ゴンッ
「いたっ・・・」
三度目オビ=ワンは尻餅をついた。お尻をさすりながら辺りを見やる。今度はどこだ?
「誰かおるのか?」
ヨーダの声が聞こえた。マスター・ヨーダの部屋だっ!!しかし、"いつの時代"のマスター・ヨーダの部屋なんだっ!?
とりあえずオビ=ワンは跪くと唾を飲み込んで慌てて答えた。
「マスター・ヨーダ。オビ=ワン・ケノービです」
「おぉ、オビ=ワンか。待たせたの」
返ってきた言葉を聞いて、オビ=ワンは安堵の吐息を漏らした。
30標準年前のマスター・ヨーダだったら、彼のことを知っているはずがない。ということは戻ってきたんだ。彼がいるべき世界に。
小さなジェダイ・マスターは杖をつきながら隣りの部屋から現れた。しなびた顔はいつ見ても眠そうに見えるが、その眼光は心の奥底まで見透かすように鋭く、その叡智は銀河の果てまで鳴り響いている。
少年は急に思い出した。
(あのホロ・プロジェクターはっ!?)
顔は固定したまま急いで目だけテーブルの上を彷徨よう。ところが機械には何ら変化はなく、何事もなかったかのようにそこに置いてあった。
ヨーダは何を言う訳でもなく少年の周りをゆっくり歩き回っていたが、不意に
「もう用は済んだのじゃ。帰るがよい、お前はな」
とポツリと漏らした。
「え?」
驚くオビ=ワンに
「わしは忙しいのじゃ、さぁ、帰った、帰った」
とヨーダは邪険に杖を振り払った。
要領を得ぬままに
「で、では、失礼します」
とオビ=ワンは立ちあがって一礼し、小首を傾げながらヨーダの部屋を辞した。
扉が閉まるとヨーダはホロ・プロジェクターに目をやり、満足そうな笑みを浮かべてその機械をそっと棚の奥にしまい込んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
指が机を叩くリズミカルな音が部屋中に響き渡っている。
クワイ=ガンはソファーに腰かけて、机の上にあるデータパッドの情報を読んでいた。
いや、目は読んでいたのだが心はここにあらず。彼の考えはオビ=ワンに飛んでいた。
少年がマスター・ヨーダの部屋に行くといって、かれこれ4標準時間が経っているのだ。
クワイ=ガンは無意識のうちに叩いていた机から手を離すと、両手を組み両膝に肘を乗せて顎を持たせかけた。
マスター・ヨーダは自分抜きで何をオビ=ワンに言っているのか?
確かにメリダ/ダーンの一件後、自分とオビ=ワンの間がギクシャクしていることは知っている。
ザナトスから受けた裏切りと同じものを、信頼し始めていたオビ=ワンから受けてしまった ―― そして、それは自分の心に深い傷跡を残した。
再び彼を信頼できるのだろうか?
彼はどうなのだ?
彼は ―― 再び自分に受け入れられようと必死になっている。
しかし、その期待に添えるかどうかはわからない。
彼のせいではない。彼のした過ちは受け入れよう。問題なのは自分の心だ。再び彼を信頼できるのだろうか?
思考は堂々巡りを続けていた。
これでは埒があかない。
気持ちを切り換えるためにカフでもいれようかと立ち上がったその時、弟子が帰ってくる気配が感じられた。
クワイ=ガンは何故か動揺し、何気ない風を装うが如く慌ててキッチンに向かった。
部屋のドアが開いて少年が姿を現した。
「ただ今戻ってきました」
視線をも合わさずに、クワイ=ガンはカフの仕度に専念しているように見せかけながら、さりげなく訊ねた。
「マスター・ヨーダとの話し合いは何だったのだ?」
オビ=ワンは何も答えず突然クワイ=ガンに抱きついた。困惑の表情を隠せないクワイ=ガン。
「オビ=ワン?どうし ―― 」
「マスター、ありがとうございます」
返ってきたその言葉にクワイ=ガンは思いっきり不意を突かれた。眉根をひそめつつ益々困惑する。
「何に対して?」
「全てに対して。貴方が僕のマスターであることに対して。僕が貴方のパダワンであることに対して」
クワイ=ガンはようやく向き直り少年を見おろした。
抱きついた格好によりオビ=ワンの表情は見えないが、彼のフォースからは嬉しさが滲み出ている。そして、何より、自分に対する深い信頼も。
今までにない自信に充ち、落ちついたフォース。クワイ=ガンの動向ばかりを気に病み、悩んでいた少年のものと同じとは思えないほどに。
彼のフォースは陽の光のように暖かく、クワイ=ガンの凍てついた心さえ融かすように思われた。
気づくと、無意識に抱き返し、少年の頭を優しく撫でている自分がいた。
悩むことはない。たった一歩。たった一歩踏み出せば良かったのだ。そうすれば彼も自分も、お互いを信頼することができる。前より強固に。
だが、しかし、その一歩が壁を造り、師弟の間を隔てていたとは。
クワイ=ガンは苦笑を漏らした。そして、先ほどまでの声とは違った優しい口調で問いかける。
「何があったのだ?パダワン」
弟子は顔をあげて微笑みながら手に持っていたものを差しだした。
「マスター、これを覚えていますか?」
クワイ=ガンはそれを見て愕然とした。
このクリスタルは確か自分がパダワンだった時にとても大切にしていた物の一つ。何時の間にか、どこかに失くしてしまったと思い込んでいたもの。何故これをオビ=ワンが?
クワイ=ガンはクリスタルを持ちあげて陽に翳してみた。
宝石の内部で燃えるような光が輝いている。その光が巨大に膨れ上がり自分を覆い尽くす気がして ――
「マスター?」
その瞬間、クワイ=ガンは思い出した。
いや、思い出したというのは正しくない。まるで封印されていた記憶が蘇ったかのようだ。
自分がパダワンだった頃、どこか親しみを感じる少年に出会ったこと。悩みを打ち明けられたこと。そして彼は未来から来て、自分の弟子であると言ったこと。クリスタルをあげたこと ―― を。
クワイ=ガンの表情に深い笑みが広がった。その少年は"今"、目の前にいる。
「また後で会ったな、パダワン」
思い出してくれたんだっ!!オビ=ワンの顔は輝いた。
「また後で会いましたね、マスター」
嬉しさでいっぱいになりながら、オビ=ワンは言葉を続けた。今まで ―― "過去"のクワイ=ガンと会うまでは、とても口に出せるなんて思わなかった言葉を。
「マスター、貴方は僕に大切なものをくれました。このクリスタルも。そして、貴方がとても大切にしていた河原で拾ったという石も。僕は貴方の弟子であることを誇りに思います」
「私こそ、オビ=ワン。お前のようなパダワンを持つことは名誉だと思う」
弟子の言葉は師の慈愛に満ちた声に歓迎され、二人はニッコリと微笑み合った。
「しかし、不思議なこともあるものですね」
銀河で広く飲まれている、豆を挽いて作られた
「今日は偉大なるジェダイ・マスターの生まれた日だからな。毎年その日には不思議で幸せなことが起きると聞く」
「そのジェダイ・マスターとは誰ですか?」
弟子の問いかけにクワイ=ガンは驚いたような、しかし、悪戯っぽい表情を見せた。
「なんだ、知らなかったのか?マスター・ヨーダだ」
その答えに逆に驚いたのがオビ=ワンだ。
「遥か昔のジェダイ・マスターって・・・」
「ヨーダは850年以上生きていらっしゃるからな」
850年以上も前のことなら確かに遥か昔のことである。
「そうだったんだ・・・」
と呟いた後、オビ=ワンは晴れやかな気分になりながら胸の内でこうも付け加えた。
(ありがとうございます、マスター・ヨーダ)
そしてクワイ=ガンも、師弟の絆がより強固になったことに関し、心の中で彼の人に感謝の意を捧げた。
(マスター・ヨーダ、この素敵な贈り物に感謝します)
今日は、遥かなる昔に誕生し、偉大なる足跡を残したジェダイ・マスターの生まれた日。
そして、毎年その日には、心温まる不思議なことが起きるという言い伝えがある ――
そして、毎年マスター・ヨーダがクシャミを連発する日でもあった ――
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今宵、全銀河に住まう者達に ――
あなたの大切な人に想いが伝わりますように
―― Merry Christmas....
End
(2001年12月執筆)
*メリダ/ダーンは「JEDI APPRENTICE」シリーズに登場する惑星です。
師弟は、囚われの身となった、クワイ=ガンの友人、タールを助ける任務のためにこの戦争真っ只中の惑星を訪れました。盲目とはなりましたが、無事に見つかったタールをクワイ=ガンはコルサントへ連れて帰ろうとします。しかし、子供たちでさえ戦いに加わっているこの星の現状を見たオビ=ワンは何とかしたいと思い惑星に残り、ついに師弟は袂を分かつのです。
のちにオビ=ワンはクワイ=ガンの元に戻りますが、裏切られたという思いが強いクワイ=ガンは弟子を信用できません。二人のギクシャクした関係はしばらく続く・・・といった内容でした。怪しい記憶によると。
*クワイ=ガンがオビ=ワンにあげたクリスタル。オビ=ワンが13標準歳になったときにあげた、河原で拾った石(笑)とともに、クワイ=ガンが大事にしていたもの・・・という記述がどこかであった気がします。ちなみに、河原で拾った石ですが、実はフォースを感じ取る石で、日に透かすと綺麗に光る優れものでした。
*ジェダイ聖堂の内部の描写はJAを参考にしています。千泉室は、英文をそのまま訳すと『千の泉のある部屋』でした。長いので仲間内では千泉室と訳していました。
*アディはアディ・ガリアのこと。バントはJAに登場する、オビ=ワンの友人です。
*それから、ヨーダの誕生日に不思議で幸せなことが起きる・・・かどうかはわかりません。また、ホロ・プロジェクターにタイムトラベル機能はおそらくありません(汗)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
Xmas三部作 第二弾です。
ちょっと、ほのぼのさせてみました。若い頃のクワイ=ガンとメイスがこんな性格だったかは・・・定かではなく(汗)
また、若き頃のメイスに髪があったかも・・・定かではなく(汗)
この二人って、若い頃、仲が良かったのかな?同い年だったかも怪しいのですが、私のFanFicに出てくる二人は比較的仲が良いので、そういった記述がスピンオフなりどこかにあったのかもしれません。怪しい記憶ばかりだ(苦笑)