私にしては珍しく、戦闘の方が長い回です。
「と、これがカルデアと世界が置かれている状況です」
ドレイク船長への説明を終わらせるオルガマリー。事務的で且つ正確で端的な説明だ。
カルデアの所長として培った技術だろう。限られた時間を有効に使える説明方法ではあるが、この説明方法には欠点がある。
「悪いけど、世界とかどうこうってのはアタシが知ったことじゃないんだよねぇ」
「なっ!?」
自らの欲に忠実な人間には理解されないのだ。いや、理解した上でそういった人種は平然とだからどうした?という反応ができるのだ。
なぜなら、欲に忠実に生きると決めたその時から、俗世を切り捨てているのだから。
「仮にそういう結末が待ってるとしたら、アタシはその時が来るまでやりたいように生きるだけさ」
フランシス・ドレイクとオルガマリー・アニムスフィア。
この二人が見ている世界観は、違いすぎる。かたや、なににも縛られず自由に生きている存在。かたや、生まれたその時から家や地位などといったしがらみに縛られながら生きている存在。価値観の違いが、相互理解への道を阻んでいる。
現に、ドレイクにはなにを言っているんだこいつは?って顔が明らかだし、オルガマリーもイライラしている様子が見て取れる。
こういう場面の時に、緩衝材となるセイヴァーは無言でオルガマリーの後ろに立っている。
「こんな面白い世界を目の前になにもしないなんて海賊の名折れさ」
「…面白いですって?そんな楽観していられる状況ではないでしょう!
人類の歴史そのものが無くなる危機なのよ!?」
「やれやれ真面目だねぇ。あんたみたいなのは、嫌いじゃないが仲良く歩める相手じゃないね。
どうだい?ここは、力試しといこうじゃないか!」
ドレイクの言葉にオルガマリーは一瞬思考する。
そして、答えが出たようで口を開く。
「なるほど。その様な生き方をしているから、単純な力で負ければ納得すると」
「よく分かってるじゃないか」
オルガマリーの返答に驚いたのか目を丸くするドレイク。
「えぇ。私も学習しますから。それに、分かり易いのは嫌いじゃありません」
「思ったより話せるじゃないか。案外、仲良くやれそうだ。じゃあ、酔いどれのアタシの目を覚ますぐらいのを頼むよ!」
ドレイクが銃を構える。それに反応し、セイヴァーがオルガマリーの前に出て、魔力剣に魔力を流し構える。
刃が生成されるその様子を面白そうに見るドレイク。
「ほぉ、なんだか面白そうなものだね」
「あんたが欲する様な宝じゃないさ」
ドレイクの持つ銃から銃弾が発射される。銃というのは人間には捉えられない速度で命を奪う武器だ。
セイヴァーはそれを容易く魔力剣で切り落とす。切った弾丸がオルガマリーに飛ばない様にしっかりと加減している。
最初っから当たると思っていなかったのか、距離を詰め銃を構えるドレイク。
距離を詰め、剣を振っても間に合わない様にするつもりなのだろう。だが、セイヴァーもそれを読んでおり、ドレイクが銃を放つより前に肉弾戦を仕掛ける。
「おっと!」
驚きながらも、セイヴァーの蹴りをしっかり躱し、至近距離で銃弾を放つ。セイヴァーの顔目掛けて、放たれた銃弾をギリギリで避け、魔力剣をドレイクに向けて振り下ろす。だが、今度はドレイクが二丁の銃を交差させ、剣を止める。
飛び退く様に互いが動き、一時距離を取る。距離で言えばドレイクが有利だが、先ほどのやり取りで、銃弾が通用する相手ではないとドレイクは判断している。セイヴァーも近接戦に持ち込みたいが、銃弾を避けつつとなると不利な消耗戦になると分かっているので、安易に距離を詰めない。どちらにしろ、奇策を用いる必要があるだろう。
「「はっ!」」
同時に動く。ドレイクを銃を放ちつつ、セイヴァーへと向かい、セイヴァーは体勢を低くしつつ、ドレイクへと斬りかかる。
予想に反して、超至近距離の戦闘になる。
この時代、いやそもそも架空の武術であるはずのガン=カタの様な立ち回りをし、近距離でも剣を振るうセイヴァーと銃で渡り合うドレイク。至近距離では、剣が使えないため、素手に戦闘方法を移行し、突き出された銃を弾く様に立ち回るセイヴァー。
しかし、元々至近距離での戦闘をしていないドレイクに限界が訪れた。
「…そこだ!」
「チッ!」
セイヴァーが突き出された手を掴み、ドレイクの身体を地面に組み伏せる。
「俺の勝ちだ」
「あー、負けた負けた!気力のない目をしてる割にやるねぇあんた」
「一言余計だ」
拘束を解除して、ドレイクを自由にさせる。
勢いよく、立ち上がり、セイヴァーの背中を叩く。
「良いねぇ。じゃ、次はあんたらだ」
そう言い、立香達に銃を向ける。当然、立香は慌てる。認められたのではないかと。
「何言ってるんだい。アタシが認めたのは、あくまでそこの所長さんとそのグループだけさ。
あんたも指揮する立場なんだろう?周りにいるやつの目を見れば分かる」
その言葉に反応し、マシュが素早く立香の前に出る。また、立香の後ろでクー・フーリンとジャンヌ・オルタが臨戦態勢になり、少し離れたところで自分の狂信者にした人に貢がれていたステンノも機嫌悪そうにドレイクを見る。
それぞれの反応を見て、楽しそうな笑みを浮かべるドレイク。だが、彼女が最も警戒しているのは、この状況でも自らの主人であるオルガマリーに何が起きても対応できるようにしているセイヴァーである。
「(あの観察眼を持っているなら、アタシがすでに事を構える気がないと分かるはず……それでも、あの警戒か。
簡単には信用しないって事かねぇ……あぁ、こいつはちょいと厄介だ。彼が信頼してるのは己の主だけってかい。あの、和服の少女には一定の信頼を寄せているようだが…こりゃ迂闊なことしたらアタシの首が飛ぶね)」
信じて用いる事はしても、信じて頼ろうとはしない。
信用と信頼。この二つの違いをよく心得ていると判断するドレイク。
「さっきの戦いでアタシも疲れてる。だから、代表者を出してくれないかい?そいつとの勝負であんたにも手を貸すか決めようじゃないか」
二丁の銃を立香に向け、引き金に手を置くドレイク。立香はその銃口から目を逸らさず、自分を守るため、前に出てきた後輩の肩に手を置く。
「マシュ。任してもいい?」
「…任せてください。このマシュ・キリエライト、先輩のマスターの期待に応えます!」
やる気を出したマシュに戦いを任せ、普段のように指示する体勢に移る立香。
魔術回路を起動させ、礼装に魔力を流すその姿はマスターとして相応しい姿になった。
マシュは己の恐怖心を立香の信頼に応えるために抑え込む。
「いい目だ」
マシュの準備が完了すると同時に放たれる弾丸。
盾を構え、防ぐマシュの腕に衝撃と重みが伝わる。生身の人間が、撃っていい威力ではなかった。
僅かな疑問を覚えるが、マシュは攻勢に移る。盾を薙ぎ払うように使い、ドレイクを攻撃する。
しかし、体術も得意としているドレイクにはマシュの大振りな攻撃は簡単に避けれる。マシュの攻撃を避け、そのままマシュへ蹴りを食らわせるドレイク。
「くぅ……負けません!」
蹴られた痛みを堪え、ドレイクへと盾を正面に構え、体当たりをするマシュ。
蹴りで怯み、攻撃してこないと思っていたドレイクを吹き飛ばすことに成功する。
「いつつ、油断したねぇ。でも、まだ足りないね!」
楽しげに笑いながら、マシュの盾が直撃した部分を摩るドレイク。
マシュも盾を構え直す。マシュの持つ盾は大きく、正面に構えていればほぼ自分を隠すことができる。
アーチャークラスのサーヴァントなら、僅かな隙間を縫って攻撃が可能かもしれないが、ドレイクはライダークラスのサーヴァント。
そこまでの狙撃スキルはない。だから、彼女は手に持つ銃を乱射する。
マシュは避けずに、盾で全てを防ぐ。盾のサーヴァントであるマシュの癖として、攻撃を回避せずその盾で防ぎ、弾いたところを近接戦に持ち込むのが彼女の戦い方だ。負けない戦い方であると同時に、攻めが得意ではない彼女にとってはハマり型と呼べる。
だが、それ故の弱点が存在している。後手に回りやすく、また遠距離での連撃により足止めされ接近されると大きすぎる盾故に、接近に気付き辛くなってしまうのだ。
「マシュ!正面、上からくる。避けて!」
立香の指示で上を見る。そこには、銃を連射しマシュの動きを封じ、飛び上がったドレイクが今まさに、銃口をマシュに向けているところだった。恐怖心を押さえ込めても、押し殺せない彼女は明確な凶器に怯んでしまう。
「間に合え!……ガンド!!」
そうなってしまった場合に備え、立香は準備していた。打ち出された黒い呪いの弾丸は、ドレイクの右腕にあたり、痺れさせる。
また、空中で踏ん張りがきかないため、ガンドにより銃口をずらされ、攻撃は不発に終わる。
立香は備えていた。マシュがピンチになったら助けられるようにと。その成果により、ドレイクは大きな隙を見せている。
「マシュ、決めて!」
「はぁぁぁあ!」
着地後の硬直と、ガンドによる痺れ。身動きの取れない彼女にマシュの持つ盾がノーガードの腹部を強襲する。
満足げな笑みを浮かべ、マシュの頭を撫でるドレイク。
「いやぁ、中々やるじゃないか嬢ちゃん。ラム酒の酔いが完全に冷めた」
「……つ、強かった…」
安堵の溜息を吐くマシュ。そんな彼女に立香が駆け寄る。
「お疲れマシュ」
「援護ありがとうございます先輩」
「守られてるだけの司令官だと思ってたが、中々良いタイミングだったよ。
さて、アタシの完全敗北さね。あんたらはアタシに何を要求するんだい?」
立香とマシュが同時にオルガマリーを見る。
「私達がまず知りたいのは、ここが何処なのかということなのですが」
視線を集めたオルガマリーが立ち上がり、ドレイクへと質問する。
「あー、悪いね。それ、分かんないわアタシら」
全員、その言葉にガクッとなる。
「食料や酒に困らないから、忘れてたよ。まぁ、なんだ。
アタシはあんたらに負けた。今から、あんた達の仲間。乾杯といこうじゃないか!」
なし崩しに宴へと巻き込まれるカルデア一行。それぞれの反応は実に様々だった。
酒が飲めるとはしゃぎだしたり、馴れない大騒ぎに困惑したり、呆れつつも準備を手伝ったりなど。
宴をしつつ、改めて情報交換をしていく。ドレイクもしっかりこの異常を感知していることが分かり、再びオルガマリーと一悶着起こしたりしたがそこはご愛嬌。
「さぁさぁ、キャプテンと司令官同士一杯やろうか」
立香とオルガマリーに向け、酒を取り出すドレイク。
いや、正確には酒がたんまりと入っている聖杯を。
「「なっ!?」」
驚く二人だが、その口に聖杯から溢れる大量の酒を流し込まれる。
その結果、立香は立派に出来上がり、オルガマリーも酒気に酔った頭では正常な判断を下せない状態になる。
本来なら止める係であるセイヴァーも先ほどの戦いを見せられ、血が滾った海賊達と試合しており気づいていない。
『この反応、間違いなく聖杯だよ!立香君、マリー酔ってる場合じゃないよ!?』
通信機越しにロマニが叫ぶ。だが、二人には届かない。
「んー?なんか、アタシが一番嫌いな、弱気で、悲観主義で、根性なしで、そのクセ根っからの善人みたいなチキンの匂いがする声だね」
『グフっ』
この状況で比較的冷静なロマニがドレイクの言葉で撃沈。
みんなが落ち着くのは日が完全に落ち、夜になってからだった。
「なるほど。これと同じもんがもう一つあって、あんたらが帰るにはそっちを回収する必要があると」
「あぁ。そういう事になる」
今、ドレイクと話をしているのはセイヴァーだ。立香もオルガマリーも酒が大量に飲めるわけではなく、完全にダウンしている。
立香の方はもう少し休めば復活できるだろうが、オルガマリーの方が重症であり今もセイヴァーが膝枕する状態になっている。
「それで俺たちに協力してくれるか?」
「まぁ、負けたからねぇ。でも、もう少しやる気が出る内容をくれないかい?」
「金銀財宝。この世界には、大量にあるだろう。俺たちは、聖杯さえ、手に入れば他はどうでも良い。
それで手打ちにしてくれないか?」
「よし。それで手打ちにしようじゃないか。金銀財宝なんて海賊冥利に尽きるねぇ。今からでも、ワクワクが止まらないよ」
両者の表情は対極。笑みを浮かべるドレイクに対し、セイヴァーは終始無表情。
最も、セイヴァーが表情をはっきりと浮かべるのはオルガマリーと会話している時ぐらいなのだが。
「全く、少しは笑ったらどうだい?ずっと、そんな顔じゃこっちが白けるよ」
「そう言われてもな…」
「じゃあ、飲み比べといこう。アタシが呑みつぶれたらあんたの勝ち。逆にあんたがつぶれたらアタシの勝ち。どうだい?」
「それをするメリットは?」
「勝った方が、相手にどんな命令をできる。どうだい?」
挑戦的な笑みを見せるドレイク。それに対し、はぁ、と一つ溜息を吐いたセイヴァー。
「分かった。その勝負乗ろうか」
聖杯から溢れる酒。それを、互いにジョッキへと並々汲み、同じタイミングで一気に飲み干す。
「良い飲みっぷりだね。こりゃ、楽しくなりそうだ」
結局、この勝負は互いに20を超えたあたりで、意識を取り戻したオルガマリーにより中断され、引き分け扱いとなる。
どうするか話し合った結果、互いに命令できるという事になった。
日が昇ると同時に彼らは、再び大海原へと船を出す。フランシス・ドレイクという心強い味方を増やし、もう一つの聖杯を探す。
ドレイク船長の口調が思ってたより難しいという事実に気付きました。
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