折り返し地点ですね……バレンタインの話が書きたい…
また、『彼』の夢を見る。
人理修復を始めてから、幾度も見ている夢。私はいつも、観客で何も触れられないし変えられない。
当たり前だ。これは『彼』の過去をマスターである私が夢として、見ているだけに過ぎないのだから。
「……あれ?」
ふと、いつもの様に見ているとある事に気づく。
『彼』は魔術も、遠距離武器の扱いも出来るはずだ。それなのに、極力、近接武器で殺さなければならない対象を殺している。
「大規模な魔術や、遠距離武器なら一掃できる筈なのに……何故、頑なに近接で戦うの?」
返り血でその身を濡らし、戦いがひと段落着くまでその身から血が乾くことはない。
淡々と斬り殺しているが、私には殺した命の重さを忘れない様にしているんじゃないかと思えた。
近接以外の手段を用いた殺害というのは、命を奪ったという実感が乏しいという。
悲鳴を近くで聞かず、肉や骨を断つ感覚はなく、返り血も浴びない。
殺害の効率化と殺害への感覚の喪失。それらを伴うのが、近接以外の方法だと私は思う。
「そうやって、全部を受け止めようとするから、壊れてしまうのよ。セイヴァー」
血を滴らした武器を見つめながら、座に戻るため姿が揺らめいている『彼』の背中。
寂しそうなそれを抱きしめてあげたかったが、干渉出来ない私はただ、その背を見つめた。
目を開けると、そこは凄惨な戦場ではなく、見慣れた飾り気のない部屋。
最近はセイヴァーが掃除をしてくれるので、本や書類がごちゃごちゃになるという事態は避けられている。
「……はぁ」
溜息が溢れる。
昔は、自分に向けられる視線や責任に耐えかねて、よく溜息を吐いていたが、今はセイヴァーに対してが増えた気がする。
別に嫌な悩みを抱えて、溜息を吐いてるわけではない。
「……レフの時からそうだけど、私って依存癖でもあるのかしら」
寝巻きから、仕事服に着替えながら、呟く。
セイヴァーが全てを話してくれるようになる為に、彼の隣に立ちたいとは思うけれど、それと同じぐらい彼に頼っていたいと思っている。
うん、自分でもはっきり分かる。これは重症だ。
一画消えた令呪を片手で触れる。私と彼の繋がり。これがある限り、彼は私の側から離れられない。
「令呪の縛りなんてなくても、セイヴァーは私から離れないと思うけど。目に見える繋がりがこんなにも嬉しいなんてね」
コンコンと部屋がノックされる。
「マスター、準備は出来ましたか?」
霊体化やパスを利用した会話をすれば、実際に部屋に訪れるなんて手間を無視出来るのに、彼は頑なにこうして尋ねてくる。
そして、私の準備が良ければ、管制室まで一緒に歩いてくれる。
私との時間を増やそうとしてくれるように感じて、とても嬉しくなる。
「えぇ。大丈夫です、行きましょうかセイヴァー」
部屋を出て、いつもの様に恭しく立っているセイヴァーに微笑みかける。
「はい。マスター」
私の少し前を歩くセイヴァー。
その背中に、夢でみたセイヴァーの寂しそうな背中を重ねてしまう。キョロキョロと周りを見る。
誰もいないわね。こ、これぐらいなら良いわよね。
誰に言うわけでもないのに、言い訳をし私はそっと前を歩くセイヴァーの背中に手を触れさせた。
「マスター?」
当然、不思議そうにこちらを振り返るセイヴァーだが、その顔に何処からか現れた白いふわふわーーフォウくんがぶつかる。
「……」
流石にノーリアクションはどうかと思うわよ、セイヴァー。
セイヴァーの手がフォウくんを捕まえ、ゆっくりと地面に降ろす。
「フォウ、フォフォウ」
なんだかとても意味ありげな視線を私に向けて鳴くフォウくん。
何故だろう。物凄く、余計なお世話と言いたい気分になる眼差しだ。
トテトテと、音を立ててフォウくんは歩いて去っていく。
「ほんと、不思議な生物ね」
「そうですね。でも、フォウは良い奴ですよ」
「貴方、仲がいいものね」
「だと、良いんですが」
ゆっくりと歩き出して話をする私とセイヴァー。
途中で何人かのスタッフとすれ違う。全員に挨拶と労いを言うと、驚いた顔をされるのは何故だろうか。
昔の私はそこまで余裕がなかったのかしら。
「やぁ、所長にセイヴァー。私も同行しても?」
「目的地は一緒でしょうに。ダヴィンチ」
途中で、ダヴィンチと出会う。
自分の理想に合わせて、身体を変えて召喚されるという変態だが、この天才にはだいぶ助けられている。
小学生以下の悪戯をよく、セイヴァーに仕掛けているが天才の考えてる事はよく分からない。でも、人手不足のカルデアには重要な英霊である事に変わりはない。
ほんと、これで変人じゃなければなにも文句はないんだけど。
「次の特異点は、イギリス。しかも、ロンドンだ。
立香君より、君の方が詳しいだろう?」
「そうね。魔術師達の総本山。時計塔がある場所ですから」
「だから、現地では所長が案内した方が効率的だと私は思うんだが、どうだろう?」
「元々そのつもりよ。それともなに、私がそんな事も考えない無能だと思ってたの?」
ジトーッとダヴィンチに視線を向ける。
それを見て、ダヴィンチは笑い出す。え、なんなのこの英霊。ドMか何か。
「あははは、ほんと君は出会ったばかりの頃と全然印象が違う。
愛しのセイヴァーのお陰かなうん?」
「なっ……」
顔が熱くなる。
「三つ目の特異点での一連を私達が見てないと思ってたのかい?
いやぁ、若いっていいね。うんうん、今の君なら手を貸してあげる気にもなるってものさ」
そう言えばモニタリングされてる事をすっかり忘れてた……
あの時はあれが効率良いと思ってたけど、恥ずかしい声も出しちゃったしううっ。
無意識に自分の指を見てしまう。傷口はもうないけど、なんだかとてもムズムズする。
「ダヴィンチ、そこまでだ」
「ちぇー、良いだろう別にぃ」
「ん?」
「分かった分かった!そんなに怖い顔をするなって」
セイヴァーの表情は見えないけど、ダヴィンチが顔を青くして大人しくなる。
この両者の力関係がよく分かる図ね。そんな事をしていると管制室に到着する。
中に入ると、ロマニが機材を弄っている。立香とマシュの姿がないわね。
「ロマニ。二人は?」
「もうじき来ると思いますよ。なんだか、立香君が怖い夢を見たらしく」
「そう。まぁ、まだ作戦時間には少しだけ猶予があるわ。大人しく待ってましょう」
近くの椅子に座り、髪を弄ったりして時間を潰す。
セイヴァーは何やらロマニに呼ばれ、一緒に機材を弄っている。
そんな事をしばらくしていると、管制室の扉が開き、立香とマシュが入ってくる。
「「遅くなりました!!」」
「まだ大丈夫よ。さてと、全員揃ったようだし、今回の作戦を説明するわ」
ロマニから書類を受け取り、私が説明を始める。
と言っても、場所がイギリスのロンドンである事、ソロモン王が人間に呼ばれてる可能性があるという事、ロマニが色々と口を挟んだが、可能性を考えておくだけでも有用だと言って黙らせる。
こんなに、ソロモン王のファンだったかしら、ロマニ。
「さぁ、作戦を始めるわ。コフィンに入って」
コフィンに入り、レイシフトを待つ。
この狭さ、やっぱり慣れないわね。
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。
レイシフト開始まであと 3、2、1……全工程 完了
グランドオーダー 実証を 開始 します。』
アナウンスの終了と同時に私の意識は一瞬途切れる。
そして、私の視界に飛び込んで来たのは、一面の霧だった。
「……いくらなんでも濃すぎるわね。霧のロンドンとは言え……」
「マスター!口を塞いでーー」
「え?……ゲホッゴホッ…」
咳き込む。手で口に触れると僅かに赤い色がある。
しまったーーこの霧、魔力を宿してる。急いで、体内の魔術回路を励起させ、霧の魔力に対する防御を組み立てる。
「あっ…」
それでも遅かった。
肉体的な抵抗力が低下してたのだろう。霧の負荷に耐えられず、身体の力が一瞬抜ける。
「マスター!」
セイヴァーに支えられる。
ロンドンだから、私が先導しようと思っていたけど、これは魔術礼装でも作る必要があるわね。
私の気力をへし折ってくれる霧を忌々しく思いながら、頭の中で礼装を考える。
視界の端の方で、素人なのにケロっとしてる立香に対して、ぶん殴りたくなる衝動を抑えるのは地味に大変だった。
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