『何気ない日々』というのは、見て見ぬ振りによって構成されている。
意識的にしろ無意識的にしろ、あらゆる不都合を見て見ぬ振りして、『なんの変哲もないありふれた毎日』というのを私達は捏造している。だから、少し視点を変えてみれば私達の『何気ない日々』というのは、結構な量の理不尽と不都合に溢れている。それをどれだけ見て見ぬ振りできるかが、つまりスルースキルの高さが私達の青春の輝かしさの度合いとイコールで結ばれている。
そして逆説的に、視点を強制的に変えられてしまったならば、私達の青春の輝きは本来の黒ずんだ色を取り戻す。
暗。闇。合わせて暗闇。いや、今の私、柊樹朱音を表すならば、暗病み、といったところなのだろう。自分の部屋を荒らし、カーテンを閉め切り、蹲って時間が流れるのを無思考に待つ。寒さもピークを過ぎたとは言えまだまだ寒いが暖房を点ける気力もない。何がしたいのかといえば何もしたくない。生きるつもりもなければ死ぬつもりもない。そういう状態だ。
そういう状態が、もう一週間は続いている。寝て、起きて、廊下に三食が置かれていて、それを食べたら廊下に置いて、また眠る。たったそれだけの生活。青春らしさのない、ゴミクズの生活。もともとからこうならば仕方がないという割り切りもできるだろうが、そうではない。
私はもともと、イケてるグループに属していた。クラスの中心で、そこそこモテた。高校生になってからの彼氏のいない期間は最長二週間。我ながら、自分のルックスにはそこそこの自信があった。今となっては寝不足なのか睡眠過多なのか分からない肌の荒れ模様に、手入れのしていない髪などその他諸々、見るも無残な、見るに堪えない、そんな有様になっていた。
自分の立場が堕ちぶれるだなんて考えもしなかった私にとって、今のこの状態は絶望的なものだった。無意味な時間を過ごすついでに自己分析をしていたが、どうやら私はプライドが高いらしく、性格も腹黒い方なのだろう。最悪な性格だ。そんな最悪な性格を、どうやら私はコミュニケーション能力によってカバーしていたらしい。
うざいけど、まぁ、面白い人だし。
そんな感じで性格の悪さをみんなは見て見ぬ振りをしてくれていたのだ。――と、自己嫌悪を頭から布団をかぶってしていたところで、ピコンと随分と久しぶりに聞いた気がするスマートフォンの通知音が聞こえた。のろのろと体を起こし、スマートフォンを見る。早めに返さなければハブられるという女子高校生の悲しい性分によるものだ。スマートフォンを手に取ったところでようやく気が付く。引きこもりにまで堕ちぶれた私は、ハブられる仲間すらいないのだ。自業自得で、私は孤立をした。至極真っ当な理由で、私は独りになった。だから、こんなくだらないコミュニケーション端末は捨ててしまってもいいくらいなのだ。――と、更に考えたところで更に気付く。
独りになったというのならば、どうして私に通知が届いた? 一体、誰が私にメッセージを送ったのか。
手に取り、停止し、置き掛けたところでもう一度見る。そんな怪しい動作の後に私は改めてスマートフォンの画面を見た。
――宮永遥斗からのメッセージ。
『やっほー、そろそろ、勉強会の待ち合わせの時間だけど、準備してるか?』
思考の停止。仲の良さと親しさの滲み出た文章。今の私は絶対に貰えない感情が溢れ出すその文章に、私の思考は停止した。懐かしさ感じる彼の文章に、涙すら出ていた。
ふと気付く。スマートフォンの表示する日付は九月の初め。私の記憶が正しければ、昨日の日付は一月の初め。つまり、三ヶ月ほど時間が戻っているということになる。
とにかく、と返事を送る。もし、本当に三ヶ月ほど時間が戻っているのならば、早く返事をしなければならない。三ヶ月ほど前まで、そういうコミュニティに私は属していたのだ。
『ごめん、今起きた。少し遅れるね』
なるたけ冷静にメッセージを返し、私は情報を整理する。部屋を飛び出して洗面所へ向かう。肌と髪の確認だ。
「――やっぱり」
正しい時間の私ならば前途の通り、髪も肌も痛みまくっているはずだが、見たところそんな様子は見られない。つまり、私の意識だけが過去に戻ったタイプのタイムリープだ。
「三ヶ月前なら……可能性は、ある」
呟いて、私は覚悟を決める。一つ、私はみんなに教えなければならないことがある。信じてもらえない可能性の高い、真実を。
勉強会、というのは近くの商店街にあるイケてる人間達が集うコーヒーショップにて行われるものだ。勉強会と称しているのは、最初は成績のヤバい私ともう一人が赤点を逃れる為に頭のいい二人を集めて開いたものが形骸化したが故のものだ。要するに今は、ただの仲良しの集まりだ。恐らくは、クラス内、学年内でかなり上位のスクールカーストグループ。そういう自負と自覚は、私達四人にはあった。いや、今この時ならば、まだ持ち続けている。
「三ヶ月後、誰かが死ぬぅ!?」
声を揃えて驚きの声を漏らしたのは、宮永遥斗、鴻上波留、金瀬妖人の三人である。
「うん。ごめん、うまく説明はできない。信じられないかもしれない。ただ、私は一月初めから今この時に戻ってきた、未来の私で未来では私達が知っている誰かが十二月二十四日に死んだの。どういう訳か分からないけど私は今この時に戻ってきた。それは、事実なの。だからお願い、手を貸してほしいの。その誰かを、私は救いたい」
「まぁ、俺は朱音の元彼氏だしな。元彼女の発言には、彼氏が責任を取るよ」
そう言ってくれる遥斗。
「じゃあ、私は朱音の親友だから手伝う!」
波留も、続けて言ってくれる。
「真偽はともかく面白いかもな。それに、まぁ、元彼が手伝わなきゃならねぇってんなら、波留の彼氏としても、手伝うしかないし」
仕方がなさそうに、しかし、それでも迷惑ではないらしい口調の妖人。三人が三人、三者三様の答え方で、頷いてくれた。いい友達を持ったなと、本当にそう思う。
「ともかく、状況を整理してみよう」
切り出し、続けたのは私を含めた四人の中で最も優秀な頭脳を持っている遥斗。
「その誰かが死んだのは十二月二十四日、なんだな? で、朱音はその誰かだけが、すっぽりと抜け落ちていると」
問いに首肯する。遥斗はそれを見て思考に耽りだす。その間の空白を埋めるのは、波留の役目だ。正しくは波留と妖人の掛け合いだ。
「ラノベか! みたいな設定だね。まるで私達四人がオムニバス形式の小説の中にいるみたい」
「オウムバス……? なんだそれ」
「オムニバス、ね。えっと、複数の登場人物の視点が切り替わって展開していく物語のこと」
「……?」
「RPGの、キャラを切り替えてギミックを突破して進めていくゲームみたいなこと」
「ああ、なるほど」
「なんでゲームに例えるとすぐに理解してくれるのかな……。前に、数学とか科学ですらゲームとして教えたらマスターしちゃったし……」
はぁ、とゲーム脳な妖人に溜息を吐く波留。この二人のやりとりは聞き慣れたものであり、しかし私からすれば随分と懐かしいものでもあった。
「うし、じゃあ、一つ約束をしよう。俺達四人は死なないという大前提のもと、クリスマスにここでまた勉強会を開こう。丁度、その日は日曜日だし、全員集まれるだろ?」
「クリスマスくらい、彼氏と一緒にデートしたいんですけどー。まぁ、朱音達が言うなら集まるけどさ」
「同じく」
波留と妖人がそう言って、笑う。これは別に四人の友情だとかそういう類いの美しい話ではないのだろう。単にこの四人グループが分裂しない為の、怪我をすれば体が無意識に治癒を始めるのと同じようなものだ。私達はそれを、友情と誤魔化しているだけ。――なんてことが、あの、なかったことになった三ヶ月によって私が至る思考だ。卑屈というか捻くれているというか、そういう感じになってしまった。
「うし、じゃあ決まりだな。じゃあ、とりあえず一週間、個別にしろペアにしろ、四人でにしろ、情報収集をしよう。幸い、いや、この場合は不幸中のがいるか。不幸中の幸い、俺達には三ヶ月の時間がある。ゆっくり、気長にやろうぜ」
遥斗の言葉で、この勉強会は締めくくられた。いつも通りの、遥斗中心のグループ。帰り道、独りになったところで私の量の眼からは、自然と涙が溢れていた。同時に決意を固める。
「取り戻そう、四人を。私のグループを、私の青春を」
それから一週間が経過した。情報収集とその他の行動の結果、一人の協力者と一人の候補が上がり、その二人を私達のグループに招待した。
「えっと、こちらが協力者――今はもう過去形かな、もうグループの一員だし。一応、タイムトラベルとかそういうSFに詳しいというか好きな、風宮花波さん。遥斗に、タイムトラベルの理由から推理できるかもしれないって言われて、私が声を掛けたの」
「最初に声を掛けてくれた時は驚いたし、なんか嫌がらせかいじめに加担か、その被害者にされるのかと思ったけど、そういうことなら協力させてもらおうかな。あ、大丈夫。声を掛けられたその日に私の祖父の――ああ、私の祖父が洋食レストランのお店をやってるんだけど――二号店の話が舞い込んで来て、祖父が私にすら話してないのにそのことを知っていたり、ちょっとした事件みたいなことを予言してみせてくれたから、うん、それで信じてるよ。信じた上で、協力するから」
「分かった、よろしく」
「で、えっと、こちらが一件の候補、大凪優くん。波留が偶然、遺書みたいなことが書かれているノートを拾って、それを妖人が優のものだって特定したんだよね? ――えっと、妖人、どうやって?」
「間違い探しの要領だよ。あれもゲームでしょって波留に言われて、日直でノート回収の時に字の癖を見分けた。言われてみたら簡単だったぜ、基本的には間違いだからな」
「それ、すごい能力じゃないの? ぜひ、詳しく聞かせてほしいんだけど」
「うわ、花波さん!? 急に身を乗り出さないでくれないかな!?」
「あ、すまない。最近は、人間の持つ特殊能力について、興味があってね。つい、だ。反省するよ」
「――僕の紹介をして、それで僕が置いてけぼりってどういうことなの……? 大体、僕はこのグループに入った記憶もないし……」
ぼそっと不満げに優が呟く。不機嫌そうで、気まずそうで、居心地悪そうだった。
「じゃあ、なんでここに来てるの?」
「もういいんだって! 放っといてよ!」
机をばん、と叩いて立ち上がる。そのまま優は店を出ていった。
「……んー、まぁ、あれだけ元気があれば死ななそうだけどな」
ジョークにしては笑えない、しかし苦笑いくらいなら引き出せる程度の冗談を呟いて、遥斗は意識を切り替えて続ける。流石はまとめ役、といったところだろうか。
「とりあえず、新たに花波さんも入ってくれたことだし、改めてここで情報共有をしようか。まず、優の遺書だが、『こんな生活は耐えられない。もう、いっそのこと死んでしまえばいい。クリスマスの夜に死んでしまうとか、そんな情けのない死に様は僕にお似合いかもしれないかなぁ。もし、僕が死んだなら、おじいちゃんと同じお墓に入れてください』――だ、そうだ」
「クリスマスの夜。つまり、優は十二月二十五日に死のうと考えているってことだね。でも、それじゃ、朱音の十二月二十四日とは日付がずれちゃうね」
一日のズレは、大きなズレだ。波留が指摘するのも間違いはない。
「可能性はざっと考えて四つだね、一つ目は彼が早まって死ぬ。二つ目は彼が朱音の言っている十二月二十四日に死ぬ人間じゃない。三つ目は未来が書き換わった」
切り出したのは花波だ。
「……?」
私、波留、妖人は、思考停止、少し理解できずに小首を傾げる、眠たそうに欠伸をするという三者三様の、しかし共通して理解不能という反応を見せる。
「一つ目はそのままの意味だな。優が遺書に書いていた二十五日ではなく二十四日に死ぬ。二つ目は、優が死ぬかどうかはおいておいて――いや、勿論、止めるけど――二十四日に死ぬ人間が別にいる。三つ目は、二十四日に誰かが死ぬという未来が二十五日に死ぬという未来に変わってしまった。そういうことだろ?」
「うん。一度決まった未来――つまり、誰かが経験した未来は変えられないっていう考え方がある。一度死んだ人間を過去に戻って助けてもその次の日、或いはその瞬間を助けた次の瞬間には死ぬ――もっと言うなら、理不尽に突然死するみたいに、遠回りになるだけで確実にその人は死ぬっていう考え方だね」
「そんなもの言い出したらキリがないだろ。俺達は、やれることをやりきる、それだけだ」
「結局、どうすればいいの?」
「とりあえず、優は要マーク。で、一応他の人間も探す。それでいいんだろ?」
妖人がそう言った後に「推理ゲームなら得意な方だしな」と呟く。良くも悪くも妖人はゲーム感覚でいるらしい。妖人らしいと言えば妖人らしい。
「そういえば、どうして優くんはそんな遺書みたいなものを書いたの? 何かそこまで思い詰めるようなこと、あるの?」
「ああ……、あいつ、虐められてんだよ。同じクラスのやつにな。さっきみたいに情緒不安定なところがあるだろ? だから、それをクラスの皆でからかっていたのが発展してみたいな感じでな」
まぁ、それを解決するのもついでにしようぜ、と呟いて遥斗は話を続ける。
「で、次はタイムトラベル方面からの推測なんだけど、悪い、サッパリだ」
「ごめんね、私も一緒に考えられたら何か思いついたかもしれないのに」
「いや、しゃあねぇよ。それより、叔母さん大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だったよ」
叔母さんというのは、私の叔母さんのことで、十二月二十五日の二時過ぎに男の子を生むのだ。しかし、体調が急変し、一時的に入院することになり、その手伝いを私がしていたのだ。これは、未来でもあったことで、だから適切な処置をするのも簡単だった。
肩をすくめて、小さくため息を漏らす。それに釣られて私達も溜息を漏らした。
「色々と考えてはみたんだけどね、どうにも情報不足だ。そもそも、どうしてタイムトラベルをしたのかが全然分からない。あえていうなら、さっきも言った個人の能力ってところかな。スポーツで言うならゾーンだとか、あとは危機に陥った時に周囲がスローモーションになったりとか、そういう類いの、脳の本来は使われない部分が活発化した、とかかな。一応、さっきの二つは人間のストッパーが一時的に外れて、情報処理能力とその総量が一秒に一秒以上のものを処理できるようになったら起こること、と言われているけど、もしかしたら違うかもしれない。それこそ、人間は時を遡る力を、実は持っていたりするのかもしれない。まぁ、全部可能性の話だけどね」
フォローのつもりか、或いは単純に自分の至らなさを反省しているのか、花波もまた肩をすくめる。
更に一週間が経過した。予定通り、私達五人は優をマークし、いじめられないように気を配り、またその傍らで候補にないりそうな人間を探していた。勿論、なければいいという体で。
「ああ、もう、どうしてそんなに僕に構うの! 放って置いてって言ったでしょ!?」
「放って置けるかよ。遺書を書くくらいに追い詰められてんだろ」
「だから、あれは違うんだって! 気持ちの整理っていうか、ストレスの発散っていうか、とにかく、ああいうのを書いたら落ち着くんだよ。もう、小学校くらいからずっとやってることなんだって」
「それを信じたとしても、虐められてることは事実だろ。解決してやるし、守ってやるって。それに、お前のわがままだって付き合ってやるよ。何か、したいことはねぇのか?」
男同士の会話、という名目の元、単純に私達じゃ彼を説得できないだろうということで、私と波留、それに花波は三人の口喧嘩にも見えるやりとりを遠くで見守っている。少しハラハラしながら、それでもどうにかなるだろうと思っているのは、私や波留、花波の過信なのだろうか?
「……僕がしたいこと? それに、付き合ってくれるの?」
「ああ、勿論」
「――じゃあ、バンドがしたい。一回でいいから、軽音してみたかったんだ。だけど、勇気がなくて、今更軽音部とかには入れなくて」
「いいぜ。遥斗がバンドしてたろ。朱音とはそこからの付き合いだし、できるだろ」
「なら、練習だな。十二月二四日に、近くのバーはルーキーのみのライブを毎年やってる。今からなら申し込みも間に合うし、練習すればそれなりのものはできる。――やってみるか?」
そうして、私達、一昨年に参加したことのある私と遥斗を除く、波留、妖人、花波、優の四人のバンドが完成し、猛練習に励んだ。幸い、四人ともそこそこの音感と音程を持っており、妖人も波留も花波も元々バンドをしてみたかったらしくモチベーションも高く、私と遥斗――主に遥斗の鬼指導の成果かそれとも努力の成果か、そこそこどころか、かなりの精度まで高めることができた。あとは本番、緊張してミスのないようにすること。その為のリラックス方法などを伝授して、それで終わった。
後は二十四日のライブにて大成功を収めたらならばそれでいいはず。万事解決なはずなのだ。
しかし、そうは問屋が卸さないというのが、世の常で。当然、私達にもそれは起こる。
「どういうことだよ、優が来ないって!」
「なんか、いじめっ子達が、裏山に連れて行ったの。最近調子に乗ってる、って言って」
「なんでよりにもよって今日なんだよ」
「……多分、私達のせいだと思う。学校なら、私達が守れるけど、それ以外じゃ無理でしょ。そこを、狙ったんだと思う」
「卑怯というか姑息というか。……どうするんだい?」
遥斗、波留、妖人、私、花波の順で様々な感情を乗せた声を漏らす。
「俺が連れてくる。朱音、それまでの時間を引き伸ばしてくれ、お前、あのおっさんとは結構仲よかったろ、どうにかできるんじゃないのか?」
「配役が逆。私が優を連れてくる」
「でも、体力も速度も足りないだろ。裏山って結構距離があるぞ?」
「…………。お願い。お願いだから、私に行かせて」
「だけど――。…………分かった、分かったから、行って来い」
「ありがと、遥斗」
礼を言うのもじれったく、私は走り出す。走り出して途中で気付く、ああ、タクシーを使おう、と。タクシーを呼びながら、一、一、九、とボタンを押す。
「すいません、人が倒れているみたいなんです――」
十二月二十五日。結論だけを言えば、誰も死ぬことなく、また優も死ぬつもりもなく生きていた。万事解決だ。しかし、話はそれだけでは済まない。――いや、問題は全て解決している。ただ、私が窮地に勝手に陥っているだけなのだ。
「さて朱音、説明してもらおうか。お前、実は誰が死ぬのか、最初から分かっていただろ?」
「…………」
「あ~か~ね~?」
「ああ、やっぱりそうだったんだ」
「朱音、どういうことだ?」
正座をさせられ、遥斗に問い詰められ、目を逸らすとその先には波留がいて、花波は納得のいったように呟き、驚いた表情で妖人は尋ね返す。
「簡単な話だよ。こいつは誰が死ぬのかも全部覚えていた。その上で知らないと嘘をついて、そのままで解決をしようと図ったんだよ。そうだな、多分死んだのは、――俺、宮永遥斗、だろ?」
「……違うよ。死んだのは、遥斗と花波と、花波のお爺ちゃん」
一度起きた未来では、まず波留と妖人がバンドをしたいと言った。そこに優と花波が参加した。その中で優への虐めが明らかになり、私達で止めるようになった。そうして二十四日、同じように優は裏山に連れて行かれた。そしてそこに向かったのは、遥斗だった。そこで事故が起きた。優が虐めっ子達に逆上し、そこに割り込んだ遥斗を殴った。その拍子に階段から転げ落ち遥斗は死んでしまった。当然、ライブはできず、私も波留も妖人も花波も意気消沈のままでそれぞれの帰路に就いた。そして、家に帰った花波に突き付けられたのは、二号店のオープンの準備で忙し過ぎたせいで過労死した祖父の姿だった。この頃、花波はライブの練習に夢中で、本来手伝うべき祖父の手伝いをおろそかにしていた。そのせいで死んだのだと思い詰め、花波は遺書を書いて死亡。
全部、ライブのせいだ、とそんな風にかかれていた。
それが、本来の未来で起こった結末。その事件以降、妖人と波留は別れ、私とも距離を置き、勉強会グループは解散。私は孤立し、引きこもりになり、その後は知らない。
「なるほど、あの救急車は朱音が呼んでくれたのか……。ありがとう、祖父は無事だよ」
「……どうして、言ってくれなかったんだ? 言ってくれたら、それはそれで解決ができただろうに」
「そうだよ。どうして?」
「――言える訳ないでしょ。貴方は二十四日に死ぬよ、貴方のお爺ちゃんが死ぬよ、そんなことは信じられないと思った。だから、誰かが死ぬ以外は忘れた振りをしたの。そうすれば、もしかしたら自分かもしれないって気をつけてくれるかもしれないでしょ?」
「……ふざけんなよ。花波と、花波の祖父を助けることはできたかもしれない。だけど、下手すりゃ、お前は俺の代わりに死んでたんだぞ!? それでいいのかよ、お前は仲間が、俺が死んで引きこもるまで至ったんだろ? それと同じことが、俺にも起こるとか、考えたりしなかったのかよ」
「……っ、ごめん、なさい。だって、遥斗には、死んでほしくなかったの。だから、……本当に、ごめんなさい」
感情が高ぶる。もう、途中からはごめんなさいとしか言えなかった。ただただ謝り続けて、それすらできなくなった後で、皆は優しく微笑んでくれた。
言葉はいらない。それでよかった。これは、多分、青春というものなのだろう。そうでなくとも、私達はそう思い込むことにした。
青春が、見て見ぬ振りをして、誤魔化し続けたものだとして、――しかし、見て見ぬ振りも、誤魔化しも、総じて悪ということではない。
多分、こうして、死ぬはずだった遥斗と改めて付き合いだしても、死ぬはずだった花波のお爺ちゃんの、二号店んのお客様第一号になっても、死ぬはずだった花波から注文を届けられることも、全部、見て見ぬ振りをしていいものだ。この未来で、遥斗も花波も花波のお爺ちゃんも、ちゃんと生きている。それでいいのだと思う。
「そういえば、叔母さん、どうだったんだ?」
「ん? ああ、念願の女の子が生まれたって、喜んでたよ」
「なるほど、未来は変わった訳だ。――なら、遥斗も、私も私の祖父も、死ぬことはないだろうね」
そう、ここは別の未来だ。誰も死ななかった、青春が黒ずむことなく進んだ世界だ。
ピコン、と通知が鳴る。四人の勉強会グループから、六人のバンドグループになったニューグループ、『Ν-Future』のグループだ。
文化祭の出し物にて、よく分からない劇を見せられたので、自己解釈と脚色を加えて投げやりに書きました。