「死ぬかとおもった。 割とマジで」
真っ白燃えカス状態から復活したカズマはアクアたちとジュースを飲みながらそう呟いた。
ちなみにアルテラはパンツを履くついでにシャワーを浴びてくるように言いました。
理由は何となくです。
「カズマが悪いですよ。女性のパンツを剥ぎ取るなんて真似したんですから」
「同感だ……(私にしてくれたらよかったのに……)」
「さすが引きこもりニートね」
「それについては事実だからな。弁解のしようもない。それとニートじゃない」
よほどハクノの“おはなし”が身にしみたのか顔を青くしながらそう呟く。
「とまあ、彼も反省してるし許してあげたら?」
そういって先ほどからミルクを飲みながら無言のハクノにクリスが話す。
「反省したならいいわ。そもそもの話、やられたのは私じゃなくてアルテラだし、私がいつまでも怒るのは筋違いというもの……まあ、次やったら殺るけどね」
「マジ勘弁してください!」
鬼気迫る表情で土下座をするカズマ。
それを見ていつものような柔らかい笑顔にハクノは戻った。
「今度から気をつけてくださいね?」
「イエス マム!」
どこの軍隊ですか。
私が呆れているとアクアさんたちがダクネスさんを見ていた。
気になった私は二人に声をかけた。
「どうしたの?」
「いや、今更なんですが、この人は誰ですか? もしかして昨日言っていた面接に来た人ですか?」
「よく見たら、この子クルセイダーじゃない。断る理由なんてないんじゃないの?」
あれ、そうだったんですか。
てっきり知り合いだと思っていました。
カズマはそんな二人を見て、しまったなあ……という顔をしていた。
すると何を思ったのかカズマ君はいきなり語り出した。
「実はなダクネス。俺とアクアは、こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」
普段でも滅多に見せない真剣な表情をしたカズマ君は言い聞かせるように話す。
その話マジだったんだ、普通に飯の席での冗談だと思ってた。
「俺達の冒険は過酷な物になることだろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」
まあ薄い本では定番の展開だよね、普通ならこの話でパーティー申請を拒否するだろう。
エリス様からの話じゃ、この世界は魔王軍に殺されて年々人が少なくなっているらしいし、その魔王軍に殺された人は怖がってこの世界への転生を拒んで異世界人口そのものが減ってきているという話だ。
けどねカズマ君、君の話している相手は普通の騎士じゃないんだよ。
その証拠に、ほら……
「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場が決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」
「え!?……あれ!?」
「え?……何だ? 私は何か、おかしな事を言ったか?」
うん、カズマ君の反応は普通だ、しかし前提条件を間違えているよカズマ君。
君が話している相手は騎士であるものの敵の攻撃を受けて喜ぶ超ド級のドMなんだよ。
「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺とアクアは。そんなパーティーに無理して残る必要は……」
うん、それも無理だよカズマ君、なんせめぐみんは……
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 我を差し置き最強を名乗る魔王! そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」
そう、ここ最近の彼女を見てわかったこと。
それは彼女が紅魔族の中でも特別頭が弱いことだ、そして本物の厨二病である。
なんせ他の冒険者で一人紅魔族の子を見たがめぐみんほど酷くはなかった。まあ、彼女は紅魔族の中では異端だったけど、むしろなぜ紅魔族に生まれたのか尋ねたくなるほどに。
カズマ君の話で俄然やる気を出した2人。
まあ実際のところ、魔王軍の力がわからないからどうと言うこともできない、せめて幹部の力量を見ればどれぐらいかわかるというのに。
幹部クラスでトップサーヴァントクラスの力だったら今のアルテラでは苦戦するだろうな。(勝てないとは言っていない)
私が魔王軍の事を考えていると……
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急正門に集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急正門に集まってください!』
大音量のアナウンスがギルドに鳴り響いた。
一体なんだろうか?
もしかして数週間前にあった魔物の大行進でもまた起こったのかな?
「装備は整えているな!」
「今回も来たのね、この時が……」
「腰入れてけよ! 生半可はお断りだぜぇ!」
「よーし! うん、やってやるっ!」
「大丈夫だろうかなぁ」
凄い気迫だ、もしかしたら私が知らないとんでもない事が起こるのかもしれない。
ハクノは背中に刺してあった杖を取り出し強く握りしめた。
アルテラもわずかながら臨戦態勢に入っている。
「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターでも街に襲撃してきたのか?」
カズマ君が当然の疑問を投げかける。
そして私たちは彼女が話した言葉に驚くことになった。
「ん? 多分キャベツの収穫祭だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」
その言葉に思わずズッコケそうになるカズマ。
ハクノとアルテラはこの状況を理解したのか、脱力したように警戒を解いた。
「あ〜、成る程ね、キャベツが来るのか」
「……人騒がせな」
納得してしまう自分がいる事を考えるに、私もこの世界に染まったなぁと自覚した。
しかしキャベツか、ちょうど野菜の備蓄が乏しくなってきたしいいタイミングで来てくれたと喜ぼうかな。
私は別の意味で杖に力が入った。
「は? キャベツ? キャベツって、モンスターの名前か何かか?」
うん、カズマ君の反応はもっともだ、でも残念ながらこの世界の常識だと彼は田舎者扱いだろうな。
アクアがキャベツについてカズマ君に説明をした。
話を聞いた彼は神妙そうな顔をしてブツブツと呟いていた。
「なるほど、この世界のキャベツは飛ぶのか。しかも食べるとレベルも上がるとはな、なんでこの世界は変なところでふざけてるんだ?」
残念、この世界の五分の四はおふざけで出来ているんだよカズマ君。
あの神様ですらふざけた世界と称した世界は伊達じゃないと改めて実感した私だった。
◆◇◆◇◆◇
キャベツ狩りが終わり町中で収穫されたキャベツがふるまわれる中、ハクノとアルテラ、そしてクリスはハクノの家でご飯を食べていた。
「いや〜、いいこずかい稼ぎになったよ」
クリスは野菜炒めを食べながら満面の笑みでいた。
カズマに有り金を全部すられたこともあり、今回のキャベツ狩りは渡りに船だったようだ、まあ、大量の冒険者が参加した関係もあり報酬が払われるのは数日後なのだが。
「それにしても相変わらず美味しいね、この世界の野菜は」
「そうですね。生きがいいからでしょうか?」
うん、そうだねアルテラ、食われないために自分で動いて逃げるくらいだからね、生きがいいと言うのは正しいだろう。
しかし食べるだけで経験値がもらえると言うのもおかしな話だよね、初めて知った時は「どこのグルメ世界の食材だ! 」と思わず突っ込んだ記憶があるよ。
まあそもそもの話、元の世界で本物のご飯を食べた事がないから比べる事が出来ないけどね。
「そう言えばクリス、ここは私たちの家だしエリス様に戻ってもいいですよ?」
何せこの家には私が全力でかけた認識阻害、及び工房化により、高位の魔術工房になっているのだから。
この中でなら彼女の神性が漏れる心配もない。
「そうかい?……なら、お言葉に甘えさせてもらいますね」
クリスの体が光を纏い、その光が晴れるとそこには神聖な雰囲気を醸し出した女神が座っていた。
彼女こそ、エリス教の御神体である女神エリスその人である。
「うん! クリスの姿も綺麗だけど、その姿のエリスも綺麗だよ、流石は女神様だね」
「そうですね。私も少なくない女神を見て来ましたがあなたほど美しい女神を見たのは少ないです」
「もう! 二人ったら……そんなに褒めても何も出ませんよ」
恥ずかしがりながらそう答える彼女、その姿はとても保護欲をそそられる。
てかアルテラのは褒めてるのか?
「それにしても初めて二人に会った時はびっくりしました。なんせ一発で私が神だと看破されましたから」
ハクノたちとクリスがあったのは約三週間前、その頃のハクノたちはある程度冒険にもなれ驚愕的なスピードで成長していた。
そしてある探索クエストで同じく神器を探すためにめぼしいところを探索していたクリスに遭遇した。
そして遭遇して簡単な問答をした後にあっさりとハクノがクリスの正体を言い当てたのだ。
その時の会派を再現するとこんな感じ。
「こんにちはクリスさん、私はハクノです」
「私はアルテラだ」
「うん、こちらこそよろしく」
「それでいきなりなんだけど質問いい?」
「ん? 構わないけど、一体何んだい?」
「いえ、どうしても気になったから……なんで女神が地上にいるの?」
「……………………え?」
とまあ、こんな感じに唐突だった。
正体を言い当てられたクリスの顔はそれはもう女の子とは思えないほど口を開けて数分ほど固まっていたほどだ。
フリーズから回復したクリスが色々と言い訳や質問をして来たが全て論破して観念した彼女は自分が女神であることを認めた。
「そんな事もあったね。あの時のエリスの顔は今でも鮮明に覚えてるよ?」
「わ、忘れてください、そんな事は!」