SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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シリカとの修行

午前8時。俺は借りている宿の部屋のドアをノックする音で目を覚ました。宿屋メニューから遠隔操作で扉のノックを解除し、朝早くからの客人を部屋に招き入れる。

 

「おはようございまーす!ユーマさん、起きて下さい!朝ですよー」

 

ゆさゆさと心地よく揺さぶられる感覚に、幼げな少女の透き通る声。この二つも発信源は、昨日弟子入りしてきたシリカによるものである。

 

「ユーマさん起きて下さいよ〜、10時にはフィールドに出るって言ったじゃないですかぁ〜」

 

先程より少し激しめに揺さぶられる。若干12歳の少女に起こされるとは。とても癒される。実にいい。

 

昨日はシリカと世間話や俺自身の今までの事などを遅くまで話していたばっかりに、床に着くのが随分と遅くなってしまった。それ故にとても瞼が重い。あまり寝起きのいい方ではないが、今日は格段に眠たい。

 

シリカも俺と同じぐらいまで夜更かししていたのに、よく早く起きれるものだ。シリカが真面目できっちりしているからなのか、今日を楽しみにしてくれているのかはわからないが。正直、シリカが起こしに来なければ昼まで寝ている自信がある。

 

なかなか起きない俺に呆れ、シリカがもうと溜め息をついたタイミングで身体を起こす。寝ぼけまなこな挨拶を交わし、ベッドから這い出る。テーブルにシリカと向かい合って座り、シリカの買ってきてくれた朝食の黒パンと、宿オプションで飲み放題の紅茶、買い置きしておいたサラダを食す。

 

「そういえば、今日はどこのフィールドに行くんですか?」

 

ちびちびと黒パンを食べるシリカが尋ねる。ハムスターみたいで可愛いななどと思いつつ、俺はマップ情報を可視化させシリカのところまでスワイプで飛ばす。

 

「ひだまりの森...ですか?」

 

「ああ。昆虫系モンスターが多くて、そのほとんどがデバフ付加の特殊攻撃持ちだ。でもその攻撃は発動も遅いし、タイミングも取りやすくて避けるのも簡単なんだよ。敵の攻撃を避ける練習相手にはぴったりだろ?」

 

「まぁ、それはそうですけど...」

 

不意に、シリカの表情が曇った。

 

「...怖いかな?」

 

「...はい」

 

シリカがポツリと返事を返す。今まで低レベルのモンスターを相手に戦っていたのだ。最前線に程近いモンスターと戦うなど、恐怖でしか無いのだろう。

 

シリカの気持ちは、俺には痛い程わかっていた。自分が始めてボス攻略に参加した第10層では、当時はまだ珍しかった刀を引っさげて10層フロアボス「カガチ・ザ・サムライロード」相手に死に物狂いで戦ったものだ。

 

成り行きで組んだ見知らぬアホ毛の剣士と共闘し、俺が前衛で刀の受け流しを多用して隙を作り、剣士の強力なソードスキルでダメージを与え、最後は剣士のラストアタックで勝利を収めた。

 

実は、「受け流し」というのはシステム外スキルであり、俺の使用するカタナの立ち回りやソードスキルを剣士が研究した結果、編み出された技法である。

 

故に、このSAOに受け流しを使えるプレイヤーは、今のところ俺と剣士の2人しかいない。この受け流しをシリカにも伝承させれば、実質三人目か。だがそれは今はいいだろう。

 

「大丈夫だよ。いつでも助けられるように俺もサポートするし、20層レベルなら軽く屠れるくらいには強化してある。結晶やポーションも惜しみなく使うつもりでいるから、シリカは絶対に死なないさ」

 

そう俺が告げると、シリカは健気に笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

午前10時。予定通りの時間帯にひだまりの森に到着した俺たちは、早速修行を開始した。

 

「さて、まずはあそこにいる『シャープマンティス』相手にやってみよう」

 

シャープマンティス、このひだまりの森では珍しくない体長2m半ほどの巨大なカマキリだ。体は若葉色の綺麗な体色をしており、左右には1mもある鋭い鎌を携えており、彼はそれでプレイヤーを攻撃する傾向にある。この鎌には小さな刃が付いており、高確率でプレイヤーに出血デバフをかけてくる中々厄介な相手だ。

 

カマキリは遠距離にも対応していて、距離があると口から酸攻撃を繰り出してきて、防具の腐食を促進させてしまう。

 

だが全体的に攻撃力があまり高くないので、シリカ並の体力と装備でも、余程のことが起こらない限り大事には至らないだろう。

 

「ほんじゃ、俺がお手本を見せるから、よく見てて」

 

そうシリカに告げると、俺はパンパンと手を叩いて注意を引く。シリカにヘイトが向かないよう距離を置いて貰い、腰の鞘からカタナ「妖刀 村正」を抜刀する。

 

上段に構え、腰を落とす。切っ先が相手に向くように構えて小さく息を吐きながら、いつでも敵の攻撃に対処できるように準備をしておく。

 

目の前のカマキリが、鎌を大きく振り上げ、そして振り下ろされる。

 

速度は中々だが、避けるのに支障はない。一度身体を沈ませ、左脚で地を蹴り右へステップ回避する。筋力と敏捷にステ振りしている為、距離とスピードにシステム的なブーストがかかり、攻撃を難なく避ける事が出来た。

 

ちなみに筋力はステップの距離、敏捷はステップの速度に直結するので、盾を使わないバトルスタイルにはこの2つへのステ振りは欠かせない。

 

鎌の攻撃が空を切り、空振りに終わったあと、俺は村正を下段に構え、ソードスキル発動の初期動作へと移行する。

 

村正の刀身を青い光が包み込み、切っ先が地面に触れる程にスレスレの軌道を描き斬り上げる。

 

敵を空中へ浮かせる事の出来るソードスキル「浮舟」によってカマキリの身体が宙へ30センチほど浮き上がる。

 

キュイイイイ!!!と甲高い鳴き声を発し、カマキリは口から溶解液を吐き出してくる。俺は技後硬直が解けるとすぐさま上体を大きな弧を描くように回す事で溶解液を回避する。これは位置どりを変えることなく回避出来るが、リスクの方が高いのでシリカにはあまり真似して欲しくはないが、こういう回避もあるんだぞと言う意味合いで使用して見た。

 

10層フロアボス戦で使用するために文字通り死ぬほど練習した甲斐あってこその回避法なので、一朝一夕で会得できるモノでもないが。

 

カマキリの攻撃を避けた俺は、一度村正を鞘に納刀する。そして、そこから神速の居合い「辻風」を放つ。

 

翡翠色の軌道がカマキリの顔面を捉え、カマキリのHPを全損させ、その身体を爆散させた。

 

「とまぁ、こんな感じかなぁ」

 

駆け寄って来たシリカに向き直り、村正を納刀する。

 

「ユーマさん凄いです!特にあの身体をぐるっと回す避け方!」

 

「まぁ、アレは練習したからなぁ」

 

シリカに若干興奮気味に褒め称えられ、素直に嬉しくなった。思えば、誰かと一緒に狩を行うなどいつ以来だろうか。随分とソロプレイに励んで居たためか、なんだか新鮮な気持ちだ。

 

交流のあるエギルとも、食事には行っても狩を行うことはない。俺がパーティを組んだのも、10層フロアボス戦時が最後だった筈だ。

 

久しぶりのパーティプレイに心が躍る。

 

「俺、楽しいよ。シリカと一緒に遊べて」

 

気付くと、自分の気持ちを素直に口に出していた。シリカも頬を赤く染め、笑みを返す。

 

「ええ、私もユーマさんに学べて良かったって心からそう思ってます」

 

そう言ったシリカの笑顔が、俺の心を溶かすように眩しく輝いて見えた。




少し間が空いてしまいましたが、なんとか書き切れました。
これからもこのくらいのペースでのんびり書いていければいいですね。

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