。
今も、鮮明に思い出すネビルの姿、若き日のヴォルデモートの断末魔を覚えている。
何も、何も出来なかった無力感と後からやって来た恐怖に、自分が酷く滑稽に思えてくる。
私は、特別な存在でも何でも無かったのだ。
ただ、人より少し魔法が使えるだけのちっぽけな存在。
一歩間違えれば死んでもおかしくなかったのだ。
ネビルが居なかったら、私は死んでいたかもしれない。
その恐怖に、自然と涙が溜まる。
「よく、頑張った。今は、休みなさい」
「うん」
そっと抱き寄せられ、背中に手が回される。
優しく軽く手が鼓動を奏で、あぁ父親が居たらこんな風なのかなと思わずにはいられない。
でも、それは余計に涙が出てくるから今はやめて欲しかった。
「話をしてもいいかね、セブルス」
「校長ッ!?」
不意に聞こえた声に反応して、私達はお互いに押し飛ばすように離れる。
いつからいたのか、私達の近くにダンブルドアが笑顔で立っていたのだ。
その笑顔は、今の状況では些か怖い物だ。
気恥ずかしさからか、私は思わず枕に顔を埋めてしまう。
くっ、殺せ!いっそ、殺せ!
「ネビルロングボトムとの話は終わったのですかな?」
「あぁ、首尾良く終わったとも」
「それはよろしい。それで、何の用ですかな?」
「うむ、ちと彼女と話したくてな」
ダンブルドアの言葉に、枕から少しだけ顔を上げて振り向き反応する。
直視できない私は枕を縦にダンブルドアの顔を覗く形で話す大勢に入った。
それでも良かったのかダンブルドアは気にせず話しだした。
「ハリー、まずはお礼をいいたい。君のお陰でまたホグワーツは救われた」
「いいえ先生、私じゃ無いです。今年も、ネビルのお陰です」
「そうかもしれぬ。だが、君のお陰であることもまた事実じゃ。時に、君は何か悩みがあるのではないか?」
見透かしたような目が私の心を暴こうとしてくる。
開心術を使っている訳でも無いのに、全てを知られていると思わせる瞳に魅入られる。
だが、悩みなどと言う物は特には無い。
強いて言えば、自分の弱さを再確認したことで強くなりたいと考えていることだろうか。
「君は、若き日のヴォルデモートと似通った点があると思っている。違うかね?」
「校長!その質問に何の意味があるというのです!」
いきなりの言葉に、少し逡巡して私は頷く。
確かに、奴は私と同じだった。
親がいないこと、ホグワーツでスリザリンであること、蛇語を喋れ、そして半純血であることなどだ。
だが、私は奴と違って純血主義に走った覚えは無い。
だから、似通った点はあってもそうだとは思わない。
しかしながら、似ている点があると言うならそうなので頷く他はない。
「儂が言えることは、自分が何者かは能力で決まるのではなくどんな選択をするか、ということじゃ」
「分かりました、そういえばネビルは大丈夫ですか」
「うむ、彼は大丈夫じゃ」
「あの剣は、バジリスクを倒した剣は何なのですか?あんな物が、帽子の中にあったなんて知りませんでした」
私の当然の疑問にダンブルドアは一度目を大きく広げ、その答えを口にする。
「アレはグリフィンドールの剣、真のグリフィンドール生だけが剣を出せる。ネビルは、友を救わんが為に真の勇気を示したということじゃ」
やはり、あの帽子は私ではなくネビルが引き当てる為に用意された物なのだと私は確信を得る。
つまり、ダンブルドアはネビルに何かを期待しているのだ。
そうじゃなければ、今世紀偉大な魔法使いであるダンブルドアは二度もヴォルデモートの侵入を許しているということになる。
だから、わざと見逃しているのだ。
何のために、それはネビルのためだ。
ネビルは賢者の石の時も秘密の部屋の時も関わっていたのだ。
自発的に動くように、恐らくダンブルドアは影から操っていたのだ。
「校長、もう話すことはないでしょう。それに、ルシウスを待たせているのでは?」
「もう彼との話は終わっておるよ。それに、もう話すべき事は話したとも」
「そうですか、では病人を起こし続けるという非常識な行為はやめるとしましょう。行きますぞ、校長」
セブルスは私とダンブルドアの間に入るとそのような事を言い、何か言いたげなダンブルドアを連れて医務室から出て行く。
取り残された私はポツンと虚空を眺め、何をするまでもなく壁を見ていた。
そして、ダンブルドアの言葉を思い出すのだ。
私が努力することは無意味なのかと、闇の魔術に優れようとも能力だけでは何者にもなれないのかと。
だが、私に才能があるのは事実だし、私にはこれしかないのだ。
「ハリエット!」
「う゛ぇっ!?」
突然の衝撃に女の子が上げてはいけない声が漏れでた。
まるで、ネビルの蛙がどこかで潰れたかのような声だ。
その声の正体は、タックルをかました私のお腹に頭をグリグリしていやがった。
「もう、心配したんだから」
「あうあうあう!」
やめてください、死んでしまいます。
ガバッと顔をあげたハーマイオニーが私を前後に揺らす。
ちょっと前まで石になっていたとは思えないパワフルさだった。
「あぁ、うん、何て言うか元気そうで良かった?」
「どうして疑問形なのよ!」
それは今が良くない状況だから、とは言えない。
ハーマイオニーは一頻り私を動かして、そう言えばと聞いてもいない話をしてくれた。
ネビルがマルフォイ家から屋敷しもべ妖精のドビーを手に入れたとか、ハグリッドがアズカバンから戻ってくるとか、それを聞いて訴訟も辞さないと慰謝料をふんだくる計画をロンが立てているとか、マルフォイに告られたとかだ。
「うん?えっ、えっ、えっ?」
「どうし……はっ!」
「ちょ、ちょっと待って、今凄いこと言わなかった!?」
「言ってない!言ってないわ!」
「嘘おっしゃい、どういうこと!くーわーしーく!」
今度は私がハーマイオニーを前後に揺さぶって詰問する番であった。
詳しく聞けば、私にポリジュース薬を使ってなった日があったらしい。
そして、思い詰めた様子でドラコが突然告白してきたらしい。
その告白に対して、私の姿のハーマイオニーは逃げ出したそうだ。
「マ、マルフォイには悪いことしたわ!えぇ、ごめんなさいね!」
「開き直るなー!うがぁぁぁぁぁ」
「お、落ち着くのよハリエット!」
「うぅ……ハッ!?」
目を見開き、私は恐ろしいことに気付く。
それは、コレが私の答えだとビンタを噛ました場面だ。
「あれ、つまりはアレがこうなって、コレがああなると、ふむふむなるほど」
「だ、大丈夫?」
「もう無理、死にたい。もしくは私以外のスリザリン生をオブリビエイトしたい」
なんというか……死にたくなった。
クソ、殺せ!いっそ、殺せ!秘密の部屋に引き籠もりたいわ!
髪の毛を掻き毟りながら頭を抱えた。
頭痛が痛い、なんだこの状況、なにこれ公開処刑?
「ご、ごめんなさい。でも、告白してきたマルフォイが悪いと思うの!」
「いや、ハーマイオニーが悪いでしょ!慰謝料を要求する、もう、もうもうもう!」
「うぅ、あっそうだ!来年、良い物が手に入るから一緒に使いましょう」
「良い物?」
「逆転時計が手に入りそうなの、まぁレンタルだけど」
私のちっぽけな悩みも、友達との会話でどこか遠くの彼方に吹き飛んだ。
私が何を選択しようとも、友達だけは大切にしようと思うのだった。
「取りあえず、今までのは置いといて、それでマルフォイとどうなの」
「やーめーてー」
「良いじゃない、恋バナってしてみたかったの」
前言撤回、こんなに恥ずかしいなら友達などいらないかもしれない。
セブルス「貴様、見ているな!」
ダンブルドア「すまんが、ノンケは帰ってくれ」
ダンブルドア「ドヤァ、合ってるじゃろ」
ハリエット「何言ってんだお前?」
セブルス「吾輩より喋るなんて、ちょっと来いよ」
ハーマイオニー「し、しまった!?」
マルフォイ「フォフォーイ!?おっと、誰か僕の噂をしてるようだフォイ!」
※後書きはフィクション、本編とは関係ないのだよ。
変更点
ネビル、剣を抜いた。
ダンブルドア、もしかしてネビルなんじゃねと思いだす。
ハーマイオニー、逆転時計のことを漏らす。
ドビーはどこですか、ポッター?いいえロングボトムの家にいます。
マルフォイ(大)アバダ、ネビルロングボトムには手は出させん、ぬわっー!
マルフォイ、クラスメイトにフラれた瞬間見られたフォイ。