前話の反動か会話オンリー回。船から降りてすらいないという。
穏やかに波打つ海をドレイク船長の海賊船で進むカルデア一行。
アーチャークラスがいないため、セイヴァーが船の一番高いところに移動し、見張りを行う。時折、接敵する連中は船に乗り込むことすら出来ずにセイヴァーの矢で倒されるか、船に乗り込んでもクー・フーリンやジャンヌ・オルタと言った戦闘向きなサーヴァント達に疲労したところを返り討ちにされている。マスター二名が二日酔いであるという事実を置いておけば、なんの問題もなく航海をしていた。
「あ、セイヴァーさん」
「……マシュ・キリエライト。何か用事か?」
「いえ、これといって特に用事はありません。その、先輩の様子を見に行ったついでにお暇なら雑談でもと」
後ろに行けばいくほど、ボソボソと小さくなっていく。
ダヴィンチが仕掛けたイタズラ以降、稀ではあるがセイヴァーとマシュが会話する事がある。
会話といっても、マシュがほとんど喋り端的にセイヴァーが返答するという他者から見ればかなり味気ないものだが。
「見張りのついでで良ければ構わない」
マシュをちらりとも見ずに、返答するセイヴァー。
とりあえず返事を返してくれた事に一安心しながら、セイヴァーの近くに寄るマシュ。
すると、とある事に気づく。セイヴァーは座りながら見張りをしているのだが、その膝の上で丸くなっているフォウ君がいたのだ。
「フォウさん、見かけないと思ったら此処に来ていたんですね」
「下に戻る時に連れて行ってくれ。弓を撃つ時に一々、下ろすのが手間なんだ」
セイヴァーの表情はほとんど、変わらないし雰囲気もオルガマリーが近くにいる時以外は、基本的に近寄り辛い。
カルデアの職員達も、世話になっているがどう接していいか測り損ねると言っていたのをマシュは覚えている。
でも、この人の本質は人を拒絶する様なものではないと、直感的にマシュは思っていた。
「フォウさんが望んでいたらそうしますね。セイヴァーさん、一つ質問しても良いですか?」
心地好さそうにしているフォウを見ながら、セイヴァーに質問するマシュ。
「…なんだ?」
「オルガマリー所長とドレイクさんの空気が悪くなった時にどうして止めなかったんですか?」
その質問を受け、セイヴァーは此処で初めてマシュを見た。
「何故だと思う?」
マシュのマスターである立香と同じ、蒼い目がマシュを射抜く。
だが、立香とは違い、透き通った色でこちらを安心してくれるものではなく、色彩がなく見ているこっちが不安と哀しさに包まれる色だ。
「ッツ!?」
その目になぜか、身体が震えてしまうマシュ。
身体が本能が警鐘を鳴らす。自分はこの目を直視してはいけない。彼にこれ以上踏み込んではいけない。
今の自分ではナニカが決定的に壊れてしまう。
「フォウ!フォ、フォウ!!」
セイヴァーに対し、恐怖に似た何かが思考を支配し、震えているマシュの耳にフォウの鳴き声が聞こえる。
マシュはその声に意識を取り戻し、フォウをみる。すると、セイヴァーの方をまるで非難する様な感じで、顔をペシペシ叩いているフォウがいた。
「フォ、フォウ!」
「痛い痛い……大人しく寝てるかと思ったら今度は顔を…まったく…」
フォウを優しく抱き抱え、自分の顔から離しゆっくりと降ろすその姿はとても、今まで恐怖を感じていた相手と同じとは思えないマシュ。
そう惚けているマシュの顔面にフォウを押し当てるセイヴァー。
「わっふ!?」
「フォウ君が藤丸立香の所に行きたがってるぞ。連れて行ってやれ」
「…フォウ」
まるで、貸し一つなとでも言いたげな視線と鳴き声をセイヴァーに向ける。
セイヴァーもそう感じたのか苦笑いをしつつ、頬を掻く。
「わ、分かりました。行きましょう、フォウさん」
フォウを抱えて、マシュがセイヴァーの視界から消える。
「……やっぱり、俺が彼女に近づきすぎるのは良くない様だ。
どうしてだろうね。なんの感情も湧かないよ。もし、君が今の俺を見たらどう思うかな。マシュ」
もう、君がどんな顔で笑っていたかすら俺には思い出せないけど。
そう呟いた彼の言葉は海風に運ばれ、誰の耳にも入らず消えていった。
頭が痛い。完全に二日酔いだ。私はそこまでお酒が強くないから、あんな大量に飲んだら当然こうなるだろう。
そんな事を考えながら、私の意識は浮上していく。
「……」
横を見ると同じく体調を崩しているのか、時折顔を歪めている立香の上にフォウ君が乗っており、そのフォウ君をどうにか退かそうとアタフタしているマシュがいた。
……いや、どんな状況よこれ。
「なんでそんなに先輩の上で、不機嫌そうに跳ねてるんですか、フォウさん!?」
「……フォーウ」
マシュがアタフタしていると、部屋の扉がノックされる。
「失礼しますね。島を見つけたので起こしてきてくれとますたぁに……どういう状況ですかこれ?」
清姫が部屋に入ってくると同時に、呆れた表情になる。
彼女の言葉に返答しないでいると清姫は寝ている立香へと近寄る。
気のせいでなければ、その目に僅かな怒りの色が浮かんでいる。
「呑気に寝ていますね……起きてくださいな。立香さん」
流れるようにフォウを抱きかかえ、立香を手に持つ扇子で叩く。
ゴンゴンと明らかに痛そうな音を立てる。
「ちょ、清姫さん。いくらなんでも強すぎるかと……先輩は体調を崩していますし…」
「……わたくしはますたぁの頼みごとをこなしているだけです。オルガマリーさんも起きているなら、寝たふりなどせずに準備してくださいな。ますたぁは貴女がいないと、調子狂うようですから」
バレてた。雰囲気が出辛いから寝たふりをしていたけど、やっぱり英霊。私の気配にはしっかり気づいていた。
「…んんっ。おはよう清姫、マシュ」
「はい。おはようございますオルガマリーさん」
朗らかな声で私に返事を返してくれるが、扇子は相変わらず立香を叩いている。
やめない清姫も清姫だが、あれで起きない立香も立香だろうと私は思う。
「き、清姫さん…その辺で…」
再びマシュがビクビクしながら、清姫に話しかける。
清姫の目は相変わらず、怒りの色を浮かべている。なにが、彼女をそこまで怒らせているのだろうか。
カルデアにいる時の清姫に今の様な兆候は、なかった。どちらかと言えば落ち着いており、カルデアのキッチンで料理を振る舞ったりなど本当にバーサーカーなのかと思うような英霊だ。
「……呑気なものです……どうしてこんな……」
「嫌な予感がして来てみれば…落ち着け清姫」
霊体化していたのか突如現れるセイヴァー。
その手は清姫の扇子を持つ右手に添えられている。
「ッツ…ますたぁ」
怒りの色が消え、申し訳なさそうに目線をウロウロさせる清姫。
「…なるほど。気にしなくていい清姫。俺に後悔はないから」
一瞬、本当に僅かにセイヴァーが笑い、私の元に来る前に清姫の頭にポンと左手を置く。
私のところに来ると、しゃがみ頭を下げる。
「清姫が失礼しましたマスター。体調に変化はありますか?」
顔を上げたセイヴァーの表情は私が見慣れたいつものもので。
さっき、清姫に向けたものとは違う。それが無性に悔しくて、哀しくて。でも、心配されているという事に嬉しいと思う感情もあって。
そんなごちゃごちゃになる感情に必死で蓋をして、セイヴァーへと返答する。
「大丈夫です。休んだら良くなりました」
「良かったですマスター。もうじき、島に着きますので礼装と一応、戦闘の準備をお願いします」
すっと立ち上がり、まだ寝ていた立香の鼻を摘み、呼吸できなく咽せたところを叩き起こすセイヴァー。
「うぐっごほっ!?」
「ほら、とっとと起きろ。自分のサーヴァントを困らせてどうする」
「…うわぁ、ごめん、マシュ!」
「い、いえ。大丈夫ですよ先輩」
飛び起き、頭を下げる立香に戸惑いつつも返事をするマシュ。
呆れた様な溜息を吐きつつ、セイヴァーは固まってる清姫に近づく。
「外に行こうか清姫」
「は、はい」
私に一度、礼をして部屋から出て行くセイヴァーと固い動きでついて行く清姫。
なんだかモヤモヤした感情を抱えながら、私はとりあえず立香を隣の部屋へと押し込んだ。
……一緒の部屋にいたら着替えられないもの。
「清姫」
「は、はい…」
名を呼ぶとビクッと反応し返答する清姫。俺に怒られるとでも思っているのだろうか。
「…ありがとう。俺を想ってくれて。俺の時はあんな余裕はなかった。
それこそ、身も心も削った。だから、気に食わなかったんだろう?ゆっくりと休んでいる藤丸立香が」
全く、俺の前に再び現れた彼女は狂化して暴走する様な節は見られなかったが、やはり根幹は彼女のままか。
それを見抜けなかった俺に落ち度はある。
「……その通りです。でも、それはわたくしが自分の感情を制御出来なかっただけです。
またそうやってますたぁが自分を卑下する様な事ではないですわ」
和服の裾を握りしめつつ、懇願する様な目を向けて来る清姫。守護者になって学んだポーカーフェイスも彼女には意味をなしていない様だ。俺が考えていたことを読み取られている。
「…分かった。そういう事にしておくよ。やっぱり、バーサーカーなんだな清姫」
「今更何を?」
「いや、色々変わった俺だが、まだ変わらないものもあるって分かると少し嬉しくてな。
さてと、清姫はドレイク船長と合流してくれ。俺はこのまま、マスターを待つ」
うっすらと思っていたことを口にする。伝えたい事は言葉にする。
あの日、何も言えず失った俺が決めたルールの一つ。と言っても、隠さなければいけない事も多いため、清姫かマスターぐらいにしか言えないが。
「分かりました。では、ますたぁ。バーサーカー清姫。行ってきます」
俺に一歩だけ近づき、背伸びをして俺の頭をひと撫でして歩き出す清姫。
清姫に撫でられた部分を何となく触り、首を傾げる。
「何がしたかったんだ?清姫…」
理由を考えるが、楽しげにどこか嬉しそうに歩いている清姫の後ろ姿を見て俺は考えることをやめた。
なぜなら、俺が考えたところで答えなど出ないと経験で分かっているから。
あー、フォウ君をもふもふしたいんじゃ〜……でも、絶対触らせてくれなさそう。
次回はおそらく、島に上陸して何やかんやになるかと思います。
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