願いを込めて   作:マスターBT

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わたくしは嘘が嫌いです。
それは、ますたぁを追いかけてきた今でも変わってはいません。ですが、ますたぁが吐く嘘だけは、許せるようになりました。
別にわたくしが変わったという訳ではありません、いえある意味では変わっとも言うのでしょう。
嘘は他人を不幸にする。例え、良かれと思って吐いた嘘でもそれが相手にバレれば不幸になる。だから、わたくしは全ての嘘が嫌いだった。
でも、なにもかも嘘で自分すら偽って仮にも英霊であるわたくしですら、尻込みする偉業を成し遂げた人を近くで見続けたら、この人の嘘だけは本当に必要な物だと思ったんです。

「辛いのならこの母を頼ってくれて良いのですよ?」

わたくしと共にいた母の様な英霊。
優しい声と優しい眼差しで話しかけていた。きっと、甘えるだろうとわたくしは思っていた。だけど、違った。
困った様に笑って、差し出された救いを振りほどき、自分の絶望を押し殺し戦いの場に向かって行った。
残された英霊は悲しそうにその背を見送った。

「あの…お身体をご自愛なさってください。毒が効かなくても、マスターの心は…」

致死の毒をその身に纏う英霊。
ますたぁの限界に素早く気がついた優しい子。献身的で儚げな雰囲気も相まって、その言葉は鎖の様にますたぁに絡まると思った。
結果は言うまでもない。前例と同じように止まる事なく戦いの場に向かった。
残された英霊は静かに大粒の涙を流していた。

「ますたぁ。なぜ、そうまでして戦いに行くのですか?」

彼女を除けば最初に呼ばれた英霊として、流石にあの二騎の心配は理解している。
そして同時に、断る時にわたくしすら本心だと思ってしまうほどの嘘で拒否していたのも気づいていた。
この時のわたくしはまだ、嘘に寛容では無かったからますたぁの背後で火を出していたと思う。
そんなわたくしを見て、頭を掻きながら笑い彼は言った。

「遺された者だからさ。継がなきゃダメだろ?……多分、清姫は気付いてると思うけどさ。ごめん!
こればっかりは譲れない。俺にはもう進み続けるしか選択肢がないんだ」

あぁ…なんて残酷な事だろう。
人理修復という名目の元、わたくし達は彼をここまで追い込んでしまったのか。初めて出会った時の輝かしい笑顔はもう無い。
今にも砕け散りそうな弱い仮面。そんなハリボテの笑顔でも、その奥底にあるますたぁの本気の想いはわたくしに届いた。

「俺はあの人が好きだ。一目惚れとか関係なく俺の好意という感情はあの人に向いている。
でも、この人理修復が終われば変わってるかもしれない。だから、その時に君の想いに対する返事をするよ」

スッと小指を立てて、わたくしの目の前に差し出すますたぁ。
嘘です。この人の心が変わることなんて無い。でも、この嘘にわたくしが自分は振られると覚悟した上で応じるのなら、誰も不幸にならない。むしろ、この壊れそうなますたぁを支えられる。そうこの時のわたくしは本気で思っていた。

「では新しく約束です。それが叶うまでわたくしは貴方のお側を離れませんよ。
嘘吐いたら針千本飲まして、丸焼きにしますからね」

「ははっ、それは怖いね」

指切りげんまんの約束。
この約束が最後にますたぁを傷つける刃になるとは思っていなかった。


魔霧の悪魔

 

 

「離せ!もう、傷は癒えた!」

 

「離しませんよ。半龍化したわたくしは、力もあるんですから。魔力不足気味の貴女を捕まえておくぐらい、簡単です」

 

殺さないように手加減し戦っていたアタランテの消耗は大きい。

只でさえ、ジャック・ザ・リッパーは女性に対し強力な宝具を所持しておりアタランテは十分に魔力供給を受けていない。

枷が着いた状態で、必殺の一撃を持つ相手と戦わなければならなかった。

 

「執着があるのは分かりますが、それしか見えてないと色々と見落としますよ。アタランテさん」

 

わたくしが言うのもあれですけどねと続ける清姫。

自虐と後悔の混ざった笑みを浮かべる彼女を見て、アタランテは動きを止める。

 

「なぁ、一つ聞いても良いか?」

 

「えぇ。構いませんよ」

 

急に落ち着きを取り戻したアタランテを不思議に思いながら清姫は返事をする。

 

「召喚されて余り日は経っていないが、私はカルデアで働くお前をよく見かけた。

工夫を凝らし、料理を作ったり施設内の掃除をしていたな。そのせいか、比較的お前は職員達と距離が近く色々と礼も言われていた。

それら全てに満足げに答えているのに関わらず、彼らといるよりセイヴァーと会話もなく、ただ近くにいる時のお前の方が幸せそうに見えた」

 

「よく見ていますね、アタランテさん」

 

「だがな、彼が離れれば後悔の色が濃い表情を見せる。彼はお前の想い人だったのか?」

 

アタランテの言葉に目を丸くし、どう答えたものでしょうと呟く清姫。

確かに想い人ではある。だけど、それは自分を選んで欲しいという感情ではなく、ただ幸せになって欲しいという感情だ。

恐らくアタランテのいう想い人は前者だろうと清姫は思う。

 

「そうですね……もし、彼がわたくしを何かの間違えで選んでくれればとても…えぇ、とても嬉しいです」

 

目を閉じその光景を想像する。

セイヴァーが自分を選び、抱きしめ愛の言葉を囁いてくれる。あぁ、なんて嬉しい事だろうか。

でも、きっとそうなったセイヴァーは自分が愛し幸せになって欲しいと願った彼ではない。別の空虚な存在に成り果てているのだろう。

そういう想像がはっきりと出来てしまう。だって、彼は彼女しか選べないからこそ彼なのだから。

故に、続ける言葉は分かりきっている。

 

「ですが、それは彼の幸せにはなり得ません。わたくしは、ますたぁに幸せになって欲しいのです。

ますたぁが幸せになって、漸くわたくしの旅は終わりこの想いは報われるのです」

 

「ッッ…お前は…」

 

ふっと微笑む清姫の表情に返す言葉を失うアタランテ。

自分の幸せではなく、他人の幸せを求めて戦場に立っているのだ。戦いに明け暮れた訳ではない少女が。

あぁ、確かに彼女はバーサーカーだ。

理性を失い狂っている訳ではない。理性を保ったまま彼女は狂っている。

幸せになって欲しいと思う人物に、愛情を持ちながら自分ではない人物が選ばれる事が分かった上で、その人物を助ける。

一時の刹那ではなく、永遠にそうあり続ける。その在り方は、間違いなく狂っているとアタランテは思った。

 

「おや?どうやらますたぁ達が来たようです」

 

半龍化していた姿からいつもの姿に戻る清姫。

まるで、彼女が戻るのを待っていたかと言わんばかりのタイミングで、オルガマリーをお姫様抱っこしたセイヴァーが隣に降りる。

 

「よくやってくれた清姫」

 

「ふふっ、ますたぁの頼みですから」

 

端的に礼を告げるセイヴァーに嬉しそうに答える清姫。

魔霧の影響で、魔力探知がし辛くても、セイヴァーと清姫は互いに互いを感知できた。

令呪による結びつき以外にもきっと何かあるのだろう。とアタランテには思えた。

 

「アタランテ、ご苦労様。セイヴァーから単独行動をしている理由は聞きました。

立香を背後から襲えるアサシンを優先的に狙うことで、牽制していたと。ありがとう」

 

降ろされたオルガマリーの言葉に驚きながらセイヴァーに顔を向けるアタランテ。

その行動に対し、セイヴァーはただただ頷く。そういう話にしたっという訳だ。

 

「あ、あぁ。それより、汝はもう大丈夫なのか?」

 

「えぇ。ゆっくり休んだし、セイヴァーが作ってくれた礼装と薬で魔霧内でも動けるようになりましたから」

 

「おや?いつの間にそんなものをお作りに?」

 

「マスターが休んでいる間にな。手持ちで作ったし、魔霧ぐらいにしか対応できない代物だ」

 

「それでも十分過ぎると思いますよ」

 

クスクスと笑う清姫。その様子に僅かに口元を緩めるセイヴァー。

確かにあり得た幸福のほんの一端がそこにはあった。

決して、重なり合うことはないけれど静かにそっと、ただ同じ時間を優しく過ごす。そんな幸せが。

 

『ちょっとごめんよ。ゆっくりと会話してるところ悪いんだが、緊急事態だ』

 

ダヴィンチちゃんが投影される。

 

『今から送るポイントに急行してくれ。少々、厄介なサーヴァントに』

 

「…悪いが、こちらにも客人のようだ」

 

ダヴィンチちゃんの言葉を遮るようにセイヴァーが声を出す。

彼の背中には、いくつもの光弾が浮いており、それを霧の奥へと放つ。

 

「おおっと!これはこれは大層な歓迎ですなぁ…ワタクシただの通りすがりデスヨ?」

 

「そんな爆弾を抱えた通りすがりがいてたまるか」

 

「おやおや、これは最初から敵意丸出し。もしかしてぇ、ワタクシの素性知ってたりしちゃいますぅ?」

 

霧から現れたのは道化師の様な格好のサーヴァント。

敵意全開のセイヴァーに対し、終始ふざけた様子。オルガマリーからすれば馬鹿にされている様にすら思えるだろう。

 

「俺が此処に残って相手をする。マスター達は藤丸立香の応援に行ってください」

 

干将・莫耶を取り出し構えるセイヴァー。

 

『頼めるかい?所長、君にも応援に行ってもらいたい。私の推測が正しければ、君が必要だ』

 

「でも……いいえ、分かりました。清姫、私を運んでくれるかしら?」

 

「構いませんよ」

 

アタランテが駆け出し、清姫がオルガマリーを抱える。

 

「では、行ってきますますたぁ」

 

「戻ってきて下さいねセイヴァー」

 

セイヴァーを応援し、この場から去る二人。

残ったのは、セイヴァーと道化師風のサーヴァント。

 

「お前のことだから爆弾でも使うかと思ったが、案外大人しくしているものだな」

 

「いえいえ、ワタクシ平和主義ですから」

 

「そうか」

 

セイヴァーが後方へおもむろに干将を投擲する。

すると、爆発が起き霧が一部薄くなる。どうやらこの道化師風のサーヴァント、ひっそりと爆弾を展開していた様だ。

干将はその性質上、莫耶に引かれセイヴァーの手元に戻ってくる。

 

「あはぁ、やっぱりワタクシを知っておられますね。貴方様、どこでワタクシの様な悪魔とご契約を?」

 

「口より先に動かすものがあるんじゃないか」

 

スッと姿を消し、道化師風のサーヴァントへ斬りかかるセイヴァー。

急な加速に驚きながらも、その一撃を躱す。ふざけているが、このサーヴァント戦闘能力は高い。

 

「えぇーもっとお話ししましょうよ。まぁ、それで油断したらボンっといかせて貰いましたがね!

いやぁ、ワタクシという悪魔をよく知っておられる」

 

跳躍した道化師風のサーヴァントに対し、矢を放つセイヴァー。

しかし、その射線上に爆弾が置かれ防がれる。一旦、距離が生まれた。

 

「既に知っておられるのなら、隠す必要も感じませんねぇ。

ワタクシは、メフィストフェレス。気軽にメッフィーと呼んでくれてもよいのですよ?」

 

「断る」

 

「…おや?先程まで手にしておられた二本の剣はどちらへ?」

 

「此処にあるぞ」

 

スッと四本目となる干将・莫耶を取り出す。

すると、矢を放つと同時に投擲されていた干将・莫耶と引かれ合う。

 

「ギャハッ!?…同じ武器を何本も所持してるのはいささか反則ではないですからねぇ」

 

そのコース上に立っていたメフィストフェレスの背中に干将・莫耶が突き刺さる。

魔力消費も少なく済むし応用の効きやすい干将・莫耶はやはり便利だと思うセイヴァー。

 

「これは油断しましたねぇ…ワタクシまだやることがあるのですよ」

 

背中に干将・莫耶が刺さってもなお、笑みを浮かべながら逃げる体勢を取る。

逃がすつもりなどカケラもないセイヴァーは当然追いかけるが。

 

「はい。微睡む爆弾(チクタク・ボム)

 

メフィストフェレスが宝具の真名を解放すると同時に、セイヴァーの身体に衝撃が走る。

彼の宝具は文字通りの爆弾。発動したら、魔術師であろうがサーヴァントであろうが呪いに対する耐性がない限りその身は粉々に弾け飛ぶ。

運良く弾け飛ぶ事はなかったが、その衝撃は大きく膝をつくセイヴァー。

 

「…厄介な宝具だな」

 

とはいえ、此処で逃がすのも面倒だ。

自分の記憶では、彼に殺される人物が生存してくれればこの特異点の攻略を楽に出来ると思える。

だから、逃がすわけにはいかない。

 

「アーラシュ、その力を貸してくれ」

 

この魔霧の中、逃げるメフィストフェレスを撃ち抜く為に必要なステータスに更新される。

擬似的な千里眼も獲得し、魔霧の中でもメフィストフェレスを捉える。

矢を番え、引きしぼる。既にこの身は東方の大英雄だ、ならばこの矢が外れる通りはない。

 

「ふっ」

 

放たれた矢は霧を斬り裂き、逃げるメフィストフェレスの頭部を貫いた。

千里眼でゆっくりと消えていくメフィストフェレスを見ながら、セイヴァーはふらつき、倒れる。

 

「……流石は大英雄。身体への負担がデカイな」

 

少しだけ休むとしよう。

藤丸立香の元へ向かったマスターが心配だが、清姫もついている。今は回復を急ごう。

 




前書きに話をぶち込んで見た。
こんな感じで過去話しを前書き利用して書こうかなと思っている次第です。読み辛いなと感じたら教えて下さい。

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