魚住真珠は警視庁の警察官で、自分は不審人物として声をかけられた。そしてインターネットのできる店舗はすぐ真横にある。
そう教えられた彼は横に顔を向けた。だがやはり不明な羅列を解読することができず、どの入り口が店舗なのかわからない。
となると自分は外の世界をまともに歩くこともできないのか。そう考えた彼は新しい方法を模索し始めた。
屋敷に戻ってパソコンに繋げる方法もあるが、あの男の邪魔はしたくない。
だとしたら石黒研究員の元を訪ねて質問してみようか。そう考えたが、そもそも彼は研究員が所属する研究所の所在を知らなかった。
そんなことを考えていると再び魚住に話しかけられる。
「…とりあえず署で保護してやるから、一緒に来い」
「行くわけねぇだろ」
億劫そうな様子を微塵も見せることなく魚住は保護すると言い放つ。しかし彼はそんな魚住にはっきりと返した。
「俺はこれから廃棄処分しなきゃなんねぇんだよ」
彼の言葉に魚住は怪訝な顔を見せた。
「何を廃棄するんだ?」
「決まってんだろ。俺を廃棄するんだよ」
「理由はなんだ」
「役立たずのゴミは廃棄するのが常識だろ?」
平然と彼が答えれば、魚住の口から何度目かわからないため息が漏れた。そのまま黙り込んだ魚住はややあって携帯電話を取り出して通話を始める。
彼は電話先の音まですべて拾いながら魚住を凝視していた。しかし不意に視界の隅にちらつく白いものに気付いて視点を移す。風に舞うように空からこぼれ始めたそれは手に当たると放射熱ですぐに溶けた。
「おまえの名前と型式は?」
「RーM003、光秀だ。明紫波教授がつけた」
魚住の質問に答えながら、彼は降り続ける白いものをつかむことに専念していた。白いものの成分を検出するにも手に乗せて視覚にとらえなければならない。
「本庁で検索をかけたが、そんな型式のヒューマノイドは存在しない。その明紫波教授という人はどこの教授なんだ? 連絡先は?」
「半年前に事故死した」
質問に答えることはとても簡単な作業であるため何も問題はない。だが魚住はその答えに苦い顔を見せて通話を切った。
そんな魚住に目を向けた彼は首を傾ける。
「いいのか? アリスガワってヤツ、いろいろ調べてたんだろ?」
何も言わずに電話を切っても良いのかと問いかけると魚住は構わないと告げた。
「それよりも、持ち主がいないから廃棄するということか」
「まあ、そうだな」
「それなら次が見つかるまで俺が持ち主になってやる。それでいいな」
魚住が持ち主になると告げた瞬間、彼の鋼色の瞳がちらついた。彼は瞳の色を紫に変えながら身体を向き直す。そしてわずかにつま先立ち魚住に顔を近付けさせた。
鼻先が触れる寸前まで顔を近付けられた魚住は目を見張ったまま硬直する。その状態でしばらく動かずにいるとややあって彼が離れた。
「網膜パターンを認証した」
再び瞳を鋼色に戻した彼はそこで初めて表情を緩める。
「よろしくな、魚住?」
なぜか悪戯めいた笑みを浮かべる彼に魚住は大きなため息を吐き出した。