オリキャラは扱い難かったので。
三葉に恋人ができたらしい。
電話で延々とのろけられた。
のろけ話は甘ったるかったけど、三葉にもようやく恋人ができてほっとした。
私とテッシーはもう結婚したのに三葉は男気ひとつなかったから。
「それでね、サヤちん。今度テッシーとサヤちんに紹介したいなって思ってるんよ」
私達に? まあ、三葉がこれほど好きになる人がどんな人か見ておきたい。
「テッシー、三葉が今度会いたい言うてるけど、いつなら空いてる?」
恋人の件は置いといて予定を聞く。騒がしくなってそれどころじゃなくなるだろうし。
「今週の土日なら両方空いてんで」
「そっか。三葉。今週の土日なら両方空いてるよ」
「ほんまに? なら土曜は仕事があるから日曜日ね」
それから集合場所を聞いて電話を切る。
「三葉なんやったんや?」
「ん? 内緒」
テッシーには当日のお楽しみにしておこう。
「なんやそれ。まあそれで、いつや?」
私は日にちと集合場所を伝える。
「そうか。なら電車がええやろ。駐車場大変やろうし」
テッシーが当日どんなマヌケ顔をみせてくれるのか楽しみや。
サヤちんに恋人ができたことを報告した。
サヤちんは自分のことのように喜んでいた。
私はサヤちんと友達でほんまによかった思う。
「今週の日曜日、サヤちんとテッシーに会いに行くよ」
「あいつらに? そうか。楽しみだけど、入れ替わりの話はしたのか?」
「ううん。瀧くんと一緒に説明しよう思ってまだよ」
瀧くんは複雑そうな顔をしている。
二人に信じてもらえなかったらと思っているんだろう。
「大丈夫だよ」
私は瀧くんを抱きしめる。
「三葉の恋人の立花瀧です」
瀧くんが簡潔に自己紹介する。
「あんたが三葉の彼氏か。三葉から話は聞いてるよ」
「え? おま、知って」
テッシーが口をパクパクさせてサヤちんに詰め寄る。
言ってなかったのだろうか。
「うん。知っとったよ。こないだの電話で」
「お前三葉が会いたい言うてるとしか言わんかったに」
どうやら、サヤちんはテッシーに内緒にしていたようだ。
「それで三葉。二人の馴れ初めは?」
「えっとね」
私は二人に入れ替わりのこと話した。
「糸守に彗星が墜ちる少し前から私が変やったって言ってたでしょ? あれな、瀧くんと入れ替わってたんよ」
「入れ替わりって影武者してたってことか? 全然似てへんで」
「えっと、心だけ入れ替わっとったんよ」
「狐憑きじゃなくて立花が憑いとったんか」
「ああ、あんたそんなこと言っとったな。んで、それってほんまのことなん?」
私は瀧くんを見る。
「ああ。机蹴り飛ばしたり、テッシーとカフェ作ったのも俺だよ。あとテッシー、自転車壊してごめん」
「あれお前やったんか。通りで男っぽかったわけや。ええよ自転車なんて町ごと木っ端微塵やし、でも、彗星墜ちる言うたのもお前か? なんでわかったん」
「俺、三年前の三葉と入れ替わってたんだよ。」
「そうか。三年後の未来から来たお前なら知っていたということか」
瀧くんは入れ替わりが始まった時からのことを話した。
高校二年生の時に私と入れ替わりが始まったこと。
お互いにルールを決めて互いの生活を守ることにしたこと。
そして、唐突に入れ替わりがなくなったこと。
私に会うために記憶にある景色を描いたこと。
描いた風景画をもとに糸守を探したこと。
道中糸守を知る人から糸守が彗星でなくなったことを聞いたこと。
そして、糸守の犠牲者名簿に私達の名前を見つけたこと。
「ちょっと待て。俺ら生きとるぞ」
そう聞くテッシーに瀧くんが時を遡ったことを話す。
糸守のカクリヨにある御神体に赴き、そこで時を遡る途中に私が彗星によって死んだ場面を見たこと。
そして、気がついたら彗星が墜ちる日の私になっていたこと。
「それで、俺は糸守を救うために町の人をひなん避難させることにしたんだ」
「それが変電所爆破と電波ジャックやな」
「ああ。でも、俺は三葉のお父さんを説得することができなかった。テッシーとサヤちん以外に信じてくれる人はいなかった。俺は三葉ならみんなを説得できるのかと思った。でも、三葉は今いない。けど、三葉はあそこにいるような気がした」
「あそこ?」
「カクリヨにある御神体。だから、テッシーの自転車を借りて向かったんだ。」
二人は聞き入っている。
「私は目が覚めたら瀧くんになっているとわかった。辺りは暗くて、光の見える外へ出ると、そこが御神体の山の上だとわかったの。何故瀧くんがここにいたのかと思ったけど、とりあえず山を降りるために御神体の盆地を囲む岩場を登ると、氷づけにされたように震えた。そこから見渡す景色には糸守町がなかったの。糸守湖に覆い被さるようにしてもっと大きな丸い湖が出来ていた。その時、思い出したの。私は彗星が墜ちてきて死んだこと。そして、すぐだったのか時間が経ってからなのかわからないけど、声が聞こえたの。私は瀧くんだと思った。私は瀧くんの名前を呼んだ。そしたら、今度は間違いないなく私の声で瀧くんが私を呼ぶ声が聞こえた。」
「でもお互い声は聞こえても姿は見えなかった。触ることもできなかった。そこにいるとわかるのに。その時太陽が沈むのが見えた。そう。カタワレ時。そしたら」
「もとの自分に戻って、目の前には
「最初は軽く言い合いになったけど、俺は話を切り出した。これからやるべきこと。三葉は話を真剣に聞いてくれた。三葉の表情から三葉は自分が死んだことを覚えているんだとわかった。そして、計画を話した後、俺は目を覚ましてもお互いの名前を忘れないように互いの手に名前を書こうと提案した。三葉は喜んで受け入れた。俺は三葉の右手に文字を書いたらその手にペンを握らせた。でも、三葉が俺の右手に文字を書こうとペンを動かしたその時に三葉の姿が消えてしまった。俺は辺りを見回した。でも、三葉の姿を見つけることはできなかった。三葉の名前を忘れないようにと何度も三葉の名前を呼んだ。でも、急に靄がかかったかのように名前が出てこなくなった。手に汲んだ水がこぼれ落ちるように記憶が抜け落ちていった。俺は何故そこにいるのかもわからなくなった」
「私は瀧くんが消えてしまった時、孤独感に苛まれた。でも、自分にはまだやるべきことがあると山を急いで駆け降りた。変電所でテッシーと合流して、そこからはテッシーも知っている通り。でも、町で避難を呼び掛けている時、急に瀧くんの名前を思い出せないことに気付いたの。テッシーにそれを言ったら知るかと怒られたね。それで、テッシーに言われてお父さんを説得しに町役場へ向かった私は途中でアスファルトの爪に躓いてひどい転び方をしたの。今その転び方をしたら起き上がれないくらいの。でも、記憶の中の誰かの言葉に目を開けたら右手に文字が書いてあったのが見えた。でも、そこには名前は書かれてなかった。そこには『すきだ』の三文字だけ。でも、その言葉に私はこの人に会わないといけないと自立ち上がって、役場に駆け込んだ。そしてお父さんに直に話をした。お父さんは私の顔を見て何かを悟ったような顔をした後、町の人を避難訓練と称して避難させることを役員たちに伝えた。その後はみんなの知っている通りだよ」
「やからあれから三葉は右手を見つめたり何かを探すようなしぐさをするようになったんやね」
二人は涙を流して泣いていた。テッシーは涙を隠すように、サヤちんはもう号泣といった感じで。
サヤちんは私の胸に抱きついて泣いたままだったけど、テッシーは落ち着いたようで、瀧くんに質問をした。
「何故瀧は名前を書かなかったんだ?」
「そうや瀧くん。なんで名前書いてくれんかったん」
名前が書いてあったら見つけるのも簡単だっただろうに。
「多分、心のどこかで名前を書いたら消えてしまうと思っていたんだと思う」
「消える?」
「俺が糸守を訪れた時、三葉という人物が確かにいたことを確認するために三葉が携帯に残した日記を開いたんだけど、文字がどんどん文字化けしていって次々と消えてしまったんだ」
「世界による修正ということだな」
「記憶が消えていったのもその修正によるものかな。でも、それ以上に強い三葉とのムスビが俺たちを再会させたんだよ」
「お祖母ちゃんがいつも言っていたムスビだね」
「いやあ、運命ってあるんやなあ。なあ瀧。俺のことは前のようにテッシー呼んでくれや」
「私もサヤちんでええよ」
「良かったなあ瀧くん」
ほんとうに良かった。あ、そや。
「テッシー、サヤちん」
「なんや?」「なに? 三葉」
「二人の結婚式な、瀧くんも行ってもええ?」
「んなこともちろんや」「もちろんだよ三葉」
「その代わり」
「テッシー?」
「お前達の結婚式に俺らをちゃんと呼べよ」
「「な!?」」
私と瀧くんは二人して真っ赤になった。
「ごちそうさまやな」
「私もごちそうさまや。三葉。幸せにね」
「ありがとう、サヤちん」