『近海制海権確保』と書かれた作戦指令書が届いた。今度は近くの砂浜から見た海の写真が添付されている。日本近海に敵が侵入を図っているらしい。反攻作戦の準備段階だろうか。
「先日の戦闘によって深海勢力は被害を被った、この為、敵は艦隊の増強を行ったようだ。六体編成の大規模水雷戦隊とその前衛部隊が確認された。」
コウスケが調査報告をする。現在、地上軍の防衛線は本土にまで近づきつつある。なんとしても食い止める必要がある。
「全く…、奴ら何処から湧いてくるんだ?切りが無いぞ。」
リュウジが愚痴を言う。地上勢力の敗北は時間の問題とまで言われた最悪の展開となっている。
「敵は資源地帯を抑えている、軍備拡大なんてすぐに出来るわよ。艦娘以外の兵器が通用しないなら尚更よ。」
第二次大戦中、日本はアメリカの石油禁輸措置を受けて有利ではなかった。この深海軍相手の、さしづめ『第二次太平洋戦争』でもそれと同じ状態と言える。深海棲艦には艦娘以外の兵器が通用しない。その理由も未だに分からないようだ。ただ分かっていることは、彼女達は戦争の記憶とその艦艇の力を持っていること位だ。
「こっちも軽巡二体駆逐四体の編成ど迎え撃つ、準備して。」
「ちょっと待った、前の編成を使い回すのは危険だ、編成する艦娘を変えたらどうだ。」
兵器とはいえ彼女達は肉体と意思を持っている人間でもある。当然戦闘後は疲労する。疲労すればするほど本来の性能を発揮出来なくなるから休養も大事な戦略行動の一つだ。
「そうね、とりあえず旗艦は…。」
たまたま提督室にいた軽巡洋艦阿武隈と目が合う。
「阿武隈で!」
「ええっ?やだっ!私?」
「何か問題でもあるのか?」
「い…行けるけど。」
阿武隈は大戦中、多くの駆逐隊を指揮し、あの『リメンバーパールハーバー』のスローガンで有名な真珠湾攻撃にも参加した軽巡だ、艦娘になってからは少し頼りない感じだが能力は今でも健在だ。
「北上さんを入れなかったら出撃しますけど?」
1930年に軽巡洋艦北上と衝突したことがきっかけで阿武隈は彼女を怖がっている。実際は阿武隈が突っ込んでいるため、北上はこのことを根に持っているのだろう。
「解った、二番艦は同型艦の鬼怒にしてあげるわ。残りは久しぶりな暁型にしとくね。」
「本当?またあの子達と戦えるのね。」
「さっさと準備して、全く仲直りくらいすればいいのに。」
艦隊編成は、旗艦阿武隈、二番艦鬼怒、三番艦暁、四番艦響、五番艦雷、六番艦電。
この編成は史実における第六駆逐隊の編成だ、鬼怒は編成に入っていなかったが艦隊編成は六体までなので戦力を上げるためにも編入した。
「待ってました! ……って、そんな心待ちにしてたわけじゃないから。」
母港から司令船が出航する。出撃開始だ、警備任務と同じルートで太平洋に出る。
「さて、今回の敵は大規模水雷戦隊とその前衛か…。」
前衛が含まれているため、艤装内の燃料、弾薬が少し減った状態で主力と戦うことになる。
「訓練の成果を見せてやりましょう!」
「出来れば、戦いたくないのです…。」
航行していると、レーダーに反応があった。恐らく敵の前衛に接近中だ。
「阿武隈、鬼怒、偵察機を。」
「了解!」
カタパルトから、零式水上偵察機が発艦する。上空からの偵察は効果が高いが、同時に撃墜されるリスクがある。パイロットの妖精はそれを恐れずに空へ向かう。
「あなたたちも電探で索敵を。」
「とっ、当然よ。」
駆逐艦には偵察機は載せられないので代わりに電波探針儀、いわゆるレーダーを搭載して索敵力をカバーする、前回のような索敵失敗は防げるはずだ。
「偵察機より通信、敵艦隊発見、軽巡一、駆逐二体確認!」
「艦隊、単縦陣に展開、砲雷撃戦、始め!」
「阿武隈、ご期待に応えます!」
艦隊が前衛を排除すべく敵に接近する。その向かう先の水平線の向こうには何が待ち受けているのだろうか。