魚住は今までヒューマノイドを所有した事もなければ接したこともない。そのため出会った当初も光秀がそれであるとすぐには気付けなかった。
そんな魚住は今日の昼に石黒と知り合い、昨日の事をほぼすべて話している。ただ光秀がスポーツドリンクを飲んだ直後の事は話せないでいた。
「それを開発した人はラブドール機能と呼んでいます」
「あなたがふざける性格じゃないのはわかってるが、それは……」
「わかります。俺も頭が痛いので」
呆れすぎて言葉が出ない魚住に、石黒は同意したように顔をしかめる。そんな中でひとり何も知らない光秀は平然とした顔を見せていた。
「魚住、らぶどーるってなんだ?」
「説明しずらいことを聞くんじゃねぇよ」
なんの恥じらいもなく問いかけてくる光秀に魚住は語気荒く返す。すると光秀は愁眉をひそめてすねたようにその場にしゃがみこんだ。
そんなふたりを前にして真面目さを取り戻した石黒は自分のパソコンを取り出す。
「とりあえず彼の調整をしても良いですか?」
石黒はノートパソコンを開かせるとケーブルを手にした。その上で光秀にもっと近づくように言う。
「調整なんていらねぇって。昨日まで何もしてなかったし」
「何もしていないから調整するんですよ」
「それ入れるの好きじゃねぇし」
「好き嫌いはどうでもいいです。早く入れさせなさい」
聞いているだけでも、ふたりの会話はいかがわしいものに聞こえる。だからこそなのか目の前の光景は完全に石黒が迫っているように見えた。
腰の引けた光秀に石黒はアダプターを手に迫る。それでも引き下がろうとする光秀の服をつかみ引き上げ腹部を露にした。
その瞬間、魚住は石黒の腕をつかみ手を止めさせる。
「……何ですか?」
石黒に問われて我に返った魚住は驚きの顔で手を離した。その様子を眺めていた石黒はアダプターを魚住へ差し出す。
「あなたが差しますか? 彼の腰部分に差し込み口があります」
「だが…」
アダプターを渡された魚住は光秀の目を向けた。光秀は愁眉を歪ませ不機嫌な様子で首を横に振る。それを見た魚住は自然とその目を石黒へ戻す。
「これは必ずやらなければならないことなのか?」
「あなたは彼に甘過ぎるようですね」
再びアダプターを手にした石黒は有無も言わさず光秀を引き倒した。ズボンをわずかに引き下げると脇腹下の差し込み口にコネクタを差し込む。
アダプターを繋げることに成功した石黒はすぐさまパソコンの操作を始めた。長いアダプターで繋げられた光秀は救いを求めるように魚住の元へ這ってくる。
「動かれると困るのでスリープモードにしましょうか」
光秀が魚住のコートをつかんだところで、石黒が冷淡にも言い放った。魚住はその発言を理解できないまま光秀に手を差し伸べる。
だが光秀はその手をつかむ前に倒れ込み目を閉ざしてしまった。
「おい、大丈夫なのか?」
「スリープモードにする、と言ったでしょう」
突然機能を停止した光秀に驚く魚住へ石黒の落ち着いた声が向けられる。そのため魚住は納得いかないまま石黒を見やった。
石黒がパソコンを操作して光秀をスリープモードにした。それは魚住も説明を聞いたことで理解はできた。
ただだからと言って、納得するかどうかは別の話だ。
「こいつの意思を無視して強制的に眠らせることは、正しいことなのか?」
「それがあなたと我々の違いなんですよ。俺は彼をヒューマノイドとしか見ていません。しかしあなたは彼を人として見ている。だから疑念を持つんですよ。そして彼も、己の意思で動けなくなるからこれを繋げることを嫌がったんです」
石黒の説明によって、先程の光秀の困惑ぶりの理由がわかった。ただ確かにこんな形で眠らされるのでは、誰でも嫌がるだろうと思う。
「だが…眠らせなくても、動くことを止めれば良かったんじゃないのか?」
「そうですか?」
魚住の指摘に石黒は眼鏡を押し上げながら問い返す。そして不意にパソコン画面へ向けられていた目が魚住へ移された。
「彼が起きている場では、先程の機能について話すことはできないと思いますよ」
「……ああ、ラブドール機能、だったか」
まだその話題が残っていたかと思いながら、魚住はため息を吐き出した。何も知らない光秀の目の前で卑猥な会話は避けたいと石黒は考えているのだろう。そしてその点には魚住も同意した。