願いを込めて   作:マスターBT

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遅くなりました。何したら許してくれますか……(震え声)


人理の復讐者

 オルガマリー達が魔本を討伐している頃、ロンドンを魔霧で覆い特異点とした者達が暗躍を始めていた。計画の中枢を担うPを関する者、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススとアヴェンジャーが行動を共にしていた。

 

「…これでまた一つ霊脈を押さえました。アヴェンジャー殿、この行為に意味はあるのですか?」

 

 彼が地面に撒いていた触媒が光輝くとロンドンを流れる霊脈の一つが沈黙する。どうやら彼らはロンドンに巡る霊脈を閉じている様だ。しかし、そんなことをすればこの地に流れる魔力は薄まり彼らの計画に必要な存在を呼べなくなるのではないかそんな不安がパラケルススの胸中には宿っていた。

 そんな、心配を見抜いてかアヴェンジャーは軽薄な笑みを浮かべ口を開く。

 

「あるとも。彼らはサーヴァントを多数従えている、当然サーヴァントの現界は無料じゃない。ともすれば、この地の霊脈を使うほかあるまい。一人のマスターは素人、もう一人は魔術師だけど桁違いの魔力を保有している訳ではない。現界に必要な魔力を奪ってやれば戦力は半減するってもんさ。俺たちの計画にも魔力は必要だが、最悪どうにかなる。なら、障害となる相手の戦力を削ぐ方が有意義でしょ?」

 

 霊脈の流れを断ち、十分な魔力を与えない。それがどれだけカルデアに苦しい状況を発生させるかアヴェンジャーは理解していた。かつてとは違い、ある程度独自に戦力を動かせている様だがそれでも現地の霊脈に頼るしかない。複数の英霊を現界させ続けられるほど立香の魔力は高くないのだから。

 

「そうですか……ならば私に出来うる事をしましょう」

 

 確信とも取れる揺るぎない言葉で言われてはパラケルススは従うしかない。元より自罰によって計画に加担している身。もし、カルデアの者たちが自分の前に現れれば負けるつもりでいた。

 

「あぁそうだ。パラケルスス」

 

「はい?」

 

 だが、そんな後ろ向きな姿勢この男は認める気がなかった。今のカルデアはアヴェンジャーにとっては戦力過多、計画の邪魔でしかない。

 

「うちのマスターの目は上手く誤魔化した様だけど、生憎俺はそんなに甘くなくてね。カルデア相手に手を抜けば、貴方がひっそりとこの霧から匿っている一人の人間。俺が殺すよ」

 

 だから、首輪を着けておく。守ろうとする者に対して最も有効で悪辣な手段を用いて。パラケルススは目を見開き、受け入れるしかなかった。アヴェンジャーの目の前に傅き、忠誠を誓う。

 

「……」

 

 酷く気持ち悪そうに口元を押さえているアヴェンジャーにパラケルススが気がつく事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、霊脈の動きが」

 

 ロンドンに起きた僅かな変化に気がついたのは、やはりセイヴァーであった。ロンドンを覆う霧によって魔力の探知は難しいがアヴェンジャー達によって霊脈の流れが変化し、キャスタークラスのサーヴァントなどの魔術に詳しいサーヴァントであれば気が付けるぐらいの変化が起きていた。セイヴァーの指摘を受け、オルガマリーが霊脈を調べる。すると、不自然に流れが途切れていることに気がつく。

 

「霊脈の流れを止めている?……予定変更よ藤丸。私達は霊脈を調べてくるわ、貴方達は聖杯を探して」

 

 藤丸達が回復した矢先の出来事だった。オルガマリーは爪を齧りながら、内心でやってくれたと思うと同時に此方のやり方を知っているかの様な犯行に違和感を覚える。そして、脳裏には自分を見て錯乱した様に消えたアヴェンジャーと名乗るサーヴァント。

 

「藤丸立香、マシュ・キリエライトの精神状態には気をつけておけ。彼女の守りはその心だ。少しでも傷付けば、たちまちに壊れるぞ」

 

「わ、わかった。そっちも気をつけて」

 

「お前に心配されるまでもない」

 

 視界の端で藤丸と会話しているセイヴァーを見る。アヴェンジャーを見てから、何故か時折彼とアヴェンジャーがオルガマリーには重なって見えていた。表情は硬いが、藤丸達を労っている姿にあの狂気は感じられない。頭では分かっている。だが、何かが引っ掛かる。 

 セイヴァーとアヴェンジャーの共通点。それは、正しくオルガマリーだ。オルガマリーという存在に何か固執している素振りを見せている。彼女は自分でも思うが、人に好かれる性格をしていない。そんな自分を宝物の様に扱うセイヴァーや、失望されるのを恐れる様なアヴェンジャー。一体、自分の何が彼らにそうさせているのだろう?そして、彼らはどうして私を構うのだろう。

 そんな疑問がオルガマリーの脳内を支配する。考えれば考えるほど深まっていく思考だが、ずっと何かに妨害されてる様な遠回りをさせられるそんな思考の渦から抜け出せたのは、ずっと彼のそばにいる彼女の言葉だった。

 

「……オルガマリーさん?」

 

 自分の顔を伺う様に首を傾げる清姫。そして、瞬間、彼女は思った。自分がここまで感じているのだから彼女なら何か分かるかもしれないと。そんな根拠のない自信が生まれた。

 

「大丈夫よ清姫。カルデアに戻ったら、少し話をしたいのだけど良いかしら?」

 

「えぇ。構いませんよ?もしかして、わたくしと話をしたいと言い出す為にあんなに怖い顔して悩んでいたのですか?」

 

「え?そんな怖い顔してた?」

 

「はい。こんな感じの」

 

 眉を中央に寄せ睨んでる様な顔をする清姫。可愛らしい彼女の顔が少し面白い事になっている。それがなんだか可笑しくてオルガマリーは軽く笑ってしまった。同時に清姫も笑みを浮かべる。

 

「何を考えていたか分かりませんが、貴女が笑顔だとますたぁが喜ぶのでずっとそうしていて下さいまし」

 

「ふふっ、ありがとう清姫。貴女も笑顔の方がセイヴァーも喜ぶわ」

 

 オルガマリーの返しに少し驚きながら、清姫は笑みを深くする。

 

「マスター、清姫?そろそろ……二人揃って何か楽しい話でも?」

 

 セイヴァーは二人が笑顔でいる事に驚く。なんとなく、この二人が楽し気に雑談をしている姿が想像出来なかった。しかし、二人が笑顔で会話している姿を見て、僅かに口角を上げたセイヴァー。それを見て、オルガマリーと清姫は互いを見て更に笑みを深くするのだった。

 

「また笑ってる。何か面白い事でも?」

 

「そうね。愛されているなーって思っただけ」

 

「はい。ますたぁは罪作りです」

 

「うん?とりあえず、行きますよ。藤丸立香達も行きましたし」

 

 首を傾げながら外へ出ていくセイヴァー。彼の後を追ってオルガマリーと清姫も外に出る。そして、自然な足取りで清姫はセイヴァーの僅か後ろに。オルガマリーは彼の横へ落ち着く。

 

「マスター」

 

「此処から一番近いところから順番に行きましょう。ロマン、藤丸達の方で何かあったらすぐに知らせるのよ」

 

『分かってます。所長達も気をつけてくださいよ』

 

「当たり前よ」

 

 ゆっくりと霊脈を一つずつ調べていくオルガマリー達。セイヴァーがアサシンから力を借り、気配遮断を用いた斥候を行い安全が確保されたら霊脈から調べる。三つ目の霊脈を調べに向かった時だった。

 

「……そこにいるんだろ?出てこい」

 

 セイヴァーが投げた干将のところから、一人の男が出てくる。濁り光を宿さない蒼い瞳に、白髪混じりの手入れされていない髪。着ている服はボロボロで、一見すればただの浮浪者かと思う姿だが、纏う魔力はサーヴァントのそれだ。

 

「いやぁ、バレたバレた。借り物の力を使い熟すなんてやるじゃないか」

 

「……誰だ。お前は」

 

「はっ!気づいててしらばっくれるつもり?まぁ良い。アヴェンジャーさ。聞いてるだろう?」

 

 自己紹介などどうでも良いと簡単に済ませるアヴェンジャー。この二人に懇切丁寧な自己紹介など必要ない。相手が何であるかなど、対面すればすぐに理解した。ヘラヘラした顔のアヴェンジャーと真顔のセイヴァー。両者の性格の違いがはっきりと分かる。

 

「(マスター、敵性サーヴァントです。クラスはアヴェンジャー)」

 

 セイヴァーはオルガマリーへと念話を送るが反応がない。その事実に顔を顰めていると、アヴェンジャーが軽薄な笑みを持って答える。

 

「向こうにはパラケルススを放ったよ。あっちに割く人材がいないけど……ま、そこは俺のマスターが上手くやるだろう」

 

「そうか」

 

 セイヴァーがアヴェンジャーへと肉薄し、干将・莫耶を振り下ろす。それをアヴェンジャーは、魔力で覆った拳で受け止めた。素手で武器を止められた事に驚いていると、アヴェンジャーはセイヴァーを蹴り飛ばす。

 

「ぐっ」

 

「生憎、俺はお前みたいに英霊に愛されてなくてね。武器はこの身だけだよ。

 一人いや、一柱かな?彼女ぐらいは力を貸してくれても可笑しくはないんだけど……力なんか借りたら喜んで殺しに来るからなぁ」

 

 殺されると表現したのにどこか嬉しそうに言うアヴェンジャー。

 

「一つ聞かせろ。何故、そっちにいる?」

 

「……全てがどうでも良いからさ」

 

「なるほど。そういう事なら、遠慮なくお前を殺せそうだ」

 

「はっ、最初からその気でいる癖に」

 

 干将・莫耶を消し、両手に青い炎を発生させるセイヴァー。相変わらず、ほかの武器達よりあっさりと出てくる炎だ。

 セイヴァーの手に現れた青い炎を、見て僅かにアヴェンジャーに熱が宿る。だが、それも一瞬で掻き消え普段と変わらない飄々さに戻る。両者の魔力が高まり、瞬きの間に激突していた。

 




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