提督「今日は瑞鶴の誕生日だからみんなで祝おう」 作:太平のタペ
提督「明後日は瑞鶴の誕生日だからみんなで祝おう」
11/25 ヒトハチサンマル 執務室
提督「……という訳で、プレゼントを贈ろうと思うんだがな?ただ贈るだけだとつまらないし、たまにはみんなでサプライズでもやってみようと思うんだ。とりあえず、何か質問は?」
一同「…………………………………………」
執務室の中には、現在提督と四人の艦娘が集められている。本日の議題はズバリ「瑞鶴の誕生日サプライズ」だ。
翔鶴「……あの、サプライズ自体はいい考えだと思うんですけど……何で呼ばれたのが私達だけなのですか?」
提督「いや、だって瑞鶴の周りって大体このメンバーがいるじゃん。翔鶴は姉だし他のメンバーも見かけたら大体ハッピーセットだし。ここにいるメンバー以外には後で私から声を掛けておくし、別に瑞鶴の誕生日祝うのに文句ある人もいないでしょ?」
翔鶴「……まあ、確かにそうですけど。流石に急すぎだと思います」
中の人が忙しかったんだよ察してやれ。
提督「まあ、伝えるのが素直遅くなったことは謝るが、それはそれだ。みんなはどうだ、やってくれるか?」
瑞鳳「私もいいと思うわよ。なんだかんだ言って私の誕生日だった時も瑞鶴からプレゼント貰ったし。お返しするにはいい機会だしね」
葛城「私も瑞鶴先輩にはいつもお世話になってますし、サプライズも先輩ならきっと喜んで貰えそうなので賛成です!」
加賀「……………………」
提督「よし、今のところは特に反対とか意見は無いようだし話を進めるぞ」
翔鶴「は、はい(……大丈夫かしら)」
提督「まずはサプライズについてだな。さっきサプライズをしようと話したが、具体的な内容は一切決まってないからみんなで考えることになる」
瑞鳳「あ、そこは白紙なんですね」
提督「そらそうよ。そこ決まってたらわざわざ会議があるから執務室に集合だなんて面倒なこと言わないさ」
提督「瑞鶴の誕生日……正確には進水日だが、それが十一月二十七日。今日が二五日だから今から二日後になる。だから各自で今日はサプライズ内容を考えて貰って、明日の会議で行う内容を決めようと思う」
葛城「なるほど」
翔鶴「今日考えて明日……ですか。そうなると、あまり時間のかかるようなサプライズは出来ないですね」
提督「まあサプライズとは言え普通に誕生日パーティーは行うからな。あくまでもサプライズはおまけだし、盛り上げる為の余興レベルで実行できるものを考えてくれ」
加賀「ところで、サプライズには少しお金をかけてもいいのかしら?」
提督「くっそ高くならないようなら別に構わんぞ。経費で落とそうと思ったが上が怖いから俺のポケットマネーで賄える範囲でな」
加賀「了解しました」
翔鶴「わかりました。瑞鶴の誕生日を祝う上で盛り上がる、なるべくお金のかからないサプライズですね」
提督「ああ、宜しく頼む」
提督「…………で、だ。まあサプライズの為だけに呼び出した訳じゃなくてな。みんなに少し相談したいことがある」
一同「?」
提督「いや、誕生日だから当然プレゼントを渡すだろ?俺も当然私も準備はするんだが……」
加賀「ああ、何をプレゼントしたらいいか分からない、と」
提督「あげるものは決まってるが、それだけだと味気ないしなぁ。どうせなら他の人の意見も聞いて何か買えないか考えているんだ」
翔鶴「そうですね……。ここは無難にアクセサリーとか如何でしょうか?」
提督「ふぅむ……アクセサリーとなると、やっぱりブレスレットとかブローチがいいのか?」
瑞鳳「瑞鶴は髪留めとか櫛とか、割と実用性が高いものとかよく好んで使ってますよ。前に駆逐艦の子から貰った万年筆を肌身離さず持ち歩いてるって本人から聞きましたし」
葛城「私は、他の鎮守府で新しい弓をプレゼントした提督がいたという噂を聞いたことがあるので、それを参考にしてみたらどうでしょうか」
加賀「身だしなみに気を遣うなら実用性が高い日用品やアクセサリを、戦いの安全に気を遣うなら弓や艤装を渡すのがいいと思います。あの子は結構いい加減でさっぱりしてるけど、身だしなみとか自分の艤装には気を使ってるから」
提督「なるほど。ありがとう!参考にさせてもらうよ。……しかし、みんな瑞鶴大好きだな。てっきり『提督があげるものなら何でも喜びますよ』とか言われるものだと思ってたが、こんな具体的なアドバイスを貰えるとは思っていなかった」
翔鶴「それもそうですよ。この鎮守府にいるみんなは、瑞鶴のことが大好きですから」
瑞鳳「この鎮守府が造られてから一番の古株で、全国に何千何万といる提督の中でも五本指に入ると言われている提督の秘書官だし」
葛城「この鎮守府のみんなに平等で優しく丁寧に接してくれて、時に厳しくもみんなを的確に強く導いてくれる憧れの先輩です!」
加賀「そして、鎮守府で練度が唯一最大まで上がっている、この鎮守府最大の戦力であり全国で唯一正規空母での練度最大を達成した艦娘。
艦として先輩の私が言うのもあれですが、あの子は後輩としても個人としても誇りに思っているわ」
翔鶴「……………………」
加賀「…………勿論あなたもよ。翔鶴」
翔鶴型航空母艦二番艦「瑞鶴」
彼女が生まれたのは、士官学校を卒業して間もない私が大本営から提督の任を受け、鎮守府へ着任する直前のことしだった。
当時は深海棲艦が現れてからまだ間もなく、日本に鎮守府が横須賀・呉市・佐世保・舞鶴の四箇所しかなかった時代だった。
深海棲艦に通常の武器は通じないこと、深海棲艦に対抗できるのは艦娘のみだということ、艦娘はこの世界では起きなかった戦争の記憶を保持していること、適性のある者にしか艦娘を生み出す上で必要不可欠な妖精が見えないということ、艦娘は燃料・鋼材・弾薬・ボーキサイトを妖精に渡す事で生まれてくるということ。
当時の海軍は、これだけの情報しか持ち合わせていなかった。資材の量で艦種を絞り込むという方法も確立されていなければ、改装も改造もない。戦力が足りないから艤装の開発なんて全く行われなかったし、傷付いた艦娘を癒す為のドッグも足りておらず、いつ深海棲艦が襲ってくるか分からない中での入渠なんて簡単に行えるものではなかった。
当然、羅針盤なんて物もなかったから海のルートが全く把握出来ない。海に出たまま沖に出たら最後、燃料が尽きるまで海を彷徨い帰ってくることすら困難だったのだ。戦力を失わずに戦う為には、陸が見える範囲で深海棲艦からの攻撃を防ぐのが唯一の方法だった。
海軍の士官学校時代に何度か訪れたことはあったが、艦娘以外の現代兵器が全く通じない深海棲艦とはまるで戦いにならず、艦娘と協力して追い返すのが関の山だし、ボロボロの鎮守府を見て戦う心が折れた士官候補生達も数多くいた。
ただでさえ勝ち目のない戦いに、自分から攻めることの出来ないもどかしさと資材を浪費していくだけの専守防衛に、人々は精神を削られていた。
それから約一年。私は士官学校を卒業した生徒の中で唯一、提督としての適性が高かったとして大本営に呼び出され、二十一歳という若さで新しく造られた舞鶴鎮守府への着任を命じられた。
私が士官学校を卒業する時には、戦艦や空母の艦娘は未だに確認されなかったものの、駆逐艦や軽巡洋艦の大多数が揃っており、敵を追い返すだけならそこまで被害が出ない程度には戦力が集まっていた。
そして、深海棲艦との戦いから実に一年半。妖精が見える提督と軍の技術者たちが妖精と共に開発を続けてきた対深海棲艦探索用特殊海上コンパス「羅針盤」が遂に完成したのだ。
開発当時の「羅針盤」には妖精がおらず、深海棲艦や海の資材を見つける機能も持たず、ルートの固定能力も持たず、機能もたった一つだけだった。
それは「海上の何時何処で如何なる場合でも常に鎮守府の方角を指し示し続ける」機能。
単純で尚且つ他に何も機能を持たない「羅針盤」であるが、そのたった一つの機能が深海棲艦との戦い方を大きく変えたのだ。
――即ち、今こそ人類反撃の時と――
その日大本営に集められたのは、全国から集められた私を含めて四人の士官候補生だった。四人はそれぞれ、横須賀・呉・佐世保・舞鶴の鎮守府へ配属され、艦娘達の艦隊を指揮する総司令官――提督――として国のために戦う大任を背負うことになる。
この時の私が抱いた感情は、深海棲艦への恐怖でも怒りでもなく、歓喜だった筈だ。
士官候補生時代の私は、指揮の腕が人より少しばかり高いだけの平凡な能力の持ち主だった。私より指揮の上手い者、純粋な身体能力で優れている者、人の扱いに長けている者、皆私よりも成績は良かった。
だがしかし。私は他の皆が持たない提督になる素質――即ち『運』を持っていた。本来その他大勢の一人でしかない私にとって、その事実は自身が国に特別な人間だと言われたも同然であり、私に高揚感と使命感を抱かせるには十分すぎる事実だった。
大本営での任命式が終了し、残る予定は『艦娘の建造』と『秘書官の任命』になった。
大本営曰く、艦娘の建造は妖精が見えている人間にしかできないらしい。今まで建造を行ってきたのも適性を持つ軍の人間であり、高い適性を持つ私達に行わせることで何らかの成果を期待しているのだろう。
造船ドッグには、大量の資材が山積みにされていた。どうやら、ここからある程度自由に組み合わせて自分の艦隊を揃えろということなのだろう。とはいえ、秘書官を含めて三人は大本営から各提督についてくるらしいので、建造は一回のみになる。
一人目は佐世保に着任することになった女性の提督だ。彼女は鋼材と燃料を多めに妖精へ渡し、一人の艦娘を生み出した。艦娘の名前は『筑摩』だ。当時、軽巡以上の艦娘は片手で数える程しか発見されていなかったため、重巡洋艦を生み出した彼女は建造ドッグの中にいた全ての人間から喝采を浴びた。
二人目は呉に着任になった、ガタイのいい男性の提督。彼は弾薬を中心に妖精へ渡した。そうして生まれた艦娘は『祥鳳』だ。これにも軍は大きく盛り上がった。
建造が行われ始めてから初めての軽空母。そう、空母戦力が確認されたのだ。これには俺も心打たれた。空母という新たな戦力が加われば、今までとは違う戦いができる。私は、何としても空母を当てるために資材を集めに入った。
三番目に建造するのは私だ。空母が確認された以上、必要なのはボーキサイトであろうと判断した私は、ボーキサイトを中心に資材を揃え、一人の艦娘を生み出した。
そして、私は運命の瞬間に立ち会う。
――緑のツインテールに黄色の瞳――
――赤いスカートと袴を身に纏い――
――左肩には祥鳳と同じ飛行甲板――
――その手には弓が握られていた――
「翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴です」
それが、私の提督としての始まりだった。