Xmas三部作   作:秋鹿

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Xmas三部作、第一弾「Holy Night」です。
舞台は架空の惑星フィル。
船の故障により、急きょ、惑星フィルに降り立つことになった師弟。ところが、オビ=ワンが命をも脅かす風邪にかかり、クワイ=ガンは選択を迫られる ―― といった話です。
ややシリアスです。

「銀河彼方での物語」での「夢見の森」のあとの話ではありますが、読んでなくても大して問題はありません。


Holy Night
第1話 命取りの風邪


少年は天空を見あげた。

一面鈍色に覆われどんよりとした曇り空から、白い花びらが次々と舞いおりてくる。

それは広げた彼の手の平に触れると、音もなく形を崩し消えていった。

纏う赤茶けたローブにも砂金色をした短めの髪にも、止むことなく降り落ちる花びら。

静かにその姿を幻のように薄れさせていく ――

 

彼のマスターはこれを『雪』と言った。

太陽光反射ステーションが軌道に浮かび、常に地表に光を当てているせいで、惑星コルサントの北極南極以外は常に快適な温度に保たれている。

そのため、彼はこのかた『雪』なるものを見たことがなかった。

(これが雪・・・)

空から突然降ってきた、今は途切れなく舞うこの白い花びらを最初目にした時は、まるで異世界の文化に触れたように感じ驚き、また沸きあがる好奇心に突き動かされる如く喜び戯れたものだった。

そして、そんな彼の様子をマスターは微笑ましげに眺めていたのだった。

それから20標準分後ぐらい経ったであろうか。

マスターは宇宙港のロビーに設置されている通信機で、コルサントへの帰還が少し遅れる旨、評議会に連絡を入れている所だ。

彼は物珍しい雪でもう少し遊びたくて、用事が終わるのを外で待っている。

 

そして今、少年は静かな面持ちで雪を見つめていた。

白く美しく軽やかに降ってくるこの雪は、地についた途端、跡形もなく消えてしまう。

何故か儚さと虚しさを感じさせた。それが美しいだけに尚更に。

ふとマスター・ヨーダの言葉を思い出した。

惑星キャッシーク、ロシュアの森で見た夢の中での言葉。

『この宇宙の歴史に比べれば一瞬の如き人生で何を残すか。それを考えてみるのもよかろう』

どんなに強い者でも、どんなに栄えた者でも、いつかは消え去っていく。

(僕も死んだ時、この雪のように消えていくのかな・・・)

ヨーダの言葉を聞いた後、美しい花吹雪の舞いを見た。あの時は体を取り巻く暖かいフォースを感じた。

だが今は

(寒い・・・)

体の芯から寒さが押し寄せてくる。思わずゾクッとくる震えに脅かされるようにローブの前を合わせた。

「くしゅっ」

クシャミをした瞬間、後ろから頭を軽く撫でられた。

「待たせたな、オビ=ワン」

「マスター」

彼は振り向き微笑んだ。

途端、暖かいフォースに包まれホッとする。

焦げ茶色のローブを纏ったジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンは微笑を浮かべ、慈しむような蒼い眼ざしで弟子を見つめた。

「評議会とは話がついた。二、三日帰還が遅れることを了承してもらったよ」

「仕方がないですね。ハイパードライブが故障してしまったんですから」

任務を終えコルサントに帰る途中、乗っていた定期船のハイパードライブが故障したため、幸いにも近くに存在した惑星フィルに立ち寄り修理することになったのだ。

特に急ぐ用事もなければ、フィルから新たに船を用意して帰るより定期船の修理が終わるのを待っている方が、費用的にも効率的だ。

そう判断し、彼ら二人はしばらくこの惑星フィルに滞在することにしたのだった。

 

「くしゅん」

二度目のクシャミだったが、クワイ=ガンは顔を曇らせた。

「ずっと外にいたから寒かっただろう。風邪をひくといけない。宿を取ったからそこで暖まるといい」

「はい、マスター」

二人は宇宙港を後にした。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

真夜中。

しんしんと粉雪のように降り積もる雪によって、音は全て吸収され街は静まり返っていた。

 

クワイ=ガンは不意に何かに起こされる如く目を覚ました。

彼の周りに漂う気配。苦痛、不安、苛立ち。・・・そして寒さ。

ジェダイ・マスターはベットからそっと身を起こすと、その様々な感情がさざめきのように流れてくる場所へと急いだ。

彼は部屋のドアの外から静かな声を投げかける。

「オビ=ワン?」

返事はない。

クワイ=ガンは胸騒ぎを感じドアを開けると、辺りを見渡し弟子の姿を探した。

彼はベットにいた。

しかし、様子がおかしい。

少年は布団を両手でぎゅっと強く掴み、その下で体をこれ以上丸めることができないぐらい小さくして震えていた。

廊下に灯された僅かな光でそう見て取った長身のジェダイは、素早く近寄った。ベットサイドにあるランプを小さく点灯させ弟子の様子を窺う。

オビ=ワンは浅く早い呼吸を繰り返し、顔は赤みを帯びて汗が額に浮かんでいた。

思わず手を伸ばし額に触れ、それから首筋の熱も確認し、クワイ=ガンは眉をひそめた。

無言のまま立ちあがると自分の部屋に戻りベッドカバーを数枚持ってきた。それを彼の上にそっとかける。そして、キッチンに向かうと氷水を用意し急ぎパダワンの元へと戻った。

ベットの側に小さなテーブルを運び氷水が入った器を乗せると、それに浸した布で少年の顔を軽く拭き額に乗せた。

その刺激でオビ=ワンは微かに瞼を開けた。

ややあって

「・・・マスター・・・?」

囁かれた声にクワイ=ガンは静かに応えた。

「そうだ。・・・気分はどうだ?」

オビ=ワンは霞んだ視界をはっきりさせるように目を何度か瞬かせると

「すごく・・・・寒いです」

ようやくそう言った。

「熱がある。ゆっくり休むがいい」

落ちつかせるため、クワイ=ガンは優しく微笑んだ。

オビ=ワンは安心したように

「はい・・・マスター・・・」

応えると瞳を閉じた。そして囁くように付け加えた。

「・・・すみません・・・起こすつもりは・・・ありませんでした」

ジェダイ・マスターは彼のパダワンがフォースを使って必死に苦痛を取り除こうとし、またそれを彼の師に知らせないようにしていたことに気づいていた。

しかし、それでも尚、そのフォースの僅かな隙間から溢れ出た感情。それだけこの状態が辛かったということか。

師は頑固な愛弟子を見つめ溜め息を漏らすと、同じく囁きながら言い返した。

「気にせずともいい、若きパダワンよ」

しかし沈黙に阻まれその応えはなく、彼は心配そうな面持ちで、額の既に温かくなった布を再び氷水に浸した。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

明け方になっても熱は一向に下がる気配もなかった。

それどころか益々容体は悪化した。

苦しそうな呼吸の間に、体を震わせるような激しい咳が混じったからだ。

そのせいか熟睡もできないらしい。

その上。

「・・・マスター、ゴホッ・・・任務は?」

「任務は終わっている、オビ=ワン。だから安心して眠りなさい」

しかし暫くして。

「・・・ゴホッゴホッ、バントを・・・探さないと」

「何故だ?」

「ザナトスに・・・捕まってしまったから」

クワイ=ガンは溜め息をついた。

「オビ=ワン? ここは惑星フィルだ。わかっているのか?」

「・・・はい。ゴホッ、不穏な動きを・・・調査するために訪れた・・・」

師は悲しそうな表情を見せ軽く頭を振った。

熱に浮かされる弟子には過去と今の区別ができていないのだろう。

(医者を呼ぶか、医療(メディ)センターがあれば連れていった方が良さそうだ)

クワイ=ガンはそう判断した。

横を向いて咳込むパダワンの背中を優しくさすってあげると、彼はカバーを掛け直し部屋を離れた。

居間に向かう。

部屋の片隅には情報端末が設置されていた。

この素朴でのどかな風景を醸しているその姿とは裏腹に、惑星フィルは情報が発達している国でもある。

彼は端末で医者を検索した。

一番近く、そして標準語(ベーシック)がわかりそうな医者は ――

その名を見止めると彼は通信を行う。

相手のホロが浮かびあがった。

「すまないが、病人がいる。至急来てもらえないだろうか?」

 

それから15標準分ほどで医者が到着した。

年老いた人間の医者である。

彼はのどかなこの惑星に惹かれ長年ここに住んでいるのだと、挨拶がてらに微笑みながら伝えた。

その彼をオビ=ワンの部屋に案内した。

早速検診を行う。

医者は脈を取り熱を測り、口を開け喉の奥を見たりしていたが、突然深い溜め息を漏らした。

「どうしたのですか?彼の容体はどうですか?」

ただならぬ雰囲気に顔が強張りながら、クワイ=ガンは訊ねた。

彼をともない医者は部屋を出た。

「フィルス風邪じゃな」

そして廊下にてポツリと呟く。

「風邪・・・」

幾分ホッとしたクワイ=ガンに、年多き人は視線を向け硬い表情で言った。

「いや、フィルスα(アルファ)風邪じゃ」

「フィルスα(アルファ)風邪・・・とは?」

「惑星フィルにはこの土地特有の風邪があっての、通常フィルス風邪と呼ばれる。フィルス風邪はα(アルファ)β(ベータ)と呼ばれる二種類に分けられ、β(ベータ)なら軽くて済むが、α(アルファ)じゃと・・・」

α(アルファ)だと?」

言い淀む医者の言葉じりを捉えて、クワイ=ガンは内心の不安を抑えて素早く聞いた。

医者は彼の顔をちらりと見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「かなり深刻な状態になるんじゃ」

「深刻な状態とは?」

「高熱が続きそれにより体力を削られ、激しい咳に襲われる。下手をすると・・・死に至るかもしれん」

死。

この言葉がまたもや彼を捕えようとしているとは。彼を ―― 弟子を ―― オビ=ワンを。

それだけは避けねばなるまい。自分の命ある限り。

クワイ=ガンは息を深く吐き出すと重ねて聞いた。

「治る方法は?」

「わしには無理じゃ。しかもここまで風邪の症状が悪化してしまったなら尚更に」

医者の思ってもいない言葉に彼は少なからず驚いた。

「どうしてですか?医者なら、しかもこの地独特の風邪なら、治す薬があるはずでしょう?」

悲しそうに頭を振り医者は返答した。

α(アルファ)は滅多に出ない症状なのじゃ。ここに住む者は幼い頃から予防をしてほとんど免疫ができておる。またこの惑星を訪れる者もこの風邪を知っていて、事前に風邪に対する薬を投与してくる。予防薬だったらα(アルファ)自体の毒性を薄めたものじゃし、またβ(ベータ)の薬だったらわしも持っておる。じゃが同じ名前を持つとは言えα(アルファ)β(ベータ)は症状も特効薬も違う。わしには同じ風邪には思えんほどじゃ」

「しかし、滅多に出なくても、発病した時のための対策はあるはずですが」

ちらっと視線を滑らせクワイ=ガンを見た後、医者は溜め息とともに言葉を吐き出した。

「トルコドの所に行くが良かろう」

「トルコドとは?」

「惑星フィル総督係りつけの医師で、腕は確かじゃ。しかし、多くの病人が彼を頼るため、彼に診てもらうには直接家に行くしかないがの」

「彼の所にだったら薬はあるのですね?」

「そのはずじゃが、薬はかなり高いだろう。と言うのもα(アルファ)に効く薬は今は滅んでしまった惑星に生えていた薬草なのじゃ。その薬を与えるとなると法外な金額が必要となる」

一旦口を閉じ、口篭もりながら医者は続けた。

「それでも良ければ行くがいい」

「もし金が都合できず、それでも薬が欲しいとすれば?」

「わしにはわからん。トルコドに頼んでみればあるいは。しかし彼はフィル人じゃ。・・・わかるじゃろう?」

クワイ=ガンは表情を固くした。しかし、彼はすかさず応えた。

「ええ。でも行ってみます。このまま彼を死なせる訳にはいかない」

「健闘を祈っておる」

「貴方に対する謝礼をしなくては」

「いらん、わしは何もしておらん。それに・・・久しぶりにジェダイを見れたのじゃ。それで充分じゃ」

この後、金がいくらあっても足りない状況になると慮ったのだろうか。

彼が無言のうちに感謝を込めてお辞儀をすると、医者は去っていった。

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