舞台は名もなき惑星。
任務の途中、この惑星に立ち寄ったジェダイ・ナイト、オビ=ワン。広場にある白亜の像を目にして、以前、クワイ=ガンと共に訪れたときのことを思い出し ―― といった話です。
シリアスです。
第1話 片翼の乙女像
足音を忍ばせ、闇夜を軽やかに駆けて行く影一つ。
惑星の衛星である月の光が厚い鉛色の雲に覆い隠されている今、辺りを照らすのはさほど華美ではない町のイルミネーションのみ。
否。それだけではない。
影が手にした緑の光も石畳の道を薄明るく仄かに照らし出す。そして、ブラスターの光弾も、また。
体を躱し地を蹴って跳躍する。その足元をレーザービームが穿った。
寝静まった家々の石造りの壁を軽く蹴りあげ上空で身を翻すと、影はローブをなびかせて着地し、すぐさま緑の光を薙ぎ払う。
光に弾かれビームは前方の闇に吸い込まれた。
再び光弾が音を立てて向かってくる。
右上から切りおろすと、影は身体を横に一回転させ、その勢いを駆って左下に切り払った。
被害を最小限にしようとするその動きにより、ビームは次々と小道に敷き詰められた石を焦がすにとどまった。
不意に攻撃がやむ。静まり返る中をただひたすら逃げ去っていく彼らの足音が響く。
影は目印にならぬように手元の光刃を消すと、すぐさま先ほどと同じように目標を追いかけ始めた。
急に視界が開ける。
丸い大きな広場だ。目を転じると、狭い小道と同じように石で覆われたその円形の中心に、白亜でこしらえられた堂がぽつりと立っているのがわかる。
こじんまりとした古き堂。しかし、神聖で荘厳な。
ジェダイ・ナイト、オビ=ワン・ケノービはその堂にちらりと視線を走らせ、だが、素早く目を逸らすと、顔を強張らせたまま敵を追いつめに走った。
月さえも凍えるような夜。人々が安眠を貪る深夜。
彼が起こす微かな足音も途絶え、堂は何事もなかったの如く静かにそこに佇んでいた。過去も、今も、そして、これからもずっと。
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「マスター、あのお堂は何ですか?」
まだ若きパダワン、オビ=ワン・ケノービは傍らを見あげて問うた。
任務でこの惑星を訪れて無事に解決した今、あとはコルサントへ戻るのみ。
コルサントからの迎えが来るまでのわずかな時を、ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンとその弟子はのんびりと町の観光に当てていた。
余り文明的とは言えない。それほど高い建物もなく、家々は大抵二階建ての石造りのものがほとんどだった。通りと通りを結ぶ小道は入り組んでおり狭くはあったが、窓辺には色鮮やかな花々が飾られ、物を売り買いする人々の行き交う声が響き、慎ましいものではあるがそれを謳歌している住民の生活を垣間見せた。
どちらかと言えばのどかで牧歌的とも言えるこの町並み。だが、師弟はそれがとても気に入っていた。
そして町をそぞろ歩いている最中、町の中心に有る広場、その真ん中に立つ堂を見つけた時の少年の言葉が前出のものである。
腕を組みゆったりとした歩調で歩いていた彼の師はその方に視線を向け、
「聖なる堂だな」
と一声呟くと、口元に笑みを湛えつつ、堂目がけて歩き出した。オビ=ワンも遅れじと、慌ててその後を追う。
白い石で造られた比較的小さな堂だった。灰褐色の石で敷きつめられている広場にあって、その中央に立つ白き堂は光輝いているようにも見えた。かと言って突出している訳でもなく、周りと上手く調和された雰囲気を漂わせている。堂の周囲は綺麗に掃き清められ、堂自体もきちんと手入れをされていた。
ひさしのある屋根に囲まれた六角形の建物は、前方だけには壁がなく内部がそこから窺えるようになっていた。
天井にある六角形の窓から射し込む光を清らかに浴びて堂の中央に安置させられしもの ―― それは背に美しき大きな翼を持つ少女の像だった。
ただし、片翼の。
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(マスター・クワイ=ガン・・・)
その名は1標準年経った今でも、彼の心を苛み激しい悲しみをもたらすには充分過ぎるものだった。
青年は思わず手にしていたライトセーバーを強く握り締める。師の形見のライトセーバーを。
(いや、1標準年経ったからといって、決して色あせる事はないだろう)
との思いは過分ではなく、ジェダイ・ナイトとなり、タトゥイーンで出会った少年アナキン・スカイウォーカーをパダワンとして導き、忙しい日々を送っているにも関わらず、ふと気持ちの張りが緩んだ瞬間に喪失の痛みは訪れてオビ=ワンを悲嘆に暮れさせた。
仮にもし、ジェダイ・ナイトに叙せられたことによる師の喪失ならば、このような悲痛な思いはせずに済んだだろう。師の消滅が突然だったがゆえに。また彼自身に力があれば師を助けられたかもしれないとの罪悪感ゆえに。
心の傷は更に深みを増していく。
オビ=ワンは唇を強く噛み締めた。
(今はこの任務に集中しなくてはならない)
『お前は生けるフォースをないがしろにしがちだ。今、この一瞬に集中しなさい』
何度も窘められたクワイ=ガンの言葉が脳裏を横切り、それが新たな悲しみを呼び覚ます。
しかし、オビ=ワンは精神を統一して雑念を追い払った。
気持ちが乱されるようなことがあっても、ジェダイ・ナイトは逃げ去る者達を追おうとする足の動きを止めることはなかった。
ブラスターで応戦する彼ら。奴隷商人達を。
今回の任務。
それは暗躍する奴隷商人を捕まえることだった。
手掛かりを得て彼らとコンタクトを取ったオビ=ワンは宇宙空間で取引することに応じて、ある
身分を偽り貨物船を偽装して、奴隷商人の船に近づいたオビ=ワンだったが、商人達は彼の正体に感づいたようだ。以前から身辺を嗅ぎ回っていたのに気づかれたのかもしれない。
どちらにしろ、商人達は取引目前にして船首を廻らし逃げた。
そして、オビ=ワンは彼らを追うべく、貨物船に収納していたジェダイ・スターファイターを起動して追いかけた。最新鋭のスターファイターは商人達の船を追いつめ、彼らは苦し紛れにこの惑星に降り立ち、町中に紛れた。
彼らの船を押さえたオビ=ワンが、以前この惑星を訪れた時の記憶に従って公安部に連絡を取り、事の次第を告げて応援を要請したのが今から6標準時間前。
潜伏場所を見つけて大半の者は捕まえたが、口惜しいことに数人には逃げられた。
その彼らを追って、今のオビ=ワンがいる。
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少女の像は堂と同じく白亜でできていた。
薄い滑らかで簡素な服を流れるように身に纏い、幾分首を傾げて目を閉じ口に微笑を浮かべ、差し出しているかの如く両腕を軽く広げている美しき像。
その微笑みは見るものの心を和らげずにはいられない。その広げた
これを造った者の心が表れているような、一個の美術品とも言える素晴らしきものであった。
尚且つ、それでいて余所余所しさは感じられない。親しみさえも覚えるその表情。
オビ=ワンはしばらく見惚れていた。
「どうした?」
との悪戯っぽい師の声がかかるまで。
「い、いえ・・・」
彼は我に返って慌てて返答し、それから取り繕うように言葉を続けた。
「綺麗な像ですね」
「そうだな。心が洗われるような像だ。私は任務中、この像を見る度に思ったのだ。これはまさにジェダイの精神を具現化しているものではないか、と」
「ジェダイの精神を具現化・・・?」
「全ての命を慈しみ愛し、全ての生き物を救済しようとする精神。平和と秩序を求める心」
弟子となってから数年しか経っていない少年は師に真摯な眼差しを向ける。師の言葉を一語一句聞き漏らすまいとして。
遠くを見るように茫洋としていた表情を浮かべていたクワイ=ガンは彼の視線に気づくと、口元を歪めながら微笑んだ。
「高邁なジェダイの精神を具現化などとは、おこがましいがな」
「いえ、そんなことはないと思います」
「そうか」
とポツリと言ったきり、クワイ=ガンはじっと像に視線を注いでいた。オビ=ワンもそれに倣う。
しばらくしてから弟子は不思議そうに訊ねる。
「何故この像は片方しか翼がないのですか?」
「伝説がある」
クワイ=ガンは片眉をあげて蒼き瞳を煌かせた。