公安部に奴隷商人達を引き渡し、コルサントへと連れて行くまでの一晩の間 ―― といっても、もう夜明けに近い時刻だったが ―― 留置所に彼らを拘留してもらう事を依頼し、また公安部の力添えに感謝した後、オビ=ワンは同行を丁寧に断って独りでゆっくりと宇宙港に向けて歩き始めた。
これによって全銀河から奴隷商人がいなくなる訳ではない。だが、その取っかかりにでもなればいい、と思う。
彼の若き、そして、多感な弟子のためにも。
(あの子には本当に振り回されてばかりだ)
と苦笑気味に微笑む。
(だから、気が紛れていい。彼のことを考えずに済む ――)
オビ=ワンは不意に訝しげに目を細めて立ち止まった。
考え事をしていたせいで、ここに足を踏み入れているとは思ってもいなかったのだ。
先ほど通り過ぎた広場に。
白亜の堂と『片翼の乙女』はあの時のまま、あの時と同じように美しい姿のまま彼の前に立っている。
そして、それと同時に。
クワイ=ガンと交した会話が昨日のことのように思い起こされ、涙で視界が滲みそうになる。左腰に下がっている形見のライトセーバーが、不意に重みを増したようにも感じられた。
その会話は過去のものとするには、まだ生々しかった。例えそれが、約10標準年前の記憶であっても。
オビ=ワンは思いとは裏腹に静かに像に近づいた。
あの時も少女の毅然とした美しさに打たれたものだが、今となって見れば違った思いも浮かんでくる。誰かに似ているのだ。
(あぁ、アミダラ女王だ)
思いついて彼は震える唇で無理矢理笑みを形作った。
女王アミダラから惑星ナブーを連想してオビ=ワンは静かに嗚咽を堪える。父親とも思える大切な人を亡くした彼の地。痛みが消え去ることは有り得ない。
いつもは傍らにアナキンがいるから悲しみを見せずにきた。弟子の前で悲嘆に暮れている姿を見せたくなかったし、アナキンを導くことに精一杯でクワイ=ガンに想いを馳せる暇もなかった。
だが、今は。泣いている彼を咎める者は誰もいない。
師を失った悲しみが癒える時は来るだろうか?いつかは来るかもしれない。時が解決してくれるだろう。
だが、今は。泣かせて欲しかった。心ゆくまでに。
堰きを切ったように涙が頬を伝う。
肩を震わせ声を殺して泣く彼を、慈愛の微笑を浮かべた乙女が静かに見つめていた。
しばらく静かな時が流れた。
オビ=ワンはようやく顔をあげた。溢れる涙は既に止まっている。気持ちも幾分落ちついてきた。
ふと彼は自分を包み込む冷気に気づいた。
涙に濡れた頬が冷たく凍りつくようだ。吐く息はすっかり白い。夜明けを前にして温度が急激に下がったのかもしれない。
(今、ここで私が凍え死んだら、留置所にいる奴隷商人達を喜ばせるだけだ。船に戻った方がいいだろう)
自嘲気味に自分に言い聞かせると彼は踵を返そうとし、ふとその動作を止めた。
ジェダイ・ナイトは『片翼の乙女』に青緑色の双眸を向けた。
深い意味はなかった。あろうはずもなかった。
しかし、彼は小さく何事かを呟いた。言った側から、そんな自分に驚きの表情を浮かべる。
自らの取った行動に呆れたように彼は頭を軽く振り、像に背を向けた。
その時、だった。
厚く夜空を覆っていた雲が切れた。月が姿を見せる。雲間から覗く冴え冴えとした月の光は真っ直ぐ堂の天窓から射し込み、それに照らされ白亜の像が光り輝いたのだ。
オビ=ワンは振り返ると声もなくその姿を凝視した。神々しいまでの美しさと神秘さ。
これが ―― 願いが叶うのなら像が光輝くといった現象なのか?それとも単に月の光に照らされただけなのか?
だが、今のオビ=ワンにはどちらでも構わなかった。
悲しみの刻まれた顔が徐々に穏やかになり、彼は口の端に笑みを浮かべて『片翼の乙女』に軽く礼をすると、今度こそ堂を後にした。
すぐに月は雲に隠れた。鉛色の空から純白な羽が舞い降りてくる。
一枚。
そして、また一枚。
だが、それは羽ではなく。
緩やかにひらひらと揺れ落ちる白い雪は、広場に敷きつめられた石畳に触れて静かに溶けていった。
彼が漏らした呟きと共に。
『私が進む道を光となって照らしてください。いつまでも私を見守っていてください、クワイ=ガン ――』
雪は静かに降り積もる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今宵、全銀河に住まう者達に ――
遠く離れて今は会えない大切な人にも、心からの願いが届きますように
―― Merry Christmas....
End
(2002年12月執筆)
*名もなき惑星は架空のものです。
*乙女座の神話を少しベースにしています。
*惑星の街の描写は、中世ヨーロッパをイメージしています。
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Xmas三部作 第三弾です。
気に入っている作品の一つです。
スター・ウォーズはスペース・ファンタジーではありますが、この作品ではファンタジー色をなるべく出さないように書きました。あまりファンタジー、ファンタジーしているのは、ちょっとSWじゃない気がして・・・。いや、ファンタジーは大好きなんですけどね。