世界が真っ白になった。
世界から音が消えた。
五感がとらえるものは激しい地揺れと熱風と焦げ付いたような匂いと粉塵が肌にあたる感触のみ。
次第に世界に色が戻ってきて、音、喧騒が耳に入ってくる。
視界に映ったのは消えた町の姿だった。
胸に虚無感が募る。
あんなに逃げ出したかった町に抱く寂寥感だろうか。
心から大切なものがこぼれ落ちてしまったような、そんな気持ち。
「みつは!」
そう呼ぶお父さんの声を遠くに感じながら私は気を失った。
避難訓練と称し町の住民を糸守高校へ移動させてから幾分か。娘の予言した通り、割れた彗星の一欠片が町に墜ちた。
娘に妻の影を見て私は娘の思うようにした。
もしそうしていなければ今はもう私を含めて町民の多数が生きてはいないだろう。
その数百人もの人々を救った立役者の娘は糸が切れたように気を失ってしまった。
慌ててその華奢な身体が崩れ落ちる前に抱き抱えた。
勅使河原の親子が私の元へと来た。
それと同時に名取事務の妹が駆けてくる。
どうやら気を失った娘ではなく私に用があったようだったが、私は町長としての責務を果たすため、娘を二人に預け、勅使河原の社長とともに町民への対応へ向かった。
着の身着のまま避難してきた町民たちを励まし、高校の備品にあった毛布を配り、校庭で救助を待った。
町民への対応が落ち着いた後、勅使河原の倅と名取の次女の話を聞くと、変電所の爆発に防災無線の電波ジャックは二人と三葉が起こしたことだそうだ。
今日、学校で三葉が彗星が墜ちることを皆に言ったらしい。
そして三葉の助けをすべく計画を立てたそうだ。
名取の次女は先程まで電波ジャックの件で学校教師からの尋問等があったらしいが、それどころではないということで解放されたらしい。
そして二人は今回の行為についての説明と反省に来たと。
だが、今回の犯罪行為を表沙汰にすると、隕石によって町が滅ぶことを予言した三葉がマスコミなどによって取り上げられることは目に見えていた。
なので、私は今回の件を公開せず不問に付すことにした。矢面に立つのは娘でなく私であるべきだと思って。
それが今まで父親らしいことを放棄してきた私がすべき責務だと。
付近の市町から救助が到着し、俺や三葉たちも病院へ搬送された。
気絶した三葉が目を覚ました時には三葉は一部の記憶を失っていた。
彗星が墜ちると予言したこと、それから町の人々を救うために奔走したこと。
『あの人のことが思い出せんの』
あの人が誰を指すのか俺にはわからないが、あの時の三葉の表情は悲壮感を表していた。
あの時は避難させることが優先だったので後回しにしたが、この事と深い関係があるように思う。