Wizars World 《ウィザーズ ワールド》 作:ダンケ侍
ではどうぞ
樹海へ向かったカメラがとらえたのは樹海から出てこようとしていた八重 一成と、木に寄りかかる高梨 徹の姿であった。カメラの画面を見たものは一成が勝負を制したものだと思った。それは間違いではない、徹は確かに彼の攻撃を受けて敗北したため嘘ではない。
だがその場にいる誰もが、彼らの戦いの裏側を知ることはない。
初日の訓練はこれで終了した。樹海で身体を汚していた彼らは温泉で賑やかにしていたようだ。
二日目・三日目は一日中訓練であった。
二日目の内容は徹底的に基礎を固めるというもので先輩から後輩への指導が多かった、この時引率教師剛田 鉄扇も熱心に指導を行っていた。
三日目は試合形式での練習、どのような相手が来ても何かしらの対応が出来るように全員が様々な相手と戦った。この時は一対一だったので青柳 香織や神条 錬磨などは先輩としての意地なのか樹海で活躍できなかったからかさすがの実力を見せていた。
これらの訓練の時、メディア部の面々は参加していない。元々が取材目的なので一日目にできなかった分を取り返すかの如く写真撮ったり、インタビューをしたりしていた。訓練に参加出来ずに悔しがっていたイワン・ロバノフの姿が印象的であったという。(あまりにも不憫であったので田所 正明は少しの間だけ参加許可を出していたが)
四日目はこれまでの三日間とは違い宿題を進める日となっていた。既に終わっていたり、終わりそうな者たちにとっては実質的な休みであったが、ほとんど手をつけていない風紀委員の四人、レイノルズ・マッケイ、皆川 咲良、神条兄妹は鉄扇監視の元ほとんど終わらせる羽目になっていた。
そしてその日の夜、明日は学園に帰るという事を残したのみなので実質今日が最終日みたいなものだ。各部屋では各々が様々な事を話していた。
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男部屋その一、ここに宿泊しているのは3年と2年の男子である。
「……久々に徹さんのフルボッコくらった」
「尚輝も強くなってたよしっかり練習していたんだね」
「とある女性のためにですね〜」
「会長!デタラメ言わないでくれよ!」
福原 尚輝はそれぞれのトップからいじられていた。その二人は樹海の中で半ば仲違いのような形にはなったもののそれを周囲に見せるほど幼くはないようだ。
「ふむ、では今夜はそれについて根掘り葉掘り……」
「正明やめろよ?会長と徹さんが乗ってくるから」
「それは一種の振りだね?」
「俺は芸人じゃねえ!」
この手の噂には目がない正明、こいつは芸能リポーターにでもなった方が良いのではなかろうか。
「錬磨?さっきから応答がないよ?」
「……疲れたんだ」
「早めにやっておかないからですよ」
先ほどまで監視されながら宿題を終わらせていた錬磨はぐったりしていた。
「ああ……数学の公式が脳内に攻め込んでくる」
「大丈夫か、この人?」
「ほっとけば直るでしょう」
昨日までは結構な活躍を見せていたのに締まらない男である。
「しかし今回はいい記事が作れそうだよ」
「また変な写真撮ったりしてないかい?」
「私は撮ってませんよ」
「……引っかかる言い方だね」
「イワンくんがカメラマンですから、私が認知しているところでは変な写真は知りませんよ」
「……他に盗撮者いないよな?」
正明の気になる物言いに不安になってしまう徹、まさか他に盗撮している者などいるはずもないのだが。
「では尚輝の話をここで掘り下げるとしましょう」
「忘れたと思ってたのに⁉」
「学園内恋ばなのメモはこれか……」
「お前のメモ種類豊富だな⁉」
「僕は錬磨を寝かせるという重大な任務のために抜けるよ」
「ストッパーが消えた⁉」
「では初めに君とミリアムについて……」
「勘弁してくれ!!」
この調子で夜遅くまで彼は尋問され続けていた、必死になって否定していたが二人にとっては肯定の意にしか思えなかったのでそこをさらに突っ込まれたりした。
風紀委員の二人は早く寝たらしい。
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男部屋その二、ここには1年男子と教師の剛田 鉄扇が泊まっている。
「宿泊行事の夜といったらやはり恋ばなだろう」
「なに言ってんのこのおっさん」
鉄扇が急にこんな事を言うので青柳 健人が思わず口走ってしまうのも無理はないと思う。そんな健人の言葉を無視して鉄扇は続ける。
「お前らだって学生なんだ、恋ばなの一つや二つあるだろう」
「それおれに聞く必要ないですよね?」
「夜の営みは済ませたのか?」
「教師が聞くことじゃねえだろエロ親父!」
相手が教師という事をわかっていながらも言葉が荒くなってしまう健人、鉄扇もやはりどこかずれているようだ。
「健人、そう声を荒げるな。先生だって人間なんだからいいじゃねえか」
「レイ?貴方が先生を庇うなんで頭おかしくなりましたか?」
「なに言ってんだ、剛田先生は素晴らしい人だろ?」
ちなみにこの裏には宿題を終わらせる途中で甘党同士という事が判明して意気投合した事実がある、実にくだらない。
「合宿の時も夜這いもしないとはな」
「先生話を止めて、アウトになる前に」
「卒業までには済ませろよ」
「あんた教師やめちまえ!」
剛田先生の大人の授業は倫理の面から終わらせる。
ここまで会話に参加していないイワンだが彼はなぜか写真の確認をしていた、気になったブレイム・ゴードンは彼に話しかける。
「そういうのはメディア部の方々が確認してくれるのでは?」
「うむ……そうなのだがやはり自分で撮ったのだから自分で責任を持つべきだと思うのでな」
「……真面目ですね、メディア部に入ってはいかがです?」
「面白いかもしれんがな、私の成績では無理だよ」
この学園の部活の制限はとても厳しい、ゆえに存在しているのはメディア部のような変わりものしかないのである。
「そのためには時間を練習に費やさねばならんのでな」
「十分強くね?お前」
「まだまだだよ、私など」
「謙虚な奴だね……」
そんなイワンとレイノルズに鉄扇が話しかける。
「レイ、お前皆川の事どう思っとるんだ?」
「い、いきなりっすね。……別にただの先輩としか」
「嘘だ!!」
「嘘だと言ってよバーニィ!」
「お前ら黙れ!後バーニィって誰だ⁉」
健人とブレイムが彼に言う、他人が弄られているとこれだから性質が悪い。
「イワンは神条妹をどう思ってる?」
「魔法士としてのパートナーですが?」
「……つまらんな」
「真面目に答えたのに?」
ここまで即答でこんな事を言われては礼奈が哀れに思えてくる、この男はどこまで鈍感なのか。
「ちっと外出て来ます」
「夜這いか?」
「第一の質問じゃねえだろそれ⁉」
エロ親父に突っ込むと彼は外に出て行った。
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ここで女子の部屋へと場面を変える、女子全員が同じ部屋に泊まっているので話も盛り上がるというものだ。
「ここで皆さんのプライベートについて聞きたいです!」
「あんまり深いとこはだめだよ?」
「……香織さん、いいの……?」
「いいでしょこういう時くらい〜」
やはり宿泊行事というものは否が応でもテンションが上がるものなのだろうか。
「礼奈ちゃんを最初のターゲットにします」
「……なに?なんかある?」
この二人は中学時代からの知り合いなので今更聞くことは少ないだろう、とすると内容はやはり限られてくる。
「今夜のテーマは、恋です!」
「こ、戀⁉」
「変換ミスですよ、礼奈ちゃん」
どうやって話すだけで変換ミスなのがわかるのだろうか。
「正直イワンくんに一目惚れでしょ?」
「そんな事ないわよ!」
「それか代表戦で自分を守ってくれた時の事がかっこよかったとかそんなのですよね?」
「…………はい」
もはやぐうの音も出ない礼奈、片山 翔子に指摘された事がほとんど当たっている。
「付き合ってもすぐに破局パターンですね」
「意外に辛辣⁉ってかやめてよ!」
「ありがとうです〜」
最後に評価を残して去る翔子、なかなかひどい事を言うものである。
「次に2年の方々ですが……ミリアムさん以外聞く意味ないですね」
「え〜わたしには聞いてくれないの〜」
「……平等に扱うべき……」
この二人はインタビューされて欲しいのか皆川 咲良とカティア・クルシュマンが文句を言う、珍しい人類だ。
「え〜、では咲良さん」
「はいな!」
「 レイくんへのアタック実ってます?」
「悲しい事に全然だね〜」
悲しいとは言いながらも本人はあっけらかんとしている。
「その割には楽しそうですね」
「あいつが好きと言ってくれなくてもわたしが好きなのには変わりないしね、それに……」
「それに?」
「信じろって言ってくれたからね、わたしはあいつを信じるだけだよ」
「……何があったか知りませんが、楽しそうでなによりですね。ありがとうです〜」
続いての取材対象をカティアに変える。
「カティさんドイツでブレイムくんと知り合ったんですよね?」
「……そ、今は多分ない孤児院でね……」
「その時からなんですか?」
「……彼と離れていろいろあって気づいたって感じかな……」
彼女もドイツにいた頃には様々な実験をさせられていたのだろう、ブレイムによって解放されたとはいえ一年間はそこにいたのだ。
「……だから、一緒に居て欲しいって言ってくれて嬉しかったな……」
「ん〜お熱いですね〜、ありがとうです」
彼女はお礼を告げ次の取材へ、相手はミリアム・ブランである。
「ミリアムさん、好きな人います?」
「そういうのはまだかな?」
「尚輝先輩のことは?」
「パートナーだよ」
想いの届かない男を哀れむ翔子、彼女はさらにその部分を突っ込んで聞いてみる。
「ではどのように思ってますか?」
「んー、頼れる奴だよねあいつは。樹海で助けてくれたのは実は結構嬉しかったんだよね」
「あ〜あの時ですか、かなりの無茶やってましたからね」
樹海での戦闘を思い出しながら脈ありかも、と脳内で評価をつける。そしてこの場にいる最後の取材対象へと向かう。
「香織さん、質問させてもらいます!」
「あたしが好きなの一成だよ」
「……いまなんと?」
「だから、あたしが好きなのは一成なの」
『……まじて⁉』
「……そんなに驚く?」
その場にいる全員が驚いていた、彼女の想い人が一成である事といつもと呼び方が違う事に。
「まずなんで呼び方違うんです?」
「恋ばなって割と真面目な話でしょ?真面目な話の時は普通に呼んでるんだ♪」
「あの会長もリア充の一味でしたか……」
「と言うかもう告白してるよ?」
『……ナ、ナンダッテー⁉』
上級生は自分達の予想を遥かに超えていた事に全員驚嘆する、そしてやはり気になる事を聞く。
「で、そのお答えは?」
「それがね、答えが出せないから待って欲しい、だってさ。告白したのクリスマスだよ?」
「……皆さんの力を結集すれば打倒出来るでしょうか?」
「落ち着いてね、翔子ちゃん」
暴走しかけた翔子を止めつつ香織は問う。
「人の話ばかりだったけど翔子ちゃんは?」
「これといって縁がないので」
「あんたあの部長さんとはどうなの?」
「いい人とは思ってますけどね、どうもまだわからない事が多くて」
いつも近くにいる翔子でも正明の本質はよくわからないと言う。
「京ちゃんまだかしらねー」
「弟さんとヨロシクやってるんでしょ〜」
「でも先生いるしな〜」
その先生はかなり暴走している事を彼女らは知らない。
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健人が風を浴びに旅館の外へと出る、外には心地よい風が吹いており夏真っ盛りでありながら涼しさを感じる。
「いやあ、こんな自然もいいもんだ」
彼は独り言を呟いて近くにあるはずのベンチへと向かう、そこには彼のよく知る先客がいた。
「あら?誰か来たの?」
「その声……京花か?」
「え、健人?」
そこに座っていたのは浴衣姿の井上 京花であった。
「どうしたの?部屋でなんか話さなくていいの?」
「それはお前もだろ、浴衣姿も綺麗だぞ」
「あら、ありがとう。なんか翔子が変な事聞いてきそうだったから逃げちゃった」
その人物は様々な人を突っつきまわり誰も知らなかった事実を掘り当てたところである。
「そりゃ仕方ないな」
「健人こそなんで?」
「気分転換だよ、ただの。そしておれは運が良かったわけだ」
「だったら天命に感謝ね」
二人は何でもない事を話す、だが今の二人にはこんなどうでもいい会話でも心地よくいられる。すると京花が彼の肩に頭を乗せてくる。
「京花?」
「ちょっとだけ、いいでしょ?」
「……ま、いいか」
「夏休み、またどこか出掛けたいわね」
「またセントラルタウンでも行くか?」
「ふふっ、いいわねそれ」
夏休みが始まって二週間が経過しただろうか、しかしまだ過ぎた日よりも休みの方が多いだろう。学生の夏休みはこれからである。
「そろそろ戻りましょうか」
「だな、遅くなったらあいつらにまた何か言われちまう」
今から戻っても何か言われる事を彼はまだ知らない。
「じゃな、お休み京花」
「ええ、お休み健人」
彼らは軽いキスを交わしてそれぞれの部屋へと戻っていった。
これにて星皇学園の合同演習による合宿は閉幕する。
次回から再び日常へ、そしてぼちぼちシリアスをログインさせるかも。
また次回(・ω・)ノシ