願いを込めて   作:マスターBT

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VSアヴェンジャー

「ほら、モードレット。右に身体を捻って」

 

「指図すんな!この根暗野郎!」

 

「酷いなぁ」

 

立香のサーヴァントを相手に戦っているモードレットに指示を出しクー・フーリンとジャンヌ・オルタの同時攻撃を避けさせるアヴェンジャーと名乗ったサーヴァント。

直後に、モードレットから罵倒と濃密な殺気をぶつけられるが、ヘラヘラと受け流す。

 

「はぁぁ!」

 

「一歩引いて、そうしたら右足で踏み込み、盾を大きく横に振るでしょ?

それなら、しゃがんで避ければ頭の上をスレスレで盾が通過する。うん、残念だけど君の攻撃パターンはよく知っているから当たらないよ」

 

言葉に出しながらマシュの攻撃を避けるアヴェンジャー。

華麗に攻撃を避けられ、驚愕するマシュ。

 

「敵の前で動きを止めたらダメだよ」

 

「がふっ!」

 

がら空きのお腹に掌底を叩き込まれ、吹き飛ぶマシュ。

追撃する素振りは見せず、ロンドンの床を割りながら吹き飛ぶマシュを眺めるアヴェンジャー。その目は酷く無機質だった。

その目のまま、藤丸立香の方へ歩き出す。

 

「人理修復なんて、荷が重いだろう?ここで、死ねばその重みから解放されるよ」

 

「…それは出来ない。最後のマスターとしてオレは死ぬわけにはいかない」

 

「なんでさ。君が背負う必要のなかった事だ。

魔術師じゃない、ただの巻き込まれただけの君が普通のなんて事のない生活を失ってまでやる事じゃないだろう」

 

カルデアに来る前の藤丸立香は、確かにただの一般人だった。魔術なんて縁遠い普通のありふれた生活を送っていた。

それが人理修復という名のもと、英霊を率いて何度も死線を超える戦いを要求されている。

たった一度の失敗も許されない。立ち止まる事も許されない。そんな戦いに、一般人だった彼は置かれている。

その重みをアヴェンジャーは捨てろと囁く。

 

「声どころか顔も、どういう人種なのか善人なのか悪人なのか。

全くの判断がつかない無辜の人々を救う為に、その身を差し出す必要がどこにある?滅びは避けられない、どれだけ足掻こうが世界は君に牙を向けるよ。そんな地獄を君は歩むつもりか?」

 

「例え、そんな地獄が待っていてもオレは進む。別に、世界の為なんかじゃない。

オレはオレを信じてくれる人の為に歩む。この手を握って、信じてくれた人の為に生きるんだ」

 

「よく言ったわ。マスター」

 

アヴェンジャーと立香の間に、ステンノが立つ。

 

「…非力な女神が何の用かな。貴女の微笑みは俺には効かないことぐらい分かってると思うけど」

 

「えぇ。ずっと、私を無視してくれていたものね。

でも、忘れていないかしら?女神とは本来、与えるもの。こうして前で戦うことがそもそもおかしいのよ」

 

振り返るステンノ。

軽く飛び上がり、立香の頬へキスをする。その瞬間、凄まじい量の魔力が立香へと流れ込む。

 

「こ、れは」

 

「興味はなかったのだけれど、ローマでセイヴァーから魔力を注がれていたでしょう?

それなら受け止める基盤が出来てると思っていたの」

 

立香の中で眠っていた魔術回路。

セイヴァーによって叩き起こされたソレは、セイヴァーとの訓練の中である程度活性化していたが、ステンノによりオーバーフロー並みに動き出す。激痛が彼を襲うが、増えた魔力量は許容を超えたところから彼のサーヴァントへと流れ込んでいく。

 

「おっ、こりゃあ全力でいけそうだな」

 

「加減はするけど、今度は倒れないでよマスター」

 

供給される魔力が増えれば英霊が出せる力も増大する。

魔力で現界している彼らにとっては、文字通り魔力が存在の証明となる。とても、彼個人では受け止めることの出来ない魔力。

だが、クー・フーリン、ジャンヌ・オルタ、アタランテ、マシュ。契約した複数のサーヴァントにより受け止める事に成功する。

 

「…ふーん。なるほどね、反吐が出る」

 

ずっとヘラヘラとしていたアヴェンジャーがこの光景を見て、初めて表情を変える。

その感情は憎悪。まるで、気に食わない何かを見てしまった様なそれでいてその光景に憧れているような。

 

「やっぱり、お前は此処で殺す。考えを聞こうとした俺が馬鹿だったよ」

 

全力で駆け出すアヴェンジャー。

英霊の本気。常人ではあり得ない距離を詰めることが可能な速度。

 

「させません!」

 

「ぐっ!」

 

しかし、辿り着くまでの刹那の時間で、魔力を得て復活したマシュの突撃が彼の横腹を突く。

苦悶の表情を浮かべながら、吹き飛ぶが体勢を整えるアヴェンジャー。

 

「遠慮なく飛ばした筈なんだけどね……やっぱり頑丈だね」

 

魔力強化により押されるアヴェンジャー。彼の宝具で操っているモードレッドも本心からの味方ではないので、戦闘力はそこまで高くない。

 

「まぁ…俺が弱いなんて一言も言ってないんだが」

 

勢いそのままに突っ込んで来るマシュに対し、右腕を前に左腕をやや水平に後ろに伸ばし腰を落とすという独特の構えを取るアヴェンジャー。振り下ろされる盾をギリギリで躱し、追撃に動くマシュの腕を前に出していた右腕で受け止め動きを阻害。

そこを起点に右腕一つでマシュを支えにしその顔に、蹴りを放つ。

 

「くっ」

 

「避けたか。んじゃこうしよう。あと、モードレット詰め過ぎだよ。下がって」

 

避けられても焦り一つ見せず、流れる動作でカカト落としを行いながら、左腕でガンドをモードレットに詰め寄ろうとしていたクー・フーリンに向けて放つ。

振り下ろされたカカト落としをマシュは籠手で受け止める。

 

「っつ…」

 

歯をくいしばり痛みに堪えるマシュ。

籠手の防御力を超えてダメージが伝わってしまったようだ。

 

「堅いが、まだ強化だけで抜けるぐらいか。まぁ、この時点ではそんなもんだよね」

 

「何を言って…!」

 

「…ごめんよ。君は極力傷付けたくないんだけどね?

でも、俺にも目的はあるからさ。手荒に行かせてもらうよ」

 

マシュの盾の内側に潜り続けるアヴェンジャー。

彼女の守りは確かに強固だ。しかし、その内側に入られた時、その脆弱性が明らかになる。

さらに言うのなら、マシュは先程から妙なやり辛さを感じていた。自分の手の内が相手にバレているそんな感覚だ。

 

「一体、なんなんですか…貴方は!」

 

「うん?アヴェンジャーだよ」

 

「そういう事を聞いてるんじゃきゃあ!?」

 

困惑するマシュに対し、八極拳の要領で拳を打ち込んでいく。

必殺の一撃は無いが、ダメージを蓄積させるには向いている。

 

「マシュ!」

 

治癒の魔術をマシュにかける立香。

しかし、彼の初歩魔術では回復量が足りない。手の内を知り尽くしている相手ほど容易いものはないと思うアヴェンジャー。

 

「ぐぅぅ…」

 

「そろそろ限界かな。まぁ、モードレッドの方も限界が近そうだし、そろそろ決め……!」

 

何かに気づいたように、後方に大きく飛ぶアヴェンジャー。

直後、無数の矢が降り注ぎ青い炎が彼を襲う。

 

「モードレッド!」

 

「あぁ!?」

 

ぐいっとアヴェンジャーへ引き寄せられるように跳躍するモードレッド。

そのまま、矢をクラレントで防ぎきる。

 

「炎は…仕方ない。多少は受け入れるか」

 

青い炎に右手をつき、焼けるがそのまま距離を取る。

直後、モードレッドの全身を縛っていた拘束感がなくなる。アヴェンジャーが宝具を解除したようだ。

 

「すまん、マスター!今、戻った」

 

「ご無事ですか立香さん」

 

アタランテとオルガマリーを背負った清姫がマシュの前に立つ。

 

「あ、あ、あ……アァァァァァァァ!!!俺を見ないでくれ!

貴女の意思を継ぐことすら出来ず、何一つ成し遂げる事なく死んだ俺を…!」

 

「な、なんだあいつ、不気味な奴だとは思っていたが急に叫びやがったぞ…」

 

「許してくれ……許して……」

 

スゥゥっと消えるアヴェンジャー。

おそらく霊体化による逃亡だろう。

 

「マシュ!?」

 

崩れ落ちるマシュに駆け寄る立香。どうやら蓄積したダメージが限界を迎えたようだ。

 

「……英霊は複数の側面を持つ。いえ、予想はしておりましたが」

 

アヴェンジャーが消えていった場所を悲しそうな目で見る清姫。

今、彼女は何を考えているのだろうか。一瞬とは言え、姿と言葉を知ってしまった彼女、それだけでアヴェンジャーが何者であるか、どの様な道筋を辿ったのか予測が出来てしまった。

 

「セイヴァー?いえ、違う…筈…」

 

顎に手を添えて考えるオルガマリー。

彼は明らかに自分を見ていた。もっと正確に言うのなら、あの瞬間彼は彼女しか見えていなかった。

だから、その視線を通してオルガマリーはセイヴァーを幻視していた。

自分の知っている姿ではないのに、何故か感じる既視感。見てしまった悪夢が現実に浮かび上がってしまった様な不安感。

なんとも言えない後味の悪い感覚を残し、彼らは一度ジキルの元へ戻ることを決定した。

 




取り敢えず、アヴェンジャー撤退。
次回は話が原作に戻るかな?

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