願いを込めて   作:マスターBT

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がっつり戦闘回にする予定が、ほぼ会話オンリーの回に。
バレンタインの話でも書こうかなぁって、やってたらグダったので普通に投稿です。



黒いジャンヌ

「先輩!」

 

「坊主!」

 

マシュとクー・フーリンが同時に己がマスターに声をかける。

先程までの緩い空気を締め直すには十分すぎる声。

ジャンヌは二人の声に反応し、ラ・シャリテから煙が昇っていることに気づく。

立香は二人の言葉に無意識で意識を切り替える。

オルガマリーは魔術回路をいつでも使える状態にする。

 

「急いで向かおう!」

 

立香の指示で全員が走る。

敏捷が高いクー・フーリンが抜きん出てラ・シャリテに着く。

 

「…これはどうやら敵は相当のクズのようだ」

 

クー・フーリンが見たのは生命が感じられないボロボロになった町。

戦争で殺すなら英雄であるクー・フーリンが憤慨する事はない。

だが、どう考えても戦とは関係の無い女子供、老人まで残らず殺されている。

しかも、その全てが惨たらしく殺されている。まるで、殺戮を楽しんでいるかのように。

 

「ランサー!」

 

遅れて、立香達が現れる。

 

「うっ……」

 

目の前に広がる光景に思わず口を押さえる立香。

彼が明確に人の死体を見るのはこれが初めてだ。人の死体と云うのは、想像以上に精神に負荷をかける。

ましてや、この場にある死体は惨たらしく殺された死体だ。

臓物が出ているなど当たり前なのだから。

 

「これは…生きている人間はいなそうね…」

 

オルガマリーは立香に比べて冷静だ。

彼女は夢で死体を見ている。初めて見る立香よりはある意味アドバンテージがあるのだ。

彼等が周囲を見渡していると、ガタッという音が聞こえる。

 

「今、音が……!」

 

ジャンヌが音に反応し声を上げる。

しかし、現実は非情だ。彼女が望んだ生存者ではなく

 

「アアアァ」

 

「リビングデッド。生きる屍かよ。良い趣味してるぜ、此処を滅ぼした連中は!」

 

クー・フーリンが現れたリビングデッドの首を槍で切り落とす。

だが、今度は町のあらゆるところからリビングデッドが現れる。

 

「彼等をこの場で倒すのが、葬いになりますね…」

 

「先輩…」

 

「ごめん。マシュ、戦闘用意!」

 

立香が立ち直り、マシュに指示を出す。

ジャンヌは既に近くにいるリビングデッド五、六体と戦闘を始めている。

クー・フーリンも周囲のリビングデッドを殺していく。

 

「はぁ!」

 

オルガマリーはガンドを用い、一体一体確実に消し飛ばしていく。

リビングデッドと言っても元を辿れば、この場で殺された一般人。

この場に集う英霊や訓練された魔術師にはなす術なく倒されていく。

時間で言えば、30分程。しかし、戦争というものに慣れているクー・フーリンやジャンヌと違い、慣れていない三人にはとても長いものに感じられた。

 

「ワイバーン?でも、此処は無視していく様だ。みんな周囲に何かある?」

 

立香が空を飛んでいくワイバーンの群れを見る。

彼の目がもしずば抜けて良ければ、ワイバーン達の鱗が傷ついており、敗走している様に見えただろう。

英霊達が周囲を警戒する。

 

「あん?坊主、ちょっとばかし離れるぞ。魔力供給には問題ない距離だ心配すんな」

 

クー・フーリンが立香達から離れて町の外れに向かう。

彼の行動に驚きはしたが、取り敢えず警戒を続ける。

オルガマリーは瓦礫にルーン文字を刻み、適当な所へ投げる。

此方に敵意があるものを自動的に攻撃する様に魔力を込めた。サーヴァントで無ければ倒せる。

サーヴァントでも足止めにはなるだろう。

 

「坊主ヤバいぞ!五騎の英霊が近づいてるぞ。どうするんだ?」

 

先ほど先行したクー・フーリンが戻ってきてそう言う。

表情からして嘘で言っているわけではない。

 

「私は此処に留まります。もう一人の私に問いただしたい事があります」

 

ジャンヌが決意を込めた瞳で立香に言う。

ジャンヌの言った事は、上策ではない。いや、其れどころか下策だ。

この場に残ったところで、向かってくる敵サーヴァントしかも五騎を相手取るのは余程の一騎当千の英霊でなければ無理だ。

 

「…分かった。ランサーもマシュも準備して」

 

だが、立香はその提案を引き受けた。

しかも、自身も場に残ると言った。

ジャンヌの決意を汲み取り、僅かでも生き残る確率を上げる判断をとった。

 

「ま、坊主ならそう言うよな」

 

笑いながら槍を構え、臨戦態勢に入るクー・フーリン。

ものすごく楽しそうだ。

 

「先輩、所長は私の後ろに」

 

緊張した表情で盾を構え、二人の前に立つマシュ。

恐怖を感じている表情だが、それでも自身の勇気で二人の前に立っている。

彼等が臨戦態勢に入った直後、五騎の英霊を視界に捉える。

 

「あれが…」

 

「ねぇ。お願い、誰か私の頭に水をかけてちょうだい。

まずいの。やばいの。本気で可笑しくなりそうなの」

 

五騎の英霊を率いているジャンヌを黒くした様な姿をしている女性サーヴァントが笑いを堪える様に言う。

 

「黒ジャンヌ…」

 

立香が率いていた英霊を黒ジャンヌの呼称する。

だが、その言い方はあっている。黒と白と分けれる程二人の性格は違う。

 

「貴女は誰ですか?」

 

ジャンヌが黒ジャンヌに問う。

彼女の瞳からは困惑がはっきりと現れている。

その様子を見て、黒ジャンヌが再び笑いを堪える。

 

「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の私」

 

その宣言を聞き、ジャンヌは顔をしかめる。

 

「貴女は聖女ではありません。私がそうである様に」

 

ジャンヌはそう言い切る。

彼女は旗を持ち、兵を鼓舞しフランスを解放した。

でも、それは彼女にとって聖女として持て囃されるものとは違う。

 

「確かに私は主の声を聞き、フランス解放の為に戦いました。

ですが、その行為は戦争です。私を信じて数多の兵士が血を流しました。

そんな私が聖女である訳がありません」

 

黒ジャンヌの目を見てはっきりと宣言するジャンヌ。

それが更に黒ジャンヌの神経を逆撫でする。

 

「論点がズレました。貴女は何故、この様な事をするのですか?」

 

ジャンヌが視線で荒れ果てた町並みを示す。

 

「…何故かって?これが私の救国方法だからです。

主の声が聞こえないのであれば、主もこの国を見放したと言う事」

 

両腕を広げながら、ジャンヌを見下した様に言う黒ジャンヌ。

 

「バカな事を!…」

 

「バカな事?愚かなのは私達でしょ?ジャンヌ・ダルク。

裏切られたと言うのに、魔女と言われ散々な目にあったというのに何故、人間を救う!」

 

初めて黒ジャンヌの感情が溢れた。

今までは、何処か聖女としての体裁を薄っすらと残していた。

だが、この瞬間は黒ジャンヌ一個人の感情が露わになった。

 

「…人類種は滅ぼす。そうしなければ、この憎悪は収まりません。

フランスを沈黙する死者の国に作り替える」

 

黒ジャンヌの宣言は憎悪を含んだもの。

彼女がジャンヌのあり得たかもしれない姿として、カルデア一行の脳裏には焼き付いた。

 

「……私は後世に伝わっている事しか知りません。

でも、その憎悪で人類を滅ぼした世界で貴女は、如何するの?」

 

オルガマリーが一歩、マシュの盾から前に出て黒ジャンヌを見て言う。

その足を見れば震えている。精一杯の虚勢だと分かる。

 

「なんですか?」

 

「仮にこの場で私達を殺せたとして、その先に貴女は何をするつもり?」

 

オルガマリーも人の残酷な部分を見て育った。

そんな彼女だから憎悪をぶつける黒ジャンヌに聞きたかったのだろう。

 

「先?それは…」

 

黒ジャンヌが思案顔になる。

彼女が如何考えてもこの先に何がしたいか出て来ない。フランスを滅ぼす、それしか出て来ない。

 

「その顔を見るに先については何も考えていない様ね。一つ言ってあげるわ。

自らの行いの先を考える事も出来ない愚者に何かを成す事なんて出来はしないわ!

貴女の計画は私達が砕きます」

 

オルガマリーが胸に手を当て、決意を込めて宣言する。

彼女が発した言葉には、カルデアの所長、人類史に残された希望の一人としての言葉の重さが存在した。

 

「このっ!やりなさい!バーサークランサー、バーサークアサシン!」

 

「…マスターの命令ならば従うしかあるまいな。

彼女は兎も角、聖女の血は私が頂く」

 

黒ジャンヌの言葉に、彼女の後ろにいた白髪で黒い服を身に纏った男性サーヴァントが一瞬、間を空けて答える。

 

「いけませんわ王様。私は彼女の肉と血そして腹わたを頂きたいのだもの」

 

男の発言に、仮面で顔を隠した、異様に露出の多い女性サーヴァントが食ってかかる。

彼女の言葉からは、自分達が負けるはずが無いという、絶対の自信が感じられる。

 

「まぁ、私も彼女にはさしたる興味はありませんわ」

 

仮面を着けた女性サーヴァントが手に持つ杖を振って、オルガマリーに向けて光弾を打ち出す。

カルデア一行の虚を突いた攻撃だった。マシュでギリギリといったところだろう。

その瞬間、オルガマリーと光弾の間に突如として馬が割り込み、光弾が弾かれる。

 

「ご無事ですか?マスター」

 

馬上には、干将・莫耶を構えた、全身ボロボロのセイヴァーがいた。

 




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