大変お待たせしました!
一応、原作であるゲームと違いが生じる場面は藤丸視点を書いていきます。基本的には、セイヴァーや本作で呼ばれたサーヴァント達に視点を置いていくつもりです。
「スゥ…スゥ…」
ソファで眠るオルガマリーの可愛らしい寝息に混じり、カタッカタッという音が部屋に響き渡る。
黒と白、複数の駒が入りみだり、相手の王を取るゲーム。所謂、チェスの音だ。
『…いや、なんでチェスしてるんだ君ら』
外に調査へ向かった立香達一行のバックアップの為、通信を切ったロマニとダヴィンチちゃんの代役として、ムニエルが言葉を発する。
当然だ。ジキル達の拠点に残っているセイヴァーと、ジキルがチェスを始めたのだから。
まだ始まったばかりだが、互いに堅実な一手を打つ二人の決着はずいぶん、先になりそうだ。
「僕もちょうど休憩をしたかったからかな。彼女が動けるようになるまで、暇なんだろう?」
「…たしかに暇だが。俺はマスターを癒す必要が」
「君はキャスターではないけど、魔術の扱いは得意なんだろう?
だって、今も彼女を癒す為の魔術は滞りなく行使されてるんだから」
その言葉に返事はせずに、一手詰めるセイヴァー。
こっそりのメディアの力を借りているのだから、これくらいの魔術行使は簡単だ。だが、彼にはジキルの考えが分からない。
チェスに応じなかったからと言って、オルガマリーを追い出すような人ではない事は、知っているが。
「む。そう来るか」
言葉では驚いているが、あっさりと返してくるジキル。
この拠点に辿り着いてから、情報の交換は済んでいる。三日前から出たという通称、魔霧。ジキルの予想では、すでに数十万人の死者が出ているらしい。そして、協力関係の構築。全てが滞りなく行われた。現在、立香達は先行したモードレッドとの合流後、フランケンシュタイン氏の保護に向かっている。
そして、立香とは違い、魔霧の影響を受けてしまったオルガマリーを休ませていたら現在に至る。
「…うん。君は戦士じゃないね?
僕のような学者でもない、言葉にするなら軍師擬きってところかな?」
しばらく、打ち続けていきなりジキルが口を開いた。
その言葉にセイヴァーはチェスの手を止め、盤上に向けていた視線をジキルへと移す。
「否定はしない」
「君の雰囲気に違和感を覚えてね。セイバーの様な無意識に惹き寄せられるものは感じない。
でも、だからと言って何も感じない訳でもない。僕の様な一般人に近い何かを感じた」
セイヴァーの白のナイトが消える。だが、白のクイーンは黒のキングにチェックをかける。
ジキルは自分の勝ち目が無くなった事を理解し、参ったと告げる。
「だから、試したくなったんだよ。こうすれば何か感じれるものがあるんじゃないかなって」
「それで軍師擬きか。これでも、多少の戦術に覚えはあったんだが」
「ふふっ。歴史に名を残す軍師なら僕なんて相手にならないよ。武勇で名を残したのなら、もっと荒々しい手を取るだろう。
でも、君は僕と同じ堅実な一手を打ってた。負けない様に戦って、こちらの隙を突くそんな打ち方だったよ」
チェスを片付け、少し疲れた様に目を押さえるジキル。
「君は少なくとも、元々一般人だった。違うかい?」
確信を告げるようなジキルの声と視線。
その視線から逃れるように、視線を逸らすセイヴァー。ふぅ、と息を吐いたあと再びジキルと目を合わせ口を開く。
「さてな。俺の記憶は少々、欠損していてな。覚えていない」
『くっ、セイヴァーの事を知れる機会だと思ったのに…』
セイヴァーがどんな英霊なのか、どの時代に生きた英雄なのか、そもそも真名はなんなのか。
という彼の正体に繋がりそうな情報を聞けると思っていたムニエルが悔しそうな声を出す。実は、カルデア職員の間で、こっそりとセイヴァーの正体に関して、賭けの様なものが行われているのだ。本人は全く知らないが。
「……まぁ、君がそう答えるならそういう事にしておこう。ねぇ、薬学の心得はある?」
「ん?あぁ、まぁ多少は。そういうのを知る機会もあったからな」
「なら、僕の手伝いを頼んでもいい?ちょっとした霊薬を配合したいんだけど、僕じゃ魔術的観点からの知識が足りなくてね」
セイヴァーは眠るオルガマリーに視線を向ける。その目はオルガマリーを心配しており、離れる気がない事が分かる。
過保護な英霊だなとジキルは思う。
「大丈夫だよ。必要な道具は僕が持ち運ぶ。君はここから動かなくていい。
それに、上手くいけば魔霧の影響を緩和出来る霊薬になるかもしれないんだ」
「…分かった。その霊薬がマスターの役に立つかもしれない。手伝おう」
燃え盛る炎を見た。
緑豊かな地と血に濡れた城塞を見た。
広大な大地とそれを覆う大軍を見た。
荒れ狂う海と神話の怪物を見た。
近代的な建築物とそれらを覆う濃い霧を見た。
ここまでは、私も知っている。今まで、彼と共に駆け抜けた特異点だ。
機械の兵と、古代の兵が戦う戦争を見た。
恐ろしく強い騎士達と、輝かしいまでの光を見た。
神代の魔獣とそれに抗う強き人々を見た。
これは知らない。特に、後半の二つは幻であったとしても、震えてしまう、本能が恐怖してしまうほどの神秘を感じた。
これも、彼の過去なのか。だとしたら、一体、彼は何者なのだろう。長生きしたというレベルではないのだ。
そして、はっきりとは見えなかったが垣間見た、ナニカと戦い世界と契約する人影。あぁ、きっとこの人影が彼なのだろう。今見た光景も今まで見た光景も、彼はボロボロだった。肉体もそうだが、何よりその精神がボロボロだった。
「…もう嫌だ…世界なんて知らない…なんで俺が……目の前に居た人すら救えなかった…俺みたいな奴が…」
姿は見えない。私が知っている声とは少し違うでも、聞き間違える訳が無い彼の声だ。恐怖と絶望に染まった声が聞こえた。音を聞けば恐らく、自傷行為もしているのだろう。
「でも…これはあの人がやろうとした事だから……生きてやり遂げないと……他でもないこの俺が…」
声の質が変わった気がした。さっきまでの声から、聞き慣れてしまった彼が自己犠牲を厭わない時に出す無機質な声。
こんなになってまで、彼は動くのか。正直に言えば、普通じゃない。もはや、呪いや狂気の類にしか感じない。
プシュという空気が抜ける音と共に誰かが入ってくる。
「…先輩、時間ですよ。大丈夫ですか?」
ーーーえ、この声ってーーー
「くっ、霧が濃く正確に位置を掴めん……あの子はどこだ…今度こそ私は」
本来なら失っているはずの記憶。数ある選択肢の中の一つ、自身が赤のアーチャーと呼ばれていた戦いを思い出す。
救えなかった、原因が自分にあるのだとしても救いたかった黒のアサシン。それが、ジャック・ザ・リッパー。
この特異点で再び、巡り会えた事に感謝しつつ、彼女は霧のロンドンを駆ける。
そんな彼女を影からひっそりと見る英霊が一人。
「わたくしのスキルはこういうものじゃないんですけれど…ますたぁの指示ですからね」
その英霊とはストーカーというこれ、清姫にしか備わっていないだろうというスキルを使って、単独行動のアタランテを追いかけている清姫だ。本来の使い方とは違うので、愛するますたぁを追いかける時の様に、目視していなくても場所が分かるという程の精度はない。
だが、この霧の中でも追いかけていられるのは、やはり特殊なスキルという事だろう。
「…アタランテさんも難儀なものですね。無理やり今のますたぁと共に居られる様にしてるわたくしが思うのもアレですが」
英霊という存在は大なり小なり後悔や、願望を抱えているものだ。
後悔や願いが無くても、英霊として召喚される英雄は数少ない。人類史を彩った英雄の影法師。その存在が何も持たない訳がなかった。
「…見つけた!」
屋根を駆けていたアタランテの速度が上がる。しかし、その途中で彼女の嗅覚は嗅ぎ慣れた鉄臭さを感じ取る。
一般人には慣れないものだが、英霊だからこそ慣れてしまった。ーー血という鉄臭さ。
「あれ?貴女一人だけなの?……ふーん、じゃあわたしたちでもやれそうだね」
可愛らしい声と容姿には似つかわしくない光景が広がっていた。
魔霧から逃れるために、室内に立て籠もっても英霊が侵入出来ない訳ではない。むしろ、アサシンクラスの彼女としてはやりやすい絶好の狩場になってしまった。部屋には姉妹が住んでいた。可愛らしい家具には、血がべったりと付着しており、床には血溜まりが二つ出来ている。その中央で、倒れている姉妹の胸にはポッカリと大きな穴が空き、そこにあるべき心臓が存在していなかった。
「まっ、待て!」
「待たないよ?」
口元を血で濡らし、残酷な笑みを浮かべ二本のナイフを構えるジャック。
言葉を交える余裕は無い。
「くっ…仕方ない。汝を大人しくさせてから、話をするとしよう!」
かつての聖杯戦争の様にはしないと、覚悟を決め戦いを始めるアタランテ。
果たして天秤はどちらに傾くのだろうか。
次は早く書けるといいな。
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