その夜 ――
昼間には止んでいた雪が、粉雪のように空から舞い降り始めていた。凍えるような寒さにより溶けずに残っている雪がだんだん降り積もり、道や家々、庭などに層を成し美しき白い世界を演出していく。
Dr.トルゴトと何やら話をしていたクワイ=ガンは向き直ると、邸宅の玄関から外に出た。
不意に、雪降る星無き夜空を見つめる。
「儚いものだ。儚く・・・だからこそ美しいのだろう」
そして、フッと自嘲的な笑みを漏らした。
「いかんな、こんな感傷に浸るとは」
「マスター!!」
玄関から勢いよく弟子が駆けてきた。
白い息を吐き出しながらクワイ=ガンの横に立つと続けて言う。
「僕も手伝います」
「大丈夫なのか?」
「すっかり元気になりました」
明るく応えるパダワンに目を細めると、クワイ=ガンは微笑んで言った。
「では、手伝ってもらうことにしようか」
「はい、マスター」
にっこり笑う少年に笑みを返すと、二人は道に停めてあった屋根つきランド・スピーダーに乗り込んだ。
「マスターがスピーダーの運転ができるとは思いもしませんでした」
「意外そうだな」
「見たことがなかったものですから」
「これでも結構運転は好きなのだが?今まで見せる機会がなかっただけだ」
「今まで運転する機会もなかったですよね」
にっこり微笑んでオビ=ワンが返した。
その言葉に反応し、クワイ=ガンは笑みを向ける。
「そうとも言うな。しかし、このスピーダーは昨日から運転している。上手くなっただろう?」
オビ=ワンはクスクス笑った。
今時スピーダーの運転なんて子供でもできる。それなのに得意になっている師に笑いを誘われたのだ。
「笑い過ぎだ、オビ=ワン」
やんわりと悪戯っ子のような瞳に窘められ、オビ=ワンは慌てて真顔になろうとして、見事に失敗した。
止まらない笑いから逃れるように急いで話題を変える。
「そ、そういえば、・・・昨日からこのスピーダーを運転して」
言葉を切って呼吸を整えると、ようやく笑いが収まった弟子は再び口を開いた。
「何をしていたんですか?あの医師が言っていたマスターを役立てるということと関係がありますか?そして ―― 」
と後部座席を振り返り
「あの袋の中身は何ですか?」
と締めくくった。
クワイ=ガンはハンドルを右に切ると、助手席に座るパダワンにちらりと視線を向けた。そして、また前方を見つめると静かに言った。
「惑星フィルの首都フィルにおいて今日は聖誕祭なのだ」
「聖誕祭?誰のですか?」
「フィルの総督だ。初めてこの惑星に根を下ろした入植者の一人と言った方が正しいかもしれないな。そして、彼は入植者達のリーダーとなりこの街を造りあげた。その功績を称えるために彼が生まれた日を祝うようになったそうだ」
「それとこれと、どんな関係が?」
「好奇心が旺盛なのは認めよう。だが、まだまだ忍耐が足りないな?パダワンよ」
「・・・はい、マスター」
注意されオビ=ワンは恥ずかしそうに俯いた。
クワイ=ガンは、高熱で暖められた窓に当たる粉雪を眺めながら、ハンドルを操作する。
そして、言葉を続けた。
「毎年聖誕祭になると、当日及びその前日とかけて、市内の子供達にプレゼントを配るそうだ。それは総督が交替しても変わらず、また代々の総督が配る役目を担っている。しかし、今年は現総督が怪我により足を痛めて配れる状態ではない。それを知っていた総督づきの医師トルゴトが私に目をつけ、配る役目を依頼したということだ」
オビ=ワンは納得したという風に頷いた。
「マスターは体力があるように見えたんですね。しかし、子供達がいる家ってどのくらいあるのですか?」
「そうだな、昨日私が一晩中配って歩いてもまだ半分もいかなかったから、相当数あるだろう。全部で15,000軒はあるかもしれない」
「そんなにもっ!?それでマスター、疲れていたんですね。でも、代々の総督は一人で全部配り終えていたのですか?」
「フィル人の体力とスピードは我々人間の三倍以上はある。大したことではないそうだ」
大したことだと思うけど・・・と内心呟き、オビ=ワンは別の疑問を投げかける。
「全ての家庭に子供がいる訳ではないですよね?子供がいるという目印でもあるのですか?」
「子供がいる家には、玄関のドアに人数分のカラフルに飾りつけられた袋が架かっている。それにプレゼントを入れるのだ」
粉雪は降り止まず、ランド・スピーダーに向けてひらひらと舞いながらぶつかってくる。そして熱を発する窓に触れると瞬時に消えさっていった。
そんな様子に静かな眼ざしを向けながら、若きパダワンは真剣味を感じさせる声で言った。
「もう一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「フィル人は必ず見返りを求めると聞きました。それなのにプレゼントを配るというのは?」
「いや、総督はただプレゼントを配っている訳ではない。その袋の中を見てみなさい」
オビ=ワンは後部座席に鎮座している袋から、ラッピングされたプレゼントを取り出した。それらは全て同じ姿格好をしている。
「この薄さ、この形からいくと、もしかしてデータカードですか!?」
「そうだ。その中にはフィルや銀河の歴史が入っている。今年はフィルに棲息する動植物のデータだそうだ。毎年違った情報が入ったデータカードを配るらしい」
「・・・子供達は喜ぶんでしょうか?」
聞いてオビ=ワンは正直な感想を漏らした。他の贈り物の方が喜ぶのではないだろうか。
「私が昨日配っている時、子供に直に渡す機会があったが喜んでいたぞ?フィル人の子供は勉強好きらしいな」
クワイ=ガンは口の端を持ちあげると、右横に座っている弟子に視線を走らせる。お前はどうかな?という意味を含めて。
しかし、それに気づかず、少年は納得がいかない様子で問いを続けた。
「はぁ・・・。でもそれと見返りがどう?」
「フィルの子供達が自分達の惑星及び銀河について詳しくなり賢くなれば、フィルは外からの脅威にも耐えられる惑星となる。首都フィルがずっと存在すれば、その分、代々の総督の名は歴史として残り永遠と語り継がれる。それが見返りなのだ」
「不思議な感じがしますが、一理ありますね」
「オビ=ワン、全てを自分の常識内で判断してはいけない。銀河は広く、また様々な人種がいるのだ。他の人種の常識をも受け入れる寛容な心が必要だぞ?」
「はい、マスター」
真剣な表情を見せオビ=ワンは重々しく頷いた。
再びハンドルを切ると、ヘッドライトの灯りが雪に埋もれ行く家々を幻想的に浮かび上がらせた。
スピーダーを減速させつつ、クワイ=ガンがポツリと言葉を発した。
「お前もこのプレゼントをもらうがいい」
「いいんですか?」
オビ=ワンは驚く。総督から子供達へのプレゼントなのに。
口の端を上げるとクワイ=ガンは
「トルゴトからプレゼントは多めに用意してあると聞いた。一つぐらいいいだろう。私からの贈り物だ」
と悪戯な表情で微笑んだ。
少年もニヤリと笑い返し、そして、訊ねる。
「では、マスターも何か見返りを求めますか?」
「私はお前が私の精神を受け継ぎ、ジェダイ・ナイトになって立派な弟子を育てていくことを求めよう」
「はい、マスター。いつも心に刻みつけておきます」
「よろしい。さて、着いたようだ。今日はここから南に向かって配ることになっている」
二人はスピーダーから出た。雪の上に足を降ろすと粉雪がギュッギュッと音を立てる。
素早く防寒着を纏うと、彼らはプレゼントを二分し袋に入れ背中に担いだ。
「では、マスター。どちらが早く配り終えるか競争ですよ?」
「いいだろう」
クワイ=ガンが微笑み頷くと、オビ=ワンは嬉しそうに駆け出した。やはり雪と戯れるのが楽しいようだ。
少年はしばらく走っていたが、やがて立ち止まり振り向くと、辛うじて聞こえるほどの大きさの声でこう叫んだ。
「あ、そうだ、マスター?マスターだって、あのレストランのデザートやアイス、僕と同じぐらい食べてましたよ」
「そうだったか?」
頬を緩めるクワイ=ガンに、にっこり微笑むとオビ=ワンは駆けていった。
その後姿を見ながらジェダイ・マスターは微笑み、独りごちた。
「"父さん"か・・・。それも悪くない」
今宵、全銀河に住まう者達に ――
―― Merry Christmas....
End
(2000年12月執筆)
*惑星フィル、及びフィル人は架空の存在です。ただし、フィル人は、超有名なエイリアン、グレイの背を高くして、腕を増やし、緑色にしたものと思ってもらえれば正解です。
*Dr.トルゴトもオリジナルキャラです。
*ザナトスとバントはJAのキャラクターです。ザナトスはオビ=ワンの兄弟子、バントはジェダイ聖堂におけるオビ=ワンの友達で、カラマリアンの少女です。カラマリアンとは何ぞや?という方は、旧三部作のアクバー提督を思い出していただければ・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
Xmas三部作 第一弾です。
年に一回Xmasの時期に、こういったXmas仕様のFanFicを書いてSWサイトに投稿してきました。全部で三編あるので、サイトを運営していて三回Xmasを迎えたことになります。・・・感慨深いものがありますね。
ところで、実はここだけの話、この「Holy Night」、以前のSWサイトでは「聖夜の祈 -Seiya no Inori-」というタイトルで、冒険譚「銀河彼方での物語」の8番目という位置づけで投稿していました。しかし、今回、「Xmas三部作」という形でまとめるにあたり、冒険譚から引き抜きました。
それから、Xmasって、日本では男女間が一般的ですけど、アメリカとかでは家族や親しい人達で祝ったり過ごしたりというイメージがあります。三編とも後者のイメージで書きました。