セブルス・スネイプはやり直す 作:どろどろ
スリザリンにおいて、否、ホグワーツ全体において、セブルスは異質な存在だった。
特に、魔法薬学においては。
ホグワーツで教授を務めていた以上、下手な教師よりも知識のあるセブルス。しかし、ホグワーツ教員を見下すような態度を取ることはない。未だに同業者として認識しているところがあるからだ。
ホグワーツではあらゆる分野において優秀な部分を披露した生徒のいる寮には、わずかながら得点が与えられる。四つの寮は自分の寮に多く得点を入れ、年の終わりにある順位を競うのだ。
現在、セブルスが入学してきて一週間が経過していた。
グリフィンドール、一九点。
レイブンクロー、二一点。
ハッフルパフ、一三点。
スリザリン、二九点。
このように、現在の段階でスリザリンが大きくリードしている。これはやはり、勉学におけるセブルスの成績、という貢献が大きい。
セブルスは図書館で、魔法史で出された課題の研究をしていた。
「やあセブルス、今日も図書館かい?」
「……ルシウス」
ルシウス・マルフォイ。
教師からも信頼され、他の生徒の模範となるよう期待されている、正真正銘の優等生である。彼の本質がどうであれ、飛び抜けて優秀であることに変わりは無いのだ。
セブルスの隣の席に腰掛けるルシウス。
「君はよく図書館にいると聞く。勉強熱心なのは構わないが、もうすこし羽を伸ばしてもいいのだよ?」
「僕は勉強熱心ではないです。ただ、外に出たくないだけで」
「というと?」
「……“嫌な奴”がいるのですよ」
言わずもがな、ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックの事だ。
入学早々対立したセブルスに対し、彼らは徒党を組んで対抗している。いや、“対抗”という言葉には語弊があるかもしれない。セブルスは自ら率先して彼らを損なおうとしたことはない。
ルシウスは表情に疑問符を浮かべた。
「グリフィンドールの一年生です」
「ああ、なるほど彼らか」
ルシウスは納得がいったようにクツクツ笑った。
「ふふ、君は根っからのスリザリンだな」
「褒めている、と受け取りましょう」
言うとセブルスは本をパタンと閉じる。ルシウスとの会話はここで一度中断されようとしていた。
「では、僕はこれで」
「……ああ、そろそろ次の授業か」
もうすこし君との会話を楽しみたかったな、とルシウスは笑った。
セブルスはこのルシウスにいたく気に入られている。優秀、であることだけが要因では無い。セブルスが自分たちと同類だと判断したからだ。
ルシウスは権力に従順な男である。この学校においても、自分の地位を固定するために努力してきた。そして、権力に従順な彼は、スリザリン生において必須科目でもある――セブルスほどでは無いにしても――『闇の魔術』に詳しかった。
魔法界で権力を得るためには、屋敷しもべ妖精を多く所持する、純血を保つ、など様々な方法があるが、一番手っ取り早いのは
ルシウスは、新入生でありながらも、一週間と待たずに『セブルス・スネイプは七年生よりも闇の魔術に詳しい』などという噂が立てられるセブルスを、好意的に見ていた。
なんとしても、自分たちの仲間に引き入れなければ。
「セブルス、一つ尋ねたいんだが」
「……なんでしょうか」
セブルスは交友関係が狭い。ルシウスにとっては好都合だった。彼に歩みよるのが容易になるからである。
更に、セブルスもルシウスを好意的に見ていた。なぜなら、前世であってもセブルスとルシウスは学友だったから。そこには歪ながらも“信頼”が確立していた。
「君、闇の魔術に詳しいようだね」
「例の噂についてでしたら、大げさなものですよ」
「いや、そんな事はないと思うけどな。断言しよう、君は偉大になる素質がある。神に誓ってもいい」
こう評価され、セブルスだって嫌な気はしない。
しかし、本来ならば上下関係は逆のはず。
この一週間で、セブルスは変わっていた。学生の頃の自分と今の自分を重ね、中身も若かりし頃の自分に戻りつつあった。しかし、“闇には賛同しない”という確かな思いが揺らぐことは無かったが。
「……時間も押してる。続きは夕食の際に話そうか」
ちゃっかりと食事を一緒にする約束をしたルシウスである。
よくセブルスとルシウスたちは共にいるところが目撃されていた。
危険な上級生たちとつるむセブルスは、いわば危険因子の卵。入学してからこんなにも早く、彼は異端児として多くの生徒に認識されていた。
他の寮生からは偏見から嫌悪されることもある。
だがセブルスはその集団にも一線引いているところがあるのを、多くの人間は知らない。『闇の魔術に詳しい』などという噂は、闇の魔術に対する防衛術の授業で教授ですら目を点にする能力を見せたことによるもの。噂に尾ひれがついて、今や学校中に広がった。
そして、『スネイプは毎日図書館で闇の魔術の研究』をしているとの噂もあった。それっきり、多くの生徒は図書館を拒み、しかし真相をしる教員たちはまじめなセブルスの素行を純粋に評価していた。
しかし、図書館によく通っているのは、『リリー・エバンズと共有できる貴重な居場所の一つ』であるということもある。
「ああ。ではルシウス、また夕食の時に」
「そうだな、心待ちにしているよ。君といると時間の経過が早いからね」
◇◆◇
闇の魔術に対する防衛術では、生徒に対人戦闘訓練を行わない。そもそも教師によってこの授業だけは自由に行われる上、一年以上講師が続かないというジンクスまである。
今回はスリザリンとグリフィンドールが共同で行う、闇の魔術に対する防衛術の授業。
講師は、レイブンクローの寮監でもあるロッド・ビルロイスが担当する。
セブルスとジェームズはすでに互いを敵視しており、この授業でも邪険なムードを醸し出していた。物静かに睨みつけるセブルスと、シリウスを含んだ数人単位でセブルスを見ながら、時折ひそひそ何か話して笑っているジェームズたち。
リリーはそのことに気がついておらず、セブルスの姿に気がつき目が合うと、小さく手を振った。セブルスもそれに手を挙げて反応する。
ジェームズが、その光景を見て楽しくなさそうな顔をしていた。
ロッドの授業では、噛み付き妖精、ドクシーが用いられた。
三つの籠の中でそれぞれ、黒い体毛に覆われたドクシーが金切り声を上げて暴れている。手と足は各四本あり、不気味な姿は悪魔の僕か何かを連想させた。
「いいですか? 噛み付き妖精ドクシーは、一度に最高で五〇〇の卵を産みます。更にその卵は数週間で孵化し、大変繁殖力のある、侮れない生物です」
ドクシーの大きさは成人の拳の大きさほど。確かに侮れない。牙もそれなりに大きく、何人かの生徒はさすがに怯えた様子だ。
「ドクシーには毒性があります。死には至りませんが、噛まれた場合は解毒薬が必要です。生徒全員分用意してあるので安心してください」
それを聞いて、ジェームズとシリウスが顔を歪めた。
「ねえシリウス、あれって噛まれることが前提ってことだよね?」
「ロッドの授業は毎回鬼畜だな」
備えあれば憂いなし、と言うが、確かに生徒全員分の解毒薬は多すぎる。
ドクシーは凶暴だ。攻撃には爪と牙があるが、手足が八本あるため爪は驚異的である。しかし一番危ないのは牙であり、微量の毒を含む。
しかし、シリウスもジェームズも、心底この授業を嫌っているようには見えなかった。
むしろ闘志を燃やしているようにも見える。
「退屈する授業よりはマシさ」
ジェームズが不敵にそう言って見せた。
「さて、今回はこの凶暴なドクシーの動きを麻痺させてもらいます。人間相手にも強い効力を発揮する呪文です。一年生には早い気もしますが、私の授業ではそんな常識はかなぐり捨てます! しかし決して! 決して! 人に向けるものではないですからね!!」
対象を麻痺させる呪文。セブルスはもちろん知っているが、別に一年生に早い、という事はないと感じた。
基礎的な呪文はいくつか習っているし、そろそろ実用性のある呪文を一つくらい出してもいい頃だろう。
「対象を麻痺させる呪文。さあ! 誰か知っている人はいますか!!」
誰も手を挙げようとはしない。教科書にも載っている呪文のはずだが、一つ一つの魔法は理論を組み込んで扱うため、予習の余裕など無かったのだろう。
「ふむ、……ジェームズ! 分かりますか?」
「……いえ、さすがに初めて聞きましたし……」
「ではセブルス! 君はどうです?」
ジェームズとセブルスに個人的に聞いたところから、ロッドが二人を特別優秀な生徒として認識していることが窺える。
しかしセブルスはジェームズとは違い、危険な人間とも関わり、他の生徒に冷たく対応することもあり、噂のこともあってか「嫌な奴」と生徒の間では有名だ。
二人が対比されれば、生徒は全員がこぞって「ジェームズの方が優れている」と言うだろう。
リリーを除いては。
リリー・エバンズの考えは「成績だけ見れば二人の間に優劣などない」というものだ。
しかし人間性のみを見れば、対立しているセブルスとジェームズだと彼女はセブルスに味方する。そうなれば、ジェームズの嫌なところがどうしても目に入ってきてしまうものだ。
セブルスはロッドに問われた呪文に対し、包み隠さず知っていることを話した。
目立ちたくない、がために自分の全力を隠す、などという思想はくそ食らえだ。
「『麻痺呪文』、または『失神呪文』とも言います」
「その通り! さあ、皆さんよく見ていて!」
ロッドはセブルスを見事だ、と評価し、自分の杖を取り出した。
その直後、いきなりドクシーの檻を一つ解放した。
狂ったように外へ飛び出したドクシーは誰を狙うでも無く部屋中を飛び回る。
生徒の中で、数人は悲鳴を上げた。
「大丈夫怖がらないで! ステューピファイ 麻痺せよ!」
赤い閃光が放たれ、とたんにドクシーの動きが止まり、床に落ちる。すぐそばでドクシーの姿をみた女子生徒は飛び上がり、顔を真っ青にしていた。それだけドクシーの姿が不気味だったのだ。
「いいですか? ステューピファイです。しっかりと記憶し、忘れないように」
ロッドは、得意げにドクシーを素手で拾い、籠の中に戻す。そして今度は残る二つの籠の上に手を置き、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「これから二体のドクシーを部屋に解放します。興奮しているドクシーは人間に危害を加えにくいですが、よく動き回る。今の『麻痺呪文』でドクシーの動きを止めた生徒の寮には、大サービスで三点差し上げます! 二匹なので合計六点です!!」
馬鹿な、とセブルスは思う。
確かに競った方が生徒はやる気を出すだろうが、いくらなんでも授業を遊びとして認識しすぎている。
確かにロッドの『麻痺呪文』の精度は強力で、いざとなったら彼がどうにでもできるとは思う。しかし、生徒を危険に晒し、あろうことか授業をこんなゲーム制に。
他の教師でも賛否両論だろうが、セブルスは否定的な感情を持った。
(……生徒が同時に動き出すと難しいが、……まあいい。僕が終わらせてやろう)
完全にセブルスの一人称は“僕”になっていた。心の中でも自分をそう呼んでいる。
グリフィンドールの席では、やはりジェームズとシリウスを中心としたメンバーが一番やる気を出している。
「聞いたかよ! あの小っこいの仕留めた奴は寮のヒーローだぜ!」
「よし、俺たちで競争しようぜ!!」
「いいね。でも、もっと楽しくする方法があるよ?」
「なんだよジェームズ」
ジェームズはあくどい顔をしていた。整った顔立ちをしているため、それでも絵になる容貌だ。
「ドクシーを仕留めた奴が三点なら……――
「「「その勝負乗った!!」」」
「麻痺させるだけなら、大事には至らないからね」
ス二ベルスとはセブルスのあだ名である。グリフィンドールではそのあだ名が定着しており、侮蔑の意を込めてセブルスをそう呼んでいた。
「では……行きます、よっ!!」
ドクシーが一斉に放たれた。
部屋中にいる生徒が恐怖と動揺と野心を燃やす。
ドクシーから逃げ回る男子生徒、机の下に隠れる女子生徒、更に『麻痺呪文』でドクシーを仕留めようとする者や、部屋中を走り回る者もいる。
セブルスは冷静だった。
「どうしても、動転した生き物の動きは単調になりがちだ」
すでに一匹のほうのドクシーの動きを把握しており、いつでも魔法を命中させられる状況にあった。
しかしすぐにはしない。セブルスは周りの生徒を観察し、どのように対応するかも見ているのだ。
「きゃっ!?」
知っている声だった。
セブルスが血相を変えてそこを見ると、落ち着いたもう一方のドクシーがリリーの肩にのり、キイキイわめいている。まだ攻撃は加えられていないらしい。
「くっ、ステューピファイ 麻痺せよ!!」
セブルスの呪文はピンポイントでドクシーを捉え、秒単位で吹き飛ばしリリーを救った。
「リリー! 怪我は……」
「す、すごいわセブ! 一発でドクシーを倒した!」
どうやら本気で恐ろしくは感じていなかったようだ。リリーは気の強い少女である。驚いても、恐怖はしない。
「すばらしい! セブルスが一匹仕留めました!! スリザリンに三点加算!」
部屋の節々から、セブルスに感心するような視線が――もちろんスリザリン生とリリーから限定であるが――送られた。
グリフィンドールの生徒は妬ましそうにセブルスを見る。あからさまににらんでいる生徒もいた。
「もう一匹の方も仕留めてくるよ」
「私もセブに負けないわよ!」
セブルスは再びドクシーの飛び回る場所へと移動し始めた。
それをみたグリフィンドール生は血眼になってドクシーの動きを捉えようとする。グリフィンドールにとっては、スリザリンに六点の加点を許すのは屈辱以外の何でも無いのだ。
そして、セブルスが杖を挙げると――。
ドクシーとセブルスがちょうど重なる位置から、ジェームズが飛び出し、『麻痺呪文』を繰り出した。
密かにセブルスを狙って。
「ステューピファイ 麻痺せよ!」
ジェームズは考えていた。これならば、「スネイプがいきなり僕とドクシーの間に割って入ってきたんです」とでも言い訳ができる。
そうなれば、セブルスはただの『マヌケ』になるのだから。
しかし――鋭い眼光を飛ばし、セブルスは無言呪文で容易にねじ伏せた。
「な……」
目を見開くジェームズ。確かに背中から狙ったのに。
セブルスもやられて黙っている男では無い。もちろん子供相手にも容赦せず――セブルスだって外見は子供だ――杖をふるって応戦しようとするが、それを遮る男がもう一人。
「ステューピファイ 麻痺せよ!!」
シリウス・ブラックだ。シリウスはドクシーも何も関係の無い位置から麻痺呪文を向け、確かにセブルスを狙った。
だがやはり無言呪文でそれもたたき落とされる。
ジェームズの場合は、はっきり言えばセブルスも“危なかった”。もう少しで反応が遅れるところであった。
が、シリウスのものは視界の中からの攻撃。そんなものを喰らったりしない。
怒りがこみ上げてきたセブルスは、ドクシーを無言呪文を用いて秒速で戦闘不能にし、二人を強くにらみつけた。
その場が――凍った。
「……今、わざとセブを狙ったでしょ!」
リリーが叫ぶ。このままリリーの怒りが押し切るかと思われたが、ロッドの怒鳴り声はそれを容易にかき消した。
「シリウスッ!!」
さすがのシリウスも大人の本気の怒気に気圧され、肩をふるわせた。
「わざと狙ったのか!? なぜそんなことをする!!」
「い、いや、これはその……」
とてもではないが、遊びでセブルスを狙ったとはいえない空気だ。今のシリウスならば数秒前の自分を殺す勢いで制していただろう。
言葉を紡ぐことが困難な状況になり、ロッドの怒りは更に勢いを上げた。
「どうなんだ!? 答えろシリウス!! セブルスを、意図して狙ったのか!?」
「――違います!」
答えたのはシリウスではなく、ジェームズだった。
「……シリウスは悪くない。僕が言ったんです、スネイプを狙えって」
「――なんだと?」
「スリザリンに、これ以上点を取られたくなかったから……」
さすがに「スネイプに恥をかかせるため」とは言わなかった。
しかしスリザリンの加点を阻止したかったのは本当だし、あながち間違ってもいない。
「……ジェームズも、シリウスも、深く反省しなさい!」
叱られている最中、ジェームズは『スニベルス狩り』に参加していた友人全員に、視線で訴えた。
――絶対に名乗り出たらダメだ、と。
「……しかしセブルス、君のあの無言呪文、授業ではまだやっていない分野だ。それにすごく高度な技術だった。よって、スリザリンには合計一〇点差し上げます」
ロッドはセブルスの技術を評価し、さらに四点多く加点した。
これによってスリザリンは三九点。ほかの寮と一気に差を広げた。
しかしグリフィンドールはそうもいかない。
「グリフィンドールは五点減点します。二人分なので一〇点です」
「……え」
「そ、そんな」
誰もが息をのんだ。
冗談じゃない。現在グリフィンドールは一九点だ。一〇点も減点されたら、九点しか残らない。
これを聞いて、『スニベルス狩り』をしていた生徒は名乗り出る気を失った。全員が名乗り出れば、前代未聞のマイナス点になりかねない。
「更に、二人には罰則を与えます。放課後、私の教室まで来るように」
この度は、教員の目の前である、ということを考慮しなかったジェームズとシリウスが――というか主にシリウスが愚かだった。
その翌日からしばらくの間、ジェームズとシリウスは他学年のグリフィンドール生に嫌悪された。
しかし一年生の間では二人を擁護する意見が強く、他学年と反比例して一年生の間では団結力が高まり、セブルスを批判する声が高まったという。
もちろん、リリーを含む数人はその限りではない。
■セブルス
リリーからの好感度が、5あがった!
大事な友人『75点』
↓
ちょっとかっこいい『80点』
■ジェームズ&シリウス
リリーからの好感度が、36下がった!
顔を見るだけで不快『7点』
↓
知らない名前ですね『-29点』
■ロッド・ビルロイスについて。
・オリキャラです。レイブンクローの寮監で、闇の魔術に対する防衛術の教授。
……余談ですが、最後の文のセブルスを批判しなかった『リリーを含む数人』とは、リーマスやピーターのことです。
そしてちなみに、作者はスネイプの次にリーマスが好きです。ジェームズやシリウスも魅力的なキャラですけどね! もちろんピーターも!