地を駆けるオビ=ワンの傍らに弟子の姿はない。
初めこの任務をマスター・ヨーダやマスター・ウィンドウから課せられた時、オビ=ワンは即座に決めた。
この任務にアナキンを連れて行くのはやめよう、と。
両マスターからすんなり得たその了解も、弟子の前ではおいそれとは運ばなかった。
自分に輪をかけて頑固な少年は、絶対一緒に行くと言って聞かなかったのである。
時々自分の導き方が間違っていたのではないかという憂鬱の原因ともなっている彼の者は、
「僕は任務に行きたいんだ、マスターと。聖堂にいたってつまらないし。それなのに、どうして?」
と頭痛の種にならんばかりに言い募る。
「つまらないなんて言うものじゃない。いいか、お前はまだ学ぶべきことがたくさんあるのだから、今回はだめだ。大人しく待っていなさい」
実際、頭痛を引き起こしたかもしれない。こめかみを押さえつつ、忍耐が擦り切れるかと思いながらもオビ=ワンはそれでも平静に答えた。
クワイ=ガンに忍耐強くなった今の自分の姿を見せてやりたいよ、と溜め息混じりに考えつつも。
「僕だけ残るなんて、つまらない・・・」
尚も言うことを聞かないパダワンに業を煮やしたジェダイ・ナイトは、ついに弟子に向かって余り口にしたくなかった言葉を言わざるを得なくなった。
「アナキン?」
と呼びかけて腰をおろし、少年の目と視線を合わせる。目の前の青い双眸には激しい感情が渦巻いているのがわかった。ジェダイに相応しくない思いが。
(感情を抑えることをもっと学ばせないといけないな)
内心溜め息を零し、それから、自分を真剣な表情で見つめて、掛けられる言葉を待っている弟子に対して声を発する。
「今回の任務は危険だ」
「ジェダイの任務に危険はつきものでしょ?」
「それに」
やや声を荒げて少年の言葉を遮った後、彼は静かに口を開いた。
「お前には言いたくなかったが・・・今回の任務は奴隷商人を捕まえることだ。だから、お前には ――」
アナキンは自分が奴隷であったことを快く思ってはいない。負い目にさえも感じているだろう。
彼を弟子として1標準年。二人の間の絆はまだ脆く、均衡を保ってはいない。いついかなる時に崩れてもおかしくはない危うさがある。ゆえに、オビ=ワンは彼を刺激させる言葉を使いたくはなかった。―― 本来ならば、全てを打ち明けることこそ、弟子を信頼していることに繋がるのだろうが。
師の言葉を聞いて少年は顔を曇らせて俯いた。
(やはり言うべきではなかった)
後悔の念がオビ=ワンの心を苛む。
アナキンの中では荒々しい感情が吹き荒れているに違いない。以前も奴隷という言葉をかけられ、激しい怒りを相手にぶつけたことがある。
そして、確かに弟子のフォースが苛立ちを含み燃えあがったようにも感じられた。
しかし、それは一瞬のことで。
不意にアナキンは顔をあげた。その瞳には怒りの影もない。その上
「奴隷商人を捕まえるの?それだったら僕も行く!!悪い奴をこらしめてやるんだ」
とすっかり乗り気になってしまった。
火に油を注いだとはまさにこのこと。オビ=ワンは天を仰いだ。
その後、マスター・ヨーダの取り成しを受けて、ようやくアナキンは聖堂に残ることを了承したが ――
(わずか10標準歳の子供に手を焼かされるとは・・・)
とオビ=ワンが暗雲たる気持ちになったのは否めない。
だが、それは今考えるべき問題ではない。この一瞬に集中せねばならない。
彼は気持ちを引き締め、どこに敵が潜んでいるとも知れぬ前方の闇に目を凝らしつつ駆けた。
不意に目を細める。フォースがざわめく。
オビ=ワンは立ち止まると、手にしたライトセーバーのスイッチを入れる。途端に低いハム音が響き渡った。その音は彼に安心感をもたらしてくれる。
緑の光を左右に軽く振って、ジェダイ・ナイトは精悍な顔つきを闇夜に浮かびあがらせた。
「どうした?向かって来ないのか?」
静かに、しかし、通る声で訊ねる。やや揶揄する口調も込めて。
だが、返事はない。
「ならば、こちらから行くぞ」
その声が放たれた後、オビ=ワンの姿はその場から消えた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「伝説、ですか?」
「そうだ。お前はこの像が、ここの住民の姿とは似ても似つかないことに気づいただろう?」
「確かにそうですね」
と言って少年は考え込んだ。
この惑星の住民は、深緑色の艶やかな髪を持ち薄い緑色の肌を持つ、ひょろっとした姿をしていた。目は大きく口も大きい。耳も尖っている。
しかし、像は。
どちらかと言えばヒューマノイドのようである。その背に携えた翼を除けば。
思案に暮れている弟子に蒼き双眸をちらりと走らせ、クワイ=ガンは腕を組みつつ穏やかな声で語り始めた。
「今から遠い昔。まだこの惑星が混沌としていた頃、人々は今日食べる物にも事欠く貧しい生活を送っていた。彼らはまだ農耕という言葉も知らず、勿論、機械やドロイドなどという文明にも触れたことがなかった。それを教えたのが、ある日突然、空から舞い降りてきた翼を持つ人々だったそうだ」
「空から舞い降りた・・・」
舞い降りるといっても船から飛び降りたんだろうか?それとも他の惑星から来たのか?でも通常、惑星と惑星の間には宇宙というものがあって、そこには酸素は無い。それなのにどうやって?あ、でも、真空でも生きていられるギヴィン達のような種族だったら、大丈夫かも ―― とオビ=ワンは当たり前のような、それでいて神話や伝説を語るには夢も欠片もないような考えを思わず抱いた。
そんな少年の思いを汲んだのか、クワイ=ガンは悪戯っぽく笑う。
「不思議だろう?おそらく宇宙船などでこの惑星を訪れたのだろうが、本当の所は誰にもわからない。ただ言い伝えではそのようになっている」
一旦口を閉じてジェダイ・マスターは視線を澄みきった空に向け、それから弟子に移すと再び口を開いた。
「翼を持つ人々は、住民に田畑を耕し穀類を育てることを教え、持ってきた様々な機器で彼らの生活を楽にした。人々は最初はそれだけで満足していた。だが・・・」
「それだけでは飽きたらなくなったのですか?」
「そうだ。欲を知れば知るほど、人の欲は限りなく大きくなるものだ。彼らも例外ではなかった。翼を持つ人々が持ってきた機器を争って、諍いが起こるようになった」
ありがちな話だ、とクワイ=ガンは思う。
ジェダイとして数十年活躍してきた彼にとってこのような諍いことは呆れるほど見てきた。しかし、人というのは同じ過ちを繰り返すものだ。過去の教訓を学んでいないはずはない。だが、繰り返す。そうして滅びてきた文明は幾多もあっただろう。けれども、そのように滅びに近づくまで人々はその過ちに気づかないことが多い。
決して数多いとは言えぬジェダイ達だが、そのように道を踏み外しかけた人々を正しい道に戻す指針になれば良いとも、彼は考えている。
ふと物思いに耽ってしまったクワイ=ガンは、自分を真剣、且つ気づかわしげに見やる弟子に気づき、心配無いと微笑を浮かべて言葉を続けた。
「そんな彼らに愛想を尽かし、翼を持つ人々は空へ帰っていった。一人、また一人。だが、残った者が一人いた」
「それが、この像の少女ですか?」
「あぁ。彼女は住民達が心を入れ換えて平和に暮らすことを望んでいた。しかし、事態は一向に良くならず、却って一人残った少女を巡っての争いにまで発展した。ここにおいて、彼女はついにこの惑星から離れることを決意したのだ」
「・・・その後、どうなったのですか?」
「少女が去った後、惑星に激しい戦いが起きた。何年も続くような激しい戦いだ。だが戦いで荒廃した大地や自然、そして、荒んだ自分達の心に気づいた彼らは、争いをやめて平和的に生きることを決めたのだ。決して文明的とは言えないが、身分不相応のものは求めず、自らの足を大地につけた堅実な暮らしを送ることを」
厳しい表情を浮かべていた顔を和らげ、クワイ=ガンは弟子を見つめて穏やかに述べた。
「人々は戦いを、自分達の行いを戒めるために少女の像を造った。だが、初め、その像には二枚の翼がついていたという」
「それが何故?」
不思議そうな弟子の問いかけに、師は白亜の像に蒼き双眸をそそぎながら囁くように答えた。
「この伝説には続きがある」