テストやら何やらで遅れてしまいました。
どんなに想っていても……どんなに願っていても……この世界には叶わないことが多い。
彼女を目の前で失い、力を望み、やり直しを望み、なにより彼女の生存を願った。
でも……すべてが叶う事はない。世界は個人の後悔など知った事ではないと言わんばかりに、進んでいく。
当たり前の日常に、ひっそりと消えていった人たちがいることなど、知ることもなく。
-世界に復讐しようとは思わないのかい?
思わない。
ーなぜ?それは君の当然の権利だろう。普通となに一つ変わらない生き方をしていた君の心が壊れ、守護者なんて体のいい掃除屋という未来を確定させたのはこの残酷な世界だろう?
答えは変わらない。確かにそういう未来も存在したかもしれない。
それでも、世界に復讐なんて望まない。叶えたい願いはもう決まっているのだから。
ーそうかい。なら、私はなにも言わないよ。せめて、君の終わりがハッピーエンドで終わる事を願っているよ。
ああ。……ありがとう、花の魔術師。
満開の花が咲き乱れるこの世のものとは思えない景色。
今日の夢は戦場や、死体とは縁遠い夢だ。ここ最近、よく見る夢を思い返しつつ私は傍観者として立つ。
夢に干渉は一切出来ないし、生きてる存在は靄がかかった様に見えない。
その筈だった。
「君はどう思う?彼の物語を見て何を感じた?」
花の魔術師と呼ばれた存在の声だろうか。
私に話しかけてくる。今まで、こんな事はなかったから混乱したけど、私の口は頭より素直で簡単に動いた。
「…とても、悲しいです。戦場にいる事がと言うわけではありません。
姿は靄がかかってよく見えないけど、それでも分かってしまう。彼の声には後悔と虚しさしか感じないから」
夢を通し、垣間見る誰かの記憶。その全てが死や絶望に包まれている。
まるで、そう言った場所に愛されているかのように彼はそこに立ってた。だから、この花畑は新鮮だった。
「そうか。では一つ、質問をしよう。次会うときに答えてくれれば良いさ。
『君は誰かを救うために、未来も何もかもを捨てる覚悟はあるかい?』」
「え?」
その質問を最後に意識がどんどん遠のく。感覚的に分かる。
夢から覚めるのだろうと感覚でわかる。
目を開けるといつもの見慣れたマイルームの景色が映る。
体を動かすと、パサリと背中に被されていた毛布が落ちる。枕代わりにしていた手の痺れを気にしつつ机を見ると、書類が完璧に整理されて置かれている。
「…セイヴァーがやってくれたのね…起こしてくれればいいのに…」
机の方にゆっくり歩みよると、机の上にメモ書きが置かれている。
内容は『あまりご無理をなさらぬように。書類はかたずけておきました。なにか俺に手伝えることがありましたらなんでも言ってください。追伸:お腹が空いていましたら、お握りを用意しましたのでどうぞ』と書かれている。
「全く、貴方は私の保護者かなにかなの…」
なんとも表現できない温かさを手紙と胸の奥に感じつつ、私はおにぎりを食べた。
「美味しい」
女性として悔しい思いが湧き上がってくるが、優しい味付けがまた心を暖かくしてくれる。
気がついたらおにぎりがなくなっているぐらい無心で食べていた。
次の特異点が見つかった。
その報告を受け、自室で横になっていた私は起き上がり、普段きている服装に着替える。カルデアで支給されている服は全て魔術的施しがされている。簡素な服に見えるかもしれないが、簡単な魔術程度ならこの服で身を守れる優れものだ。
私が作ったのではなく、お父様が生み出したものだけど…
「フォウ!」
「うわっ、あなたはマシュや立香とよく一緒にいる…確か、フォウ君だったかしら?」
カルデアに住み着いているよく分からない生物フォウ君。
普段は、私の近くに全く寄ってこないのに今日はすぐ近くにいる。その物珍しさからまじまじとフォウ君を見る。
「フォウ?」
「あなたって結構、可愛い顔してるのね」
足元から動かないフォウ君を撫でようと手を伸ばす。
すると、フォウ君は私の手を避け、走っていく。その方向を目で追う。
「フォウ君か。珍しいな、こっちにいるなんて…マスター、お迎えにあがりましたよ」
セイヴァーが立ってた。フォウ君は彼の身体をよじ登り、頭のてっぺんで身を丸める。
セイヴァーがあまり驚いていないとこを見る限り、慣れているのだろうか。
でも、なんだろう。この光景。すごく、微笑ましいけど違和感が凄い。
「えぇありがとうセイヴァー。質問なんだけど、それってよくあることなの?」
返事をしないのも変だと思い、返事を返し管制室の方へ歩き出す私。
私の質問に対して、微妙な表情を浮かべ口を開くセイヴァー。
「まぁ、結構あることですね。何やら懐かれてるようで、よく登ってきます」
「そうなの?初めて見たから、少し驚いたわ」
「フォウ君はあまり、こちらに来ませんからね。マシュ・キリエライトや藤丸 立香の所にいる事が大半です」
頭の上で丸まっているフォウ君を落とさないように歩いているのだろうか。
なんとなく、セイヴァーの動きが遅く感じる。
それがなんとも微笑ましくて、私はセイヴァーの歩調に合わせて歩く速度を遅くする。
「ねぇ、セイヴァー」
「なんでしょうか?マスター」
セイヴァーが私の方を見る。相変わらず、感情を灯さない目をしているけど彼は優しい。
だって、冷酷で残忍な人の頭の上で小さな動物が安心したように丸くならないだろう。
「なんでもないわ」
だから、その平和を忘れないでセイヴァー。
貴方は平和に身を置いていても良いのよ。でも、これは私には言えない。
だって、貴方を呼び出して戦わせているのは他でもないこの私なのだから。
「そうですか。さて、着きますね。マスター」
頭に乗っていたフォウ君を降ろすセイヴァー。
微笑ましい時間は此処で終わりだ。この扉を開けば戦いが待っている。
「えぇ。行きましょう、セイヴァー」
「はい」
私が通れるように道を空けるセイヴァー。
扉を開け、管制室へと入る。そこには、すでに全員揃っており私達が最後のようだ。
「フォウフォウー」
私が開けた扉から悠々と中に入るフォウ君。
そのまま、マシュの元へ向かっていく。結局、触れなかったな。
「待たせました。私達が最後のようですね」
「大丈夫だよ。所長、待ち時間に立香君に簡単な説明をしていた所だからね。
では、所長も来たところだ。今回の特異点について説明しよう」
ロマンが説明を開始する。
「さっき立香君には簡単に説明したけど、七十二柱の魔神を名乗るあの肉塊に関してだ。
確定情報ではないけど、あの古代の王が使役したものに関係あるのではないかと考えている……レオナルドがね。
そういう意味でセイヴァーに質問があるだけど」
そう言ってロマンがセイヴァーを見る。セイヴァーはそう来るだろうと分かっていたのか、ため息一つ吐き、口を開く。
「魔神柱に関して何か知っているかと聞きたいのか?ドクターロマニ」
「…君があの特異点で見せた戦いはまるで、魔神柱を理解している風な戦い方だった。
清姫以外のサーヴァント達に聞いたところ、君は全く驚いていなかったと教えてもらったよ。それはなんでだい?」
「知るか知らないかで言われたら、知っていると答えよう。俺は生前、確かに魔神柱と戦っている。
だが、詳細は説明できない。前にも言ったが、俺の記憶は磨耗しているからな」
セイヴァーが表情を全く変えずに言う。
私の気のせいでなければ、これ以上踏み込むなと暗に言っているように感じる。
「…そうだったね。なら、この話はここまでだよ。
三つ目の聖杯の話をしようか。唐突だけど、所長に立香君。船は得意かな?」
少し悲しげに表情を変えた後、いつものロマンに戻り質問してくる。
「誰に聞いてるのロマニ。船なら何度も乗ってるから平気よ」
「オレも大丈夫です。乗り物には強いですから」
立香も乗り物には強いようだ。次の特異点は船に関係しているのかしら。
「良かった。今回、君らがレイシフトするのは1573年ーー見渡す限りの大海原さ」
「海ですか…?」
マシュが困惑した感じに言葉を発する。
私も同じだ。まさか、海に行けと。何の用意も無しに。
「特異点を中心に地形が変化していてね。確認できるのは小さな島々のみ。
でも、安心して良いよ。ちゃんとレイシフトできるように条件を付けておくから。少なくとも、いきなり船の上って事はないと思うよ」
何でだろう。すごく、フラグにしか聞こえない。
きっと海には落ちない。でも、別の面倒ごとが起きそうな気がする。
だって、ロマニが自信満々な時は大抵、変なことが起きるから。
「まぁいいわ。どちらにしろ、私達に猶予はありません。
急いで向かいましょう」
頭に過ぎる嫌な考えを払拭しつつ、コフィンへと向かう。
ちらっと、見ると立香がフォウ君を抱き上げている。羨ましいわね。
「準備は良いようだね。三度目の聖杯探索を始めよう!」
『アンサモンプログラムスタート。
霊子変換を開始します。レイシフト開始まで3、2、1。
全行程クリア。グランドオーダー実証を開始します』
ゲーマーが強くて勝てぬい。
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