SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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アスナ、入団

 多大な犠牲を払い、ALF、DKB共に脱落した第25層攻略戦から2ヶ月が経った。この2ヶ月の間に攻略組の現状に、いくつかの変化が現れた。

 

 先ずは、我らが血盟騎士団の参戦。団長ヒースクリフの圧倒的なカリスマと俺の必死に奔走したスカウトによってメンバーは30人を超え、攻略組のレイドの大多数を占める程に戦力を蓄えていた。

 

 そして、DKBの裏切りによって壊滅寸前ま追い込まれ、攻略組を脱落したALFは、現実では「MMOトゥデイ」と言う記事を運営していたシンカーと言う男性が設立したギルド『MTD』を吸収し一時的な勢力拡大を行い、はじまりの街に拠点を定め、中層以下のプレイヤーの支援を行っているようだ。

 

 25層での責任によって失脚寸前だったキバオウもなんとか幹部の座に落ち着き、シンカーとどうにか経営を回しているようで安心である。

 

 当の裏切り者であるDKBは民衆の意見でギルドを解散。メンバーは1度散り散りとなったが、元DKBの武闘派幹部連中が再度集い半数が元DKBメンバーのギルド『聖竜連合』を立ち上げ攻略に復帰。彼らはレアアイテムを求め強奪・略奪の限りを働き、まともな者を除いてレアアイテムの為なら犯罪者になる事も厭わない危険なギルドと化している。

 

 そんなこんなで攻略組は一新され、血盟騎士団の活躍もってつい先日32層に到達。現在は32層攻略に各々が奔走し、情報提供とマップ埋めを行なっている最中である。

 

 血盟騎士団の初期メンバーとして暫定的だが副団長となった俺も、現在はノルマ50人のためにスカウトに走り、攻略も同時に進めている最中である。

 

「なぁ、いい加減付きまとうのやめろって」

 

「いいだロ?最前線でガンガン進んでいくのカーくんかキー坊くらいなんだヨ。情報屋としては新鮮な情報を入手するにはお前達に付いてくのが1番なんだヨ。いつも情報提供してやってんだからそれくらいオネーサンに協力してくれてもいいと思うゼ?」

 

 先日住居を移した32層主街区の高級住宅街に佇む石製のマンションに、眼前の彼女《鼠のアルゴ》が押しかけてきたのは昨日のことだ。

 

 どこで調べたか俺の住所をあっさり特定し、お前んち今から行くからとフレンドメッセージが飛んできたすぐ30秒後にアルゴがやってきたのにはびっくりするのを通り越して落胆したものだ。

 

「だからって、攻略終わりに当然のように俺ん家来てんじゃねーよ」

 

「でも、何だかんだ言ってお茶出してくれるなんて、カーくんは優しいーナー」

 

 ーーーウゼェ。

 

 心の中でアルゴに悪態を吐きながらも、戸棚から買いだめのコーヒーを淹れる。豆の薫りが鼻腔をくすぐり、テーブルについて淹れたてほやほやのコーヒーを一口啜る。

 

 コーヒーを提供されたアルゴは、苦いのは苦手なのかミルクをかなりの量投入し、それを吞み干す。

 

「アルゴ...もっとお淑やかさとかさぁ...」

 

 あまりにも女子力のないアルゴに怪訝な顔を放つが、アルゴはうっさいナと一言。

 

 情報屋《鼠のアルゴ》と五分話すと100コル分の情報を抜かれると言われている。これは俺がソースなので間違いない。アルゴは情報屋として金になる情報は求められれば全て提供する。これも俺がソースなので間違いない。この時は俺上で抜かれた情報が、他者にかなり知れ渡った。だがどれも大して問題になる情報ではないが。

 

 とにかく、俺とアルゴはなにかと長い付き合いとなる。俺が攻略に参戦したのはβ時代からなので、βテスターである彼女とはβ版からのつき合いである。

 

「ふぅ、ご馳走サマ」

 

 特徴的な語尾に鼻声が被るそこのちっこいのは、かちゃんとカップを皿に乗せる。

 

「ほら、俺もう明日の準備するから、さっさと有力候補教えて帰れ」

 

「なんだヨ、カーくんも思春期だし?1人の時間が欲しいのは分かるけどオネーサンをそんな無下にするとは許せないナ。カーくんさえ良ければオネーサンが『お手伝い』してあげるゾ?」

 

「い、要らんわ!!」

 

 グローブを脱いだ右手で輪っかを作りニシシとからかうアルゴにすかさず突っ込みを入れる。俺だって年頃の男子中学生出し、そう言う事に興味がない訳では無いが、流石にそう言う関係を持つのは不純であると、理性で欲を抑えつける。

 

 アルゴは冗談だヨといやらしい笑みを浮かべ、俺が事前に頼んでいた情報のリストを可視化し、俺の方にスワイプで飛ばす。俺はその名簿をスクロールし、名前、使用武器、活動の傾向など事細く記載されているのを見て、改めて彼女の情報屋としての確かな腕に感嘆していた。

 

「カーくんの頼んでた血盟騎士団のスカウト候補のリスト、中々作るの骨が折れたナー」

 

「はいはい、今度メシ奢ってやるから静かにしてろ」

 

 俺は指を走らせ40人にも及ぶスカウト候補を読み込んだ。アルゴは俺が名簿と睨めっこしている間は暇なのか、添えらたスプーンを器用に右手でクルクル回し暇を潰しているようだ。

 

「うーん...やっぱこの子か...」

 

 リスト最上部に表示された『Asuna』の名を見て、俺は眉をひそめた。アスナ、最近までキリトとコンビを組んでいた細剣使いの少女は、なにやら先日コンビを解消し、ソロで攻略を行なっているようだ。キリトの方は前線を少し離れているらしく、1人でダンジョンに潜るアスナを見かける事は何度かある。

 

「アーちゃんは良い子ダヨ。カーくんと違って真面目だし、カリスマもある。キー坊と離れてフリー物件な今が、スカウトするには絶好のチャンスじゃないかナ」

 

 軽くディスられたが、アルゴはアスナと言う少女がどんな人物か詳しく説明してくれた。俺もボス戦の際に何度か連携を取った事があり、彼女の戦闘センスにはキリトと2人して息を呑んだものだ。

 

 彼女のカリスマなら、血盟騎士団の副団長にまで上り詰める事も可能では無い。俺が補佐として彼女をサポートすれば、攻略の質とスピードは格段に上昇する事だろう。

 

「よし、明日、アスナに掛け合ってみるよ。団長にも報告して、早速入団して貰おう」

 

 俺は情報料としての1000コルをアルゴに支払い、後日晩飯を奢る事を約束してアルゴを家から追い出す。俺は明日の準備を整え、風呂に浸かり床についた。

 

 

 

 

 翌日、血盟騎士団のユニフォームとして着用しているコート《コートオブ・フェンリル》を羽織り、アスナの元へ向かうためにフィールドに降り立った。

 

「カナデくん、早いよ!待ってくれ!」

 

 そう後ろから付き人の嘆きが聞こえ、俺は歩みを緩めた。

 

「遅いよリンドさん、アスナは時間に厳しいから早くしないと」

 

 ぜいぜいと息を切らし追いかけてくる青年は、俺のとこまで追いつくと膝をついて肩で息をする。付き人は息が整うと顔を上げ、俺の横ついて歩き始める。

 

 青い長髪を後ろで束ね、腰にシミターと装備する付き人は、元DKBリーダーのリンドその人である。彼はDKBが解散した後団長ヒースクリフの令で血盟騎士団で保護された。これは彼が裏切り者としての汚名を被った事で民衆からの批判を受けるのを危惧した団長の慈悲による行いだった。DKBの内部情勢を知らない者からしたら、汚名をその一身に受けたリンドを糾弾する意見やまた血盟騎士団を裏切るのでは無いかと言う声もあるが、DKBの裏切りがリンドの意思によるものでは無いことを知っている者も攻略組には多いため、これと言ってリンドが騎士団に所属する事に意を唱える者はいなかった。現に彼はその身を白と赤の甲冑に身を包み、血盟騎士としての任務に全うし、その働きぶりとDKBを長く導いた手腕を買われ、血盟騎士団の人数が増えれば幹部へ昇格するのを望む声も多い。今は俺の部下という立ち位置だが、恐らく近いうちに幹部へと出世する可能性もある。

 

「ところで、アスナさんは一体なぜ1番前線の村に滞在しているんだい?」

 

「さぁな。俺もあんまり聞いてないけど、多分風呂付きの部屋が借りれる宿がその村にあるからじゃないか?」

 

「ふむ、あんな辺鄙な村にとどまる程、女子にとって風呂というのは必需品なのか」

 

 リンドが顎をさすってなるほどと感心する。アスナは無類の風呂好きであり、過去に風呂を借りるためだけにキリトの部屋に訪れた経験があるのを、当の被害者のキリトに聞いた事がある。

 

 本人曰く、湯船に浸かっている間は攻略や仮想空間に囚われているという現実を忘れられる事が出来るらしく、本人にとっての数少ない癒しの1つらしい。

 

 俺はあまりそう言うのには関心はないが、リラックス出来る環境を整える事はデスゲームにおいて張り詰めた緊張を緩和し心の切り替えのスイッチを押せる良い事だと思っている。俺にもそれは存在する。武器のプロパティや自身のステータスの数値を眺めていると、今まで積み上げてきた物が確かに存在するのを実感でき、攻略の意欲が高揚するのだ。

 

 アスナが湯船に浸かるという行為に拘りがあるのも頷ける。

 

「む、出たぞ」

 

 俺の思考断ち切られ、意識は斥候を行なっていたリンドによって別のものへと向けられた。

 

「コボルドか」

 

 そう呟いて、そのmobの攻略法を頭の中で思い浮かべる。

 

 32層に存在する亜人系アクティブモンスターで、名を『デミコボルド・トルーパー』。第1層にも存在した『ルインコボルド・トルーパー』より体毛が濃く、焦茶色の体色をしている。装備も多少ランクアップしており、AIも賢くなって使用するソードスキルも増えた、今までの改良型モンスターである。

 

「リンドさん」「ああ」

 

 俺たちは短く会話を交わし、俺の投擲スキル《シングルシュート》で敵を放つ。その間リンドは距離を詰め、腰のシミターで投擲ピックが着弾したタイミングから一拍遅れて斬りつける。

 

 奇襲を受けたコボルドは仲間を呼び、コボルド三体を相手にすることとなったが、戦闘経験を積んだ俺たちにとってそれはさして脅威ではなくなっている。リンドが左手に装備した盾を使って攻撃をガードし、俺が技後硬直の短い単発ソードスキルで叩く。あとはこの手順をひたすら作業のように繰り返すだけだ。

 

 俺の使用する片手剣『セイクリッド・ロングソード』の刀身が並行に描く青い光芒がコボルドの脇腹を捉え、最後の一体の体を消滅させた。

 

 その後数回の戦闘を終え、俺達は攻略最前線でアスナが滞在している村「コアトル」に到着した。

 

 アスナが部屋を借りているという農民の家まで歩き、呼び鈴を鳴らす。すると、中からアスナが現れ、無愛想に俺たちを部屋に招き入れた。

 

「それで?スカウトの件?」

 

 リビングのテーブルにつき、アスナからコーヒーを提供される。俺はそれを啜り、皿に戻す。

 

「そうそう。是非、俺ら血盟騎士団の一員になってくれればなーと」

 

「入るのはいいけど、なんで私なの」

 

 アスナの無愛想な問いに、頭をひねる。なんと言えばいいか適切な答がすぐには見つからなかったからだ。真面目でカリスマがあるから、その強さをさらに攻略に費やして貰いたいから、腕を磨いてもっと強くなって欲しいから。

 

 答えるだけなら、どうとでも言えるが、それでは眼前の美少女を納得させるには至らないだろう。その強さ、美貌、立ち振る舞い、彼女の全てが上品な貴族のようで、気高き騎士のようで、血盟騎士団にピッタリだと思った。

 

 リンドはどうせ気の利いた事を言えないだろうから、リンドに助けは求めない。

 

「俺がキリトなら、アスナをここに入れるだろうから...」

 

 脳を振り絞って出した答は、とてつもなく酷いものだった。自分でも何言ってるのか正直よくわからない。

 

 だが、このバカみたいな答は意外にもアスナを納得させる事が出来たようだ。少しまんざらでもないような、照れたような複雑な表情を浮かべる。

 

「私も、キリトくんならそう言うと思うわ」

 

 至極当然のように、無意識のうちにアスナはそう呟いていた。そこで勘の働く俺は1つの事案が浮かび上がる。

 

 ーーーコイツ、キリトに惚れてんな。

 

 そう感じ取り、ニマリと笑みを浮かべた。しかしながら、何言ってんだコイツみたいな刺突性の視線を受け、俺はその思考をすぐに振り捨てた。

 

「ま、いいわ。血盟騎士団に入団するから、さっさと手続きしてよ」

 

「あ、はい」

 

 アスナの冷たい視線の温度が少し和らぐと、俺はすぐさまスカウト成功の旨を団長に伝える。恐らく俺の第一報を心待ちにしていた団長から返しのメールが直後に届き、俺たちはアスナを25層のギルドホームに連れてこいとの指令を受けた。

 

 アスナにもそれを伝えると、彼女は同意し早急に出立の準備を済ませ、借りた宿をロックし外に出る。

 

 俺たちはその足で32層の主街区まで戻り、25層の血盟騎士団のギルドホームの待つ主街区『ギルトシュタイン』へ転移したのだった。

 

 

 

 

 

 ギルトシュタインに到着すると、俺たちは真っ先に血盟騎士団のホームへと足を運んだ。ギルドマークを掲げパスをロックして貰い、アスナをゲストとして招き入れる。

 

 俺たちのギルドは、現時点で購入できるギルドホームの中で大規模の位置に存在する。外観は25層の景観に損なわない石造りで、屋根は赤い瓦で覆われた五階建ての建物である。

 

 垂れ幕には血盟騎士団のギルドマークが掲げられ、さながらそれは中世の騎士城を連想させた。内装は、床に大理石が用いられ壁にはギルドのシンボルである赤い十字剣が垂れている。

 

 俺たち一行は団長の使用している最上階の一室に向かい、階段を上がっていた。

 

「本当におっきいお城ね...」

 

「まぁ、俺と団長が知り合ったのは最近だったけど、俺も団長も倹約家で貯金が余りまくってたんだよな。んで、団長がギルド作るっつーから、俺と団長が互いに出し合ってこの城買ったんだよ」

 

 お陰で財産がだいぶ飛んで行ったが、などとは言わない。実質団長ヒースクリフの方がかなりの出費額であるからだ。彼は俺の出した額の倍を払っているのである。この城の値段が100万コル、その内俺が支払ったのは30万コルで、団長は70万コルと、更にオプションの家具やカラーリング変更費なども彼が出している。恐らくその合計額は100万を超えるはずなので、団長の財力がどれほどのものか考えるだけで末恐ろしい。

 

 現時点で、高効率クエストでのコルの最高報酬がおおよそ13000コルである。今だに団長はコルの備蓄があるようで、ボス攻略にも参加していない彼がどのようにしてそこまで財産を貯めたのか不思議でならない。グリッチを使い非合法な増やし方をするような人ではないであろうし、地道にコツコツ貯め続けたのか。

 

 そんなことを考えていると、団長の部屋にたどり着いた。

 

 コンコンと木製の扉を軽くノックし、中から返答が聞こえた後に入室する。

 

「団長、アスナが入団してくれることになりました。早速、入団の手続きをお願いします」

 

 俺が眼前に椅子に深く腰掛けた中年の灰色の長髪をした男性、ヒースクリフにアスナ入団の手続きを願うと、アスナは一歩前に出て自己紹介を行った。団長も自己紹介を交わすと、早速入団の手続きを開始する。

 

「これでアスナくんも我々の一員だ」

 

 メニューを操作し、アスナのアイコンに血盟騎士団のギルドマークが表示され、彼女の羽織るケープとブレストアーマーにシンボルが刻まれる。アスナが正式に加入したことでさらなる戦力増強が望めると、俺は心内でグッとガッツポーズした。

 

 しかし、団長の唐突な提案に、ここにいる全員が戸惑うことになる。

 

 

 

「そこでだが、これから、アスナくんには実力テストを受けて貰いたい」




はい、アスナ血盟騎士団に加入です。公式ではどのような経緯でアスナが入団したのかが書かれていなかったので、完全に作者のオリジナルです。もし、「アスナの入団ここに書いてあんだろ!」というのがあったら教えて下さい。

※追記:原作ではDKBは40層まで存在していますが、リンドを血盟騎士団に加入させる為に原作との若干の矛盾が生じています。余り違和感が無い様に物語を展開させて行きますのでご了承下さい。

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