SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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情報屋 2

「なんだよ、それって」

 

 リンドのニヤついた笑みを浮かべる顔を見、俺は彼に真意を尋ねた。

 

「ちょっと耳を貸してくれないか?」

 

「あ、ああ」

 

 リンドは俺の耳に顔を近づけ、《聞き耳》スキルを所得していようが聞かれないように小さな声で耳打ちした。

 

「あー結構良いかもな」

 

「多分、君の実力なら成功すると思うけど」

 

 リンドの提案した解決策を頭の中で反芻し、俺は彼の策に乗り気で賛同した。

 

 多少のリスクはあるがリンドの出した案件は実行すべき価値のあるものだと思う。アルゴがこの悪い状況から抜け出すためにも、俺が一肌脱がなければ。

 

「それじゃあ、アルゴさんに頼まれてた攻略状況確認、ささっと終わらせに行こうか」

 

「ああ」

 

 この日はクエスト掲示板の貼り紙を記録し、フィールドの攻略状況が何処まで進んでいるのかを確認して、俺はリンドと別れた。

 

「じゃあねカナデくん。また狩りに行こう」

 

「今日はありがとうございました。俺は今から一度、ギルドに寄ります。ではまた」

 

 右手を挙げ、リンドと別れの挨拶を交わす。俺はそのまま転移門に向かい、血盟騎士団が本部を置く25層の主街区『ギルトシュタイン』の名を叫び転移する。

 

 眩い青い光の球体に包まれ、目を細めた。やがて眩さも収まると、そっと目を開く。瞼が開かれ明瞭となった視界に、ギルトシュタインの石造りの街並みが目に飛び込んできた。

 

 石畳の舗装道路を道なりに進めば、我らが血盟騎士団のギルドホームである白塗りの古城に辿り着く。無駄に豪勢な城壁の正門をくぐり、中庭の芝草を踏み入る。

 

 城の内部に入ろうと両扉に両手を添えた時、キィーンだかゴォンだか、とにかく金属同士がぶつかり合う音が耳についた。

 

 ふと気になって、音の発生源の方角に進んで行く。

 

 金属がぶつかり合う音が大きくなるにつれて、音の正体も次第に判明した。

 

「おぉ・・・やってんねぇ」

 

 針のような細身の刀身を持つ煌びやかな細剣を携える女性騎士と、紅のローブを纏い十字の盾と片手長剣で女性騎士の連撃を裁く学者肌の男性騎士。前者はアスナで、後者はヒースクリフ。どちらも血盟騎士団を導く団長・副団長の間柄だ。

 

 彼らの剣が交わり発生した音が、どうやらこの音の正体らしい。

 

 それにしても、演出的に剣戟音が派手な仮想世界でこれほどまでの騒音をたてるとは、一体どんな威力の攻撃をしたらそうなるのだろうか。

 

「団長〜アスナ〜」

 

 我がギルドが誇る最強トップ2に駆け寄る。彼らは剣を持つ右手を止め、こちらに向き直った。

 

「やぁカナデくん。昨日振り」

 

「あ、カナデ君。来てたんだ」

 

「まぁね。今来たとこだけど・・・って、何してんの?」

 

「見ての通り、団長に稽古つけてもらってるの。まだ団長とは戦ってなかったし。それと、新装備のテストプレイ」

 

 アスナは細剣を腰の鞘に収め、栗毛色のロングヘアを揺らし新調した装備を自慢げに披露してみせた。

 

 見れば、所々防具が変更されている。

 

 《軽金属装備》スキルで着用出来る鋼鉄製のチェストプレートにプレーテッドのレザーグローブは変わらないが、チュニックは赤地だったものが純白に赤のアクセントが入った血盟騎士仕様になり、ローブも白地のものに変更されているようだ。

 

 装備品の名前はよくわからないが、俺が未だ使っている白コート《コートオブ・ホワイトナイト》よりは勝るとも劣らないだろう。きっと団長ヒースクリフが譲渡した高級品に違いないからだ。

 

 《鑑定》スキルをもっていなくとも、その装備がどれほどの価値があり強力かなど、身につけている本人の振る舞いや装備品自体が放つオーラで大方の予想がつく。普段はお淑やかなアスナがこれ見よがしに見せびらかしてくるのだから、相当な代物なのだろう。

 

 それに加えて副団長就任祝いとして莫大なコルが団長から援助されているのだから尚羨ましい。俺なんて9層のLAボーナス品だというのに。もうだいぶ前線では厳しいというのに。でも血盟騎士に相応しい紅白の衣装がこれしか所有していないのだから致し方あるまい。

 

 惨めな自分に涙を流しつつ、アスナの腰に携えたれた細剣の自慢を本人から聴かされる。

 

 剣の名は《ストームウェアリング・フルーレ》。最近まで使用していたサイクロンフルーレの上位互換と言ってもいいだろう。敏捷値にボーナスが付き、さらに攻撃速度上昇効果がある。ただでさえ剣先が目で終えない程早いアスナの刺突に攻撃速度アップがついたらどうなるのだろう。先程の訓練戦闘をみた限りでは右手が殆ど見えなかった。まるで刀剣の残像を突いているかの様。

 

 システムアシストの突いたリニアーが炸裂すればどエライことになるのは想像するのも恐ろしい。

 

「あの・・・それでリニアーはやばく無いですか・・・」

 

「何言ってるの?変わらないわよ」

 

 ー本人はそう言うけど、きっと弾丸並みなんだろうな。

 

 なんて野暮な思考を回していた。

 

「そういえば、どうしてカナデくんは此処に?休暇は取らせているはずだが」

 

「え?俺って休暇取ってたの?ってそんなのはいいや。実は、情報屋《鼠のアルゴ》について何ですが」

 

 俺が訝しげな表情を見せると、アスナは急にシリアスに切り替わり俺に詰め寄せた。

 

「アルゴさんがどうしたの」

 

「ちょっと、近いって」

 

 ヘイゼルの瞳に見据えられ、思わずアスナの顔を遠ざける。俺は彼らに今アルゴがどの様な状況に置かれているかを事細かに説明した。

 

「ふむ、アルゴくんには我々攻略組も世話になっているからね。是非解決に協力したいところだが」

 

「アルゴがいないと攻略に支障が出る筈です。今は俺の家で待機する様に言い聞かせて居ますが、あまり長く止める訳にも」

 

「え?アルゴさん、カナデ君のところにいるの?」

 

 アスナの冷たい刺突属性の視線を肌で感じ、口が滑った事を反省する。

 

「い、いや!あくまで仮にだから!別に見返りにナニさせろとか無いから!」

 

「はぁ?何でそんなに焦ってるのよ。ますます怪しい・・・」

 

 ーまたまた口が滑った。

 

 家出少女を泊める代わりにゴニョゴニョさせろみたいなことが出来る訳もなく、昨晩添い寝した事に動揺した為益々アスナに怪しまれてしまった。

 

 ヒースクリフは解決案を模索しているが、顎に手を当てて思考を巡らせている姿を見ると学者肌も相まって随分サマになっている。

 

「それで、リンドさんにも相談したんですけど」

 

 アスナの痛い視線を受けながらも話を切り出す。

 

「リンドさんが出した案ですが」

 

 そう一言置いて、作戦を伝える。

 

「なるほど、いい考えね。カナデ君なら十分出来ると思う。でも私たちに出来ることは少なそうだから、最大限協力させてもらうね。借り部屋がまだあったらアルゴさんをこっちに移させてたけど、もう取っ払っちゃったしね」

 

「助かる。アスナ、団長」

 

 2人はうんと頷くと、激励の言葉を掛けてくれた。

 

「今後の攻略の為だ。いい報告を期待しているよ」

 

「アルゴさんを助けてあげて、カナデ君」

 

 2人の言葉を糧にし、俺は力強く胸を張ってみせた。

 

「ああ、任せてくれ」

 

 

 

 アルゴを救う為に彼らの協力を得て練った作戦を実行に移す。血盟騎士もバックアップに着いてくれたことだし、あとは俺がどうにかしなければ。

 

 俺はアルゴを救うという使命を胸に、実行へと赴いた。


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