Xmas三部作   作:秋鹿

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第3話 光輝き羽舞う

次の瞬間、しなやかな獣の如くジェダイ・ナイトは宙に跳躍していた。

道を挟んで右手に立つ家の屋根に音も無く飛び降りる。

着地したその目前には、男が驚愕した表情を顔に貼りつけたまま立っていた。

オビ=ワンは間髪入れず身を潜めて体を捻ると、相手の鳩尾に肘を叩きつける。身を折って痛がる所を上からセイバーの柄で頭を殴った。

声もなく屋根に崩れ落ちる男に目もくれず、彼はすかさず道を隔てて左側に聳える家の屋根に飛び移る。

レーザービームが闇を切り裂いた。オビ=ワンの動きを予期していたような攻撃。

だが、それを意に介す事もなく、彼はライトセーバーを薙ぎ払う。体を回転させては上から切り下ろした。ビームが次々と偏光される。

数秒後にはブラスターを構える敵を視界に捕えていた。オビ=ワンは屋根を蹴る。

空中で身を捻って敵の背後に飛び降りると、相手が振り返るのを待つまでもなく、後ろから首の急所に手刀を叩き込んだ。

攻撃がやむ。

ジェダイ・ナイトはライトセーバーを八双に構えたまま辺りを窺った。

光刃に照らされた顔には静謐さと精悍さが漂っている。

青緑色の瞳を周囲に凝らした後、しばらくして脅威は去ったと見るや、彼はローブを翻して石畳の道に軽やかに飛び降りた。

 

足音さえ立てず駆けていたオビ=ワンは、不意に地面を転がった。

一瞬前までいた地にレーザービームが突き刺さる。

彼は体勢を整えつつ家壁に背をつけた。

またもや飛んでくる光弾をやり過ごすと、オビ=ワンは地を蹴った。

前方の闇の中、二つの影を認める。

ビームが頬を掠めるのも構わず身を躱しつつ距離を縮めると、彼は緑の光を一閃した。

ブラスターが握った右腕ごと宙を飛ぶ。

怒号と悲鳴の混じった声をあげて地に跪く男を尻目に、大きく身を転じると今度は左上から切り払った。

金属音のようなものが石畳に響く。

銃筒を切断され、もはや光弾を出す事も叶わなくなったブラスターを構えた男が引きつった表情を浮かべていた。

オビ=ワンはその様子に口元を緩めると、腹部目がけて回し蹴りを放った。

男は吹っ飛び、石畳に叩きつけられる。

「まずい」

余りにも綺麗に蹴りが決まったために勢い良く飛んでいった男を心配して、ジェダイ・ナイトは彼の元に駆け寄った。

痛みで呻いているが大したことはなさそうだ。

オビ=ワンはホッと胸を撫でおろした。

その時。背後から低い声がした。

「動くな」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

長身のジェダイ・マスターは遠くを見るような表情を浮かべて語り始めた。

「それから数十年、数百年と経った。そんなある時、この惑星は他の惑星から来た種族から侵略を受けたのだ。大して文明も発展しておらず、また自然がたくさん残っているこの惑星は、侵略者達にとってみれば攻めやすく、また天然の宝庫にも思えたのだろう。侵略者達の圧倒的な武力の前に、惑星の住民の多くが成すすべなく倒れていった。残された者達はただ天に祈るしかなかった」

「その時、また翼を持つ人々が現れたんですか?」

「いや、違う」

クワイ=ガンはオビ=ワンに柔らかな視線を転じて話を続けた。

「両親を殺された一人の子供が、この少女の像に向かって祈ったのだ。助けて欲しいと。心からの願いを。必死にな。その時、像に異変が起きたのだ」

効果を狙ったかの如く一瞬、彼が間を置くと、この話に惹き込まれたような少年の真剣な眼ざしがひしひしと感じられる。

その様子にジェダイ・マスターはわずかに頬を緩め、ややあって顔つきを変えると重々しい口調で言った。

「像が光り輝いたかと思うと、像から生えている翼の片方が突然、本当の翼のように変化したのだ。次の瞬間には、下から一枚一枚羽が抜け落ち、抜け落ちる側からその羽は空中に熔けるように掻き消え、やがて片方の翼は完全に姿を消したそうだ。それから何が起きたと思うか?」

「・・・わかりません」

「空が一転して鈍色に変化し、厚い雲が上空を覆った。そして、そこから純白の無数の羽が舞い降りてきたのだ」

「羽ですか?本当の?」

「本当の羽だ。だが、それは徐々に雪に変じた。やむ事なく降り続いた雪は地に積もり厚みを増し、大地をすっかり覆ってしまった」

理解の範疇を越えた話を聞いたような気がしてオビ=ワンは呆然と師を見つめるばかり。羽が雪に変わる?どうやって?

パダワンの戸惑いを楽しむかの如く、クワイ=ガンは口の端をあげ悪戯っぽい瞳を煌かせる。

伝説は如何ようにも変化する。事実とは別の方向で。語り手の意思によっても。美しい出来事や伝えたいことの強調されたものだけが後世に残っていくのだ。

そして、悩む少年の考えを別の方向に向けるべく、彼は再び話し出した。

「侵略者達は寒さに弱かった。多数の凍死者を出した彼らはついに侵略を諦めて、この惑星から去っていったという。住民達は助かったのだ」

ようやくオビ=ワンは理解の追いつかない事柄に拘泥するのをやめ

「この惑星は時期によって雪が降ると聞きました。それだったのでは?」

と自分の知識から導き出された問いを発する。

クワイ=ガンは、目の付け所はいいがまだ甘いぞといった雰囲気を漂わせて苦笑を滲ませると、弟子の肩を軽く叩いた。

「オビ=ワン、侵略というものは通常、侵略する相手の事を調査、研究し、自らに勝ち目があると思った時に行うものだ。つまり、侵略者達は絶対雪など降らない時期を見計らって攻め込んだ。だが、雪は降った。これには住民達も心から驚き、そして、少女の像のおかげだと信じて信仰の対象にしたという。この像はそれ以来、『片翼の乙女』と呼ばれているそうだ。そして、願いをかける者が後を断たないという。願いをかけた時に、もしその願いが叶うのなら、像が光輝くそうだ」

この美しい像が光に包まれたら、さぞかしその神々しさは筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。師弟はしばしそんな想いに囚われた。

しばらくしてオビ=ワンはポツリと訊ねる。

「本当でしょうか?」

「試してみるか?」

悪戯っぽく微笑む師に少年はかぶりを振った。

「いいえ。ジェダイはそういった伝説や神々といったものに頼る訳にはいきません。いざという時、頼ることができるのは自分だけですから」

驚いてクワイ=ガンはオビ=ワンを見つめた。像を凝視する少年の横顔には凛々しさが滲み出ている。

その姿は眩いような、それでいて目を見張るようなそんな微妙なものであり。ジェダイ・マスターは感嘆の声を漏らした。

「立派なことを言うようになった」

「誉めていると受け取っていいんですか?」

「好きなように」

そっけないその言い方に少年は内心穏やかならず、師に傷ついたような視線を投げかける。

だが見返すクワイ=ガンの蒼き双眸は限りなく優しい。宇宙の深遠を思い起こさせるその瞳に、オビ=ワンは気持ちが落ちつくのを感じた。

師は穏やかに問うた。

「オビ=ワン、もしお前が願い事をするならば、何と願う?」

「そうですね・・・。貴方に負けないぐらい立派なジェダイ・ナイトになれますように、かな?マスター、貴方は?」

「私か、そうだな。ありふれた願いではつまらないだろう。お前が進むべき道を踏み外さないよう、私が光となってお前の足元を照らすことができるように、とでもしておこうか」

「僕は道を踏み外したりしません」

少年は心外なといった風にムキになって言い返した。

「そうかな?だがお前のことだから、心配で目が離せそうにもない」

クワイ=ガンの瞳が悪戯っぽく煌く。

からかわれているのは重々承知だが、それでも真剣に言い返してしまう彼がいる。

「信用してくださいっ」

「善処しよう」

師は笑いを含んだ優しい眼ざしで答えた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「武器を捨てろ」

殺気を漂わせた声に、オビ=ワンは跪いてスイッチを切ったライトセーバーを地面にそっと置くと、ゆっくりと身を起こして両手を上にあげた。

「よし、こっちに顔を見せろ」

その声にも素直に従う。

目を細めて見やれば、ほんの数歩先にブラスターの銃口をこちらに向けた男が一人立っていた。

いや、もう一人。こちらは右手に立つ家の屋上に佇んでいる。手には同じくブラスターがあった。

「やはりジェダイだったんだな。俺達の邪魔をしやがって ―― 死んでもらおう」

その声にも、この危機にも動じることなく、ジェダイ・ナイトは両手を軽く振る。

途端に、ニ丁のブラスターは彼の手の内にあった。

敵が驚く間もなく。

オビ=ワンは右手を前に突き出す。屋根に立っていた男が、不意に何かに押されたようにバランスを崩して地面に叩きつけられた。

それに目を転じる暇もなく。

駆けざまジェダイはライトセーバーを呼び寄せると、素早く起動させて目前に立つ相手に突きつけた。

男はゴクリと唾を呑む。

光輝く聖なる剣の切っ先が、彼の喉元わずか手前で止まっていたからだ。男の顎鬚を焼く臭いまで漂ってきそうなほどの。

「まだ抵抗する(やる)つもりか?」

静かで澄んだ問いかけが響く。

「―― 参った」

 

惑星の公安部から借りてきた電子手錠を取り出すと、男を後ろ手で拘束し道端に転がしておく。それからあちらこちらで呻いている、すっかり戦意の無くなった男達を引き摺るように連れてきては一ヶ所にまとめておいた。

こうしてやっと溜飲を下げたオビ=ワンはユーティリティベルトからコムリンクを取り出した。

「ケノービですが」

出た先に名乗り、奴隷商人を捕まえたことと現在置を伝え、応援を要請した後で彼は通信を切った。

間もなく公安部が来るだろう。

商人達をコルサントの司法に引き渡すまでが任務だが、一段落ついたことに安堵してオビ=ワンは腕を組み家壁に寄りかかると、夜空を見あげた。

刺すような冷気が漂う中、厚い雲のわずかな隙間から見おろす星々が、彼の健闘を称えるかの如く煌いていた。

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