ヘラクレスを討伐する少し前。
セイヴァーとオルガマリーは、メディアを追い詰めていた。成長したメディアならまだしも、此度のメディアは支援魔術に長けているが、それ以外は得意ではない。
神秘の差こそあれ、魔力を十分に込めればオルガマリーが勝てない相手では無かったのだ。
そこに、セイヴァーが加わってしまえば、メディアの戦闘能力以上の敵になる。
「……」
傷つき、中に浮くこともせず、甲板に座り込むメディア。
だが、彼女は笑っていた。
それは、何故か。この場に戦える者はいない。だが、メディアを助ける者ならいるのだ。たった一人。
どうしようもなく、小物で人間のクズと評価される男が一人。
船が大きく揺れる。まるで、嵐でも来たのかというレベルだ。当然、船の上にはそのまま放置されたロープや錨がある。
「きゃっ!」
オルガマリーが振動でバランスを崩す。そこへ、まるで狙っていたと言わんばかりに、ロープがしなり、飛んでくる。
「マスター!」
セイヴァーが魔力剣でそのロープを切断する。
すると、今度は彼の後ろから木のバケツや箱などが飛んでくる。それらを破壊しながら、セイヴァーは不思議に思う。
何故、急に船が揺れたのかと。
その疑問は即座に氷解する。
「ええい、何故この私がこんな荒い運転を!起きろ、メディア!そして、私を守るんだ」
イアソンだ。
彼は帆船の扱いに長けている。戦闘能力はないが、彼にかかれば船の上にあるものを都合よく利用できる。
最も、メディアを助けるというよりは自己保身に走ったものなのだが。
「はい。イアソン様」
立ち上がり、中に浮くメディア。セイヴァーが弓を構えようとするが、ロープが襲いかかり中断される。
しかし、忘れてはならない。イアソンの敵は、セイヴァーとオルガマリーだけではない。もう一騎。
ヘラクレスと戦い、途中で戦場を離脱した英雄がいた。
「よっと。隙だらけだぜ、大将」
「なっ!?お前、どこから!?」
困惑するイアソンを放置し、クー・フーリンの槍が心臓を貫く。
船はコントロールを失い、大きく揺れる。その衝撃で力を失ったイアソンが甲板へと叩きつけられる。
「ガッハッ……メディア……助けてくれ……メディア」
クー・フーリンもあと僅かで死ぬと、そう判断しトドメを刺す前にセイヴァーが達へと合流する。
死にかけの存在を殺すより、メディアが魔術でオルガマリーだけでも殺そうとしないかどうかがクー・フーリンにとっては大事だった。
「クー・フーリン!イアソンにトドメを刺すんだ!」
「放置してても死ぬぞ?」
セイヴァーが大声で指示を出すが、遅い。
首を傾げるクー・フーリンの耳に、グチャリという不快な音が届く。
「…メディ……ア?」
「聖杯よ。我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二の魔神なり」
メディアが死にかけのイアソンに聖杯をねじ込む。
そして、願いを口にする。結果、イアソンの身体はドロドロに溶け始め、別のナニカへと姿を変えようとする。
「ガ…ギギギキ…」
「ー戦う力を与えましょう。抗う力を与えましょう。
ともに、滅びるために戦いましょう。さぁ、序列三十。海魔フォルネウス。
その力を以って、アナタの旅を終わらせなさい!」
凄まじい魔力が放出される。
そして、甲板に張り付くように魔神柱、フォルネウスが顕現した。
『この反応…本当に魔神柱の様だ。クー・フーリンの責任は大きいよ?』
「俺のせいかよ!?」
ダヴィンチちゃんの言葉がフォルネウスに偽りがない事を教える。
『今、全力で立香君たちが向かっている。暫く、持ち堪えてくれ!』
「やるしかないようね……セイヴァー」
メディアとの戦闘で疲労しているのを見せずに、オルガマリーはセイヴァーの横に立つ。
そんなオルガマリーを一瞬、心配そうな顔で見るセイヴァーだが、その顔にしっかりとした覚悟があるのを見定めると、槍と丸い盾を構える。
「指示を。マスター」
「えぇ。目標は魔神柱フォルネウスを討伐!
後から来る立香に貴方の出番なんてないわっと言ってやりなさい。貴方達、そういうの好きでしょ?」
セイヴァーとクー・フーリンがニヤリと笑みを浮かべる。
「意外とよく見てるじゃねぇか。嬢ちゃん」
「マスターの指示であるのなら、応えましょう」
クー・フーリンは獰猛な笑みを浮かべながら、セイヴァーは無表情で魔神柱とメディアに突撃していく。
「ーーーー!!!」
フォルネウスの絶叫と共に、光線が放たれる。
クー・フーリンはその光線を避け、セイヴァーは正面から突撃する。
「まだまだぁ!」
そして、驚くことにその盾で光線を弾く。どうやら、スキル魔神柱殺しEXが発動している様だ。
最も、使用している武器が彼の行動に拍車をかけているのだが、気づくことはないだろう。
そのまま、光線を潜り抜け、クー・フーリンとセイヴァーがそれぞれ一撃、フォルネウスに与える。
「私を忘れてませんか?」
メディアの発言と共に、回復魔術が発動。
クー・フーリンとセイヴァーが与えた傷が塞がっていく。ダメージを与えた先から回復されては厄介なことこの上ない。
だが、現状の戦力ではメディアを狙うほど余力はない。
セイヴァーがスキルを発動させているが、彼自身ヘクトール戦での消耗が激しい。クー・フーリンもヘラクレス戦で宝具を開帳している。
言葉ほど余力が残っているわけではないニ騎。
「「だけど、そんなの関係ないぜ!!」」
フォルネウスに凄まじ勢いで傷をつけていくクー・フーリンとセイヴァー。
らしくないほどまでにテンションの上がっているセイヴァー。クー・フーリンに連られているのもあるが、こうでもしないと身体が動かないのである。
しかし、そんな攻撃を意味を無くす。
「どうか誰も傷つけぬ、傷つけられぬ世界でありますように……
無垢で純粋な彼女の願い。
その願いを込められた短剣がフォルネウスに刺さる。そして、今まで与えた傷の全てが塞がれる。
いや、正確には時間が巻き戻っているかのようだ。願いは最も、残酷な結果を残す。
「チッ、手数が足りねぇ…あの女狐に戦力を回せれば良いんだが…」
「それをすればマスターが狙われる。俺たち二人で、フォルネウスを引きつけて置かなくては」
オルガマリーを狙われない様に立ち回っている彼らに、メディアリリィを狙う余裕はない。
「……だが、やるしかないか。クー・フーリン、キャスターを任せる」
槍と盾を構え直すセイヴァー。
「それしか手がないか、死ぬなよセイヴァー」
クー・フーリンがメディアに向かっていく。
セイヴァーは盾で光線を再び、弾きフォルネウスを切り裂く。その一撃は修復されない。
クー・フーリンの対処にメディアが追われているためだ。
「ーーー!!」
「喧しい!」
奇声を上げるフォルネウスの目玉を、槍で一突きする。
目玉から大量の血が溢れ出る。その血がセイヴァーを汚すが、それを一切、気にせずセイヴァーは槍を振るう。
激しい突きと切り裂きに、フォルネウスへと傷を沢山作っていく。
「ーーー!!」
だが、ただ斬られるフォルネウスではない。奇声と同時にセイヴァーへの呪いを付与していく。
「ぐっ…」
身体が焼ける様な感覚と共に、セイヴァーの動きが鈍る。
着地の体勢を大きく崩す。そこをフォルネウスの光線が飛んでいく。
盾を構えるが、その光線の出力は今までセイヴァーが弾いたものより高く、飲み込む。
「セイヴァー!」
オルガマリーが悲鳴に近い、大声を上げる。
「無事ですよ……マスター……」
光線に身を焦がしたセイヴァーがオルガマリーに返事する。
スキルの恩恵で、そこまで重傷にはなっていないが、呪いと光線によるダメージが蓄積している。ヘクトールとの戦闘ダメージが回復していないセイヴァーには、かなりキツイ状態になっている。
「おい!しっかりしろ」
クー・フーリンがメディアリリィの防壁に苦戦しつつ、セイヴァーに声かける。
神代の英霊、しかも大魔女になるキャスターの防壁はそうそう簡単に突破できない様だ。
「ーー!!」
再び、フォルネウスの絶叫が響き渡る。
「セイヴァーさん!」
セイヴァーの目の前に、マシュが現れ、フォルネウスの光線を防ぐ。
そして、フォルネウスの身体に炎の棘が次々と刺さり、爆発する。
「……間に合わなかったなぁ、クー・フーリン?」
「まぁ、仕方ないわな。時間をかけ過ぎたわ」
クー・フーリンが横に並ぶ。
その顔は残念と言うよりは、漸く本気を出せるといった風だ。
「所長、助けに来ました!!」
人理の修復者が揃う。
総力戦で魔神柱を討伐する戦いが始まる。
次回が決着かな?
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