敗北というのは、決して心地の良いものではない。
カルデア一行の空気はひどく、重い。元々、一般人であった藤丸立香は、ヘラクレスという災害を見て恐怖心を抱き、魔術師であるオルガマリーも、突如現れた船団の神秘の濃さに勝てるのか?という疑問を感じてしまう。
「流石に堪えてるようだな」
クー・フーリンがマスター達の様子を見て言う。
彼としては、慰めたりしたいのだが、一人で立ち直る時も戦士には必要だろと判断し、声をかけない。
「私としては、ああやってウジウジされてるの鬱陶しいんだけど……何も出来なかった私が言えた事じゃないわね」
ジャンヌ・オルタは、鬱陶しそうにしつつも自らの攻撃がヘラクレスにまっったく、通じていなかった事に悔しさと情け無さを感じている。ヘラクレスの宝具故に効かなかったのだが、彼女には何の慰めにもならない。
「マスターの旅がここで潰えるのなら、それはそれ。どうするのかしら?」
ステンノは皆んなから離れたところで、行く末を見守る。神らしく、ただ残酷に見守るだけである。
その瞳に僅かに立ち直って欲しいという願望が見えるが、誰も気にする余裕はない。
「えうりゅあれ」
「私達に何か言える権利はないわアステリオス。止まるも進むも彼ら次第。
私達は協力関係なだけで、正式な仲間じゃないのだから」
カルデア所属ではないサーヴァント達にはどうすることもできない。
自分たちのエゴをこれ以上、押し付けるわけにはいかない。
「「………」」
藤丸立香、オルガマリー・アニムスフィアの相棒と呼べるマシュとセイヴァーも動かない。
マシュは立香を心配しているが、経験が浅く自分の想いを上手く、言葉に出来ず立香に話しかけようとしては、声が震えて言葉を発せずにいる。
彼女にも色濃く、ヘラクレスの恐怖は刻まれている。盾から伝わる死の感覚、そして視界に広がる猛威。
死を感じるなと言う方が無理な光景だった。
対して、セイヴァーは彼らの様に死への恐怖心を感じているわけでも、他のサーヴァント達の様に自分の判断で声をかけようとしていないわけでもない。彼は、ひたすらに、己に焼き付いたヘクトールの動きを忠実に思い出し、自らが勝つための道を見出そうとしている。
しかし、彼にとって思い出すという行為は、自傷行為にも等しい。
その顔には苦悶の表情がはっきりと浮かび、時折、くぐもった声を出している。
それを理解し、声をかけ、解決策を見つけてくれる清姫はもう、此処にはいない。
「せ、先輩!」
重苦しい空気の中、マシュが覚悟を決めて、立香に声をかける。
「わ、私も震えるぐらいヘラクレスには恐怖しています!ですが、今は前を向きましょう。
俯いていたら、進めなくなってしまいます。それに……諦めてしまっては清姫さんに怒られてしまいます!」
両手は震え、息も荒い。
ヘラクレスへの恐怖が残っているのは明らかだ。それでも、マシュはその恐怖を感じたまま前に進もうとする。
「カルデアで清姫さんにたくさん、お土産話しをしましょう。セイヴァーさんも、そう思いますよね?」
清姫のマスターであるセイヴァーに声をかける。
それに反応し、目を開けセイヴァーはオルガマリーの元へ手を差し出す。
「そうだな。マシュ・キリエライト。カルデアで、あいつの残念がる顔を見るとしよう。
マスター、俺たちの旅は出来るか出来ないかではなく、やるしかないんです。だから、進んでください。
貴女はカルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアです。他の誰でもない貴女が、貴女しかやれない事を成し遂げるのです。
これほど、貴女に相応しい舞台はないと俺は思いますよ。マスター」
セイヴァーは自分が、ヘクトールに勝てる未来をはっきりと見たわけではない。
だが、漸く掴んだチャンスを捨てるほど彼は諦めが良いわけではない。オルガマリーに言った通り、彼の目的も出来る出来ないではなく、やるしかないのだ。
「……私にしか出来ない事を成し遂げる……他でもない私自身が。
えぇ…えぇ。やってやるわ。神代の英雄が何よ、神秘の濃さが何よ。私はカルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィア。
人理修復を完遂するまで、止まるわけにはいかないのよ!」
セイヴァーの手を取り、勢いよく立ち上がるオルガマリー。もう、その目に迷いや絶望はない。
あるのは、しっかりとした前に進む覚悟と希望のみ。
「先輩、私もはっきり言えば凄く怖いですし、諦めたい気持ちもあります。でも、先輩と一緒なら成し遂げる事が出来る気がするんです!」
マシュの言葉に立香は、顔を上げ、自分の両手で顔を勢いよく叩く。
バチン!っと乾いた音が響く。
「せ、先輩なにやってーー」
マシュは続きが言えなくなる。立香の顔が先ほどと打って変わり、引き締まっているからだ。
「ごめんマシュ。情けない先輩で。
マシュやみんなが諦めてないのに、オレが諦める訳にはいかないよな。よしっ、気合い入れていくぞ!」
英霊達がふっと微笑む。
「それを待ってたぜマスター!」
クー・フーリンが嬉しそうに背中を叩く。
「遅いのよ。もっと、早く立ち直りなさい………今度は私も上手く戦ってみせるわ」
ジャンヌ・オルタが立香にデコピンをする。
「そう。止まらないのね。なら、精々、頑張りなさい」
ステンノが立香の覚悟に祝福を送る。
「あぁ、頑張ってみせるよ。みんな!」
カルデア組が完全に立ち直る。
決して、解決策が見つかった訳じゃないし、楽観視しているわけでもない。
だが、彼らは進むという覚悟を決めた。停滞しなければ、道は拓ける。
そして、歩み続ける者に運命は味方する。
「やっぱり、船のダメージがデカイね。ちょうど島がある。
そこに立ち寄るが、良いかい?」
ドレイクの言葉に全員が同意する。
「あれぇ、ダーリン。なんか来たよ?」
「え?なになに、美女とかいるの?」
「ダーリン?」
ふと、立ち寄った島で彼らと出会う者とは。
色んな意味で、大変な方と合流することになりそうな次回。
そして、神代の英霊達に勝てるのだろうか。
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