翌日仕事に出た魚住はうまく仕事に集中できないでいた。今朝も光秀は眠ったまま目覚める気配がなかった。もしこのまま目覚めなければあのヒューマノイドはどうなるのだろうか。
たった一日でも一緒にいれば少なからず情がわくものだ。その相手が廃棄処分となるのは心苦しく思う。
「魚住さん、連続強盗事件の事なんですが…」
部下がデスクにやってきても、魚住はそれに気付かないまま考え込んでいた。
ヒューマノイドの廃棄には手間も資金もかかるという。それを惜しむ者はヒューマノイドを不法投棄して済ませてしまう。
それとは別の理由ではあるが、野良となった光秀は自分を廃棄しようとした。だとしたらこのまま廃棄したほうが彼のためになるのだろうか。
「魚住さん」
間近で名前を呼ばれた魚住は思考の世界から現実に引き戻される。前を見れば有栖川が珍しく笑顔を消して真面目な表情を見せていた。
「話を続けても良いですか?」
「ああ、すまない」
「件の連続強盗事件についてですが、これから専門家の方と会うことになりました。月城国際ヒューマノイド研究所の研究室に在籍する方なんですが姫夜君と……」
「俺も同行して構わないか?」
報告してくれる部下に、わがままを承知で問いかける。すると有栖川は一瞬だけ驚いた顔を見せたもののすぐに笑顔を取り戻した。
「そうしてくださると助かります」
都内某所にある月城国際ヒューマノイド研究所は広い敷地を有した施設だった。門にいる守衛に身分を明かして事情を説明すると施設内から男性がやってくる。
「研究員の徳川です。こちらへどうぞ」
現れたのは若い男性で徳川と名乗った。聞けば数ヶ月前までフランスの研究機関にいたらしい。そのためこの施設では新人だという。
施設内の談話室へ通された魚住は壁にかけられた数々の写真を眺めた。そこにはヒューマノイドが仕事をしているらしい姿が写されている。
「飾られている写真はすべてここで作られているヒューマノイドだ。最新型のMシリーズは警視庁にいる」
魚住が写真を眺めていると親切にも徳川が教えてくれた。すると同行している姫夜が警視庁にいるんですかと有栖川に問いかける。
「警視庁にいるヒューマノイドというと、警備部かな。SPにいるんだよ。犯人側がヒューマノイドを使ってくる事を考えて開発してもらったらしいね」
説明する有栖川にうなずいた徳川が壁にかけられた写真を指差した。
「警視庁にいるのはタイプRのM001だ。最新型のM002は同じくSPとして米国に贈られた」
徳川はそう言いながら棚に置かれた資料を手にした。それを開かせると有栖川や姫夜に見せる。同じくその資料を目にした魚住は思わず目を見張った。
資料に書かれていたのは最新型ヒューマノイドR-Mシリーズのサイズや能力。そして開発主任である明紫波教授の名前だった。
「徳川さんはR-M003をご存じですか」
何のためらいもなく問いかけた魚住の目の前で徳川が眉を浮かせる。そしてやや怪訝な顔で魚住を見た。
「開発中のヒューマノイドに、その型式はまだいないはずですが」
「明紫波教授が個人的に開発していたのだと思います。石黒という研究員が関わっていると聞きました」
事件捜査とは無関係であることを承知で質問を向け続ける。しかし有栖川はそんな魚住に何の口出しもしないでいてくれた。
魚住の話を聞いた徳川は黙り込んだまましばし考え込む。
ややあって答えが出たらしい徳川は魚住に向かって少し待って欲しいと告げた。