非番だったという魚住に連れられてたどり着いたのは小綺麗な部屋だった。大型モニターも電子機器も廃棄処分用の部品もない。光の差し込む明るいリビングに進みながら光秀は魚住に顔を向けた。
「魚住は他にヒューマノイドを持ってないのか?」
「持ってるわけがないだろう。いくらかかると思ってるんだ」
「そうなのか?」
ヒューマノイドの価格を知らない光秀は素直に首をかしげた。そんな彼に魚住は頭をかきながらキッチンに入る。
「飲食はできるよな? 何か飲むか?」
「アルコール」
「ああ?」
「あと果物は食うなって言われてる。機能に支障を来す」
ふざけているのかと怒りを向けかけた魚住の視界の中で光秀は真面目な顔で考え込んでいた。カウンター越しに眺める間も光秀は腕を組み思案している様子を崩さない。
「アレルギーみたいなもんか」
「フルクトースは高濃度エネルギーとして人間の疲労回復に有効なんだけどな。俺はシステムに支障を来すらしいんだわ。石黒研究員も言ってたからガチだな」
不意に新たな名前が出たことで魚住は眉を浮かせた。ヤカンを火にかけながらちらりと彼を見る。
「石黒ってのは開発者のひとりか?」
「教授が所属してた研究所の研究員。教授はヒューマノイド開発技術の中心人物だったんだよ。俺は研究所生まれじゃねぇけど、その研究所はヒューマノイドの開発をしてる」
「それならそこに連絡を取ってその男と話すことができれば、おまえのことがわかりそうだな」
「何を知るんだよ」
そこでなぜか笑ったような軽い口調で光秀が言う。
「俺は開発途中の出来損ないだぞ? 知ったって警察の役に立てられねぇよ」
「何かの役に立たせるためにおまえを拾ったわけじゃねぇ」
愛想もなく言い放った魚住はお湯が沸いたため視線を移した。カップふたつにコーヒーを入れるとダイニングに移動する。
「それで、その研究員の連絡先は?」
「…知らねぇけど、月城国際ヒューマノイド研究所にいるって聞いた」
「わかった」
施設名だけでもわかれば検索できる。そう考えていた魚住はカップを手にリビングへ移動した。テーブルにカップを置くとノートパソコンを運び込んで検索を始める。
そんな魚住を凝視していた光秀は、魚住がカップのコーヒーを飲むのを目にした。そこでそれが飲み物であることを認識するとダイニングに置かれたカップを手にする。
真似をするようにリビングに移動すると魚住のそばに座ってカップの中を見た。その上で再び魚住に目を向けると彼は平然とそれを飲んでいる。
その真似をするように、光秀もコーヒーを飲み始めた。
「あったぞ。かなり大規模なヒューマノイド研究所だな」
ノートパソコンで検索していた魚住がそう言いながら画面を向けてくる。そのため光秀は画面に写し出された施設の写真を視界にとらえた。しかし見たことのない建物を見ても何の情報も引き出せられない。
反応のない光秀を前にした魚住は首をかしげて知らないのかと問いかけた。すると光秀は知らないと返す。
「名前しか知らない。けど…」
「けど?」
「おかわり」
そう言いながら光秀はからになったカップを魚住に差し出した。いまいち真面目にならないヒューマノイドに魚住は仕方ないと嘆息を漏らす。
あげく微笑をこぼすとカップを受け取り腰を浮かせた。
「ヒューマノイドも意外とのんきなんだな」
笑いながらキッチンへ移る魚住を見送った光秀は無言のままその目を画面に戻す。そして施設の写真と説明を眺めたが、やはり説明文を解読することができない。
「もっと話を聞いときゃ良かったな…」
役に立てないことが心苦しく光秀は自然と表情を曇らせていった。