今回、オリジナル要素が豊富です。解釈違い等あるかもしれませんが、ご容赦を。
「マスター只今戻り……何かありましたか?」
拠点としているジキルの部屋に撤退したと報告を受け、戻ってきたセイヴァー。
戻ってきた彼が感じる空気はなんとも重たい。あの場に居なかった者は普段通りなのだが、不機嫌さを隠そうともせず座っているモードレッド、そんな彼女の様子が煩わしいのか頬をヒクヒクとさせているジャンヌ・オルタ。
クー・フーリンとステンノはそんな様子どこ吹く風と言った態度。アタランテは、遅れてきたこともありイマイチ状況を把握しきれていない。
重症なのはマシュだ。何かを思い出しているのか時折、強い怯えの表情を浮かべる。
そんな彼女に寄り添いながら、なんて声をかければ良いんだと苦悩する藤丸。普段なら、どんな時でもわいわいとしているコンビに今はそんな明るさが失われていた。
「お帰りセイヴァー。ちょっとね、貴方が離れている間にアヴェンジャーを名乗るサーヴァントに遭遇したんだけど。
何というか凄く不気味な気配を漂わせていたのよ」
そう話すオルガマリーも余り、気分が良さそうな顔をしていない。
マシュや藤丸の様子を見て、彼らを先導する立場である自分が何も声をかけられない、支えとしてなれないことに歯痒さを感じているのだろう。
「アヴェンジャー?……やっぱり俺の知ってる状態からズレが生まれてきてる」
自身が知るアヴェンジャークラスのサーヴァントをセイヴァーは頭に思い浮かべるが、不気味な気配を漂わせるのは居ない。
近しいタイミングとして、あの煙草の臭いを彼が居なくても、感じられるほど自身の近くにいたサーヴァントを思い出すが、別に不気味ではない。まぁ、偶にどこで見てたの?って気になる行動はあったが。
話を戻すが、セイヴァーに思い当たる節はない。それはつまり、セイヴァーがいる事で生じるズレがいよいよ大きくなっているということだ。
「…仕方ありません。当初の予定は我々だけでやりましょう。藤丸立香とそのサーヴァントは此処で待機で」
『此方としてもそれを採用したい。観測できてる二人のバイタルがかなり乱れているからね。
所長に問題がないのであれば、二人はどうか休ませてほしい』
セイヴァーとロマニの意見が一致する。
「わ、私は!」
「マシュ、貴女は休んでいて。そもそもマシュは兎も角一般人の藤丸を巻き込んでるのは私達のいいえ、私の落ち度よ。
少しはその借りを返させて。ね?」
「……はい。分かりました。マシュ・キリエライト、待機します」
精一杯、笑ってみせたオルガマリーの言葉に、少ししょぼくれながらマシュは座り込む。
肉体ではなく精神が摩耗している今のマシュでは、恐らく戦えない。
「セイヴァー。行きましょう、目的地はフランケンシュタイン邸です」
「分かりました」
セイヴァーから貰った薬を飲み、霧のロンドンへとオルガマリーは足を進める。
その後ろを、セイヴァーと清姫が同行する。マスター一人とサーヴァント二騎。冬木以来の少ない行軍だ。
道中にホムンクルスなどのエネミーが邪魔をするが、セイヴァーと清姫の敵ではない。流れ作業のように殲滅していく。
「改めて面倒だ。この霧、気配探知に長けてなければかなりの接近を許す」
「アサシンかキャスターの方のお力を借りれば、少しは楽になるんじゃないんですか?」
「マスターから魔力を貰いすぎる訳にもいかない。俺と清姫で前後を確認し合えば、強襲はギリギリ防げる」
ホムンクルスからの返り血を拭いながら、話すセイヴァーと清姫。
そんな事を繰り返しながら、目的地であるフランケンシュタイン邸に到着する。
「…随分と強固な結界ね」
手を触れながら、館の魔術的防御を確認するオルガマリー。
結果としてはかなり強固。サーヴァントを消しとばしたり弱らせたりというほど強力ではないが、痛みを感じるぐらいは出来るだろう。
「少し時間を貰うわねセイヴァー」
「お任せします」
魔術師としての力量はオルガマリーに軍配が上がった様だ。
自信のある顔で防御の無力化を行う。
「…逆の属性を与えれば……流れ的に……あぁ、少し面倒ね……」
ブツブツと言いながら、解体を進めるオルガマリー。
セイヴァーと清姫はその仕事を眺めながら周囲を警戒する。
「…セイヴァー、此処からあの石狙える?」
オルガマリーが指差した先にあるのは、青色に輝く宝石。
霧で僅かに見づらいが、それでもそこに存在している事は溢れ出す光でわかる。なるほどとセイヴァーは呟く。
神代の魔術を行使しようと思えば出来るが、別に自身の魔術的素養はほとんどないセイヴァーには、結界の点がどこにあるのか分からなかった。しかし、オルガマリーによって指示された事でそれを見抜く。
「もちろんです」
手に無骨な弓を取り出す。
番える矢も別に特殊なものではない。英霊といえば武器と思う人もいるが、中には名のある武器を持たない英霊もいる。
此度、力を借りるのはそういう英霊だ。ただ、矢を放つだけでは結界に阻まれる。
なら結界の隙間を縫う目を、矢を自在に操る技術を借り受ければ良い。当たるという強い認識を持ち放たれた矢は、寸分違わず宝石を砕いた。
それと同時にパキンと壊れるような音が小さく響き、オルガマリーは頷く。
どうやら、結界の解除に成功したらしい。
「宝石を砕いてしまいましたが、よろしいのですか?」
「まぁ、怒られるかもしれないけど。人類史と宝石だったら人類史を選んでくれるわ、多分」
どこかのあかいあくまなら、悲鳴をあげそうな行為だ。
そのあくまを依り代にし現界したどこかの女神様なら、無理やり宝石を回収しようとするだろうか。そんな事を考えつつセイヴァーはオルガマリー、清姫と共に館に入っていく。
少々埃っぽい廊下を歩いていく3人。入り口以降、目立った妨害は起きていない。
「…全く、人の屋敷になんの用事だ?」
「ジキル氏の要請を受けて来ました。
貴方がヴィクター・フランケンシュタイン博士で、間違いないですか?」
「孫だけどな、どうやら間に合ってくれたようだ」
壮年の男性が安心したように息を吐く。
彼が言うには、計画への参加を拒否していたせいで、いつ刺客が自分を殺しにくるか分からなかったらしい。
また魔術師ではあるが、彼にとっての祖父。つまり、博士として名を馳せていた彼が遺したもの利用しているのがやっとの才能だ。
「そちらの状況は大方、ジキルから聞いている。遅延工作ももう限界だ。
私はそちらに合流し、守っていただきたい」
「えぇ、大丈夫です。道中は私のサーヴァントと信頼できる仲間で安全を約束します」
「なら今すぐにでも」
「その前に一つ」
ヴィクターの言葉を遮るように口を開くセイヴァー。
話しに割り込まれたのが気に食わないのか、顔を顰めるヴィクター。どうやら、サーヴァントはただの使い魔と考えるタイプのようだ。
「…なんだ」
「フランケンシュタインはどこにいる?
貴方を連れていくなら、彼女を連れていく必要もあるだろう。戦力は多い方がいい」
「アレを連れていくのか?」
化け物を前にしたかのような声。
ヴィクターにとって、フランケンシュタインの怪物はまさしく言葉の通りの存在なのだろう。
しかし、セイヴァーにとっては違う。
「ああ。貴方が連れていく気がないのなら、こちらで勝手に連れ出す。
ただの礼儀として許可を貰おうとしているだけだ」
「…こっちだ。来い」
ヴィクターは忌々しそうにセイヴァーを見た後、背を向け歩き出す。
誰一人として言葉を発することなく、隠し部屋へと到着する。部屋には棺が置かれていた。
「そこで眠ってるよ。たく、こんなのに一体何が……」
ヴィクターが文句を言いながら、棺を開けるために近づいていく。
その瞬間だった。派手に棺が壊れる。
「ウ、ウ、ヴィクターー!!」
「ひ、ひぃ!!」
棺を破壊し、ヴィクターに飛びかかろうとするフランケンシュタインの怪物。
「させるか」
魔力剣を握ったセイヴァーがヴィクターを庇う。
棺に同封されていたのか、怪物は武器を振りかざし、魔力剣と火花を散らす。
「生前とサーヴァントで考えが変わる者もいる。フランはそういうタイプだったか」
「ウー!」
ガキンと金属音を出し、互いに離れる。
「ほら、見たことか!?化け物を連れていくなんて、正気じゃないんだよ!!」
「…化け物か。対話する気のない人間とどこが違うんだろうな」
あくまでフランの狙いはヴィクターだ。
その狙いをセイヴァーは分かっている。この場を上手く収めるにはヴィクターの言葉しかない。
戦って時間は稼ごう。彼女はサーヴァントではない、本人の出力を無視して行動は出来ないはずだ。
「……説得と戦闘の両立か。本当に勝手が違うな」
「…ウ―ァァァァァ!!!」
「すっきりするまでは付き合ってやるか」
上から振り下ろされる攻撃をその場で僅かに下がり避ける。
それを予想していたかのように、叩きつけられることなく横凪に変化する攻撃。
「っと、生前から戦闘センスは高いか…」
魔力剣で防ぎ、そのまま話かける。
「こちらにとっては善意でしかなくても、受け取り手には悪意に移ることもある。
お前はそれに気付けなかっただけだ。ここで、ヴィクターを襲っても解決はしないぞ」
「ウーアー!!」
「そんなことは教わっていない?
当たり前だ。ヴィクター・フランケンシュタインが夢見た幻想は完璧のイヴだ。それは正しく、彼の中で良いとされる行為しか行わないという認識だったのだろう。そこに差が生まれたに過ぎない!」
ガリガリと火花を散らす。
その中でセイヴァーは話す。暴れたところで願いは叶わないと。ここでセイヴァーが話したとしても結末は変わらない。フランケンシュタインの怪物は怪物のまま終わる。
それは人類史が決定したことで、変わることはない。
だが、それでも今のまま見過ごすことは出来なかった。
「ヴィクター!貴方もだ、祖父の遺したものを利用できるのならなぜ、それをしない!」
「はぁ!?化け物と対話する気なんて起きるかよ!」
ふざけんなと言わんばかりに、反論するヴィクター。
孫ならいや孫だからこそ、記録されていた記録をよく知っているのだろう。
「そんなんだから祖父の遺したものをただ使う事しか出来ないんだ。
魔術師が研鑽を止めたらそれでお終いなんだろう?知り合いのロードがそう話していたぞ」
「ぐっ…それは…」
痛いところを突かれたと眉間に皺寄せるヴィクター。
「ちょうどいい課題が今、目の前にあるぞヴィクター!
使い魔如きにここまで言われて、なにも思わないのなら魔術師をやめるんだなヴィクター」
ヴィクターを挑発するセイヴァー。
彼が自分を見る目で典型的な魔術師と判断したセイヴァーはそのプライドを刺激してやることにした。
そして、その目論見は成功する。
「やってやるよ!ただし、話を聴かず襲い掛かってきたらお前が守れ!」
「言われなくても」
力を籠め、フランを弾き飛ばす。
体勢を立て直している間に、ヴィクターの横まで跳躍するセイヴァー。
「おい、俺は当代のヴィクター・フランケンシュタインだ。
今、この場で先々代を超え、お前の面倒を見る男だよく覚えろ!!」
「……ウー」
勢いに圧されているフラン。
もしかしたら自分の記憶にある男と暑苦しさがかみ合わないことに疑問を持っているのかもしれない。
「お前の望みは自分の伴侶なんだろ?」
「ウ!」
「時間はかかるだろうが、俺が!用意してやる。
その前に必要な学習もつけてやろう。無学な花嫁など、アダムが嫌がるだろうからな!」
「…その足の震えがなければ格好いいかもしれないんだがな」
足はがくがく、声も震えている。
それでもヴィクターは真っすぐ、フランを見て宣言した。
「………ウー!」
ヴィクターの声は届かなかったのだろうか。
武器を振り上げ、迫ってくるフラン。
「…さて、守ると言ったからな」
一歩、ヴィクターの前に出てフランの攻撃を防ぐ。
攻撃が来たことの恐怖から、ヴィクターはその場で腰を抜かす。だが、その場から逃げることはしなかった。
「…ウ」
武器を下ろし、ヴィクターに手を差し出す。
役目は終わったとセイヴァーはオルガマリーの元へ戻る。
「……はっ、お前は今からフランだ。イヴって呼ぶにはまだ不十分だからな」
その背後でヴィクターとフランが手を取り合っていた。
直後、ヴィクターの物言いが気に食わなかったのか、怪力で一気に持ち上げられ、肩と手の痛みに悶絶していた。
「こっの!なにしやがる!」
「ウー!」
「ウー!じゃ分からん!先ずは、言語を叩きこむところからか…」
原作に比べ、人理修復のペースは早めに進行しています。
あと、孫の名前が出てなかったのでヴィクター・フランケンシュタインとしましたが、この家系は当主が名前を次いでいるんですかね。それはそれで面白いので採用。